核融合の仕組み

核エネルギーとは

☆『エネルギー』には色々な形があって、私たちはそれらを上手く変換して使っています。例えば風力発電所では、風の力(力学的エネルギー)で羽と発電機を回し、電気(電気エネルギー)に変換して使います。エネルギーには他にも化学エネルギー(例えば石油を燃やす)、光エネルギー、熱エネルギーなどがあり、そのまま使ったり、変換したり、蓄えたりして使っています。

☆ここでお話しするのは、『核エネルギー』のはなしです。これは原子力発電所で使われているエネルギーの形であり、また将来、核融合発電所でも使われるエネルギーの形です。『核エネルギー』と聞くとちょっと尻込みしてしまいますが、「物質そのもの=エネルギー」という、かのアインシュタインが発見したエネルギーです。

☆質量をエネルギーに変換する完全な方法は、物質に反物質をぶつけて消滅させることですが、自然界に反物質がほとんど存在しないために、実用性がありません。

☆ところが、原子核(すべての原子の中心にある粒子)が分裂したり、融合したとき、反応の前と後で質量の合計が少しだけ減少することがわかりました。その減少した質量分だけ、エネルギーが発生します。この「原子『核』の質量減少から生まれるエネルギー」を一般に「核エネルギー」と呼んでいます。

☆原子力発電所では、重たい原子核(ウランやプルトニウム)を2つに割った(分裂した)ときに発生する核エネルギーを使います。一方、核融合発電では、軽い原子核(水素の仲間)を2つ融合したときに発生する核エネルギーを使います。現在、発電に利用できる核エネルギーはこの2つだけです。

☆ここで重要なことは、制御された核エネルギーを使うことです。制御しない(または制御できない)核エネルギーは人類に悲劇をもたらします。

核融合と核分裂の違い

★原子力発電所で起こる反応は『核分裂(カクブンレツ)』です。ウランのような重たい原子核が分裂して2つに割れることを『核分裂』といいます。(上側の絵)原子力発電所で『核融合』が起こることはありえません。また高速増殖炉も『核分裂』です。

☆『核融合(カクユウゴウ)』は、水素のような軽い原子核が二つくっついて、一つになることです。(下側の絵)今、世界中で研究が行なわれている『核融合』発電は、水素をくっつけて(融合して)、ヘリウムにする制御された核融合反応を使います。その時、『核分裂』を使うことはありません。だから、『核融合』発電ではウランを使いません。また核融合発電はまだ研究開発段階で実現はしていません。

核融合発電の仕組み

☆この図は、核融合発電の仕組みを簡単に書いたものです。核融合発電の中心は「核融合炉」です。(火力発電では「ボイラー」、原子力発電では「原子炉」と呼びます)炉の中で燃焼しているのは、水素の仲間(重水素と三重水素)を真空状態に近い希薄なガスにし、1億度まで加熱したものです。これを『プラズマ』と呼びます。中では核融合反応が起きていて、反応で発生したエネルギーを熱として取り出して水を沸騰させます。そして蒸気でタービンを回し発電します。蒸気はもう一度海水で冷やして水に戻します。ここまでの話では、燃えているものが違うだけで、火力発電、原子力発電とおおまかな仕組みは同じです。(次世代の核融合発電では効率の高い直接発電も考えられています。このページの後ろの方で紹介しています。)

☆火力発電や原子力発電では燃焼している燃料から直接熱が発生し、熱を取り出すことができます。ところが核融合炉ではまず、核融合反応でできた高速で飛び出してくる中性子という素粒子を周りを覆った厚さ1mのブランケットと呼ばれる部分で受け止めます。ブランケットで受け止められた中性子は速度を落とし、その落ちた速度に相当するエネルギーが熱に変わります。(プランケットの温度は500度ぐらい)この中性子の運動エネルギーが熱エネルギーに変わるところが従来の発電と異なる点です。

☆プラズマが周囲の金属壁に触れてしまうと、プラズマの温度が 一気に下がって、核融合反応が止まってしまいます。そのために『磁場のかご』を使ってプラズマを空中に浮遊させます。(このとき金属壁とプラズマは離れていて、その間は真空になっています)この『磁場のかご』を作り出すのが、ブランケットの外側にある超伝導マグネットです。超伝導マグネットはマイナス269度という極低温に冷やされます。1億度という超高温とマイナス269度という極低温が数メートルほどの距離で接近していることも工学的に難しい技術です。しかし、1998年に日本(岐阜県)に建設された大型ヘリカル装置は、世界で初めて超伝導マグネットだけでプラズマを閉じ込めることに成功しました。

熱エネルギーを取り出す

☆核融合発電は、重水素と三重水素のプラズマを燃焼させて、その熱をエネルギーとして取り出します。ところが、プラズマに何かを差し込んで、熱を直接取り出すことができません。プラズマは確かに1億度という高温ですが、希薄(粒子の密度が大気の数10万分の1程度)なガス体であるために、何かを差し込むとプラズマの温度が瞬時に下がって燃焼が止まってしまいます。それではどうやって熱エネルギーを取り出すのでしょうか?

