JKA補助事業

2021年度 自転車競技者用のローラー練習台を用いたエネルギーハーベスティング  補助事業

  研究概要

本研究は、自転車競技者の屋内練習のために使用されるローラー練習台を用いた発電システムを構築することを目的とする。ローラー練習台は3本のローラーで構成されており、練習時に自転車のタイヤーとの接触により起きる3本のローラーの回転運動(マクロスケール電力)やタイヤーとローラーの接触摩擦(マイクロスケール電力)を電気エネルギーに変換することで発電を行う。発電は、「マクロスケール電力」と「マイクロスケール電力」の、二つの異なるスケールの電力の発電を同時に行う予定である。 マクロスケール電力の発電は、回転するローラーにベルトを介してオルタネータ等を連結させることで発電を行う。一般的に成人一人の発電能力は数百Wと言われてあり、練習時に100基のローラー台を同時に動かすことを考えると毎時数万Wの発電が見込まれる。自転車競技者の場合、一般成人に比べ数倍程の発電能力が期待できる。オルタネータをローラーに繋げることで、負荷をかけた練習をすることも可能である。マイクロスケール電力の発電は、回転するローラーと自転車のタイヤー間に摩擦発電機の機構(Triboelectric Nanogenerator, TENG)を設けることで発電を行う。摩擦帯電とは、異なる物質を接触・分離もしくは摩擦させることで、両物質にそれぞれ正と負の電荷を発生させ、その電位差による電子の流れを生じさせることで電気エネルギーを得る発電手法である。生活(歩きなど)や自然界(波、風など)で捨てられている機械エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能である。特殊な発電装置などを必要とせず、二つの異なる材料の相対運動のみにより発電が可能であるため、構造がシンプルで低コストである。摩擦発電から得られる交流電圧および交流電流の波形の大きさや形の変化を用いて、タイヤーの摩耗、空気圧、速度などの自転車の運転状況や走行状況のモニタリングができるセンサーとして応用することで自転車をIoT化することを目標とする。本研究でのマイクロスケールの発電は、数マイクロWから数W程度の電力を予想しており、得られたマイクロ電力を用いて、IoT化した自転車に装着するセンサーの駆動を行うことを目指して研究を行う。 

  研究内容

(1)マクロスケール電力の発電に関する研究関する研究 

近年の地球温暖化の進行によりエネルギー資源の脱炭素化を目標とすることが世界で増えてきている.その中でこれまで化石燃料を用いていた自動車等の機械の電動化も進んできている.そこで重要になるのが温室効果ガスを発生させない手段による発電,いわゆる再生可能エネルギーということになる.その中でも日本は原子力発電所の事故により原子力発電の発電全体に占める割合が減ったことも相まって,火力発電所等の化石燃料を消費する発電方法の占める割合が多い.さらに従来型の大規模発電所では送電時の環境負荷や,長距離送電による停電のリスクも高い.ここで注目されるのが電力の地産地消という考え方である.そこで本研究では自転車競技者用の練習に利用されるローラー台に着目した.数十台のローラー台から同時に発電が可能になれば電力の地産地消と再生可能エネルギーの両方を実現することができる.この時,小規模発電ではなるべくコストを抑えたいという観点から車載用オルタネーターを用いようという試みがある.そこで本研究ではオルタネーターとローラー台を用いた発電システムを構築することを目的とし研究を行った.研究では、まずオルタネーターとローラー台を用いたエネルギーハーベスティングシステムを構築した.この発電システムでは発電電力量を制御することによって,自転車競技者が練習の際に必要な負荷を調節することができる機能を付加することに成功した.発電システムを構築した後,異なる発電量やケイデンスにおける発電効率を測定した.その結果、発電量が大きくなればなるほど,発電効率も上昇すること、ケイデンスを上げれば上げるほど発電効率が上がることがわかった.さらに,発電損失を分析することにより本システムにおける損失の大部分は機械的損失によるものであるということを明らかにした.

