この時期に、富士通のパソコン事業は遅々として進まず、当時シェア50%以上だったNECから2周遅れだと揶揄されていた。
パソコンの将来性に目を付けていた自分は、余りにも富士通の不甲斐なさに悶々としていたが、思い切って当時の関沢専務(後に社長)に直訴した。
直訴の内容をコピーして持っていたので掲載する。(以下原文)
「 関沢専務殿 平成2年5月7日
富士通の現在、将来について
富士通は急速に発展したが、急速に滅亡するのを見るに耐えず筆をとりました。ご多忙中申し訳ありませんが、ご一読、ご高察頂くよう宜しくお願い致します。
主旨は遅々として進まないパソコン事業を発展させるには如何にすればいいかということです。
1.現山本社長が社長就任以前、よくテレビに出演されて「これからはOA(注:Office Automation)の時代だ」と言われていましたが、OAの具体的商品を見抜けず、日本電気がOAの本命であるパソコンPC❘8001を発売してからも2年間は無策でした。その後パソコンFM❘8を発売しましたが、これは、情報化時代だという運の良い時にあってはならないことです。池田敏雄元専務が嘆き悲しみます。
しかし、富士通を2兆円企業に押し上げた業績は尊敬に値します。
願わくばパソコン事業を発展させ、トップシェアとなり、相乗効果により総売上高
で日本電気を追い越し、近い将来総売上高で日立、松下電器を追い越してほしいと
思います。
しかし、パソコン事業で失敗すれば将来は滅亡するかもしれません。
2.日本電気がパソコンPC❘8001を発売した当時、将来の発展性を見込んで即
研究製番でパソコンPC❘8001を購入しました。
当時、あるシステムのホスト・コンピュータにパソコンを接続して構築する案を課
長に提示したところ、「君、そもそもパーソナル・コンピュータはパーソナル(個人
で使用する)というくらいだから、ホスト・コンピュータにつなげるなんて・・・」
と言われショックを受けました。
しかし、現在ではパソコンをホスト・コンピュータに接続して利用するのは当たり
前になっており、パソコン通信等もそのような形態になっています。
また、3,4年前にあるシステムに対するVE提案(内容はシステム価格が高すぎ
るため、競争力強化のための低価格化)で、「システム構成品のWS化、パソコン化)
を提案したところ、当時に課長に「そんなものでできるわけがない」(処理能力不足
)と言われて、つっ返され、出したかったけれども、結局出せませんでした。
しかし、現在ではWSでそのシステムが実現されており、パソコンでも開発中です。
部下の新しい発想の芽をつまれるのは悲しくて残念です。
管理職の時代の流れを読む目を養うための自己啓発および教育の必要性を感じます。
時代は予想以上に進展しています。他社の後追いでなく、先駆者利益を追求すべき
です。そういう意味ではFM❘TOWNSはハード技術的には評価できます。ただ
技術独善的なところがあり、ソフトの貧弱さもあって、大衆受けしなかったと思わ
れます。
3.現在は技術偏重すぎると思います。確かに技術力は大事ですが、売れなければ何
にもなりません。
一例ですが、OASYSの廉価版として表示部が8文字しかないものが以前発売さ
れましたが、広告を見るなり、このバカがと思いました。前後の文章がわからなく
ては文章の作りようがありません。これじゃあ、客が買うわけはありません。大衆
性があることが必要です。
パソコンのような商品は営業力が大事で販売ルートの強化が是非とも必要です。
富士通の弱点は営業力と歴史の浅さからくる展開能力(他社との技術連携、外国へ
の進出、販売ルート等)です。
富士通ゼネラルをもっと活用してはいかがでしょうか。いや、見習うべきところも
あると思います。以前はテレビでかなりのシェアをもっていた時期もあったし、家
電をやっているから販売ルートの確立およびAV低価格製品の製造等のノウハウは
貴重です。FM❘TOWNSのAV機能のように、今後コンピュータが家庭に入る
ようになれば、家電の要素は必須です。近い将来、富士通ゼネラルを合併した方が
いいようになるかもしれません。
現在は松下電器とパソコン分野でも提携していますが、松下電器にやる気がないの
かどうか、効果が上がっていません。ソニーとCD❘ROMの分野で提携しました
が、これをもっと拡大してパソコン分野でも提携して、松下電器を牽制してはいか
がでしょう。ソニーと前面的に提携しても面白いと思います。ソニーの映像分野は
魅力です。ただ、松下電器も映像分野は優れています。どちらかというとソニーの
方が御し易い。あわよくばソニーに資本参加もしくは吸収合併する(今、ソニーは
絶好調なので、業績不振になるのは絵空事かもしれないが)のはいかがでしょう。
IBMとは敵対関係にありますが、目標として頑張ってきたから今日があるような
ものであり、IBM互換路線で成功したと思われます。
しかし、ソフトの著作権問題で徹底的に対抗したため、ソフト開発で日立に遅れを
