Newspapers

Opps! COCO掲載 2016年4月1日

【バイオリニスト】 とみなが いつこ

「観客の前で演奏する時は、とても緊張します。普段と違う状況におかれることで、普段の技術や力を超えた表現ができるのです。」

ふんわりと温かい笑顔が魅力的なヴァイオリニスト・とみながいつこさん。

「バイオリンひとつひとつに、違った個性があります。自分の出したい音、自分の思いに反応してくれる楽器を探していくんです。」楽器は演奏家にとって、いわば”相棒”。いつこさんが”相棒”を手にした瞬間、周囲に心地よい緊張感が生まれ、驚くほど力強く心に響く音色が流れ出す。

楽器のすぐ近くで聞く「本物」の音を、皆さんに知ってもらいたいと伊津子さんは願う。


バイオリンと共に歩んできた道

バイオリンを始めたのは、2歳10ヵ月の時。「母が音楽好きだったので。バイオリン教室を見学して、私がやりたいと言ったらしいのですが、自分では覚えていません(笑)」。

レッスンは続けていたが、勉強が忙しくて中断した時期もあった。「勉強を10時間やっても、なんだかピンと来なかったのですが、芸術の科目は自然にできてしまうんですよね」。他人とは違う自分に気づき、高校は音楽科に進んだ。

日本の音大を受験したが、そこは自分の場所ではないような気がした。ちょうどその頃、レッスンを受けていたバイオリンの先生が、交換教授でイギリスに行くことになった。「ちょっと外国を見てみるかい?」と誘われ、イギリスに渡る。ホームステイで楽しく過ごしていたが、5〜6月のRoyal Academy of Music(王立音楽院)の卒業試験を見学して、大きな刺激を受けた。

「ここで勉強するんだと勝手に思ってしまったんです(笑)」。

時期外れだったが、特別にオーディションをしてもらった。「英語があまりできなかったので、願書を書くのが一番大変でしたね(笑)。結果が出るまでの1ヵ月は、生きた心地がしませんでした。」

結果は”合格”。これがいつこさんの進むべき方向を決めた。

王立音楽院では、「練習室に住んでるんじゃないかというくらいに、練習してる人もいました。演奏だけでなく、勉強もできないと落第します。私は英語コンプレックスもあったので、そんな自分が悔しくてがんばりました。日本の大学は入ると楽しいというのに、毎年どんどん大変になっていき、”こんなはずじゃない!”と思っていましたね」。

ロンドン・プライズ授賞式
イギリス・ブリストル大聖堂でのソロリサイタル演奏直後

大学院終了後は、イギリスで演奏家として活動した。室内楽やソロなど、自分自身で作りあげる音楽が、自分に向いていると感じている。「演奏するときですか?それは、ものすごく緊張します。普段と違う状況なので、違う力が本番に出ることがあるんです。普段の技術を超えた表現が出てくるんですよ。私の場合は、観客があってこそ力が出ますね」。


音楽に映し出される演奏者の人生

音楽家には、アスリートと共通するものがある、といつこさんは言う。ひたすら練習を続け、身体に演奏を覚えこませる。練習を繰り返し、身体を競技に合わせて造りかえていくアスリートと同様である。長い曲を演奏する時は、マラソンランナーのように、ペース配分を考えて、曲の流れと力の入れ加減を調節する。「音楽の表現には、その人の人間性や人生がそのまま出てきます。人間的に面白い人の演奏は、表現が深い。技術以上に、そういう内面的なものが人を感動させるのだと思います」。音楽は競い合えないものだと、いつこさんは思っている。競争が激しく、プレッシャーがすごいと言われている王立音楽院でさえ、「私は、周りを気にしないタイプなので…」と、マイペースで学んできた。”コンペティションは、性に合わない”という温厚な人柄が、演奏に込められているのだろう。

日本でのリサイタル

クラシック音楽をもっと身近なものに

いつこさんにとっての音楽とは、「小さい頃からいつも身近にある、空気のようなものですね。"無い”ことが想像できないです。そして、きれいな空気でないとダメ。きれいな音楽が必要なんだと思います 」。自分の演奏と同時に、他の演奏家の演奏をよく聴いて、美しい音楽のイメージを広げる。


