しかし、私は「独創的な番組にして受賞記録を作ろう、メディアミックスも成功させ黒字にしよう」とだけ強調した。

最大の苦労はCGであった。全面委託ゆえ、NHKのハードは使えず、CG技術陣の協力も得られなかった。当時1秒30万円と言われたCG。ヒト、モノ、カネ、すべてないないづくしだが、CGに賭けざるを得なかった。

実写、微速度顕微鏡、100万倍の電子顕微鏡、それだけでは生命38億年の進化の結晶、60兆細胞からなる人体のすばらしさを描ききれない。企業を巡りハードを借り、それを社長室の一角に置き、「人体CGルーム」を作り上げた。

その甲斐あり、世界のテレビ界がなしえなかった多量、高品質のCGを制作することができた。結果は日本賞グランプリなど内外の12の賞を獲得、記録を作った。

また、国際的にも好評だったこともあり、メディアミックスも成功し黒字となった。「人体Ⅱ 脳と心」「人体Ⅲ 遺伝子・DNA」と続いたシリーズも全員出向者で制作した。

10年間人体プロジェクトをまかせられて今思うことは、良質の番組制作にはチーム全員の志の高さが必須になるということ。

今、NEP21をとりまく状況は厳しい。だからこそ"Contents is King"という原点を再認識し、公共性の高い価値あるソフトを生み出してゆくことが何より大切だと思う。

林 勝彦

林 勝彦(はやし かつひこ、1943年 - )元NHKプロデューサー、東京大学先端科学技術研究センター客員教授などを歴任し、現在サイエンス映像学会副会長。1965年 慶応義塾大学文学部哲学科(産業社会学)卒業後、NHKに入局。ディレクター(1965 - 1982)、デスク(1982 - 1986)、プロデューサー(1987 - 2005)として40年間、約300本以上の番組制作(主に科学、環境、医学、医療、原子力など)

講演等のお問い合わせ先・hayashi.katsuhiko.sj(アットマーク)gmail.com

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”巨匠なき泥船チーム”と大いに心配されもした。

例えば一般職を含む全員がNEPに出向するという全面委託方式、CPはひとりで番組の品質管理の他、メディアミックスも担当した。

46歳、たいした実績もない上、はじめてづくしのプロジェクトだった。

正直、ビビった。

「Nスぺの大型企画は世界一であれ」

これは当時の部長が、私を「人体」のCPに命じた時の言葉である。

NHKスペシャル

「驚異の小宇宙・人体」プロジェクト

~ 20年の歩み ~