SNSにおける研究者の情報発信のあり方についての意見

2021年3月26日

安藤道人(立教大学経済学部)

川口康平(香港科技大学商学院経済学部)


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様々なSNSの普及に伴い、多くの研究者が積極的にインターネット上で情報発信を行うようになりました。SNSなどのインタラクティブな公開の場において、研究者が自由に意見を表明することは、最大限に尊重されるべきことです。

しかし、最近明るみになった男性研究者の女性研究者らに対する不適切発言に関するSNS上での研究者の情報発信において、懸念すべき事態が生じていると私たち(執筆者、以下同様)は感じています。

とくに、一部の男性研究者による情報発信や意見表明の仕方が、「女性研究者に対する二次的被害」と解釈しうる事態に、部分的に繋がってしまっていると私たちは考えています。情報発信をしている本人は、「第三者」の立場からの「中立的な意見表明」のつもりであっても、威圧的な発言の仕方に他の研究者が恐怖感を覚えたり、その威圧的な発言に同調する匿名アカウントからの誹謗中傷に他の研究者(とりわけ女性研究者)が晒されているのではないか、という懸念を抱いています。

そもそも全ての研究者は、研究者間で生じた誹謗中傷やハラスメントなどについて、「中立的な第三者」ではありえません。SNSだけでなく、学会やセミナーなどで、直接やりとりをしたり、ともに仕事をしたりする可能性がある、同じコミュニティの一員です。その認識なしになされる無神経な情報発信や意見表明は、誹謗中傷やハラスメントの被害にあった研究者やその他の研究者に、萎縮心や深い諦念を生み出してしまいます。

私たちは、こうした無神経で威圧的なSNS環境を理由として、研究者がSNSなどの公開の場で情報発信や意見表明を行うことを萎縮してしまう可能性を強く憂慮します。すでに、この文書のような形で意見表明を行うことすら、少なくない研究者にとって、ハードルが高くなっているように思われます。

女性や社会的少数者を含む全ての人々に開かれた自由で活発な言論活動は、アカデミアにとって、もっとも大切なものです。そのためにも、「SNSでの言論活動や情報発信」のあり方を含め、広くアカデミアでの言論活動のあり方について、全ての研究者が、自分の問題として捉え、省察するとともに、研究機関や各学会においてすみやかに議論を始めることが必要だと考えます。

以上