研究室紹介

Laboratory Introduction

京都大学 防災研究所 地盤災害研究部門 地盤防災解析研究分野

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当研究室は京都大学大学院 工学研究科 社会基盤工学専攻の協力講座です。

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2023年度新4回生研究室訪問可能日は以下の通りです。

(指定日以外も可能な範囲で対応します。)

① 2023年2月1日(水) 15:00~17:00

② 2023年2月2日(木) 10:00~15:00

③ 2023年2月3日(金) 14:00~17:00

④ 2023年2月8日(水) 10:00~12:00

⑤ 2023年2月9日(木) 10:00~15:00

⑥ 2023年2月10日(金) 10:00~12:00

 2023年2月20日(月) 10:00~12:00

 2023年2月24日(金) 10:00~12:00, 14:00~17:00

研究室訪問希望の方は、専用の予約フォームより申し込んでください。

もしくは、以下の連絡先までご連絡ください。

連絡先: 上田恭平(TEL: 0774-38-4092, E-mail: ueda.kyohei.2v@kyoto-u.ac.jp)

研究室の変遷

1.地すべり研究部門(1959年9月1日~1962年3月31日)

2.地盤災害研究部門(1962年4月1日~1996年5月10日)

 1951年に京都大学防災研究所が附置された後、地盤災害を扱う部門として1959年に地すべり研究部門が、1962年に地盤災害研究部門が設置されました。地すべり研究部門は村山朔郎教授(京都大学名誉教授)、赤井浩一助教授(京都大学名誉教授)、後の地盤災害研究部門は村山朔郎教授、柴田徹助教授(京都大学名誉教授)の体制でスタートしています。その後の助教授は八木則男先生(愛媛大学名誉教授)、松岡元先生(名古屋工業大学名誉教授)が務められています。村山朔郎先生は、土粒子のミクロ挙動から土の構成式の確立をめざした研究成果の集大成として「土の力学挙動の理論」(技報堂出版)を1990年にまとめられており、ミクロの視点からマクロの構成式を導く姿勢は現在も多くの研究者に引き継がれています。

 村山朔郎教授の停年退官後、1975年11月に教授として、耐震基礎研究部門の教授を務めておられてた柴田徹先生が着任されました。助教授は足立紀尚先生(京都大学名誉教授)、関口秀雄先生(京都大学名誉教授)が、助手は清水正喜先生(鳥取大学名誉教授)、八嶋厚先生(岐阜大学教授)、三村衛先生(京都大学教授)らが務められています。柴田徹先生は、粘土のダイレイタンシー特性(京都大学防災研究所年報、1963)を調べ、カムクレイモデルと本質的に同一である状態境界面をほぼ同時期に独立に明らかにしています(土と基礎、1993)。これが世に広まっていれば、今頃はカモクレイモデルと呼ばれていたかもしれません。また、1989年には振動台を備えた遠心力載荷装置を導入され、地盤の動的問題にも取り組まれました。

 柴田徹教授の工学部への異動に伴って、1991年4月に工学部より嘉門雅史教授(京都大学名誉教授)が着任されました。助教授は関口秀雄先生、三村衛先生が、助手は勝見武先生(京都大学教授)、乾徹先生(大阪大学教授)が務められています。嘉門雅史先生は環境地盤工学の先駆者として基礎を築かれ、現在では地盤工学の主要分野として発展しています。

3.地盤防災解析研究分野(1996年5月11日~現在)

 嘉門雅史教授の地球環境学堂への異動に伴って、2002年5月に港湾技術研究所より井合進教授が着任し、三村衛助教授、飛田哲男助手の体制でスタートしました。その後、ジオフロントシステム工学分野に三村衛教授が、関西大学に飛田哲男准教授が異動となりました。2015年4月に鉄道総合研究所から上田恭平助教が着任されました。井合進先生は、動的模型実験の相似則、土の構成モデル、地盤の動的連成解析など研究や実務で広く応用される成果をあげておられます。また、2010年には遠心力載荷装置を更新し、国内の共同利用や国際共同研究を展開され、地盤地震工学の研究拠点を形成されました。