「クラシックは敷居が高いと思わないで、気軽に聞いていただきたいです」。イギリスでは、あちこちの教会で”ランチタイム・コンサート”が日常的に開かれている。昼休みのちょっとした時間に、ドネーションや無料で気軽に生の音楽を楽しむことができる。「観客にとっても良いことですし、演奏家にとっても演奏の場があるということは良い経験になります。将来はそんな場所を提供する活動をしていきたいと思っています。ポップなアレンジをしたり、耳に馴染みのある曲を演奏するのもひとつのやり方ですが、これまで私たちがやってきたそのままのクラシック音楽の素晴らしさを出せるようにしたいな、と思うんです」。


音楽は、人の心を豊かにする。「音楽がなくても、餓死はしないけれど、食べる物では補えないものを満たしてくれるのが、音楽の素晴らしさだと思います」。

いつこさんの奏でるバイオリンの音色は、心の奥深くに力強く、そして優しく染み透る。


読売新聞 エンタメ おすすめ!2011年6月23日

バイオリニスト・とみなが いつこ が演奏会

ロンドンを拠点に活動するバイオリニスト、とみながいつこ=写真=が8月3日、大阪市北区のザ・フェニックスホールで、ドイツ・ロマン派の作曲家ロベルト・シューマン(1810〜56)のバイオリン・ソナタ全曲演奏会を開く。

3歳からバイオリンを始めた。高校卒業後に渡った英国で古いLPをよく聴くようになり、中でもシューマンのピアノ五重奏曲に「最初の和音だけで背筋がぞくぞくした」。自身でもこの作曲家の作品を演奏するうち、ますます魅せられ、本格的に研究をと修士課程でバイオリン・ソナタ第3番について論文を執筆。現在は英国王立北部音楽大学博士課程に在籍し、全バイオリン作品を研究中だ。

精神を病みつつ、優れたピアノ曲や歌曲、交響曲などを残したシューマンの作品の魅力を、「色んな感情が全て音楽に入っていて、人間味があるところ」と語る。博物館などで、自筆譜あるいは複製を、自分の目で確かめるよう努めている。「出版されている楽譜は編集や出版社の手が加えられていて、オリジナルを見ないとわからないことが多い」からだという。

「自筆譜の音符の一つ一つにはその瞬間の感情がにじんでいる。何度も書き直した跡も分かり、作曲家が何にこだわったかが見えてくるし、書くスピードや筆圧からも感情の激しい起伏が伝わってくる。作曲家の声に耳を傾け、観客に伝えるのが音楽家の使命です」

演奏曲目は「晩年の傑作」というソナタ第1,2,3番。

産経新聞 芸能 ENTERTAMENT 2011年7月29日

シューマン ”隠れた佳品”を紹介 バイオリニスト とみながいつこ リサイタル

英ロンドンを拠点に演奏活動を続けるバイオリニスト、とみながいつこのリサイタル「続・シューマン生誕200周年記念」が8月3日午後7時、大阪・梅田のザ・フェニックスホールで開かれ、ソナタ全3曲が披露される。ロマン派の巨匠の個性を色濃く反映し、それぞれに独特の魅力をたたえながらも演奏会にはなかなか恵まれない”隠れた佳品”ばかり。「自分にも最も近い存在の作曲家」と格別の思入れを持つ、とみながが新たな生命を吹き込む。

3歳でバイオリンを始め、英国王立音楽大学などで学ぶ一方、カヴァティーナ音楽コンクールで優勝するなど受賞歴も豊富。現在は、英国を中心にソリストとして活動している。シューマン生誕200周年の昨年は彼の室内楽作品を中心に精力的なステージ活動を展開。「作品に込められた感情にすっと同化できる。弾いていても自分の心に入って来る感覚です」と語る。

「作曲家も、やはり成長してゆく。熟したものをのぞいてみれば、必ずしも心地良いものとは限りませんが、良い形で先入観を裏切れる可能性が大きい」と熱っぽく語る。晩年の1851年から3年の間に書かれた3つのバイオリン・ソナタは、青年期の歌曲やピアノ作品に比べれば、はるかに演奏機会が少ない。「シューマンの晩年は、精神的な病気に苦しんだイメージばかり先に立ちますが、本当にそうでしょうか。私はかれの直筆府に立ち返り、自分なりのインタープリテーション(解釈)を心がけて、そう一概には言えないとの結論に至りました」

