Research

私が知りたいこと: 世界にはさまざまな形の動物がいます。動物の多様な形態はどのように進化してきたのでしょうか?形態を作り上げるのは体づくりのしくみ、すなわち個体発生メカニズムです。私は個体発生メカニズムの研究をすすめることで、動物のさまざまな形が進化過程でどのようにうまれたのか、という「進化のメカニズム」を解明したいと思っています。 研究対象として、ウニに代表される棘皮動物を選んでいます。ウニは個体発生研究がふるくから盛んで、発生メカニズムの理解が進んでいます。さらに個体発生現象に見られる多様性についても豊富な知見が得られています。ウニ類は進化と個体発生の関係に興味をもつ者にとって、じつに魅力的な動物群です。

現在は以下の三つの方向から、体づくりのしくみとその進化について研究しています。

小割球の機能と進化: 一部の例外的なウニを除き、多くのウニは16細胞期に小割球と呼ばれる小さな細胞を植物極端に形成します。この小割球は発生の進行にともない、幼生骨片形成細胞と体腔嚢構成細胞の二種類の細胞に分化します。この過程で、小割球の子孫細胞は隣り合う細胞に対して誘導シグナルを送り、隣の細胞の発生運命に影響を与えていることがわかっています。この誘導のメカニズムについては現在も多くの研究者によって研究されていますが、未解決の問題がいくつもあります。たとえば小割球とその子孫細胞が隣接細胞に送る誘導シグナルは少なくとも二種類あることがわかっています。しかし、その発現のタイミングや、シグナル分子の性質、誘導を受容した細胞における遺伝子発現調節などについては不明な点が数多く残されています。私は小割球の発揮する誘導能の機能と進化に注目して、さまざまなアプローチの研究を進めています。最近は小割球子孫細胞における細胞間相互作用の時間的変遷について研究しています。

個体発生メカニズムの進化: ウニの発生といえば、プルテウス幼生を思い浮かべる人が多いと思います。一般的なウニのプルテウス幼生は、骨で支えられた腕を形成します。腕は外胚葉と骨片形成中胚葉細胞の相互作用で形成される、採餌に関連した構造であり、口側に突出して形成されます。しかし、ある種のウニは口とは反対側を向いた腕「様」の構造"posterior process"(以下、PPと略します)を作ります。PPの形成メカニズムについてはほとんどわかっていませんが、発生調節遺伝子の発現パターン解析から、腕と同様に外胚葉と骨片形成中胚葉との相互作用で形成されると考えられています。PPは特殊なウニにしかみられない構造で、おそらくその特定のグループのウニで獲得された新しい形質だと見做されています。おそらくPPは、腕を形成するメカニズムの流用によって進化したのでしょう。私はPPの進化過程における発生メカニズムの改変がどのようなものだったかを明らかにすることを目的として、PPを形成するウニと一般的なウニの発生メカニズムの比較研究を進めています。研究室の目の前の海にはPPを形成するウニの一種・オカメブンブクが生息しています。このウニを材料に、PP形成過程を骨片形成間充織細胞の挙動に注目して研究しています。

細胞の多分化能調節:

形態の進化とはすなわち個体発生メカニズムの変化です。形態進化を個体発生メカニズムの変化から理解するためには、個体発生メカニズムの可塑性を理解することが重要であると考えています。ウニ胚の一部の割球が特定の条件下で示す多分化能については昔から知られていますが、その調節機構はほとんどわかっていません。特殊な条件下で割球・細胞が示す多分化能の調節機構を細胞間相互作用と発生調節遺伝子に注目して研究しています。

研究上の興味:

  • 小割球の機能と進化
  • 形態・生活史進化に関わる発生メカニズムの進化
  • 後口動物の進化