プログラム・アブストラクト

PDFファイル (プログラムアブストラクト)

2月5日(水)

小山信也(東洋大学):「多重三角関数 ―― その端緒から最近の進展まで」

多重三角関数は三十余年前に黒川信重氏により定義された.それは, リーマン予想の解決を見据えて黒川氏が導入した「絶対テンソル積」 の最初の例であり,本質的には,有限体のハッセ・ゼータ関数の 絶対テンソル積に等しいものであった. リーマン予想解決に必要なリーマン・ゼータ関数やディリクレL関数の 絶対テンソル積は,多重三角関数の一般化である.ディリクレL関数の 絶対テンソル積(二重ディリクレL関数)は,2005年に黒川・小山により オイラー積表示が発見され,実部が2より大きい領域で絶対収束することが 証明された.さらに,臨界領域内(実部が2以下)での収束性が示せれば, ディリクレL関数の非零領域を拡張できることが示された. 一方,一般のL関数に対し,臨界領域内のオイラー積の挙動が, リーマン予想を含む強い予想を与えることが,Goldfeld,Conrad らにより 見出され,2011年,黒川氏はこれを深リーマン予想(DRH)と名付けた. DRHによれば,極を持たないディリクレL関数のオイラー積は,実部が 1/2以上で収束する. 本講演では,DRHを踏まえて最近得た「ディリクレL関数のオイラー積が 実部(1/2)+α以上で収束すれば,二重ディリクレL関数のオイラー積は実部 1+2α以上で収束する」(α>0)という定理を紹介する.この定理はディリクレ L関数の非零領域を拡張するものではないが,二重ディリクレL関数の オイラー積の収束性が,一重のそれよりも「難しくない」ことを示しており, 二重オイラー積の収束性を先に示し,それを突破口にしてリーマン予想を 証明するという,絶対テンソル積の理念の正当性を示唆するものである.

加藤正輝(神戸大学): On certain two parameter deformations of multiple zeta values

Ruijsenaars's elliptic gamma function is a two parameter deformation of the usual

gamma function. Thus the elliptic digamma function (logarithmic derivative of the

elliptic gamma function) can be considered to be a generating function of two

parameter deformations of Riemann zeta values. In this talk, we introduce multivariable

generalizations of the elliptic digamma function and investigate their properties.

In particular, we consider two parameter generalizations of the harmonic and shuffle

product formulas, which are fundamental relations for multiple zeta values.

竹山美宏(筑波大学):多重 L値のある変形について

本講演は、加藤正輝氏(神戸大)との現在進行中の共同研究に基づく。 我々は、Arakawa-Kaneko によって導入された多重 L値の1パラメータ変形を、 多重積分を使って定義した。 この変形は、多重 L値と同様に二種類の積構造(シャッフル積と調和積)を持つ。 また、その母関数がもつある種の双対性から、 三角関数の値に関する数論的な等式が得られる。

本講演では以上の結果について簡単に紹介する。

2月6日(木)

白石潤一 (東京大学): Affine Screening Operators, Affine Laumon Spaces, and Conjectures

Concerning Non-Stationary Ruijsenaars Functions

野海正俊(神戸大学): 梅村多項式について

梅村多項式は,パンルヴェ第6方程式のある代数函数 解に付随する特殊多項式である.本講演では,梅村 多項式について紹介した後,梅村多項式の2パラメー タ拡張の組合せ論的表示についての予想を定式化する.

渋川元樹(神戸大学): 楕円函数に付随した二重コタンジェント函数

Jacobiの楕円函数cs, ds, nsから出発し, これらの楕円函数に付随する新 種の二重コタンジェント函数を導入する. 更にM.Kato(Kodai Math.40, 2017)による二重コタンジェント函数に関する先行 研究との関連を考察する.