「私はバイオリニストとしてあまり知られていないけれども良い曲を紹介していきたい。その意味では表現の自由度が高いロマン派は特に魅力的。今回のシューマンは、正にその第一歩といえるかもしれません」とほほえんだ。


日本経済新聞 オムニス関西 2011年

シューマンのソナタ3曲演奏 とみなが いつこ、大阪で公演

バイオリニストのとみながいつこが8月3日、大阪市のザ・フェニックスホールでシューマンのヴァイオリンソナタ全3曲を演奏する。同ホールが新進気鋭の音楽家を紹介する「フェニックス・エヴォリューション・シリーズ」の一環。

とみながは演奏会に先だってドイツに行き、シューマン直筆の楽譜を読み込んだ。「息のつぎ方や悩んで書き直した部分など、細やかな所まで本人に近い演奏ができる」。シューマン最後の作品である「第3番」は演奏機会が少ないが、「人生の意味が込められていると思うのでぜひ聞いてほしい。暗いけれど希望がもらえる曲だと思う」と話す。


朝日新聞 Do!金曜エンタ 2011年

埋もれた名曲に光 バイオリンのとみなが いつこ、シューマン特集

ロンドンを拠点に活動する若手バイオリニストのとみながいつこ=写真=が8月3日、大阪市北区のザ・フェニックスホールでシューマンのバイオリンソナタ全3曲の演奏会を開く。「あまり演奏されない晩年の作品だが、彼の心の葛藤、繊細さ、全てが熟成され詰まっている。心を開いて聴いてほしい」と話す。

高校卒業後に留学した英国王立音楽院の図書館で、シューマンのピアノ5重奏曲のLPを聴き、「ビビビっときた」。作曲家への興味が深まり、研究のテーマに。直筆の楽譜に当たるなどして、修士論文を書き上げた。「筆圧の変化や難度も書き直している箇所などを見ると、作曲家の感情の高ぶり、声が伝わってくる」という。

シューマンに限らず「有名作曲家の埋もれた名曲に光を当てる」演奏会を心がける。一部の曲だけが弾かれすぎると、クラシックの世界が狭ると感じるらだ。「歴史に埋もれた曲を引っ張り出し、親しんでもらうことで、音楽の世界を広げていきたい」

大阪日日新聞 2011年6月23日

シューマン作品知って

英国拠点のバイオリニスト・とみながいつこさん ソナタ全曲

「英国で勉強してきたことを聴いてもらえる機会ができてうれしい」と話すとみながさん。

英国を拠点に活躍するバイオリニスト、とみながいつこさんが8月3日、大阪市北区西天満4丁目のザ・フェニックスホールで、日本では初めてホール・リサイタルを開く。研究を続けるシューマンのバイオリン・ソナタ全曲を披露、「演奏される機会の少ない晩年の曲を通し、シューマンと彼の作品により興味を持ってもらいたい」と張り切っている。

同ホールが公演企画を募集し、審査で選出したアーティストにホールと付帯設備を無償で提供、サポートする演奏会「エヴォリューション・シリーズ」の一環。富永さんは高校卒業後英国へ渡り、英国王立音楽院大学で学ぶ。ロンドンをはじめ数々の都市でソリストとして、また室内楽の演奏に精力的に取り組んでいる。

本格的にシューマンの研究に力を入れ始めたのは、修士論文のテーマを考えた時。「幸せなとき苦しいときそれぞれの心情がよく表れた曲から、人間的な部分を感じた。法律家を目指していて途中から音楽家になったその経歴も、神童とよばれていたほかの音楽家たちとは違っていて親しみを持てる」といい、現在も博士課程で研究を進めている。

今回演奏するソナタ第1〜3番のうち、3番は特に演奏されることが少ない。「現在残っているシューマン最後の作品で、人生の回帰とこれからの人生への希望、そして音楽に対する思いが詰まった曲」という。直筆の楽譜は残っていないため、現在の楽譜を出版した研究者に会うためにドイツに出向くなどして自分なりの解釈を深めた。

日本での初めての演奏に「シューマンの深い内面を汲み出していくのが難しく、それがきちんと伝わるか不安はある」と言うも、「試してみる価値はある」と言い切る。「埋もれた名曲を掘り出し、現代の人たちに披露する」ことに使命感を持ち、「これからもどんどん新しいものを見つけて自分の幅を広げていきたい」と目を輝かせる。