(2)マイクロスケール電力の発電(摩擦発電)に関する研究 

近年,さまざまな「もの」をインターネットに接続するIoT (Internet of Things) 技術が発展しており,ますますIoT社会の進展が見込まれているが,それに伴いセンサーが大量に必要とされる.しかし,これらの電源を全て従来型のバッテリーや送電網によってまかなうことはコスト面,環境面などの観点から困難である.その解決策として,ナノ発電機と呼ばれる発電システムが注目を集めている.中でも,摩擦発電機はシンプルな構造,低コストといった特徴から大きな注目を集めており,表面の摩擦や帯電状態によって出力が変化する性質からセンサーとしての応用も期待されている.また,IoT社会に必要な情報の一つとして,自転車走行状況のモニタリングがある.2020年以降,COVID-19の大流行により,自転車利用数が増加した.このような背景から,交通事故を低減するための自転車の安全性に関する懸念が浮上している.また,自転車の通過を検知し街灯のオンオフを切り替えることで省エネ化も可能である.自転車関連では,タイヤの回転を利用して発電するTENG が既に報告されている.本研究では,より簡単でIoT社会に向けた自転車のタイヤと道路との間で発電する摩擦発電センサーを考案した.このセンサーによって自転車の速度や車重を検出することができ,走行の安全性の向上へとつなげることができる.さらに,タイヤ内部にTENGを設置し走行中のタイヤの変形によって発電するセンサーを考案した.タイヤ内部にあるため,それぞれの自転車ごとにセンシングすることができ,例えばシェアバイクなどのメンテナンスに役立てることができる.今回我々が考案したものはタイヤ内部においても帯電材同士を直接接触させずにキープすることで,接触分離をより効率よく行うことができ,より大きな出力を得られると考えている.本研究の結果、ローラーに設置した摩擦発電機を用いてタイヤとの間で発電が可能であることが分かった.発電出力は、速度、タイヤ空気圧,荷重に対して増加傾向を示した.また,摩擦発電機のタイヤ周方向長さを変化させると,出力は増加するが,タイヤが地面と接触する長さは空気圧や荷重が一定であれば一定であるため,ある一定の長さで飽和することがわかった.さらに、摩擦発電機を用いて速度センサーが実現可能であることを実証した.速度センサーは,出力のピーク間隔を用いて速度を推定することが可能であった.

JKA報告(マクロ).pptx
JKA報告(TENG).pptx

2019年度 ローラベアリングを用いた摩擦発電システムの開発とメガ発電への展開 補助事業

  研究概要

摩擦発電は、IoT、センサー、スマート/モバイル機器において自己発電(バッテリー不要)を可能にする。現在の摩擦発電システムは、2面間(帯電材間)が接触と分離を繰り返して発電を行う接触/分離型が主流であり、接触分離の周波数が小さいため発電量が少なく(ナノ発電)、将来のメガ発電(マイクログリッド)への展開は困難である。将来のメガ発電への応用のためには極めて高い発電効率を有するシステムが必要であり、そのためには、接触分離型ではなく、高速回転(滑り)かつ極めて低い摩擦係数を有する発電システムの開発が必須である。本研究では、高速回転が可能で、極めて低い摩擦係数を有することから、小さい機械刺激でも長時間の運動が可能である、ベアリングを用いて、発電効率を画期的に向上した摩擦発電システムをする開発することを目的とする。