 井合進教授の定年退職に伴って、2017年4月に徳島大学より渦岡良介教授が着任されました。現在は渦岡良介教授、上田恭平准教授の体制となっています。

 これまでに当研究室は、日本のみならず世界の地盤工学をリードする人材を輩出してきました。今後もその伝統と実績を踏まえ、新たな研究領域を開拓しつつあります。

進路・就職先

(順不同)国土交通省、五洋建設、大林組、清水建設、東鉄工業、日揮、シュルンベルジェ、NIPPO、NEXCO東日本、NEXCO中日本、NEXCO西日本、阪神高速、大阪ガス、関西電力、滋賀県、トヨタ自動車、パナソニック、京セラ、国際石油開発帝石、三菱商事、リクルート三洋ヒューマンネットワーク、ミクシィ、三菱東京UFJ銀行、農林中金、建設技術研究所、港湾空港技術研究所、鉄道技術総合研究所、京都大学博士課程進学 

研究概要

    土質力学は苦手でも、以下のいずれかに興味のある学生には研究テーマが用意されています。土の力学的性質、連続体力学、地震時の地盤の振動、地盤の液状化、土と構造物との動的相互作用、粘性土や不飽和土の動的挙動など。例えば、平成14年以来、遠心力載荷装置を用いた大地震時における地盤・構造物系の動的挙動に関する実験的研究が行われてきました。しかし、上に挙げた研究テーマに縛られることはありません。君の興味のある研究ができるかどうか、一度聞きにきてください。

    卒業研究を終える頃には、現在の土質力学が学部で学んだ土質力学のはるか先を行っていることに気づくでしょう。経験的手法からより理論的な手法へ、また線形から非線形問題の解明へと大きく発展を遂げています。近年では、飽和地盤の地震時における動的挙動のように、土-水連成系の複雑な挙動を実験的・解析的手法を駆使して解明しつつあります。また、粘性土や不飽和土の動的挙動、地盤-流体-構造物の動的相互作用の解明といった難問題への挑戦もなされています。さらに、有限要素法(FEM)や地理情報システム(GIS)など、コンピュータをいかにうまく使うかという研究も活発に行われています。

    以上のように、地盤工学または土木工学といっても研究テーマはさまざまです。その中からひとつのテーマを選び卒業研究として成果を挙げることは、君にとっては小さな一歩でしかありません。しかし、人類にとっては大きな一歩だ、と堅く信じましょう。そして、将来就職または進学したときに、たとえ芸術家を志望していても、君のユニークな発想を表現する手法を、卒業研究を通して学びましょう.

●粘性土および不飽和土の動的挙動に関する研究 

これまで、地震時における地盤の動的挙動に関する研究は、主に砂質土を対象にして行われてきた(例えば、液状化現象)。また、空隙が間隙水で満たされた飽和土(土と水の2相系)を対象とすることが多かった。一方、例えば2011年に発生した東日本大震災における盛土の被災事例では、原地盤における粘性土層の存在や盛土堤体の不飽和化が盛土の地震時挙動に影響を及ぼした可能性が指摘されている。また、粘性土と砂質土の互層傾斜地盤では、地震時に粘性土層直下において水膜が発生し、側方流動をより進展させることが指摘されている。しかしながら、地震時の粘性土および不飽和土の動的挙動に関しては、まだ十分に研究がなされているとは言えない。

そこで、粘性土および不飽和土の動的挙動の解明に向けて、当研究室では遠心力載荷装置を用いた模型振動実験を進めている。また、粘性土および不飽和土の力学挙動を再現できるよう地盤の構成モデルを改良し、有限要素法による数値解析的な研究も併せて実施している。

図-1.1 粘性土地盤上の盛土の遠心模型実験

図-1.2   粘性土・砂質土の互層傾斜地盤の遠心模型実験

●地盤材料の固有(初期構造)異方性に関する研究 

地盤は本質的に堆積環境等に起因する固有(初期構造)異方性を有しているが、地盤の液状化に代表される地震時の動的挙動に対するその影響に関しては未だ不明な点が多い。そこで本研究室では、固有異方性を有する液状化地盤を対象に、遠心力載荷装置を用いた模型振動実験を行うことで、その影響の解明を試みている。また、固有異方性を数値解析においても考慮できるよう構成モデルを改良し、室内試験や模型実験に対するシミュレーションを実施することで、提案モデルの妥当性の検証を行っている。

