食虫植物の古典研究を網羅したJuniper et al. (1989)は、Chapter 1の書き出しで
"Carnivorous plants (Latin: Carnis- flesh; Vorare - devour or swallow) are those plants which use entrapped animal tissues from their nutrition."
と記述している。つまり、虫を捕まえてその栄養を吸収できれば食虫植物なのだ。また、食虫習性(carnivorous syndrome)を、昆虫を誘引(Attract)・保持(Retain)・捕獲(Trap)・殺害(Kill)・消化(Digest)・吸収(Absorb)する形質の集まりと定義し、このうち誘引と消化は必須ではないとしている。
Juniper, B.E., Robins, R.J., and Joel, D.M. (1989). The Carnivorous Plants (Academic Press: London).
食虫植物と似て非なるものに、寄生植物やアリ植物がいる。寄生植物は他の植物や菌類から栄養を奪取して成長する植物であり、昆虫を寄主としていない点で食虫植物と異なる。アリ植物は棲家や蜜を提供する代わりに他の昆虫からの食害をアリに防いでもらう植物であり、昆虫を積極的に捕殺していない点で食虫植物と異なる。
また、パフィオペディラム属などのランも、よく食虫植物との誤解を受ける。ひときわ発達した唇弁が壷状であるため食虫植物の袋型捕虫葉に似るのだが、これは送粉昆虫の着地点として機能する器官であり、虫を捕らえ殺すものではない。作家の横溝正史もこの点を誤解しており、金田一耕助シリーズ『悪魔が来りて笛を吹く』にこのような一幕がある(164ページから引用)。
ーここから引用ー
「ええ、蘭と高山植物です。蘭は食虫蘭がおもですが、なかなか珍しいものがありますよ。ごらんになりますか」
「いや、今日は忙しいからこんどにしましょう。どなたの御趣味なんですか」
「亡くなられた子爵が蒐集されたんですが、いまでは一彦さんがうけついで、世話をしていらっしゃいます。ぼくもときどきお手伝いをするんです。いま蘭に蜘蛛をやったんですが、いささか気味が悪いですね」
ーここまで引用ー
虫やクモを食べるランは現存しないため、このやり取りは現実味に欠ける。また、これまでに食虫植物と認識されているものはすべて葉で虫を捕らえ、花器官や苞での捕虫は報告されていない。マムシグサなどのサトイモ科植物の仏炎苞もたまに誤解を受けるが、捕虫器官ではない。