ペット環境論とは

研究を始めた動機

20余年前、犬を飼い始めた時には、単に犬が賢くなればいいと考えていましたが、一緒に暮らしているうち、飼い主も賢くなければいけないと気付き、90年代に欧米から犬を動かすための飼い主のしつけ教室が導入されると、真っ先に取り組みました。その後、私自身が飼い主のためのしつけ教室を起こし、数千頭に及ぶ犬や飼い主と関わりながら、子犬のしつけ、問題行動の解決策、楽しみ方、老犬問題・・・多岐に渡って犬のいる暮らしを見つめてきました。

ここ数年来ペットブームも定着し、熱心に犬と関わる人も増えてきています。その一方で、取り立ててしつけ教室に通うわけでもないのに、普段の暮らしの中で飼い犬といい関係を築いている人がいることも事実です。そんな方を見るにつけ、なぜそのような関係が築けるのか、と気にかかり始めました。

また、熱心に犬に関わっている方の中には、犬の心理をよく理解し、犬を動かす技術は長けているけれど、飼い犬の表情を見ていると、生き生きしていないことがあります。また、ぬいぐるみのように溺愛するあまり、飼い犬は犬として伸び伸びできる時間があるのか心配になるケースもあります。そうした犬たちを見ると、本来は犬が犬である時間があっていいはずなのに、という疑問も湧いてきました。

なぜペット環境論?

現在普及している犬のしつけは、欧米から導入されたものが主であり、日本では犬文化が醸成されていないというのが定説でした。しかし、研究を進めるうち、人間と動物との関係が、欧米的な管理するものされるものという画一的なものではなく、日本人ならではの犬との関わり方があったのではないかと考えるようになりました。果たして、歴史を紐解いてみると、そこには犬を犬として尊重する日本人的な飼い方が存在していました。空白期間とされていた戦前を含め、さらに深く、体系的に歴史を探究する必要性を感じています。

犬に関わる問題を解決しようとすると、詰まるところ人間社会におけるペットの問題、つまり環境人間学の範疇であることに気付きます。しかし、獣医学や動物行動学はあっても、環境人間学としてペットを捉えた研究はありませんでした。そこで、ペット環境論と命名し、私自身が歴史を掘り下げながら体系的に研究していくことにいたしました。

ペット環境論の目指すところ

研究は論文の発表などにとどまらず、日本の現代社会に貢献できる実用性まで繋げたいと考えています。幸い、私はしつけ教室をはじめたくさんの飼い主や犬との出会いがあるので、そうした関わりを通して、日本の暮らしや日本人の動物観によりフィットするしつけの在り方、モラル向上のための啓発方法、飼い主とペットの心地よい住まいや暮らし方、人もペットも楽しめる祭やイベントを取り入れた地域社会の在り方、などを探究。その結果として、人間とペットの豊かな共生環境づくりを目指していきます。

2012.8.30