「回帰屈折デザインの推定値はどの程度信頼できるのか?」

How Much Should We Trust Regression-Kink-Design Estimates?, Empirical Economics, Volume 53, Issue 3, 1287–1322, 2017 [Paper][Online-share] [Draft] [WP] [2014ver.] [Erratum]

本論文は、Neilsen et al.(2010 AEJ:Policy)やCard et al.(2015 Econometrica)で定式化された「回帰屈折デザイン」(Regression Kink Design、RKデザイン)の推定上の問題点について検証した論文である。「回帰屈折デザイン」は「回帰不連続デザイン」(Regression Discontinuity Design、RDデザイン)と同様、観察対象に対するトリートメントの取り扱いに制度的な不連続性(RDの場合にはジャンプ、RKの場合にはキンク)が存在する際に、その閾値前後の不連続的な処置変数の変動を一種の自然実験と見なして因果推論を行う手法であり、近年その適用例が増えている。

RKデザインの不偏推定値を得るには閾値前後のアウトカム変数の傾きの変化(すなわちキンク)の大きさを不偏推定する必要がある。しかし、閾値前後において割当変数(assignment/running/forcing variable)とアウトカム変数の間に非線形かつ連続的な関係(例えばカーブ)がある場合、閾値前後のサンプルサイズが非常に大きくない限り、キンクとカーブを識別することは困難である可能性がある。

本論文では、モンテカルロ・シミュレーションによるRK推定と日本の地方交付税制度に存在するキンクを用いたRK推定を行い、有限サンプルにおいて非線形かつ連続的な交絡要因が存在する場合には、RK推定は容易にバイアスを生じさせうることを示した。またバイアスを減じさせるためにRK推定に用いる多項式の次元を増やすことは推定の制度(precision)を大幅に減少させうることも示した。そして、これらの改善方法としては、通常のOLS推定などと同様に、妥当なコントロール変数を増やすことであるも論じた。

OLS推定と同様にコントロール変数を投入しなければ信頼性のある推定値が得られないということは、閾値前後の処置変数の不連続的な変化を利用して因果推論を行うというRKデザインの強みを減じさせるものである。一方で、明確な識別戦略が存在すること、推定に用いるデータのbandwidthの選択や多項式の選択により推定結果の頑健性を一定程度検証できること、そしてプラシボテストによって交絡バイアスの存在をある程度チェックできることなど、因果推論手法としてのRKデザインに優れた側面があることも否定できない。