研究概要
(詳細は主要な関連論文を下記に示しますので、DOIリンクよりそれらをご参照ください)
炭素材料は、軽量にもかかわらず、耐熱性、化学的安定性、電気伝導性、機械的特性など様々な特性が優れています。
したがって、炭素材料は高温部材や電極材料など過酷な条件下で使用されます。
しかし、炭素材料の最大の欠点は酸化されてしまうことであり、上述の条件下ではどうしても酸化が免れません。
もし、耐酸化性炭素材料(燃えない炭)ができたら、世界の科学が一変する可能性もあります。
そこで、本研究室では耐酸化性炭素材料を作製するために、炭素材料のうち、ガラス状炭素やカーボンナノファイバーに対する酸化に置いて、表面状態を精査しています。
また、金属のタンタルを添加した炭素材料の難燃性も調査しています。
・カーボンナノファイバーの酸化
今後、技術革新に伴いカーボンナノファイバーの使用の範囲が広がっていきます。
この範囲が広がるということは、様々な場面での使用が期待されることとなります。
つまり、どうしても酸化されるような条件下で使用されることとなります。
本研究では、カーボンナノファイバーとして気相成長炭素繊維(vapor-grown carbon fiber: VGCF)の乾燥空気や酸化性溶液での酸化挙動を調査しています。
VGCFの空気酸化に対し550℃までは酸化速度も遅く、表面に酸素を含む官能基が吸着しずらいことが分かりました。
600~850℃では、酸化速度が劇的に速くなりましたが、アレニウスプロットから活性化エネルギーが149 kJ/mol(世界で初めて決定)となり、まだ表面での反応が酸化を支配する温度範囲であることが分かりました。
また、VGCFの硝酸、硫酸、過酸化水素水での酸化挙動も調査しました。
硝酸での酸化ではVGCF表面に酸素を含む官能基が吸着し、VGCFの外観も筋が入った組織となり、硫酸による酸化ではVGCF表面に硫酸根が吸着しますが、VGCFの外観に変化がほとんど見られず、過酸化水素による酸化ではVGCF表面の官能基にほとんど変化がありませんが、VGCFの外観がより崩れていくこと、つまり酸化性溶液により酸化挙動が異なることが分かりました。
これらの傾向は後述するガラス状炭素と似ており、炭素の種類による違いがないことも分かりました。
VGCFの乾燥空気に対するアレニウスプロット
VGCFの電子顕微鏡写真
濃硝酸で7日間処理したVGCFの
電子顕微鏡写真
濃硫酸で7日間処理したVGCFの
電子顕微鏡写真
過酸化水素水で7日間処理したVGCFの
電子顕微鏡写真
各酸化性溶液に対する
VGCFの酸素量と官能基量の継時変化
(a)濃硝酸、(b)過酸化水素水、(c)濃硫酸、(d)希硫酸
・ガラス状炭素の酸化
ガラス状炭素は塊状(バルク体)炭素材料として、炭素繊維強化炭素複合材料のマトリックス、作用電極、ガラス製造部材、半導体製造部材などに使用されています。
このような用途は当然ながら、過酷な条件にての使用が想定されています。
そこで、様々な温度で処理したガラス状炭素に対し、500℃(表面反応が酸化を支配する温度)と700℃(反応気体の拡散が酸化を支配する温度)の乾燥空気での酸化挙動を調査しています。
500℃での酸化では、ガラス状炭素を2000℃以上で処理することで、酸化速度を劇的に遅延させることができました。
これは、表面の黒鉛層の発達度合いではなく、表面への酸素の吸着に加え、内部への酸素の浸透度が関係していることが分かりました。
より内部への酸素の浸透度が低いガラス状炭素でも700℃での酸化により、内部へ酸素が浸透し酸化が促進されてしまいました。
また、ガラス状炭素に対し、硝酸、硫酸、フッ酸、過酸化水素水による酸化も調査しました。
硝酸での酸化ではガラス状炭素に多数のヒビが入り割れてしまうこと、硫酸の酸化では一見表面に変化は見られませんが硫酸根が表面に吸着してしまうこと、フッ酸の酸化では表面が溶けたような組織が観察されること、過酸化水素の酸化では表面の官能基に変化がないが多数の気孔が開いてしまうことなど、酸化性溶液により酸化挙動が異なることが分かりました。
ガラス状炭素の500℃に対する乾燥空気中での重量変化
(HTTが加熱処理温度)
濃硝酸で7日間処理したガラス状炭素表面の顕微鏡写真
濃硫酸で7日間処理したガラス状炭素表面の顕微鏡写真
濃過酸化水素水で7日間処理した
ガラス状炭素表面の顕微鏡写真
濃硫酸に対するガラス状炭素表面の
酸素量と官能基量の経時変化
・耐酸化性ガラス状炭素
炭素材料に耐酸化性を付与する方法として、酸化物によるコーティングが利用されていますが、それでは炭素そのものの特性が生かせないこと、いざコーティングにヒビが入ると内部で酸化が促進してしまうことなど、欠点もあります。
それを防ぐためにコーティング自己修復材を添加する方法があります。
本研究室では少量のタンタル添加のみで、炭素の酸化を遅延させる(耐酸化性付与)試みを行っています。
