日本大学生産工学部パターン形成セミナー

中央大学理工学部物理学科の脇田研究室 (旧・松下研) から暖簾分けさせてもらいました.

3回 パターン形成セミナー

講演者: 本堂毅 氏 (東北大学)

題目: 専門家の社会的助言のあり方について

日時: 20207月21日 () 13:00 ~ 14:30

実施方法: zoom によるオンライン講演会

 新型コロナウイルスの流行に伴い,専門家の科学的助言のあり方が議論を呼んでいる.専門家の助言については,古くからは裁判での専門家証人の証言のあり方などが議論され,また日本学術会議でも東日本大震災での教訓から「科学者の行動規範」が改訂され,科学的助言のあり方についての章が加えられた.この講演では,参加者との議論も交えながら,国内外の実例をひきつつ,助言のあり方について考えていきたい.

第 2 回 パターン形成セミナー

講演者: 山崎義弘 氏 (早稲田大学)

題目: 結晶成長と薄膜溶液の流動との競合による非線形ダイナミクス

日時: 2014年10月29日 (水) 16:30 ~ 18:00

会場:日本大学生産工学部津田沼校舎 37号館 401 号室

 有機分子や高分子の結晶成長では、準安定状態となった薄膜状の高粘度溶液(高分子の場合は溶融体)から、球晶と呼ばれる微結晶集合体を形成することが古くから知られている。非線形科学の観点からも、実験系としてアスコルビン酸がよく取り上げられ、環境の湿度に応じて球晶の成長モードが2種共存・均一・周期・分岐と変化することが確認されている。本セミナーでは、このような薄膜状溶液からのアスコルビン酸結晶成長時において、溶液の流動性を可視化することで明らかとなる、結晶成長の非線形ダイナミクス、パターン形成について紹介する。

[参考文献]

Y. Yamazaki et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83 (2014) 064002.

[参考url]

www.y2003.phys.waseda.ac.jp/works/crmv

第 1 回 パターン形成セミナー

講演者: 松下貢 氏 (中央大学)

題目:キリンの斑論争、寺田寅彦と複雑系科学

日時: 2014年5月22日 (木) 16:30 ~ 18:00

会場:日本大学生産工学部津田沼校舎 31号館 315 号室

 動物園に行くと、キリンの斑模様、ヒョウの斑点、トラやシマウマの縞模様など、体表の鮮やかな模様に事欠かない。水族館で見られる魚の体表模様も同様である。動物たちがなぜそれぞれの種に固有な模様をもつのかは、進化に関わる生物学的な問題であろう。それに対して、あのような模様が個体の成長の過程でどのようにしてできるのかは、物理学や化学に関わるパターン形成の問題である。今から80年ほど前に、物理学者の平田森三がキリンの斑模様のでき方について大胆な仮説をたてた。彼はそれが田んぼやぬかるみの泥が乾いたときにできる割れ目模様に酷似していることに気付き、胎児のときの急速な成長で被膜が破れてできた割れ目の名残りが斑模様ではないかと考えたのである。それに対して当時の生物学者たちは感情的なほど激しく反論し、平田がさらに反論するという、いわゆる「キリンの斑論争」が起こった。この論争には、平田が斑模様のでき方(プロセス)を問題にしているのに、生物学者が体表の組織(物質)の違いを問題にするという、明らかな食い違いがあった。そこで平田の師にあたる寺田寅彦がこの問題の真の解決には物理学や化学がまだ十分に進歩していないことを指摘し、今後どのような研究をすべきかを議論して両陣営をなだめ、論争を一応収束させたのである。寺田寅彦は一般には夏目漱石の弟子で有名な随筆家として知られている。しかし、彼は金平糖の角や線香花火、雷や雪の結晶、電車やエレベータの混雑など、様々な日常的な現象について実験したり観察したりして研究した物理学者である。そしてそれらについて思索したことを端正な日本語の随筆に残している。さらに重要なことは、彼が90年近くも前に取り上げて研究したことが、最近になって複雑系科学として世界的に研究されるようになったことである。本セミナーでは、「キリンの斑論争」の経緯、寺田寅彦の役割と彼の幅広い業績を紹介するとともに、彼の研究の発展とみることができる複雑系科学をわかりやすく説明する。