とってしまいました。
IBMとは敵対関係だけでなく、競争と協調により、これからはハードをIBMに
OEM供給する位な気持で望むことも心の片隅に置くのが良いと思います。そうす
れば、IBM文化ひいては富士通文化が生き長らえることができます。
一企業から見ると敵対関係ですが、国全体から見るとアメリカは良きパートナーシ
ップであるべきです。
IBMとパートナーシップとなることは夢です。
4.パソコン事業を発展させるためには、ハードの開発もさることながらソフトの開
発および流通が重要です。そこで、アメリカのマイクロソフト、日本のアスキー、
ソフトバンク(西さん、孫さんには悪いが)に匹敵もしくはそれ以上の会社を設立
すべきです。そしてパソコンソフトの拡充を早急に図るべきです。
また、サードパーティのような会社も設立し、サードパーティの意見の取り込みお
よびサードパーティのまとめ役(囲い込み)を行わせたらいかがでしょう。
5.パソコンのMPUのテクノロジーには年々汎用大型コンピュータのものが実現さ
れてきております。そこで、パソコンのOSに汎用コンピュータのOSを応用した
らどうでしょう。現在はMS❘DOSで次がOS/2だと思われますが、UNIX
という方向もあります。そこで、汎用コンピュータのOSの応用という発想もあり
得るかもしれません。
そこで、沼津のソフト部隊の一部にダメで元々で開発させる位の余裕があってもい
いと思います。
その場合には会話処理の強化が必要です。
6.パソコン開発部門と電算機開発部門との合体が是非とも必要です。池田敏雄元専
務なら最優先で行っているでしょう。電算機技術で培った技術をパソコンに生かす
べきであり、そうすることにより優位性も出てくるでしょう。
パソコンの重要性は増す一方であり、情報化の裾野が広まっている今、富士通の最
優先課題はパソコン事業です。
パソコン開発部門を南多摩に押しやってないで、川崎に持ってくるべきです。本館
の18、19階はパソコン開発部門、16,17階は電算機開発部門とすべきです。
そうすることにより、パソコン開発部門の士気は上がり、全社員の目の色も変わっ
てきます。
7.半導体(メモリ、マイコン)の開発もパソコンと同様に重要です。パソコン、オ
フコン、汎用コンピュータではメモリが大量に実装されますが、このメモリの開発
競争如何によっては、新製品開発競争に致命的なダメージを受けることもあり得ま
す。
メモリ開発競争に敗れて、新製品に旧世代のメモリしか実装できなかったら、今ま
で培ってきた電算機技術の財産は一夜にしてなくなってしまいます。
メモリの開発に関しては、これから特に重要になってくるでしょう。メモリ開発に
対する多大な設備投資を行ったのは正解でしょう。メモリについてもトップシェア
を取るべきです。
また、日本電気がマイコンのVシリーズを開発したように、G❘MICRO(トロ
ンチップ)開発の経験を元に独自のマイコンを開発し、マイコン開発の技術の習得
に努めるべきです。
8.パソコン等の製品は大衆性が要求されます。
幅広く大衆に受け入れられるには、製品の機能・性能は勿論ですが、宣伝・広告が
重要だと思います。
FM❘TOWNSの宮沢りえの起用、宣伝は大成功だと思います。ただ、売上は伸
びていませんが。
富士通はテレビの宣伝が少なく、一般大衆への知名度はそれほどありません。
そこで提案ですが、1時間の大型番組のスポンサとなり、その間宣伝を流したらど
うでしょう。
単発の宣伝では余り効果がありません。ソニーなんかはひっきりなしに宣伝してい
ます。
もっと宣伝に金をつぎ込むべきです。
西武の堤義明さんは事業が良くなってきたのはここ4,5年だと言っていますが、
これは野球の西武ライオンズが優勝しだしてからだと思われます。宣伝の効果はす
ごいと思います。
9.パソコンに関しては、特に顧客および若い技術者の意見を取り入れることが重要
です。
顧客および若い技術者からパソコンに関するアンケートをとるのも一つの手でしょう。
今から考えると、パソコンとワープロの力の入れ方が逆だったかもしれません。ワー
プロが好調だったためにパソコンがおろそかになってしまったかもしれません。パソ
コンの方に力を入れていたらと悔やまれます。
現在では、パソコンの使用方法としてワープロとして使うのがトップであります。
10.情報化社会の進展に伴い、そのうちにやがてはコンピュータが家庭に入っていく
ことが予想されます。
その時には台数としては現在とは比べものにならない位多くなるでしょう。
車より値段が安くて、物が小さいからだと思われます。
その時のためにホーム・コンピュータの開発を始めるべきです。
ホーム・コンピュータはパソコンとは違った携帯のものになることも予想されます。
入出力装置(プリンタ等)の開発が鍵かと思われます。
このときは、1番初めに飛び出さなければなりません。
富士通が滅亡しないように、限りなき発展を願っています。
海援隊
❘ 以上 ❘
」