研究概要
(詳細は主要な関連論文を下記に示しますので、DOIリンクよりそれらをご参照ください)
炭素繊維強化炭素複合材料(carbon fiber reinforced carbon composite: C/C composite)は炭素繊維強化プラスチックを炭素化し、プラスチック部分を炭素体とした複合材料です。
このC/C compositeは、金属やセラミックス複合材料よりも軽量にもかかわらず、機械強度が優れていて、高温までその強度が維持または上昇することもあります。
これらC/C compositeの強化材として通常は炭素繊維が利用されていますが、これをカーボンナノファイバー(carbon nanofiber: CNF)とすることで、添加量が少なくても高強度が得られ、部材の小型化・微細化が期待できます。
そこで、本研究室では強化材を気相成長炭素繊維(vapor-grown carbon fiber: VGCF)やセルロースナノファイバー(cellulose nanofiber)として、C/C compositeを作製し、特に耐摩耗性に着目して、その評価を行っています。
また、C/C compositeの充填材のCNFに表面処理を行うことで、C/C compositeの特性向上も目指しています。
・VGCF強化C/C composite
VGCFで強化したC/C compositeの耐摩耗性は、マトリックスのガラス状炭素のみのそれよりも低くなってしまいました。
しかし、過酸化水素水処理したVGCFで強化したC/C compositeの耐摩耗性はガラス状炭素よりも優れており、VGCFを5 wt.%だけ添加することで約1桁耐摩耗性が向上しました(比摩耗量の図は下記の研究とまとめて表示)。
これらの向上は、VGCFのアンカー効果の出現が作用していると考えられます。
・セルロースナノファイバー強化C/C composite
バクテリアセルロースをCNFとした後、それを強化材としたC/C compositeの耐摩耗性は、ガラス状炭素のそれよりも優れていました。
さらに、ヨウ素処理を適用したバクテリアセルロースからCNFを作製し、それで強化したC/C composite(下記の電子顕微鏡写真)は、ガラス状炭素のそれよりもCNFを1 wt.%だけ添加することで約2桁耐摩耗性が向上しました(下記の比摩耗量の図)。
つまり、過酸化水素水処理したVGCFで強化したC/C compositeの耐摩耗性よりも約1桁優れていたことなります。
これらの向上は、CNFのアンカー効果に加え、CNFとマトリックスとの密着性や短繊維による引き抜け深度変化が要因であると考えられます。
BCからCNFを作製し、それで強化した
C/C compositeの断面の電子顕微鏡写真
(白い線がCNF)
BCのヨウ素処理した後、CNFを作製し、
それで強化したC/C compositeの断面の
電子顕微鏡写真 (白い部分がCNF)
C/C compositeのCNF添加量と比摩耗量の関係
(比摩耗量が低いほど、耐摩耗性が高い)
(黒菱形がガラス状炭素、緑三角が過酸化水素水処理したVGCFで強化したC/C composite、赤三角がBCのヨウ素処理した後CNFを作製しそれで強化したC/C composite)
主なテーマ
・気相成長炭素繊維強化炭素複合材料の界面制御と機械的・物理的特性の評価
・(バイオマス)セルロースンナノファイバー由来カーボンナノファイバー強化炭素複合材料の作製と機械的・物理的特性の評価
・カーボンナノファイバー強化炭素複合材料のマイクロトライボロジーがマクロの摩擦摩耗特性に与える影響
関連論文
・K. Nakamura, H. Kanno, S. Ishii, "Wear properties of carbon composite reinforced by vapor-grown carbon fibers treated with nitric acid and aqueous hydrogen peroxide.", Materials Letters, 209 (2017) 228-230, DOI: https://doi.org/10.1016/j.matlet.2017.08.001.
・ 中村和正、佐藤雅俊、松崎利栄、高瀬つぎ子 「ヨウ素処理をしたバクテリアセルロース由来のカーボンナノファイバーで強化した炭素複合材料の摩耗特性」 炭素, 2016[274] (2016) 139-144, DOI: https://doi.org/10.7209/tanso.2016.139.
・K. Nakamura, T. Sano, H. Shindo, “Frictional property of glass-like carbon heat-treated at 1000 to 3000oC.”, Materials Science and Engineering, B148 (2008) 242-244, DOI: https://doi.org/10.1016/j.mseb.2007.09.054.
・ L. J. Lanticse-Diaz, Y. Tanabe, T. Enami, K. Nakamura, M. Endo, E. Yasuda, “The effect of nanotube alignment on stress graphitization of carbon/carbon nanotube composites.”, Carbon, 47 (2009) 974-980, DOI: https://doi.org/10.1016/j.carbon.2008.11.046.