図-2.1   遠心模型実験に用いる土槽

図-2.2   固有異方性を有する地盤の作製方法

●LEAP(一斉実験・一斉解析)国際プロジェクト 

液状化に代表される地盤災害予測に関する研究は、これまで個別の研究機関において、個別の実験施設や数値解析手法を用いた単独プロジェクトと実施されてきた。このようなアプローチでは、単一機関内における結果の整合性・再現性は確保されるが、仮に他の研究機関が同一課題に取り組んだ場合、その結果に整合性や再現性が担保されるか? という観点での普遍性・客観性についての検討は皆無であった。

このような既往の研究アプローチの限界を打破するため、遠心力載荷装置を用いた一斉実験および種々の構成モデルを用いた一斉解析を通じて、結果の普遍性を確保し、地盤災害予測精度の向上に寄与すべく立ち上げられた国際プロジェクトがLEAP(Liquefaction Experiments and Analysis Projects)である。本プロジェクトには、当研究室の他に、現時点でカリフォルニア大学デービス校、レンセラー工科大学、ジョージ・ワシントン大学(以上、USA)、ケンブリッジ大学(UK)、浙江大学(中国)、国立中央大学(台湾)等が参画している。         

●大地震時の地盤・構造物系の被災程度予測

1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震は多くの犠牲者を出すとともに、各種ライフラインや橋梁、高架道路、岸壁、護岸などの社会基盤施設にも壊滅的な被害をもたらした。その中で、埋立地の岸壁や護岸あるいは河川堤防などの地盤・構造物系は、基礎地盤の液状化により大きな残留変位が生じて、多数の施設がその機能を失った。また、その復旧には長時間を要し、復旧費用は膨大なものになった。この事態を受け、大地震による地盤・構造物系の被害程度推定を精度よく行うことに対する社会的な要請が高まった。

このような地盤災害分野の課題を解決するため、多重せん断機構に基づく砂の力学モデルを有限要素法に組み込んだ数値解析プログラムFLIPを開発し、各種社会基盤施設の被害解析および被害程度予測に力を発揮している。例として、図-4.1に兵庫県南部地震において被災した神戸大橋の解析結果を、図-4.2に重力式岸壁の隅角部の挙動に着目した遠心模型実験の再現解析の結果を示す(いずれの図においても、赤いところは過剰間隙水圧が上昇していることを示す)。       

図-4.1 兵庫県南部地震による神戸大橋の解析

図-4.2 地震時の岸壁周辺部の3次元液状化解析

●多重せん断機構の概念に基づく土の構成モデルの改良

地震時の地盤・構造物系の被害を精緻に予測するためには、微小ひずみ領域から液状化のような強非線形領域に至るまでの地盤材料の力学挙動を適切に表現する必要がある。当研究室では、砂のような粒状体の力学モデルとして、多重せん断機構の概念に基づく土の構成モデル(カクテルグラスモデル)を提案している。このモデルは、土を多数の粒子が集まって構成される粒状体として解釈することから始まり、粒子同士の力の及ぼし合いによる内部構造の変化を表現することができる。

カクテルグラスモデルで、膨張的なダイレイタンシ成分を鉛直上向きに、仮想的な単純せん断ひずみを水平面内にプロットすると、砂粒の集合体の誘導異方性構造として図-5.1のような姿が現れる。このモデルは前述の数値解析プログラム(FLIP)にも組み込まれており、粒状体に特有のダイレイタンシや、それに伴う誘導異方性の影響を適切に考慮することが可能である。さらに当研究室では、応力誘導異方性に加えて、地盤の堆積環境等に依存する初期構造異方性の影響も考慮できるよう、構成モデルの改良を進めている。

図-5.1   二軸せん断におけるひずみ空間ファブリック

●有限変形理論に基づく構成モデルの改良・地盤応答解析手法の開発

地盤は大きな地震動を受けると顕著な非線形性を示し、最終的には土の強度が失われ液状化に至る。このような液状化に起因した地盤・構造物系の動的挙動を数値解析で高精度に予測するには、変形の大きな領域まで含めた地盤挙動を適切にモデル化する必要がある。

