1 代表的な酸と塩基(この表の酸・塩基は覚えておきましょう!)
2 アレニウスの酸・塩基の定義(1884年発表)
◆酸とは、水に溶けると水素イオンH+(オキソニウムイオンH3O+)を生じる物質(アレニウス酸)
※水素イオンH+は水分子H2Oと結合しやすく、水溶液中ではオキソニウムイオンH3O+となっている。
①自らがHを持ち、自らの電離(陽イオンと陰イオンに分かれること)によってH+を放出する酸
★ このタイプの酸の分子式は、 1価の酸はHA, 2価の酸はH2A, 3価の酸はH3A という型の式になる。
※ 1価、2価、3価のことを価数といい、酸の価数は酸の分子1個が完全電離したときに生じる水素イオンの数を表し、
それが1個の場合を1価、2個の場合を2価、3個の場合を3価という。(下記の電離式を参照)
例) 1価の酸: HCl(塩化水素) HNO3(硝酸) CH3COOH(酢酸) (HC2H3O2 と表せる ※Cの右隣の3個のHは電離しないのでH+にならない)
2価の酸: H2SO4(硫酸) (COOH)2(シュウ酸) (H2C2O4 と表せる)
3価の酸: H3PO4(リン酸)
★ このタイプの酸が水に溶けて、完全電離する場合の化学反応式(電離式)は以下のような型になる。
1価の酸: HA → H+ + A- (オキソニウムイオンを考慮した場合は HA + H2O → H3O+ + A-)
2価の酸: H2A → 2H+ + A2- (オキソニウムイオンを考慮した場合は H2A + 2H2O → 2H3O+ + A2-)
3価の酸: H3A → 3H+ + A3- (オキソニウムイオンを考慮した場合は H3A + 3H2O → 3H3O+ + A3-)
※Aの部分は酸の種類によって変わるので、上記の酸の分子式からAに当てはまる部分が何か考えてください。
※オキソニウムイオンの考慮は高校レベルではほとんど必要がない(考慮するのはオキソニウムイオンの問題が出たときのみ)。
②自らはHを持たず、水と反応することによってH+を放出する酸
★ このタイプの酸に該当するのは一部の酸性酸化物(非金属元素の酸化物)である。
(このタイプの酸には、分子式に共通の型はないので、分子式を個々に覚えておくしかない)
例) 2価の酸: CO2(二酸化炭素) SO2(二酸化硫黄) SO3(三酸化硫黄)
3価の酸: P4O10(十酸化四リン)
★ このタイプの酸が水に溶けて、水分子と反応することで、完全電離する場合の化学反応式(電離式)の型は、
酸 + 水 → 水素イオン + (酸+水の酸素)の陰イオン となっている。
2価の酸: CO2 + H2O → 2H+ + CO32-
(オキソニウムイオンを考慮した場合は CO2 + 3H2O → 2H3O+ + CO32-)
2価の酸: SO3 + H2O → 2H+ + SO42-
(オキソニウムイオンを考慮した場合は SO3 + 3H2O → 2H3O+ + SO42-)
3価の酸: P4O10 + 6H2O → 12H+ + 4PO43-
(オキソニウムイオンを考慮した場合は P4O10 + 18H2O → 12H3O+ + 4PO43-)
◆塩基とは水に溶けると水酸化物イオンOH-を生じる物質(アレニウス塩基)
①自らがOHを持ち、自らの電離(陽イオンと陰イオンに分かれること)によってOH-を放出する塩基
★ このタイプの塩基の組成式は、 1価の塩基はBOH, 2価の塩基はB(OH)2, 3価の塩基はB(OH)3
という型の式になる。(B:金属元素)
※ 1価、2価、3価のことを価数といい、塩基の価数は塩基の結晶構成単位1個が完全電離したときに生じる水酸化物イオンの数を表し、
それが1個の場合を1価、2個の場合を2価、3個の場合を3価という。(下記の電離式を参照)
例) 1価の塩基: LiOH(水酸化リチウム) NaOH(水酸化ナトリウム) KOH(水酸化カリウム)
2価の塩基: Mg(OH)2(水酸化マグネシウム) Ca(OH)2(水酸化カルシウム) Ba(OH)2(水酸化バリウム)
Cu(OH)2(水酸化銅(Ⅱ)) Zn(OH)2(水酸化亜鉛) Fe(OH)2(水酸化鉄(Ⅱ))
3価の塩基: Al(OH)3(水酸化アルミニウム) Fe(OH)3(水酸化鉄(Ⅲ))
★ このタイプの塩基が水に溶けて、完全電離する場合の化学反応式(電離式)は以下のような型になる。
1価の塩基: BOH → B+ + OH-
2価の塩基: B(OH)2 → B2+ + 2OH-
3価の塩基: B(OH)3 → B3+ + 3OH-
※Bの部分は塩基の種類によって変わるので、上記の塩基の組成式からBに当てはまる部分が何か考えてください。
