CER

キャピラリー電気泳動反応器(CER)の開発と金属錯体・分子コンプレックス解離反応速度論への展開

キャピラリー電気泳動反応器(CER)の開発

キャピラリー電気泳動(CE)は内径100μm以下の溶融シリカ細管(キャピラリー)内に緩衝溶液を満たし,数十kVの直流電圧を印加して行う電気泳動分離である.我々はCE分離場を金属錯体や生体分子コンプレックスなど複数の構成要素からなる複合体のクリーンな解離反応場として捉え,その解離反応速度定数kd解析のための反応器 - CERとして応用することを着想した.kdはMRIやPET, SPECTなど核診断薬の速度論的安定性,イムノコンプレックスの安定性の指標で,これらの成否を決定する重要な因子であるにもかかわらず,従来kdの直接計測法はなかった.それに対しCERは均一溶液中で直接kd計測を可能とする.例えば3座アゾ色素のAlIIIおよびGaIII錯体について初めて加溶媒分解反応速度を決定した[].

マイクロチップキャピラリー電気泳動反応器(μCER)への展開

CERで解析できる解離反応のタイムスケールはCE分離時間に対応して分(min)単位である.より高速の解離反応を追跡するため,マイクロチャネルを分離場とするマイクロチップキャピラリー電気泳動反応器(μCER)を開発した.マイクロチップCE分離過程における金属錯体の解離反応挙動を全流路で連続的にモニタリングすることで,数秒~数十秒のタイムスケールで進行する金属錯体の解離反応の解離反応速度定数の直接測定が可能となった. μCERをいくつかのCeIII-ポリアミノカルボン酸錯体の解離反応速度論解析に適用し,それらのkdを得ることに成功した[].

配位子置換モードCERの開発

一方,解離反応の非常に遅い錯体であってもkdは重要なパラメタであり,定量化が必要である.速度論的安定性の高い錯体や複合体の解析法が必要である.そこで流路内への配位子置換反応の導入により見かけの解離反応速度を加速し,kdを解析する手法(LS-CER)を開発した.速度論的安定性の高い錯体,具体的にはTiIV-tiron錯体の超低速解離反応速度(kd = 2.5×10-5; 半減期 7.6 h)の解析に成功した[].

生体分子コンプレックスの速度論的解析への展開

生体物質で構成される分子錯体(生体分子コンプレックス)の解離反応速度定数kdの直接測定した.すなわち,single strand DNA binding protein-single strand DNA複合体のkdの直接測定に成功した[].我々の開発した手法は,均一溶液中における生体分子コンプレックスのkdの直接測定を可能にする唯一の手法であり,生化学・分子生物学分野への応用が期待される.

以上の成果は現・福井大学講師・高橋透先生との共同研究による.