「ice IVの誘電緩和時間の温度依存性」
「高圧で結晶化させたice Ihの誘電緩和」
温度帯によって緩和メカニズムが変化することを反映して、ice Ihの誘電緩和時間は1気圧では活性化エネルギーが変化することが知られています。圧力依存性もある程度調べられていますが、それらはすべてice Ihを加圧したもので、歪みなどのフラストレーションが残っていて理想的な条件ではないことが考えられます。この研究では、1000気圧で結晶化させたice Ihの誘電緩和時間を調べました。
「液体窒素中でのラマン分光装置の改良」
自作のラマン分光装置をこれまた自作の窓付きデュワーと組み合わせ、液体窒素中のサンプルのラマン分光測定を可能にしました。(準後方散乱)
「低濃度グリセロール水溶液ガラスの誘電緩和について」
「その場観察誘電分光測定装置の開発(大気圧下)と水溶液の結晶化」
ITO電極を用いて、顕微鏡観察下で誘電率測定が可能な電極を開発し、トレハロース水溶液を用いて簡単な実証試験を行いました。
「ジグリセロールのダイナミクスに対する圧力効果とJohari-Goldstain β緩和」
最近、異方性のある粒子系のシミュレーションから、Johari-Goldstain β緩和(JGβ緩和)の起源がローテーションであることが示されました。また、粒子系のシミュレーションからは異方性の有無でJGβ緩和の有無が決まることが知られています。グリセロールは典型的な水素結合性のガラス形成物質ですが、そのJGβ緩和の強度は小さく、1気圧のもとではα緩和に隠されてよく見えません。(α緩和の高周波側に広がった裾野としてExcess Wingとも呼ばれる。)この研究ではグリセロールの2量体であるジグリセロールを用い、グリセロールと比較することで異方性とJGβ緩和の関係を調べました。
結果から、1気圧のもとで、ジグリセロールでは2つの誘電緩和が観測されました。これらの分子運動論的な起源を明らかにするため、圧力効果を調べました。すると、低周波側の緩和は圧力によく応答する一方で、高周波側の緩和は圧力にはあまり応答しませんでした。一般に、ガラス転移に関わるα緩和は圧力に強く応答し、JGβ緩和緩和は圧力にあまり応答しないことがわかっています。よって、グリセロールで観測された2つの緩和は、低周波側の緩和がα緩和、高周波側の緩和がJGβ緩和であると結論付けました。また、グリセロールの誘電緩和スペクトルとの比較から、ジグリセロールではJGβ緩和がよりはっきりと観測されることがわかりました。
「マンニトールの密度測定手法の確立と異性体混合の効果」
浮沈法と呼ばれる(らしい)手法でマンニトールやマンニトール/ソルビトール混合系のアモルファス試料の密度を決定しました。アモルファスなマンニトールは室温付近で相転移が起こるので、室温以下で密度測定を行う必要があります。これを実現するために、5℃設定の環境試験機内でクロロホルムに試料を浮かべ、トルエンを加えていきトルエン/クロロホルム溶液の濃度を変えます。溶液の濃度で溶液の密度が決まるので、試料が浮いたり沈んだりしなくなったときの溶液の密度が試料の密度とイコールになります。溶液の濃度は浮標密度計で測定しました。
まず、マンニトールについては文献をよく再現しました。次に、マンニトール/ソルビトール系については極小値を持つような密度の濃度依存性となりました。また、マンニトールはポリアモルフィックな特徴を持つ物質ですが、ただ急冷して調整したアモルファスなマンニトールは同じく急冷したアモルファスなソルビトールに関連した物質であることが示唆されました。ソルビトールはポリアモルフィックな特徴を持たないので、今回調べた「ただ急冷して調整したアモルファスなマンニトール」は”ありふれたアモルファス状態”であることを示唆しています。
「マンニトール/ソルビトールの熱物性」
マンニトールはアモルファスの多形を持つ物質の一つですが、その液体状態を詳しく調べることは容易でありません。これを実現するために第2成分として同位体のソルビトールを加えた混合物の熱物性を調べました。冷却速度を変えた実験では結晶化せずにアモルファス化するために必要な冷却速度を見出しました。濃度を変えた実験ではポリアモルフィックな特徴が失われる濃度を見積もりました。
「THFクラスレートハイドレートのゲスト分子のダイナミクス」
テトラヒドロフラン(THF)クラスレートハイドレートの安定性とゲスト分子ダイナミクスの関係を知るための基礎的な実験を行いました。