2013.12-21-23
鈴木輝美(専修大・学)・木田千鶴(駒澤大・学)
奥多摩研究会および寒冷地形談話会の共催による,「2013年 奥多摩地すべり見学会」が2013年12月21日から22日にかけて実施された.案内者・世話役は清水長正(エルデ)・目代邦康(自然保護助成基金)・佐藤 剛(帝京平成大)・角田清美(専修大・非)・小岩清水(サイエンスボランティア)・苅谷愛彦(専修大)の各先生方と,澤部孝一郎氏(専修大・院)である.参加者は案内者を含め17名であった.
12月21日(土):
午前9時にJR鳩ノ巣駅に集合.ただちに車に分乗して,多摩川の支流である日原川を遡上した.途中で車を停め,これから行く樽沢の崩壊地を遠望した.樽沢の左岸では2001年9月8日から11日の台風15号による大雨の影響で,大きな崩壊が発生した(小岩清水先生による推定発生日は9月10日;後述).その結果,大量の土砂が流下して樽沢のワサビ田が破壊されたり,川の増水によって橋が破壊されたりし,甚大な被害となった.現在,樽沢の崩壊面では緑化工事が行われているが,この崩壊面には変形した黒色頁岩や混在岩,石灰岩がむき出しになっているとのことであった.当日は残念なことにほとんどが雪に覆われてしまっていた(写真1)が,澤部氏が作成した詳細地質図を見ながら,基盤岩の構造や地すべりとの関係についての議論が盛り上がった.大崩壊地を横目に昼食を摂った後,下山の途中では岩塊流地形や重力変形地形を観察しつつ,日原川まで戻った.日原川沿いを歩き,川沿いの崩壊地や破壊された橋の様子なども見た.
写真1 樽沢崩壊地の様子
見学会終了後は丹波山村の温泉(のめこい湯)に入り,宿泊先である「かどや旅館」に向かった.旅館の方々に夕食をふるまって頂いた後,寒冷地形談話会の例会を実施し,5名の学生がそれぞれの研究を報告した.黒澤 兆氏(専修大・院)は南アルプス仙丈ヶ岳薮沢における崩壊と年代について,佐々木夏来氏(東京大・院)は八幡平の地すべり地における湿地の特徴と発達過程について,幅 雄太朗氏(帝京平成大・学)は寒冷地での調査における高山病を例とした疾患について話題を提供した.また木田は秩父山地瑞牆山の緩斜面における地形発達について,鈴木は御坂山地四尾連湖の地形発達史についてそれぞれ発表した.学生発表の後は小岩先生による2001年9月の樽沢崩壊・土石流とその被害についての講演を聴いた(写真2).例会の終了後も夜遅くまで活発な議論が行われた.
写真2 小岩氏の講演の様子
12月22日(日):
かどや旅館を出発後,同村の多摩川と後山川に挟まれた保之瀬天平へ向かった.雪が残る飛竜山から東に伸びる大きな尾根を横断しながら,隆起準平原起源とも,無数の線状凹地起源とも考えられる幅広な尾根の地形を見学した.保之瀬天平付近の地質構造について澤部氏の調査資料をもとに議論がなされた.ここでは北東傾斜の堆積岩類が重力により座屈(バックリング)褶曲しており,そのためにトップリングや流れ盤すべりが生じているとのことであった.また稜線上の線状凹地でなされたボーリング掘削により,厚さ約8 mのローム層から御岳伊那テフラ(90-95 ka)や姶良丹沢テフラ(30 ka)が見いだされたことも紹介された.保之瀬天平での昼食後は,雪合戦に興じる参加者もいて楽しい時間となった.その後,保之瀬天平を後にし(写真3),北面の釜の沢を下降した.清水・角田両先生の案内で,明治期まで主に蚕卵の冷蔵庫として使用されていた風穴を見学した.ここでは外気温と風穴内の温度を計測した.夏場は1~5℃位をさすらしいが,今回の計測では8~10℃であり,風穴内は外よりも暖かいことを実感した.さらに私たちは沢の下降を続け,後山川沿いに歩いて保之瀬天平北面の崩壊地を遠望観察した.天候にも恵まれ,事故もなく鳩ノ巣駅に到着し,巡検は終了した.
写真3 保之瀬天平を進む一行 (写真3は苅谷先生提供)
この巡検では,諸先生や先輩の研究フィールドを見て議論をしつつ,山地での生活環境についても学ぶ貴重な経験ができ,勉強になりました.また,写真や地形図などでは目にする機会の多い地すべり地を樽沢で実際に初めて見たので,この場所で地すべりが起きたのだと思うと感慨深かったです.なにより雪に覆われた急斜面を登り下りするのも初めてのことで,とても良い経験になりました.機会があればこのような巡検にまた参加したいと思いました.