裏切り宣言が協力を引き出す?(Golden Ballsのゲーム理論的分析)

イギリスでかつてGolden Ballsというバラエティ番組があったそうです.

その中で「Split or Steal?」というゲームがあり,2人の参加者が数百万円とかそれくらいのお金を奪い合います.


ゲームの概要はこうです.

    1. 以下のルールがゲームマスターから説明されます.

    2. 参加者はお金をSplit(ここでは「山分け」と訳しましょう)するかSteal(ここでは「独り占め」と訳しましょう)するか選びます.

    3. 2人ともSplit(山分け)を選んだ場合,2人の参加者はお金を半分ずつもらえます.

    4. 1人がSteal(独り占め)を選び,もう1人がSplit(山分け)を選んだ場合,お金はSteal(独り占め)を選んだ人が独り占めします.Split(山分け)を選んだ人は1円ももらえません.

    5. 2人ともSteal(独り占め)を選んだ場合,どちらも1円ももらえません.

    6. 2人はお互いにどちらを選ぶか,相手にどちらを選んで欲しいかなど30秒間交渉することができます(ここがポイントです).

    7. 2人はお互いの選択を「せーの」で発表します.


さて,参加者はどうするべきでしょうか?

例えば,交渉が始まったら,真っ先に「僕はSplit(山分け)を選ぶ.だから君もSplit(山分け)を選んで.僕のことを信じて!」と言う戦略が考えられます.

これ,一見,うまくいきそうです.相手が自分の言ったことを信じてSplit(山分け)を選んでくれたら,もうけものです.

あなたはSplit(山分け)を選ぼうが,Steal(独り占め)を選ぼうがどちらにしろお金を獲得することができます.

しかし,この状態ではSteal(独り占め)を選ぶ方がSplit(山分け)よりも,あなたにとって,より良い選択です.なぜならお金を倍もらうことができますから.


しかし,この戦略は欠陥があります.

まず相手が自分を信じてSplitを選んでくれる,というのが前提なのです.

目の前にいるのはお互い見ず知らずの赤の他人です.相手はそういうあなたをそうやすやすと信じてくれるでしょうか?

さらに,この戦略にはもう1つ重要な欠陥があります.

あなたは「Splitする」と相手に宣言しているわけですから,相手の人は,その場合,よりお金がもらえるStealを選ぶかもしれません.

このようにこの戦略では,相手にとって「Stealを選んだ方がよいかな」という誘惑が常に働いてしまいます.

ここで,このゲームに参加したNickは次の驚くべき戦略を使いました.

私が名付けてみると「裏切りを宣言して,相手に強制的に協力させる」戦略です.

以下の動画をご覧ください.

Nickとその対戦相手のIbrahimのゲームは次のようになりました.

    1. 交渉が始まった途端,NickはIbrahimに「俺を信じろ.俺は100%,Stealを選ぶ.」

    2. それを聞いたIbrahimは「???(何言ってんだこいつ,ぼかん状態)」です.

    3. 次にNickはIbrahimに「Splitを選んで欲しい」と言います.それで,「ゲームが終わった後で,あなたと賞金を山分けする」と言います.


ここで,ポイントはこの時,Ibrahimの選択肢が「Splitの一手」になることです.

なぜなら,NickはStealを選ぶと言っていますから,自分もStealを選んでしまうと1円ももらえなくなってしまうわけです.

だから,IbrahimはSplitを選ばざるを得ません.

IbrahimはSplitを選べば,NickがもしかしたらSplitを選んでくれて賞金を半分もらえるか,あるいはNickがStealを選んだとしてもゲームが終わった後で半分もらえるかもしれないわけです.

逆に,何回も言いますが,IbrahimはStealを選んでしまうとお金がもらえるチャンスはゼロです.

よってNickは「裏切りを宣言して相手の協力を強制的に引き出す」戦略を使った(自分が確実にお金がもらえるようにした)わけです.天才,Nick!

で,Nickとしては相手がSplit一手な以上,自分としてはStealを選ぶ方が良い(独り占めするか,本当にゲームが終わった後に山分けするかはNickの勝手です)のですが,結局,そうではなくNickはSplitを選択しました.最後にNickの「人間らしさ」が出たのでしょうか.

いずれにしろ面白いですね.