研究内容

Dynamic SERS imaging

金属ナノ粒子の周辺では、分子から発生するラマン散乱光が増幅されます。この現象はSERS (surface-enhanced Raman scattering)と呼ばれ、分子結合の情報に富むラマン光を高感度に捉えることができます。私たちは、この金属ナノ粒子をプローブに用い、生きた細胞の内部を観察する手法を開発しました。粒子近傍の分子から発生するSERS光を検出することで、ナノスケールの空間選択性を有し、かつ高感度な分子分析を行うことが出来ます。ナノ粒子は、細胞機能に従って取り込まれ、輸送を経て細胞器官へと集積されます。粒子からのSERS光を継続的に観察し続けることで、細胞機能に従って粒子周辺でダイナミックに働く細胞内分子の挙動を観察できると考えました。

ナノ粒子の細胞内挙動に追従するため、実際にレーザー走査ラマン顕微鏡と暗視野顕微鏡を組み合わせた装置を開発しました。細胞内部を絶え間なく動き続ける粒子にレーザーの焦点位置をリアルタイムで追従させながら、SERS計測を行うことができます。これまでに、50 msの時間分解能、65 nmの空間位置決め精度で粒子の細胞内挙動とSERSスペクトルを同時に捉える事に成功しています。これまでにない分析技術として、様々な細胞機能の解明に役立つことが期待されます。

Nano Lett. (2011) movie

PCCP (2013)

Nature Protoc. (2013)

Methods (2014)

JOPT (2015) Highlight of 2015 in J. Opt

Alkyne-tag Raman imaging

薬剤などの小分子が細胞内のどこに分布するかが分かると、その分子が働く仕組みや効能を知る手がかりが得られます。蛍光団で修飾すれば目的の分子の分布を捉える事ができますが、修飾によって小分子本来の性質を変化させてしまう可能性が残されていました。我々は、炭素-炭素三重結合を有するアルキンをタグとして、小分子の分布をラマン顕微鏡で可視化する手法を開発しました。アルキンは、微小な分子構造ゆえに、小分子本来の性質をほとんど変化させず、かつ生体分子がラマン散乱を示さないサイレント領域にピークを持つため、選択的な観察が可能です。さらに、小分子の分布とともに、脂質やタンパク質など内在性の生体分子の分布も同時に捉える事ができます。これまで、核酸やコエンザイムの類縁体などにアルキンタグを導入し、ラマン顕微鏡でその分布を可視化してきました。汎用性の高い本手法は、脂質単分子膜中の特定の脂質の空間分布を選択的に捉えることに成功するなど、様々な研究分野に応用範囲が広がっています。

JACS (2011)

JACS (2012)

ChemComm (2014)

BMCL (2015)

PNAS (2015) Press release, RIKEN research, 化学工業日報, Imaging & Microscopy

Modification of cellular function by ultra-short pulsed laser

生体は近赤外光にほとんど吸収をもちません。しかし、超短パルスレーザーを集光すると、焦点付近で多光子吸収が発生します。この現象を利用すると、膜や周辺の小器官を傷つけることなく、細胞内部の焦点近傍だけを光で3次元的に加工したり刺激を加えることができます。これまでに私たちの研究グループでは、超短パルスレーザーによって細胞内のカルシウムイオンウェーブを誘起したり、周期的なレーザー照射によって心筋細胞の拍動を光制御することに応用しています。さらに、パッチクランプ法を用いてレーザー照射下の細胞膜電位を計測すると、大きな電位変化が生じていること、照射部位によって電位変化の様子が異なることを発見しました。光を空間的に閉じ込めて細胞に摂動を与える本手法は、従来の極細針を用いた膜外からの物理刺激や薬剤の投与では実現できなかった、新たな細胞分析ツールとなる可能性を秘めています。

Opt. Express (2008)

Eur Biophys J (2009)

InTech (2011)

Optical trapping and surgery