2023年度 自転車競技者用のローラー練習台へのエネルギーハーベスティングデバイスの実装 補助事業
2021年度 自転車競技者用のローラー練習台を用いたエネルギーハーベスティング 補助事業
2019年度 ローラベアリングを用いた摩擦発電システムの開発とメガ発電への展開 補助事業
2023年度 自転車競技者用のローラー練習台へのエネルギーハーベスティングデバイスの実装 補助事業
「本研究は、競輪の補助を受けて実施しました」
■ 発電制御装置の開発と発電効率の評価
① 発電制御装置の開発:本研究で開発した発電システムは主に発電機,三相ブリッジダイオード,発電制御回路,バッテリーの4つから構成されている.発電機から出力された三相交流を三相ブリッジダイオードを用いて直流へと変換する.その後本研究で開発した発電制御回路により電圧をバッテリーの充電に最適な値(制御目標電流値になる)まで降圧する.この時電流センサを用いて出力電流を監視することで電流制御を可能としている.なお本発電制御回路は最大で140Vまでの入力に対応していることから,自転車を漕ぐ人のケイデンスは最低値の4.6倍まで対応している.また電流は最大10Aまで対応していることから,最大発電電力は約300Wとなっている.
本研究では前述の制御回路を実装した基板の開発を行った.このときこの制御回路が大電流を扱うことから大きな電磁ノイズを生じさせ,容易には安定動作する基板を開発することができなかった.ここで基板の開発にあたって重要となった点が主に3つある.まず,ホットループと呼ばれる入力コンデンサと上下MOSFETで構成される部分の最小化である.この部分は流れる電流がスイッチングによって大きく変化することから大きな電磁ノイズを発生させるとともに,この部分の配線距離が長いと寄生インダクタンスが増大して大きな電圧を生じる原因となる.この電圧がノイズとして働き動作不良を引き起こしてしまう.したがってこの部分の配線距離を最短に設計する必要がある.次にインダクタ着火の銅箔パターンである.本回路において最も大きな電磁ノイズを発生させているのがインダクタである.そこで本研究ではインダクタ直下の配線の有無や基板の銅箔層数を変化させて動作実験を行った.その結果,6層基板においてインダクタ直下にグランドベタパターンを配置した際に最も安定した動作を確認することができた.最後にパワー系のグランドと信号系のグランドを分離するという点が挙げられる.上記のようにパワー系のグランドにはノイズが大きく乗っていることから,ノイズに弱い信号系にそのノイズを載せないためにそれらのグランドを分離することが必要である.なおここでいう分離とは完全に絶縁するわけではなく,ベタパターンでつながずにビア等でつなぐということである.以上の点をふまえて本研究では制御回路の基板を開発した.
② 発電効率の測定:本研究では発電システムの効率をバッテリーに充電する電力を,自転車を漕いでいる人の出力で割ったものと定義する.ここで自転車を漕いでいる人の出力は自転車用クランク型パワーメータを用いて測定し,発電電力は発電システムに組み込んだ電流センサを用いて測定した.この時自転車を漕ぐ人のケイデンスと制御目標電流を変更してそれぞれの条件での発電効率を測定した.測定結果を図1に示す.この図から発電効率と発電量には正の相関があることがわかる.さらにこの図では確認しずらいことから発電量が20W~25Wの時のデータを切り出したものを図2に示す.この図より発電効率とケイデンスの間には負の相関があることがわかる.これはケイデンスを上げるほど機械部分(自転車,ローラー,発電機)における損失が増えることが原因であると考えられる.本研究では永久磁石同期発電機を用いて自転車練習用ローラー台に搭載する発電システムを開発し,システムの電圧変換効率は概ね90%台後半を記録した.本システムではバッテリー充電電圧を制御することにより発電電力を制御し,自転車を漕いでいる人にかかる負荷を制御することができる.また異なる発電量やケイデンスといった条件で発電効率を測定することにより,我々が先行研究で開発した車載用オルタネータを転用した発電システムと比較して6~16%程度の発電効率の改善が確認された.
