研究紹介
スマートエネルギーマネジメント技術
我々の研究グループでは次世代エネルギーシステムの実現に向けた計算機科学的な諸問題に取り組んでいます。AI/IoTを始めとして情報科学の観点から新しいエネルギーマネジメント技術を開発するとともに、システム実装や実証実験も積極的に取り組んでいます。
マルチスケール・エネルギーマネジメント技術
近年の建物には太陽光パネルや蓄電池に加え、空調やスマート家電などのさまざまなエネルギー消費機器が設置されています。建物全体のエネルギー消費量を削減するためには、太陽光パネルの発電量を踏まえ、蓄電池やエネルギー消費機器の運用を最適化することが重要です。太陽光パネルの発電量は気象条件に合わせて高速に変動する一方、エネルギー消費機器のスケジューリングでは数時間から1日程度の長い期間のスケジューリングが求められます。このような問題は求解時間が非常に長くなることが知られています。そこで、時間スケールを複数に分けて求解するマルチスケール・エネルギーマネジメント技術を開発しました。これにより、解の品質を犠牲にすること無く計算量を大幅に削減することに成功しました。これにより、現実的なシナリオで電力コストを最大47.5%削減できることが示されました。
空調のエネルギーマネジメントとその実証
空調は建物の消費エネルギーの30%以上を占めており、居住者の熱的快適性を考慮しつつ消費エネルギーを削減する運用技術は重要な課題です。我々の研究グループでは、先行研究のマルチタイムスケール・エネルギーマネジメント技術を発展させ、消費電力ピークカットと消費エネルギー削減を両立させる空調のオンラインエネルギーマネジメント手法を開発しました。特に、空調機への実装を強く意識して予測モデルの軽量化や最適化アルゴリズムを開発しました。これらのシステムは大阪大学内の講義室や研究室に実装し実証実験も行っています。
深層強化学習を用いたダイナミックプライシング技術
ダイナミックプライシングとは、電力価格を状況に合わせて変化させることによって、消費者の行動変動を促す仕組みです。これにより、電力消費パターンを平滑化するなど、電力網にとって負担の少ない望ましいものへと変化させることが可能です。しかし、消費者の価格に対する反応はモデル化が難しく、どのような価格をつけることが適切かは不明です。そこで、本研究では深層強化学習を用いて適切な電力価格を学習するアルゴリズムの開発を行いました。蓄積した消費者の反応と電力網の状況に関するデータから、最適な電力価格の付け方を学習します。本研究では、特に太陽光発電の普及につれて世界的な問題となりつつある「ダックカーブ」に対してダイナミックプライシングを適用しました。現実的な条件下でダックカーブの指標である実質需要の標準偏差を57.1%改善できることが示されました。
電力需要や電力価格の時系列予測技術
電力価格や電力需要などの時系列データを正確に予測することは次世代エネルギーシステムの運用において重要な課題です。我々の研究グループでは深層学習モデルであるLong Short-Term Memory (LSTM) と周波数解析を用いた新しい電力価格予測モデルを開発しました。特に、予測モデルのパラメータを状況に応じて動的に切り替える手法を開発し、安定した予測精度を達成します。また、開発した予測モデルを組込みシステムに実装するためにモデルの軽量化にも取り組んでいます。
蓄電池モデリングとシステムレベル劣化抑制
エネルギーマネジメントにおいて蓄電池は重要なコンポーネントです。エネルギーマネジメントで用いられる比較的軽量な蓄電池モデルでは残量推定など特定の目的に特化したモデルしか提案されておらず、エネルギーマネジメントで重要となる残量と充放電の振る舞いの両方を評価できるモデルは提案されていませんでした。我々の研究グループでは、残量推定には動力学モデル、充放電の振る舞いには電気回路モデルを用い、それらを連携させたハイブリッド蓄電池モデルを開発しました。また、蓄電池の劣化に着目して、電力融通やアグリゲーションなどさまざまな用途に応じたシステムレベルでの劣化抑制に関しても広く研究しています。特に、今後重要となるアグリゲーション技術に応用することで需要家の蓄電池の長寿命化に貢献します。
Dafang Zhao, Ittetsu Taniguchi, Francky Catthoor, Takao Onoye, "Transient Response and Non-Linear Capacity Variation Aware Unified Equivalent Circuit Battery Model," Proc. of 8th World Conference on Photovoltaic Energy Conversion (WCPEC-8), 5DV.2.4, Milan, Italy, Sept. 29, 2022.