無数の金属イオンと分子を化学結合により集合させることにより、様々な結晶構造を作ることが知られています。我々はそれら結晶が示す相転移を理解し制御することで、機能性物質の合成を行っています。例えば結晶を加熱すると融液となり、冷却によりガラスになります。これら不規則な相では、金属イオンと分子の配列は全体としてはランダムですが、一定の周期性は存在します。このランダムな相に内在する構造秩序や分子運動を制御することで、ユニークな物性や機能を得ることができます。
ガラスは透明で成型加工性に富み、さらに導電性や発光など物性を示す有用な非晶質材料です。ガラスは大きく分けて酸化物(セラミックス)、有機高分子、そして金属の三種類が知られてきました。私たちはそれらに加わる新しいガラスとして、金属と分子から組みあがるハイブリッドガラスを開拓しています。分子設計から cm 以上のサイズにいたるマクロ形態制御を通して、例えば燃料電池や触媒に不可欠であるプロトン伝導体、センサー素子となる半導体、また精密なガス分離を実現する多孔性ガラス膜の開発を行っています。
増加を続ける地球上の二酸化炭素:CO2は、温暖化や海洋酸性化など環境問題の原因です。一方でCO2は地球上に普遍的に豊富に存在する資源でもあります。我々は錯体化学や分子性構造体の化学に基づき、反応性に乏しいCO2を有用な物質や材料に変換する研究を行っています。
アミンなどの有機分子と金属イオンをともにCO2を反応させることで、CO2を骨格に持つ金属-有機構造体(MOF)や共有結合性構造体(COF)を作ることができます。これら分子性構造体の構築と分解をサイクルとすることで、空気中や排ガス中の微量のCO2を濃縮・高純度化したり、変換する技術を開発しています。また触媒として働く金属-分子ハイブリッドガラスを用い、CO2を化成品原料である一酸化炭素やギ酸に変換する技術を開発しています。高分子やセラミックスでは難しい温度領域で作動するCO2還元触媒となることで、高い反応効率や生成物選択性が得られます。
ゾル-ゲル法などの液相法により作製される、有機-無機ハイブリッド物質を作っています。例えばメチル基やビニル基などの有機置換基をもつトリアルコキシシランを前駆体として用いると、無機部位と有機部位が分子レベルにおいて複合化した有機-無機ハイブリッド物質が得られ、有機官能基による機能発現や、無機物質特有の脆さの改善などが可能となります。
我々は、このような前駆体から透明な低密度多孔体であるエアロゲルを作製する手法を開発し、機械的な柔軟性や極めて低い熱伝導率を示す材料設計、および柔軟多孔体としての構造評価・応用研究を進めています。例えば、効率の良い断熱材を簡単に作ることができるようになれば、化石燃料への依存度を減らし地球規模の環境・エネルギー問題解決に貢献することができます。