②自らはOHを持たず、水と反応することによってOH-を放出する塩基
★ このタイプの塩基に該当するのはアンモニア、アニリン、一部の塩基性酸化物(金属元素の酸化物)である。
例) 1価の塩基: NH3(アンモニア) C6H5NH2(アニリン) Li2O(酸化リチウム) Na2O(酸化ナトリウム) K2O(酸化カリウム)
2価の塩基: CaO(酸化カルシウム) BaO(酸化バリウム)
★ このタイプの塩基が水に溶けて、水分子と反応することで、完全に電離する場合の化学反応式(電離式)の型は、
アンモニア&アニリン: 塩基 + 水 → (塩基+水の水素)の陽イオン + 水酸化物イオン となっている。
塩基性酸化物: 塩基 + 水 → 金属イオン + 水酸化物イオン となっている。
1価の塩基: NH3 + H2O → NH4+ + OH-
1価の塩基: C6H5NH2 + H2O → C6H5NH3+ + OH-
1価の塩基: Na2O + H2O → 2Na+ + 2OH-(酸化ナトリウムは水と反応して水酸化ナトリウムになるので1価の塩基になる)
2価の塩基: CaO + H2O → Ca2+ + 2OH-(酸化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウムになるので2価の塩基になる)
3 酸・塩基の電離度と強度
◆酸・塩基の電離度
★酸・塩基を水に溶解させた時に電離する割合を酸・塩基の電離度という
★ 電離度は 0 ≦ α ≦ 1 の範囲で表す。
★ 電離度が大きい酸・塩基ほど、その水溶液中の水素イオン濃度や水酸化物イオン濃度が大きく、酸性・塩基性が強い
◆酸・塩基の強度
★電離度が1に近い酸・塩基を強酸・強塩基、電離度が小さい酸・塩基を弱酸・弱塩基という
★ 電離度が1に近い酸・塩基を強酸・強塩基、電離度が1より小さい酸・塩基を弱酸・弱塩基という。
(ただし、強酸(強塩基)と弱酸(弱塩基)の境界はあいまいではっきりしない。)
◆1価の強酸の例: 硝酸(電離度α≒1) HNO3 → H+ + NO3-
※硝酸は液体物質であり、硝酸分子HNO3が集合したものである。硝酸0.1mol(質量では6.3g)とは硝酸分子が6.0×1022個集合したものである。
◆2価の強酸の例: 硫酸(電離度α≒1) H2SO4 → 2H+ + SO42-
※硫酸は液体物質であり、硫酸分子H2SO4が集合したものである。硫酸0.1mol(質量では9.8g)とは硫酸分子が6.0×1022個集合したものである。
★★硫酸の電離度が1とは、硫酸分子H2SO4を0.1mol(6.0×1022個)を水に溶かした場合、それがすべて 水素イオンH+ と
硫酸イオンSO42- に分解するということ。
★★硝酸の電離度が1とは、硝酸分子HNO3を0.1mol(6.0×1022個)を水に溶かした場合、それがすべて 水素イオンH+ と 硝酸イオンNO3- に分解するということ
(すなわち、硝酸分子HNO3を0.1molを水に溶かした水溶液中には、硝酸分子HNO3は無く、水素イオンH+0.1molと硝酸イオンNO3-0.1molが存在するということ)
(すなわち、硫酸分子H2SO40.1molを水に溶かした水溶液中には、硫酸分子H2SO4は無く、水素イオンH+0.2molと硝酸イオンSO42-0.1molが存在するということ)
※実際の硫酸の電離は次のように2段階電離する。第1段階の電離度はほぼ1であるが、第2段階の電離度は1よりかなり小さい
(高等学校では問題を複雑にしないために、硫酸分子H2SO4はすべて 水素イオンH+ と 硫酸イオンSO42- に分解するとみなすことが多い)
第1段階の電離: H2SO4 → H+ + HSO4- (α≒1)
第2段階の電離: HSO4- H+ + SO42- (α<<1)
※電離度が1より小さい場合は正反応(右向き反応)と逆反応(左向き反応)が同時進行するのでを用いる
※2価、3価の酸・塩基は2段階電離、3段階電離する。2段階電離、3段階電離をまとめて「多段階電離」という
※一般に、 電離の段階が進むにつれて電離度は低下し、
第1段階の電離度 >> 第2段階の電離度 >> 第3段階の電離度 となる。
理由は、陽イオンや陰イオンによる同符号の電荷の反発により、更なる電離が妨害されるためである。
(例えば、硫酸の電離では第1段階で水素イオンが多量に生じており、第2段階の電離で水素イオンが生じるのを
+電荷の反発により妨害する。)
※高校レベルでは多段階電離の考慮はほとんど必要ない(多段階電離自体を問う問題が出たときのみ必要)
(すなわち、実際の硫酸の水溶液中には 水素イオンH+ と 硫酸水素イオンHSO4- が多く、硫酸イオンSO42-はわずかである。)