空気酸化によるガラス状炭素の酸化では、タンタルを添加することで、酸化速度を1桁低減し、酸化加速度の増加を防ぎました。
タンタルの効果を調査したところ、表面への酸素の吸着だけでなく、内部への酸素の浸透を防ぐ効果がありました。
これは、タンタル添加によりガラス状炭素自体のフェルミ順位が下がったためであることが考えられます。
また、酸化溶液に対してもタンタルによる耐酸化性の効果が見られました。
3000℃で処理したガラス状炭素と
タンタル添加ガラス状炭素の
700℃に対する乾燥空気中での重量変化
3000℃で処理したガラス状炭素と
タンタル添加ガラス状炭素を
700℃で6時間処理した後の酸素の侵入深度
主なテーマ
・難燃性炭素材料の開発(燃えない炭はできるか?)
・高温空気or溶液処理による各種炭素材料の乾式or湿式酸化・腐食挙動の解析と実用化への最適処理条件の検討
関連論文
・ K. Nakamura, Y. Sato, T. Takase, "Surface oxidation and/or corrosion behavior of vapor-grown carbon fibers (VGCFs) in nitric acid, hydrogen peroxide, and sulfuric acid solutions.", Diamond and Related Materials, 76 (2017) 108-114, DOI: https://doi.org/10.1016/j.diamond.2017.04.019.
・ K. Nakamura, Y. Sato, T. Takase, "Analysis of the oxidation behavior of vapor-grown carbon fiber (VGCF) under dry air.", Materials Letters, 180 (2016) 302-304, DOI: https://doi.org/10.1016/j.matlet.2016.05.184.
・ K. Nakamura, H. Morooka, Y. Tanabe, E. Yasuda, T. Akatsu, H. Shindo, “Surface oxidation and/or corrosion behaviour of glass-like carbon in sulfuric and nitric acids, and in aqueous hydrogen peroxide.”, Corrosion Science, 53 (2011) 4010-4013, DOI: https://doi.org/10.1016/j.corsci.2011.08.004.
・ K. Nakamura, Y. Tanabe, M. Fukushima, Y. Teranishi, T. Akatsu, E. Yasuda, “Analysis of surface oxidation behavior at 500oC under dry air of glass-like carbon heat-treated from 1200 to 3000oC.”, Materials Science and Engineering, B161 (2009) 40-45, DOI: https://doi.org/10.1016/j.mseb.2008.11.012.
・ K. Nakamura, Y. Tanabe, E. Yasuda, “Analysis of the oxidation behavior of neat and Ta-alloyed glass-like carbons heat-treated at 1200 and 3000oC by nitric, sulfuric and hydrofluoric acid.”, Journal of Alloys and Compounds., 414[1-2] (2006) 186-189, DOI: https://doi.org/10.1016/j.jallcom.2005.04.216.
・ K. Nakamura, Y. Tanabe, N. Suzuki, M. Kakihana, M. Fukushima, Y. Teranishi, L. Lanticse, E. Yasuda, “Analysis of oxidation behavior under dry air of neat and Ta-alloyed furan-resin-derived carbons heat-treated at 3000oC.”, Surface and Interface Analysis, 37[13] (2005) 1137-1142, DOI: https://doi.org/10.1002/sia.2122.