田中秀宜 (早稲田大学) : 二重ディリクレ L 関数のオイラー積表示

「多重ゼータ関数」は 1992年に黒川により,「複数個のゼータ関数の絶対テンソル積」

として定義され,「多重オイラー積表示」を持つと予想された.その後,黒川・小山により

有限体の二重ハッセ・ゼータ関数および二重リーマンゼータ関数(2005),赤塚により

有限体の三重ハッセ・ゼータ関数(2005)および二重リーマンゼータ関数(2009)といった

多重ゼータ関数のオイラー積表示が構成され,その表示が多重オイラー積になっていることが

確認されている.なお,2005年の黒川・小山による二重リーマンゼータ関数のオイラー積表示は

パラメータを含んでいるが,2009年の赤塚による表示では,パラメータを含まない形となっている. 本公演では,赤塚の方法に従い,パラメータを含まない形で二重ディリクレ L 関数の

オイラー積表示を構成したことについて報告する.

田中秀和(芝浦工業大学): GAMMA FACTORS OF ZETA FUNCTIONS AS ABSOLUTE ZETA FUNCTIONS

We study the rationality of gamma factors associated to certain Hasse zeta functions. We show many explicit examples of rational gamma factors coming from products of GL(n).

2月7日(金)

石本和基 (神戸大学) : 有限体上の概均質ベクトル空間におけるFourier変換

有限体上の概均質ベクトル空間におけるFourier変換は指数和の形で表される。講演者は、 有限体上の既約正則ないくつかの概均質ベクトル空間における Fourier変換の明示公式を求めた。講演ではその結果について発表する予定である。

大西良博 (名城大学) : Further generalization of the addition formula of Frobenius-Stickelberger

to higher genus Abelian functions

講演者は Frobenius-Stickelberger の加法公式(例へば Whittaker-Watson, p.458, Example 21)

を平面 telescopic 曲線と呼ばれる曲線に付随する Abel 函数へと拡張した (2002 - 2011 年頃). (しかし既に J. Fay の Lecture Note (1973) にそれに極めて近いことが書かれてゐる. ) その様な曲線を C とし, その種数を g とする. その新公式の重要な点は C の k 重対称積 ( k = 1, 2, ..., g-1 ) の Abel-Jacobi 写像の像による stratification を導入することであつた. さらに踏み込んで言へば, C に付随する σ 函数自体がこの stratification と“共鳴”する構 造を持つことによる. また C が 1 の羃根による自然な自己同型を持つときは, それを巻き込んだ形の加法公式を与へ ることもできる. 時間の許す限り, それら及びそれをさらに一般の曲線の場合に拡張した公式を紹介する. Abel 函数論は広く知られてゐるとは言ひ難いので, 講演では, できるだけ基礎部分の解説から 始めて, 以上の種々の公式を俯瞰してみたい. Barnes 自身によつて与へられた, 楕円 σ 函数と 2 重 Γ 函数との関係の様に, もしも, 多変 数の Abel 函数と多重 Γ 函数とが結びついたらすてきである.

細道和夫 (防衛大学校) : 場の量子論と多重三角関数

場の量子論の中には,さまざまな物理量の厳密公式が多重三角関数・多重ガンマ 関数を用いて書き下せるものがある.本講演ではそのような例として

(1) リウビル共形場理論の相関関数 (2) 3次元,4次元の拡大超対称ゲージ理論の球面上の分配関数

をとり上げ,厳密公式にそれらの関数が現れる理由に焦点をあてながら

導出の概略を紹介する.時間が許せば,それらの厳密公式を通じて明らかになった,

一見全く無関係な場の量子論の物理量の間になりたついわゆるAGT関係式についても紹介する.

今村洋介 (東京工業大学) : 「超対称ゲージ理論における多重三角関数(自身の研究から)」

近年、局所化を用いることで、さまざまな超対称ゲージ理論において 超共形指数や分配関数などの物理量の厳密な計算が可能となり、 ゲージ理論の非摂動論的な性質の解析に利用されている。 それらの計算においてしばしば多重三角関数が現れ、 その性質はゲージ理論の性質と密接に関係している。 この講演では、これまで自身の研究のなかで現れた 多重三角関数の例について具体的な例を紹介する。