平成30年度 マイクロパイプ内面への高硬度・耐腐食性DLC膜の高速成膜 補助事業

研究内容

 (1)ホローカソード放電によるマイクロパイプ内面へのDLC成膜の最適化およびプラズマ挙動解析

バイポーラPBII&D法における、直径20mmパイプ内部でのホローカソード放電(HCD)プラズマ生成の最適化を行い、最適値は、パルス周波数1000 Hz、パルスディレー20 μs、成膜圧力1.0 Pa、パルス電圧は、正・負電圧はそれぞれ+2.8 kV、-1.8 kVであることがわかった。マイクロパイプ内面でのDLC膜の成膜率を調べたところ、グロー放電による成膜ではマイクロチャネル開口端近傍の成膜率は260 nm/h付近であったのに対し、HCDプラズマアシストを用いた場合、1000~1250 nm/hと四倍程度増加しており、HCDによる高密度プラズマの形成はマイクロパイプ内面の成膜において有用であることがわかった。マイクロパイプ内面に成膜したDLC膜の硬さを調べた結果、HCDを用いた場合、グロー放電を用いた場合に比べて、わずかながら減少していることがわかった。これは、高い成膜率によるsp2主体の膜成長がなされたことが考えられ、膜のsp2生成を抑制できる化学種の添加やイオンアシストによるイオンエネルギーの増加による膜質の改善が必要であることがわかった。

プラズマ計算により、グロー放電時およびHCD時におけるイオン・ラジカルの入射フラックスを比較した。グロー放電と比較すると、HCDプラズマ中のイオン入射フラックスはマイクロパイプ深部において深さ方向に対して減少する傾向が観察されたものの、概ね同程度入射している。それに対し、開口端近傍のラジカルの入射フラックスは1013/m2オーダーであったのが1015/m2に迫る値にまで増加しており、グロー放電と比べてラジカルが成膜に寄与する度合いが大きくなることがわかった。

 (2)原料ガス制御によるDLC膜の高硬度化

マイクロパイプの側面に入射する炭素イオンのエネルギーの向上のため、原料ガスであるトルエンガスにメタンガスを混合して成膜を行った。メタン混合時のDLC膜の機械的性質を調べたところ、メタンを混合したことで機械的性質は向上する傾向を示し、混合比率90%での硬さは1.0 GPa程度と未混合時の約3倍増加することがわかった。ラマン分光分析により膜の分子構造を調べたところ、トルエンのみで成膜した場合ではDLC膜のピークがDピークとGピークの二つに分離しているが、メタンを混合する事で二つの鋭いピークは見られなくなった。そして混合比率が増加すると再び1600 cm-1付近にピークが現れるようになるが、メタン未添加膜で見られたピークとは異なるブロードな点が特徴となっており、メタン混合による膜のアモルファス化を示唆している。ラマンスペクトルより算出した各DLC膜のGピーク位置およびGピーク半値幅の分布を調べたところ、メタンを混合して成膜を行うことで、マイクロスリッド側面膜のGピーク位置は段階的に低波長側へシフトし、かつGピーク半値幅は60~80cm-1から110~140 cm-1と増加していた。これらの傾向は硬さ試験での結果と一致しており、炭素原子一個当たりにかかるエネルギーが増加したことで膜のグラファイト化が抑制され、膜のアモルファス化・硬質化を引き起こしたことがわかった。また、原料ガスのトルエンにテトラメチルシランを混合してSiを添加したところSi含有率の上昇に伴い、Gピーク半値幅及び機械的性質は増加傾向を示し、テトラメチルシランの混合比率が50%を超える場合においてはグロー放電成膜時の膜を上回る硬さを示した。また走査型電子顕微鏡による表面観察ではSi含有率に関わらず膜の緻密性が増大することがわかった。