図1 測定結果のまとめ
図2 発電効率とケイデンスの関係
■ 摩擦発電機のローラー台への実装とタイヤ内圧のモニタリング
① ペイント帯電材:ペイント塗料と樹脂粉末を混合することでペイント帯電材の開発を行った.樹脂粉末の含有量による摩擦発電機の出力電圧への影響を調べるために,粉末の混入量を変化させた3種類のペイント材を試作した.基板としてサンドペーパーを用いた.摩擦発電実験は独自開発した接触分離型摩擦発電試験機を用い,出力信号はオシロスコープを用いて記録した.図1に摩擦発電試験を行った結果を示す.樹脂粉末を混合することで,発電電圧は15V程度を示し,ペイント塗布無しの表面に比べ有意義な差が認められた.
②ペイント帯電材のローラー台の実装:ペイント帯電材をローラーに実装し(図1),タイヤとの発電特性を評価した.走行時の出力装置の安定性を高めるために,信号を取り出すための配線に用いたカーボンブラシはネジを用いて固定した.樹脂粉末の含有量に対する発電電圧の変化を調べた結果,粉末含有量の増加とともに発電電圧が大きくなっていることがわかった.自転車モニタリングの一例として,タイヤの内圧を変化させながら発電信号の変化を調べた.タイヤ圧はメーカー規定の80psiから20psiまで10psiずつ減らしながら発電電圧を測定した.その結果を図2に示す.結果で示すように,からタイヤの内圧と出力信号とでは正の相関が認められ,摩擦発電信号からタイヤの内圧がモニタリングできることを実証した.
図1 ペイント帯電材のローラーへの実装
図2 出力のタイヤ内圧依存性
2021年度 自転車競技者用のローラー練習台を用いたエネルギーハーベスティング 補助事業
■ 研究概要
本研究は、自転車競技者の屋内練習のために使用されるローラー練習台を用いた発電システムを構築することを目的とする。ローラー練習台は3本のローラーで構成されており、練習時に自転車のタイヤーとの接触により起きる3本のローラーの回転運動(マクロスケール電力)やタイヤーとローラーの接触摩擦(マイクロスケール電力)を電気エネルギーに変換することで発電を行う。発電は、「マクロスケール電力」と「マイクロスケール電力」の、二つの異なるスケールの電力の発電を同時に行う予定である。 マクロスケール電力の発電は、回転するローラーにベルトを介してオルタネータ等を連結させることで発電を行う。一般的に成人一人の発電能力は数百Wと言われてあり、練習時に100基のローラー台を同時に動かすことを考えると毎時数万Wの発電が見込まれる。自転車競技者の場合、一般成人に比べ数倍程の発電能力が期待できる。オルタネータをローラーに繋げることで、負荷をかけた練習をすることも可能である。マイクロスケール電力の発電は、回転するローラーと自転車のタイヤー間に摩擦発電機の機構(Triboelectric Nanogenerator, TENG)を設けることで発電を行う。摩擦帯電とは、異なる物質を接触・分離もしくは摩擦させることで、両物質にそれぞれ正と負の電荷を発生させ、その電位差による電子の流れを生じさせることで電気エネルギーを得る発電手法である。生活(歩きなど)や自然界(波、風など)で捨てられている機械エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能である。特殊な発電装置などを必要とせず、二つの異なる材料の相対運動のみにより発電が可能であるため、構造がシンプルで低コストである。摩擦発電から得られる交流電圧および交流電流の波形の大きさや形の変化を用いて、タイヤーの摩耗、空気圧、速度などの自転車の運転状況や走行状況のモニタリングができるセンサーとして応用することで自転車をIoT化することを目標とする。本研究でのマイクロスケールの発電は、数マイクロWから数W程度の電力を予想しており、得られたマイクロ電力を用いて、IoT化した自転車に装着するセンサーの駆動を行うことを目指して研究を行う。
■ 研究内容
(1)マクロスケール電力の発電に関する研究関する研究
近年の地球温暖化の進行によりエネルギー資源の脱炭素化を目標とすることが世界で増えてきている.その中でこれまで化石燃料を用いていた自動車等の機械の電動化も進んできている.そこで重要になるのが温室効果ガスを発生させない手段による発電,いわゆる再生可能エネルギーということになる.その中でも日本は原子力発電所の事故により原子力発電の発電全体に占める割合が減ったことも相まって,火力発電所等の化石燃料を消費する発電方法の占める割合が多い.さらに従来型の大規模発電所では送電時の環境負荷や,長距離送電による停電のリスクも高い.ここで注目されるのが電力の地産地消という考え方である.そこで本研究では自転車競技者用の練習に利用されるローラー台に着目した.数十台のローラー台から同時に発電が可能になれば電力の地産地消と再生可能エネルギーの両方を実現することができる.この時,小規模発電ではなるべくコストを抑えたいという観点から車載用オルタネーターを用いようという試みがある.そこで本研究ではオルタネーターとローラー台を用いた発電システムを構築することを目的とし研究を行った.研究では、まずオルタネーターとローラー台を用いたエネルギーハーベスティングシステムを構築した.この発電システムでは発電電力量を制御することによって,自転車競技者が練習の際に必要な負荷を調節することができる機能を付加することに成功した.発電システムを構築した後,異なる発電量やケイデンスにおける発電効率を測定した.その結果、発電量が大きくなればなるほど,発電効率も上昇すること、ケイデンスを上げれば上げるほど発電効率が上がることがわかった.さらに,発電損失を分析することにより本システムにおける損失の大部分は機械的損失によるものであるということを明らかにした.
