研究上の興味:
個体発生のしくみ
個体発生メカニズムの進化
多細胞動物の進化
私はさまざまな動物の幼生に注目し、おもに詳細な観察と飼育技術、胚操作技術を組み合わせた独自のアプローチで、進化・比較発生学の研究を進めています。主な研究対象は浅虫周辺に生息する棘皮動物ウニ類ですが、最近はウニ以外の動物を対象とした研究も行なっています。
幼生はシンプルな構造ですが、成体は極めて複雑です。しかしどちらも同じゲノムにコードされた発生プログラムに基づいて形成されます。幼生と成体を作るしくみはどのような関係にあるのでしょうか。一生の間に幼生と成体という異なる体制をつくる間接発生機構をよりよく理解したい・それが私の研究の目標です。
大学院生には実験室内での研究だけでなく、野外での採集・調査・観察を通して動物の多様性にふれることを勧めます。こうした経験を基礎として、独自の問題意識を育み、独創的な研究の芽を育ててほしいと考えています。
①幼生とは
移動能力が限定的な大型・底棲の成体をもつ動物にとって、幼生は子孫を広い範囲に散布するための生息域開拓装置です。また、小さな卵から発生を開始する動物にとっては、複雑で大きな成体を作るための自給式成体原基培養装置でもあります。多目的装置・幼生の小さな体には、浮遊・移動のための運動器官(繊毛帯など)、成体形成に必要な栄養を得るための消化器官、成体ボティプラン形成のための特別な発生プログラムが詰め込まれています。胚が幼生になるしくみについては、様々な動物の胚発生研究から理解が進んでいます。しかし、幼生がどのような構造体であり、どうやって成体をつくる発生プログラムを開始するのかについては未解決問題が多く残されています。私は幼生における形づくり・原基形成のしくみ、再生現象に注目して研究を進めています。おもにウニを対象として研究していますが、環形動物Dimorphilusなど、個体発生過程に特徴のある動物の発生過程にも注目しています。
②ウニ幼生の後期発生機構
ウニ類の属する棘皮動物の成体ボディプランは「五放射相称」ですが、幼生は左右相称です。五放射相称体制は、棘皮動物の祖先が新たに進化した形質です。私は幼生の左右相称体制から成体の五放射相称への変換が具体的にどのように進むのかを、詳しく理解したいと思っています。様々な研究者がこの問題について観察してきましたが、幼生から成体に変わっていく過程「変態」はさまざまな技術的困難があり、まだまだ理解が進んでいません。私はウニ類の変態過程について、顕微鏡観察と顕微操作技術を組み合わせて研究しています。特に、消化管と成体骨格に注目しています。
③幼生の再生
ウニ類のプルテウス幼生には極めておおきな再生能力があります。幼生を前後に切断する(A)と、消化管と体腔嚢の大部分は後側に含まれ(C)、前側部分にはほとんど含まれません(B)。切除後、前側は欠損した消化管と体腔嚢を再生し(D)、場合によっては成体原基まで形成し(E)、変態して稚ウニになる(F)こともあります。この再生現象をモデルに、細胞分化機構の視点から幼生を理解するための研究をすすめています。