そこで、従来の多重せん断機構に基づく砂の力学モデルを有限変形理論(大変形領域における幾何学的な非線形性を厳密に考慮した理論)に基づき拡張し、このモデルを組み込んだ地盤・構造物系の大変形解析プログラム(FLIP/TULIP)を開発した。本プログラムでは、有限変形理論のうち、Total Lagrangian(TL)法とUpdated Lagrangian(UL)法の両者を適用することが可能である。図-6.1はその一例であり、TL法とUL法の数値解析的な等価性を示すとともに、液状化の可能性のある地盤上の盛土の動的挙動に対する解析の妥当性を確認できる。

図-6.1 盛土を対象にした大変形解析の適用例

●大地震時における地盤・構造物系の動的挙動に関する遠心実験

1995年の兵庫県南部地震の際、沿岸部の埋立地に建設された道路橋や重要港湾構造物などに用いられている杭基礎に、多くの被害があったことが報告されている。静的な水平力を受ける群杭基礎の挙動に関してはこれまでに多くの研究がなされているが、大地震時の飽和砂地盤における群杭基礎の挙動については未だ研究途上にある。

杭基礎の被害要因としては、上部構造物に作用する過大な慣性力によって基礎が大きく変位する場合と杭体に地盤から想定した以上の水平荷重が作用した場合の2つが考えられる。このことは杭基礎の耐震設計においては、上部構造物の慣性力だけでなく、地盤の慣性力をも考慮する必要があることを示唆している。本研究では、第一段階として、防災研究所現有の遠心力載荷装置(図-7.1)による模型実験を通して、原位置における上部工の慣性力と、地盤の振動による杭-土-杭間の相互作用を観察した。

図-7.1 京都大学防災研究所現有の遠心力載荷装置(半径2.5m)

●長継続時間地震動と津波による地盤-構造物系の変形メカニズムの解明

2011年に発生した東日本大震災では、杭基礎で支持された鉄筋コンクリート製の建築物が、津波により倒壊するという被害が生じた。この被害には、津波の波力に加えて地盤の液状化現象が複合的に作用しており、津波と液状化による複合災害と考えられた。また、湾口防波堤では、地震と津波による複合災害、特に津波来襲時の湾内外での潮位差に起因するマウンド内への浸透流の発生と、これに伴う支持力不足に起因する防波堤の破壊という新たな現象が発生した。

そこで当研究室では、津波による防波堤の複合破壊機構について明らかにするため、捨石マウンド上に構築されたケーソン式防波堤を対象に、遠心場で擬似津波を発生できる土槽を用いて遠心模型実験を実施した(図-8.1)。実験の結果、浸透流を意図的に遮断したケースでは防波堤が倒壊しなかったのに対し、浸透流を許したケースでは津波と浸透流の複合破壊により防波堤が倒壊に至ることが明らかとなった。

この他にも、地震時の石油タンクのスロッシング挙動を対象に、地盤-流体-構造物の動的相互作用に着目した実験的・解析的研究を進めている。 

図-8.1 遠心模型実験による防波堤の被災シミュレーション

図-8.2   スロッシング遠心模型実験に用いる地盤-流体-構造物モデル

●遠心模型実験に対する拡張型相似則の検証

縮小模型を用いて遠心模型実験を行う場合、実物スケールでの土の応力~ひずみ関係を模型スケールにおいても同様に再現するため、遠心場の相似則を適用する必要がある。相似則により縮小模型を用いた実験が可能になるが、遠心力載荷装置の性能により縮尺率には上限があるため、通常の相似則では遠心場で表現できる実物スケールに限界がある。

そこで当研究室では、従来の相似則では困難であった大きな縮尺での遠心模型実験を可能とするため、実物と遠心場の間に仮想1G場を設けることにより、新たな相似則(拡張型相似則)を提案している(図-9.1)。また、地盤条件の違い(乾燥or飽和,水平or傾斜など)や杭基礎に代表される構造物の有無など、種々の条件に対して遠心模型実験を行うことで、拡張型相似則の適用性の検証を行っている。

 図-9.1 拡張型相似則の概念図