(2)マイクロスケール電力の発電(摩擦発電)に関する研究
近年,さまざまな「もの」をインターネットに接続するIoT (Internet of Things) 技術が発展しており,ますますIoT社会の進展が見込まれているが,それに伴いセンサーが大量に必要とされる.しかし,これらの電源を全て従来型のバッテリーや送電網によってまかなうことはコスト面,環境面などの観点から困難である.その解決策として,ナノ発電機と呼ばれる発電システムが注目を集めている.中でも,摩擦発電機はシンプルな構造,低コストといった特徴から大きな注目を集めており,表面の摩擦や帯電状態によって出力が変化する性質からセンサーとしての応用も期待されている.また,IoT社会に必要な情報の一つとして,自転車走行状況のモニタリングがある.2020年以降,COVID-19の大流行により,自転車利用数が増加した.このような背景から,交通事故を低減するための自転車の安全性に関する懸念が浮上している.また,自転車の通過を検知し街灯のオンオフを切り替えることで省エネ化も可能である.自転車関連では,タイヤの回転を利用して発電するTENG が既に報告されている.本研究では,より簡単でIoT社会に向けた自転車のタイヤと道路との間で発電する摩擦発電センサーを考案した.このセンサーによって自転車の速度や車重を検出することができ,走行の安全性の向上へとつなげることができる.さらに,タイヤ内部にTENGを設置し走行中のタイヤの変形によって発電するセンサーを考案した.タイヤ内部にあるため,それぞれの自転車ごとにセンシングすることができ,例えばシェアバイクなどのメンテナンスに役立てることができる.今回我々が考案したものはタイヤ内部においても帯電材同士を直接接触させずにキープすることで,接触分離をより効率よく行うことができ,より大きな出力を得られると考えている.本研究の結果、ローラーに設置した摩擦発電機を用いてタイヤとの間で発電が可能であることが分かった.発電出力は、速度、タイヤ空気圧,荷重に対して増加傾向を示した.また,摩擦発電機のタイヤ周方向長さを変化させると,出力は増加するが,タイヤが地面と接触する長さは空気圧や荷重が一定であれば一定であるため,ある一定の長さで飽和することがわかった.さらに、摩擦発電機を用いて速度センサーが実現可能であることを実証した.速度センサーは,出力のピーク間隔を用いて速度を推定することが可能であった.
2019年度 ローラベアリングを用いた摩擦発電システムの開発とメガ発電への展開 補助事業
■ 研究概要
摩擦発電は、IoT、センサー、スマート/モバイル機器において自己発電(バッテリー不要)を可能にする。現在の摩擦発電システムは、2面間(帯電材間)が接触と分離を繰り返して発電を行う接触/分離型が主流であり、接触分離の周波数が小さいため発電量が少なく(ナノ発電)、将来のメガ発電(マイクログリッド)への展開は困難である。将来のメガ発電への応用のためには極めて高い発電効率を有するシステムが必要であり、そのためには、接触分離型ではなく、高速回転(滑り)かつ極めて低い摩擦係数を有する発電システムの開発が必須である。本研究では、高速回転が可能で、極めて低い摩擦係数を有することから、小さい機械刺激でも長時間の運動が可能である、ベアリングを用いて、発電効率を画期的に向上した摩擦発電システムをする開発することを目的とする。