Research

「探査機を使わない惑星探査」時代の
実現を目指して

 地上大型望遠鏡を用いた分光観測技術の革新は,従来はもっぱら探査機によって行われてきた惑星環境の観測的研究の機会を,まさに爆発的に増やすことに成功した.

特に,日米欧が共同運用する超大型望遠鏡である「アルマ(下写真)」は,大気運動の直接観測や,微量分子・同位体比の観測・時空間変動の導出までも可能にし,それぞれ大気物理・大気化学研究におけるブレイクスルーをもたらしている.

アルマを始めとする地上大型望遠鏡の徹底的な利活用とそのための技術開発を通じ,「探査機を使わない惑星探査」時代を切り拓いていく.

研究テーマ/ Research interests

土星衛星タイタンにおける大気化学過程の解明

土星最大の衛星であるタイタンは,地表で1.5気圧に達する分厚い大気に覆われており,その中では地球以上に複雑な化学反応=大気化学が進行しています.

タイタンには地球大気には見られない複雑な分子ガスが多数見つかっています.特に,主成分である窒素と2番めに多いメタンを起点とした分子群はバリエーションに富んでおり,HC3N,CH3CN, C2H5CNなどが検出されてきています.さらに複雑な分子群も存在が予想されており,これらが重合して生命を形成していると考える研究者もいます.

この魅力的なタイタン・ワールドの理解には,タイタン大気の組成と化学反応過程を観測的に明らかにすることが不可欠です.そこで,我々はチリの高地に設置されたアルマ望遠鏡を用い,その超巨大なアーカイブデータを解析し,タイタンの組成と化学反応過程を一気に明らかにしようと試みています.アルマはこれまでにない高い分解能と感度を併せ持っており,さらに巨大なアーカイブデータを活用することで,これまで誰も見たことがなかった新たな分子種の発見や,ダイナミックな大気組成の変動を検出しつつあります.

これまでの私の研究では,CH3CN分子中の窒素同位体比を世界で初めて精密に導出し,他の微量窒素化合物であるHCNやHC3Nと異なり,窒素分子に近い値であることを示しました.これは,CH3CN分子がHCN分子を経ないで生成されていること,その起点である窒素分子の解離は銀河宇宙線によって引き起こされていることを示しています.

また,HC3N分子の13C同位体比の星間空間との数値の比較からは,同じ微量分子が存在していても,その生成に関わる化学過程が異なっていることを示しました.

木星・海王星の大気化学・物理の解明

木星と海王星大気の大きな特徴は,その組成が過去の大規模な彗星衝突によって左右されていることにあります.両惑星はその大きさから頻繁に彗星の衝突が発生していると考えられており,彗星が持ち込んだガスと惑星大気の爆発的な化学反応,そしてその後の大気化学過程が,両惑星の大気ーとくに成層圏のー組成をコントロールしています.

我々は国立天文台のアステ望遠鏡などを用いた観測により,両惑星の成層圏大気の組成の正確な測定を行ってきました.これにより,衝突によって生成される主要な硫化物である一硫化炭素(CS)分子は海王星においてごくわずかしか存在しないこと木星においては過去の生成時から急速に減少していること,を明らかにしました.

そして最近のアルマ望遠鏡を用いた観測では,海王星成層圏の気温構造の直接導出に成功し,そしてシアン化水素分子が赤道に帯状に分布していることを世界で初めて明らかにしました.

彗星の同位体・化学組成から迫る

太陽系の始原環境

太陽系の外側からやって来る彗星の核には,太陽系が形成された46億年前の物質がそのまま保存されています.彗星が太陽に近づくと,これらの物質がガスとして放出され,地上からの観測が可能になります.我々は,国立天文台野辺山の45m電波望遠鏡などを用いて,彗星に含まれるガスの観測に取り組んでいます.

彗星が持っている化学組成と同位体比は,太陽系がどこから来たのか,形成時にはどのような環境だったのか,を教えてくれます.高感度の大型電波望遠鏡を用いることで,地上にいながらにして,46億年のタイムカプセルをのぞくことが可能になるのです.

今後は,さらにチリの高地に設置されたアステ望遠鏡,アルマ干渉計などを用いることで,より高感度・他頻度のの観測を目指していきます.

計算機・ストレージ群

ALMAアーカイブの膨大な太陽系内天体観測データ処理のために,下記の計算機・ストレージ群を保有しています.


CPU: AMD EPYC 7552, 48コア96スレッドx2基 (TB時3.3 GHz駆動)

RAM: DDR4 ECC-Registered 2666 MHz,  32GB x 16 = 512 GB

System Disk: 2 TB NVMe SSD

ストレージインタフェース:Adaptec ASR-8885Q SAS RAIDカード

10 Gb Ethernet


CPU: Scalable Xeon 4110, 8コア16スレッドx2基 (TB時3.1 GHz駆動)

RAM: DDR4 ECC-Registered 2666 MHz, 16 GB x 12 = 192 GB

System Disk: 1 TB NVMe SSD

10 Gb Ethernet


16 TB ニアラインHDD x 24台, RAID 5+0 (ハードウェア)

実効容量:344 TB

シーケンシャルリード: 2.0 GB/s

ケース:AIC J4024-01, mini-SAS 8644接続, SAS Expander搭載


10 TB ニアラインHDD x 24台, RAID 5+0 (ハードウェア)

実効容量:213 TB

シーケンシャルリード: 2.0 GB/s

ケース:AIC J4024-01, mini-SAS 8644接続, SAS Expander搭載


8 TB NAS用HDD x 7台,RAID0(ハードウェア)

実効容量:54 TB

ケース:areca ARC-4038, mini-SAS 8644接続, SAS Expander搭載


CPU: Xeon X5690 6コア12スレッドx2基 3.47 GHz駆動

RAM: DDR3 ECC-Registered 1333 MHz, 16 GB x 4 + 4 GB x 8 = 96 GB

System/ Data disk: 200 GB SATA SSD 

10 Gb Ethernet


CPU: Ryzen 1500X  12コア24スレッド

RAM: DDR4 2666 MHz, 16 GB x 2

System/ Data disk: 1 TB NVMe SSD


新たなコミュニケーション手法を用いた科学教育の実践的研究

さまざまなバックグラウンドを持つ市民の方に対し,さまざまなアプローチの科学コミュニケーションの実践と評価を繰り返しています.これにより,科学への興味・関心や,興味のある分野などの異なる,さまざまなバックグラウンドを持つ市民の方に対し,効果的な手法を探っていきます.


2018年度より,合同会社AMANEさんとの共同研究により,Rasberry piなどの安価なIoT機器を用いた博物館展示の構想と評価を開始しました.