研究者の人事

Job Talkというものを何度か聴く機会を得た。ファカルティメンバー(研究室を持つ教員)を募集する過程で、候補者たちが学科に向けてセミナーをするのだ。一つのポストに、大体三つほどの違う分野の候補者が、合計六人ほど集まってくる。候補者のCV(履歴書)は事前にメールで流されて回覧される。候補者はそれぞれ違う日に、まず学科全体へ向けたセミナーをする。ここでのセミナーの内容はこれまでの研究プロジェクトで、大体三つに分けられている。質疑を入れて一時間ほどだが、三つの話にもある程度内容の幅があり、何年にも渡って遂行された研究を十数分に凝縮しているのでなかなか密度が濃い。


そのセミナーのあと、研究スタッフに向けた、より専門的で細かい内容のチョークトークというものをする。これは、黒板にチョークで書いていくのでそう呼ばれているものと思われる。研究手法の技術的な部分などが問われる上、さらに今まで競争的資金をどう、どれだけ取ってきて、これからどうやって取る見込みがあるかということを細かく問われる。もちろん、どういう技術を学生に教えることができるかも重要なアピールポイントとなっている。履歴書の論文は一つ一つ入念にチェックされるため、捏造がまかり通るということは起こりにくい。


また、Spouse hiring 制度というものがある。これはカップルが両方研究者である場合、一人が教員として採用されると、もう片方のポストも大学内に積極的に探してもらえるというものである。分野が同じでも、違っても適用されるようだ。同じ大学にポストを見つけるのが難しくても、近隣の大学や研究室とつながりがあって、そちらに打診されるという場合もあるらしい。この制度で雇用されたという研究者は割と見かける。大学内に保育園もある。ただし小学校が休みになるが、大学の研究室は休みにならない休日というものが頻繁に存在し、子供を家に一人でおいておくことが違法になるため、そうした日は研究者たちは子供や孫を研究室に連れてきている。静かに絵を描いている子もいるし、ずっと喋りながら走り回っている子もいる。


教員として着任すると、スタートアップ資金があり、実験機器などをある程度揃えてポスドクをひとり雇えるくらいの資金が賄われる。ただしそれも数年で終わってしまうので、その間に研究が順調に進み成果が出るような体制を整えて、研究費が得られるようにしなければならない。なお、研究費が途絶えてしまうとポスドクや技術員などが無情に解雇され、外国人である場合滞在権も切れてしまうという事例も珍しくない。


新任教員は概ね「テニュア・トラック」制度にのっている。すなわち「試用期間」のようなものであり、五年ほどの任期ののちに審査を受け、その後ずっとその大学で働き続けることができるか、できないかが決まる。このとき五年間の間に成し遂げた業績、論文の質・量や学生指導、資金の状況が審査される他、ふたたび全体へのセミナーをして、研究成果や現在進行系のプロジェクトの進捗を学科全体に発表する。めでたく通れば雇用が途切れる心配は一応のところなくなるが、研究費は過酷な競争を経て獲得しなければならない。また、テニュア(終身雇用)ポジションを得たとしても、様々な理由から他の大学へと移る教員もいる。