(1)成層湖の硫黄循環解析
嫌気水環境下では硫黄代謝を行う微生物が物質循環の中心的な役割を担います。硫化物を電子供与体として嫌気光合成を行う緑色硫黄細菌や紅色硫黄細菌などが一次生産者となり、硫酸還元菌が分解者となります。その代謝速度は環境条件や微生物分布によって変化し、定量的な評価が困難です。そこで硫酸及び硫化物濃度と硫黄同位体比の季節変動解析によって、硫酸還元と嫌気光合成の硫黄循環への相対的な寄与を定量的に見積りました。
参考業績:Limnology and Oceanography, 57, 974-988 (2012)
(2)温泉バイオマット生態系モデルの構築
バイオマットは岩石や地面を覆うヌメリのある微生物の集合体です。特に温泉にできるバイオマットは系統樹の根元に近い好熱性細菌、光合成細菌などで構成されるため、高温の初期地球環境で形成された生態系を模擬していると考えられています。
温泉バイオマット生態系内の物質循環を解明し、地球環境の進化と生態系のもつシステム進化の関係を数値モデルとして示すことを試みています。
参考業績:PLOS ONE, 13, e0191650 (2018); Microbes and Environments 34 (3), 278-292 (2019)
(3)新たな分析法・環境指標開発
同位体比情報にはバルクレベル、化合物レベル、分子内レベルと段階があり、それらを組み合わせる事で判別できるプロセスや起源を増やし、寄与の推定を行なえるようになります。バルクレベル、化合物レベルの分析法は確立してきていますが、分子内レベルの分析技術は標準試料も十分でなく、各研究施設にて進められている段階です。近年、研究所にて特に分子内二重置換同位体分析法開発に取り組んでいます。
参考業績:15N18Oclumped分析法 Rapid Comm. Mass Spec., (2020) doi: 10.1002/rcm.8761; 13C13Cclumped分析法 Rapid Comm. Mass Spec., (2020), doi: 10.1002/rcm.8836, (in press)