平成29年度 大気環境下におけるグラフェン膜の超低摩擦発現に関する研究 補助事業

研究内容

(1) 非晶質硬質炭素膜の内部構造と摩擦特性との相関に関する研究

非晶質硬質炭素膜は、成膜手法、成膜パラメータ、原料ガスなどにより、様々な内部構造を有し、その内部構造は膜の摩擦特性と深い相関を示すことが予測される。本研究では、様々な内部構造を有する非晶質硬質炭素膜を成膜し、その内部構造の観点から膜の摩擦特性を調べた。ラマン分光分析から、非晶質炭素膜の内部構造をポリマーライク(PLC)、ダイヤモンドライク(DLC)、グラファイトライク(GLC)の三つの構造に分類し、摩擦特性を調べた結果、DLC構造を有する炭素膜がもっとも高い摩擦係数を示し,PLC,GLC 構造になるにつれ摩擦係数は減少することがわかった。また、膜の硬さと摩擦係数の関係を調べた結果、DLC⇔PLC、DLC⇔GLC 間に異なる二つの正の相関があり、膜の摩擦特性は摩擦界面に働くせん断力が主な支配因子であることを明らかにした。さらに、膜の構造の違いにより,摩擦時に摩擦界面に生成される主な化学種が異なり、摩擦係数に大きな影響を与えることが新たにわかった。最も硬度の高いDLC 構造の膜の場合、摩擦界面が最も酸化されており、摩擦係数が高い傾向を示した。同じ硬度を有するPLC構造とGLC構造の膜では,PLC 構造の膜がGLC 構造の膜よりも高い摩擦係数を示した。これはGLC 構造の膜の場合、摩擦界面において層状構造によるせん断強度の低下とC=C 結合の酸化が少ないことが原因であると考えられる。

(2) イオン注入法を用いた基板上へのグラフェンの直接合成

近年炭素のsp2結合により平面上に六角形に配列した炭素原子からなる二次元分子であるグラフェンがユニークな機械的・電気的特性を持つことから注目を集めている。これまでにいくつかのグラフェン合成手法が提案されており、その中で基板上に形成したNi薄膜に炭素イオンを注入しその後アニールして表面にグラフェンを析出させるプラズマイオン注入法は大面積・自由形状表面に適用可能という利点がある。本研究ではプラズマイオン注入法を用いて触媒金属であるニッケルの膜厚および炭素イオン注入の条件をパラメータとしてグラフェンを合成し、膜質を様々な観点から評価して、最終的にはグラフェンをシリコン基板に直接合成する条件を最適化することを目標とする。また、シリコン基板に直接合成したグラフェンの層数及び欠陥の制御を目指して研究を行った。その結果、ニッケルの膜厚および炭素イオンの注入パラメータを制御することによりニッケルの凝集構造を変化させ、グラフェンをシリコン基板の全面にわたって直接合成することに成功した。また、炭素イオン注入時間と合成されるグラフェンの層数の間には正の相関があること、ニッケルの膜厚が薄いは場合ニッケルが蒸発し、グラフェンが合成されないことが分かった。また、ニッケルの膜厚が厚い場合はニッケルの注入時間が延びるほどホール状凝集が起きやすくなり、グラフェンの合成が促進されるが、注入時間が短くホール状凝集が少ないとグラフェンが合成されないことがわかった。

(3) グラフェン膜のマクロスケール摩擦特性に関する研究

本研究では、大気環境下において、相手材を非晶質硬質炭素膜を成膜した鋼球とし、グラフェン膜の摩擦特性を調べた。グラフェン膜を鋼球と摩擦した場合、グラフェン膜が急速に摩滅し、潤滑性を示さないが、非晶質硬質炭素膜を成膜した鋼球とで摩擦した場合にはグラフェン膜は高い潤滑性を示すことがわかった。また、PLC構造の非晶質硬質炭素膜を成膜した鋼球で摩擦した場合、他の構造の膜(DLCとGLC構造)を成膜した鋼球を用いた場合に比べて、最も優れた摩擦特性を示すことがわかった。PLC構造の鋼球と摩擦した場合は、グラフェン膜の層構造がダメージを受けながらも維持されたのに対し、DLC, GLC構造の膜を成膜した鋼球で摩擦した場合は、グラフェン膜は分離したDピークとGピークを有する非晶質炭素膜へと変質することが原因であることを明らかにした。PLC構造の膜と摩擦した場合には、PLC膜が剥離し、剥離したPLC膜がグラフェン膜の摩耗痕中に点在しており,これが最も摩擦係数が低くなった要因である可能性が高いことがわかった。