概要: 本調査研究では高磁場、低温冷媒、高電圧を扱うMR装置の東日本大震災による被災状況を調査し、MR検査室における安全な避難、MR装置の被害の最小化、二次災害を防止するための緊急的措置についての指針を策定するとともに、効率的なMR検査室の防災対策を立てる上で考慮すべき事項を集約した防災基準を検討する。そのための被災調査と試験研究を行う。太平洋側7都県でMR装置を設置する医療機関984施設に14項目の設問からなる調査票を発送し、458施設に設置された602台のMR装置の被災状況に関する回答を得た。MR装置の19%に被害事象見られ、その発生度数は震度5以下と6以上で有意の差があった。頻度の高い被害事象としてはマグネットの移動(10.8%)、チラーや空調の故障(8.5%)、急激なヘリウムの減少(8.1%)、マグネット装備品の破損(5.8%)などが報告された。クエンチは19件確認されており、即時クエンチは5件であった。1日あたりに換算すると、平時と比べて有意にクエンチの発生率が高かった。浸水被害は12施設で確認され、全て海岸から2.5km以内、標高12m以下に位置していた。
50%の施設が震災発生後3日以内に、70%の施設が1週間後までにMR装置を再稼働させていた。一方で、一週間以内にメーカーによる点検が受けられたのは45%に留まっており、45%の施設が「MRIメーカーによる点検作業を待てないので、病院スタッフによる点検で再稼働させた」との認識を示した。MR装置が危害原因となった患者の受傷例は9件、検査担当者では2件であったが、具体的な傷害内容が判明した範囲では重症例の報告は無かった。
被災施設への訪問調査(対象28施設)では病院全館に「緊急地震警報」のシステムを備えた施設が3施設あり、災害時の対応として、「緊急地震警報」の放送がなったならば直ちにスキャンを停止して患者を救出する訓練がなされていた。いずれもの施設でも患者の救出活動の初動が早くなり有効であったと報告している。一方で、自家発電設備を有しているものの、MR装置の冷却システムへは電源供給されるようにはなっていなかった、本来電源供給されるはずであったにもかかわらず想定通りに供給されなかったなど、今後検討すべき課題も指摘された。また、津波が押し寄せるなどの非常時に、自分の身を守るということについてどのように考えればよいのか指針が必要との指摘も寄せられた。
被害発生傾向の分析を行ったところ、震度の上昇とMR装置被災度の相関、アンカー固定のMR装置被災防止への有効性、建物構造との関係において耐震性建屋のMR装置被災防止への有効性(特に制震・免震構造の有効性)、復旧状況との関係において震度の上昇とMR装置被災後の自己復旧率の低下及びメーカー関与の必要性の増大について統計的有意性が確認された。特にMR検査室が免震構造の建家に設置されている事例では半損以上の被害例は無く、震度6以上でも十分な効果があることが注目された。首都圏(東京都,埼玉県)では全体データと比較すると被害の発生率は低かったが、震度6以上の割合が東北地方よりも少ない(2%)、建物の免震化率が高い(21.6%)、インフラの長期的停止が東北地方ほど著しくないなどの理由によるものと考えられた。発災直後のMR検査担当者の行動分析では、強い揺れのためMR検査担当者が患者に近づけない、寝台が引き出せない、寝台からの患者を降ろす作業の困難さなどが指摘された。
今後想定される震災を念頭においてMR検査室における減災を考える上では、1)建屋の免震構造化、2)緊急地震速報の活用、3)患者救出を含めた実地訓練、4)設置されているマグネットに関する正確な情報収集、5)非常電源、非常照明の確認、6)停電も含めた非常時における電子マニュアル等の利用方法の確認、7)立ち入り禁止等、現場の安全確保処置の準備、8)MR装置の再稼働前の十分な点検、などが重要であり、これらの事項を体系的な防災基準として策定する必要がある。
詳細は公開資料をご覧ください。
謝辞: 被災調査活動に従事して下さった調査班30名の方々、調査に回答をお寄せいただいた多くの施設の方々、貴重な情報提供を下さった方々、ご協力いただけたメーカーの方々、ご支援をいただいた関係省庁に改めて御礼申し上げます。
本資料は大震災の発生を念頭において、高磁場、低温冷媒、高電圧を扱うMR装置の安全確保を目指す調査研究の成果をご紹介するものです。東日本大震災による被災状況の調査結果や、MR検査室における安全な避難、MR装置の被害の最小化、二次災害を防止するための緊急的措置についての指針についての情報を掲載しています。
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