◆1価の弱酸の例: 酢酸(電離度α≒0.016) CH3COOH CH3COO- + H+
※酢酸は液体物質であり、酢酸分子CH3COOHが集合したものである。酢酸0.1mol(質量では6g)とは酢酸分子が6.0×1022個集合したものである。
★★酢酸の電離度が0.016とは、酢酸分子CH3COOHを0.1mol(6.0×1022個)を水に溶かした場合、0.1×0.016=0.0016mol(9.6×1019個)の酢酸分子が電離し、
0.0016molの酢酸イオンCH3COO- と 0.0016molの水素イオンH+ に分解するということ
※上の酢酸の電離式の係数は電離する酢酸分子とその結果生じる酢酸イオンと水素イオンの物質量の比が1:1:1であることを示す。
(すなわち、酢酸分子CH3COOH0.1molを水に溶かした水溶液中には、0.1-0.0016=0.0984molの未電離の酢酸分子CH3COOHと、
0.0016molの酢酸イオンCH3COO- と 0.0016molの水素イオンH+ が存在するということ。)
◆1価の強塩基の例: 水酸化ナトリウム(電離度α≒1) NaOH → Na+ + OH-
※水酸化ナトリウムNaOHはイオン結晶であり、多数のナトリウムイオンNa+と水酸化物イオンOH-が1:1の割合で結合してできたものである。
水酸化ナトリウム0.1mol(質量では4.0g)は、ナトリウムイオン0.1mol(6.0×1022個)と水酸化物イオン0.1mol(6.0×1022個)が結合したものである。
★★水酸化ナトリウムの電離度が1とは、水酸化ナトリウムの結晶NaOHを0.1mol(4.0g)を水に溶かした場合、それがすべて ナトリウムイオンNa+ と
水酸化物イオンOH- に分解するということ
(すなわち、水酸化ナトリウムの結晶NaOHを0.1molを水に溶かした水溶液中には、ナトリウムイオンNa+0.1molと水酸化物イオンOH-0.1molが存在するということ)
◆2価の強塩基の例: 水酸化カルシウム(電離度α≒1) Ca(OH)2 → Ca2+ + 2OH-
※水酸化カルシウムCa(OH)2はイオン結晶であり、多数のカルシウムイオンCa2+と水酸化物イオンOH-が1:2の割合で結合してできたものである。
水酸化カルシウム0.1mol(質量では7.4g)は、カルシウムイオン0.1mol(6.0×1022個)と水酸化物イオン0.2mol(1.2×1023個)が結合したものである。
★★水酸化カルシウムの電離度が1とは、水酸化カルシウムの結晶Ca(OH)2を0.1mol(7.4g)を水に溶かした場合、それがすべて
カルシウムイオンCa2+ と 水酸化物イオンOH- に分解するということ。
(すなわち、水酸化カルシウムの結晶Ca(OH)20.1molを水に溶かした水溶液中には、カルシウムイオンCa2+0.1molと水酸化物イオンOH-0.2molが存在するということ)
※実際の水酸化カルシウムの電離は次のように2段階電離する。
(高等学校では問題を複雑にしないために、水酸化カルシウムは カルシウムイオンCa2+ と 水酸化物イオンOH- に完全に分解するとみなすことが多い)
第1段階の電離: Ca(OH)2 → CaOH+ + OH- (α≒1)
第2段階の電離: CaOH+ Ca2+ + OH- (α<<1)
◆1価の弱塩基の例: アンモニア(電離度α≒0.013) NH3 + H2O NH4+ + OH-
※アンモニアは気体物質であり、アンモニア分子NH3が集合したものである。アンモニア0.1mol(質量では1.7g,標準状態の体積では2.24L)とは、
アンモニア分子が6.0×1022個集合したものである。
★★アンモニアの電離度が0.013とは、アンモニア分子NH3を0.1mol(6.0×1022個)を水に溶かした場合、0.1×0.013=0.0013mol(7.8×1019個)のアンモニア分子が
水と反応し、 0.0013mol(7.8×1019個)のアンモニウムイオンNH4+ と 0.0013mol(7.8×1019個)の水酸化物イオンOH- に電離するということ
※上のアンモニアの電離式の係数は水と反応するアンモニア分子とその結果生じるアンモニウムイオンと水酸化物イオンの物質量の比が1:1:1であることを示す。
(すなわち、アンモニア分子NH30.1molを水に溶かした水溶液中には、0.1-0.0013=0.0987molの未電離のアンモニア分子NH3と、
0.0013molのアンモニウムイオンNH4+ と 0.0013molの水酸化物イオンOH- が存在するということ。)