研究テーマ

食虫植物の進化

食虫植物は虫を食べることができない普通の植物を祖先にもつ。いったいどのような進化プロセスによって食虫植物が生まれたのだろうか。大まかに3つのアプローチを駆使して研究を進めている。

  1. 食虫植物と非食虫植物の種間比較

  2. 表現型可塑性を示す食虫植物の種内比較

  3. 複数の食虫植物進化イベントの比較

以下に各プロジェクトについて詳述する。

袋型捕虫葉の発生

食虫植物の捕虫葉進化は劇的な形態変化の好例である。

ヘイシソウ科(Sarraceniaceae)の食虫植物は袋型の葉によって落とし穴式に虫を捕らえるが、祖先は平らな葉を作っていたらしい。葉の形作りを調べることで、この形態変化の謎に挑んだ。その結果、特定の細胞層において袋型捕虫葉発生に特徴的な細胞分裂パターンを発見した。

現在、材料をフクロユキノシタへと移して遺伝子機能解析を取り入れた研究を進めている。

Fukushima et al. (2015, Nat Commun 6: 6450)

Fukushima and Hasebe (2014, Genesis 52: 1-18)

フクロユキノシタのゲノム解読

フクロユキノシタはオーストラリアに南西部にのみ自生する一科一属一種の食虫植物である。この植物のユニークな点は環境に応じて袋型捕虫葉と平らな普通葉を作り分けるところにある。この表現型可塑性を利用することで、推定祖先型の葉(普通葉)と派生型の葉(捕虫葉)の比較解析を個体内で行うことができる。培養条件の検討の結果、特定の環境要因を操作することで葉の二型性を制御できることが明らかになった。さらに、ウイルス誘導性遺伝子抑制法による遺伝子発現操作技術も開発した。これと平行して本植物のゲノム・トランスクリプトームの配列決定を行い、捕虫葉の進化過程解明に取り組んでいる。

Fukushima et al. (2017, Nat Ecol Evol 1: 59)

食虫植物の収斂進化

食虫植物は、被子植物の5つの目において食虫能力を持たない植物を祖先として独立に出現している。これらの植物は、動物を“食べる”ことで貧栄養環境へと適応しており、どの系統においても獲物を誘引・捕獲・消化・吸収するための形質を備えている。これまでの研究で、同じタンパク質の同じ位置に同一のアミノ酸置換を多数蓄積することで消化酵素が進化したことが明らかになった。現在、ゲノム全体から収斂的な進化パターンを示す遺伝子を多数同定し、食虫植物の進化においてどのような遺伝子が使われやすかったかを明らかにしようとしている。

Fukushima et al. (2017, Nat Ecol Evol 1: 59)

収斂進化の分子メカニズム

鳥とコウモリにおける独立した翼の進化のように、異なる生物において類似した形質が生じるプロセスは収斂進化と呼ばれる。近年、その分子的基盤が明らかになるにつれ、同じタンパク質における同一のアミノ酸置換や類似した遺伝子発現進化、すなわち分子収斂によって形質の収斂進化が起きた事例が見つかってきた。このような進化の背景には、分子進化経路を制限し、分子収斂を駆動するなんらかの要因が存在するはずだが、その詳細は未だ明らかになっていない。この分子収斂における制約を知るために、その実体について複数の仮説を立て、その検証方法を模索している。

核型解析を取り入れた系統推定

形質の進化パターンを知るためには系統情報が必須となる。しかしながら、植物は倍数化などの複雑な核型進化を頻繁に起こし、分子マーカーを用いた系統解析のみでは系統進化の全容を捉えることは難しい。そこで、核型分析と分子系統解析を組み合わせることで、おもに食虫植物の系統発生を解析した。

Fukushima et al. (2011, J Plant Res 124: 231-244)

植物の機能性成分の解析

ヒトやマウスの培養細胞を使って植物抽出物の機能性を明らかにした。

Fukushima et al. (2009, J Ethnopharmacol 125: 90-96)

Kobori et al. (2008, J Agric Food Chem 56: 4004-4011)