☆水素プラズマは、1億度になると核融合反応を開始します。その時に発生するのがヘリウムの原子核と中性子です。核融合反応で発生するエネルギーは、このヘリウム原子核と中性子の運動エネルギーに受け渡されます。つまり中性子が、非常に速い速度(光速の10~20%の速さ)でプラズマから飛び出してきます。(ヘリウム原子核は磁場のカゴで閉じ込められ、プラズマの追加熱に使われます)

☆プラズマから飛び出してきた中性子は、ブランケットと呼ばれる板(厚さは約1メートル)に当たり、ここで速度を落とし、熱を発生します。つまり中性子の運動エネルギーが熱エネルギーに変わるということです。ブランケットの中には冷却材となる水やヘリウムまたは液体金属などが流れていて、暖められた冷却材が熱エネルギーを外に取り出します。運転中のブランケットの温度は500℃ぐらいになります。

磁場でプラズマを閉じ込める

☆核融合発電では,超伝導磁石で作った強力な磁場で1億度の水素ガスを閉じ込めます。閉じ込めるというのは,真空の容器の中で壁にぶつからないように空中に浮遊させることです。では,どうして磁石で水素ガスを閉じ込めることができるのでしょうか?

☆「鉄」が磁石にくっつくというのは誰もが知っていることです。もう一つ磁石によって力が働き,動かせるものがあります。「電気の流れ」つまり「電流」です。ちょっと難しそうな話ですが,磁石によって電流に働く力を使ったものは身の回りにたくさんあります。洗濯機,冷蔵庫,パソコンのファンに使われているモーター,テレビのブラウン管,スピーカーなどすぐ身近にあります。(分解すると磁石が入っています。)

☆1億度の水素ガスはプラズマ状態と呼ばれ,電子をはぎ取られた原子核が高速で飛び回っています。原子核はプラスの電気を帯びていて,これが走ると電流となり,磁場の中で力を受けます。そして図のように磁場のなかでクルクル回り出します。そして原子核は磁場にまとわりつき,逃げていかないというわけです。はぎ取られた電子も同じように電気を帯びているので、磁場にまとわりつきます。

☆核融合の研究では,どのような形の磁場(磁石)を作れば,上手くプラズマを磁場の中に閉じ込めておけるかが重要なテーマとなっています。そこで大型ヘリカル装置(LHD)ではねじれた形の磁石を使って,プラズマを閉じ込める研究をしています。

磁場でプラズマを閉じ込めるふたつの方式

☆岐阜県土岐市(私の研究所)で研究が進められているのはヘリカル方式と呼ばれ、茨城県那珂市で研究が進められているのはトカマク方式と呼ばれています。(これらの磁場閉じ込め方式と原理の異なるレーザー方式という方法もあります)どうして2つの方式があって、日本では2ヶ所で研究が行なわれているのでしょうか。

☆ヘリカルとトカマクは、見た目には磁場を作る電磁コイルの形が異なります。(上の図を見てください)しかし、ドーナツ状のプラズマを作る点や超伝導磁石を使う点など基本部分は同じで、現時点ではどちらにも研究・開発しなければならない課題があります。そして両方の研究で分からないことを補い合い、同時に研究が進んでいます。発電所を作り始める段階ではどちらの方式にするか決めないといけませんが、現時点では2つの方式を同時に研究・開発することが望ましいと思います。(2つあることが無駄にはなっていないということです。)

核融合発電で使う反応と燃料

☆核融合発電に利用される反応は、水素の同位体である重水素と三重水素(トリチウムとも呼ばれます)の融合反応です。重水素は、自然の水の中にも含まれる安定な物質です。(水はH2Oなので、Hの部分が水素で、一部が重水素)普通の水素と重水素の自然界の存在比率は、99.985%と0.015%です。少ないように思いますが、海水を含めた水は、地球上に莫大にありますから、重水素は無尽蔵の燃料資源といってよいでしょう。

☆一方で、三重水素は自然界にはほとんど存在しません。また半減期が12年の放射性物質です。ほっておくと弱い電子を放出して、ヘリウムに変わっていきます。ですから、三重水素は燃料資源にはならないのです。だったらどうして核融合発電が成り立つのでしょうか。上の絵を見て下さい。(橙玉が陽子、青玉が中性子を表しています)重水素と三重水素の融合反応で出来た中性子がリチウムに当たって、三重水素とヘリウム(絵の一番右)が出来ています。この出来た三重水素を最初の融合反応に使うのです。三重水素はグルグル回っているだけで、外から供給する必要はありません。

☆当然、上のリチウムは外から持って来なければいけません。リチウムは、鉱物、塩湖から採取できる比較的豊富な資源で、パソコンや車の2次電池としても普通に使われています。(リチウムイオン電池とも呼ばれています)また海水にも含まれているので、リチウムの資源量もほぼ無尽蔵です。(海水からリチウムを採取する方法はまだ開発中ですが)そこで、核融合発電の実際の燃料は重水素とリチウムの2つということになるので、核融合発電の燃料資源が無尽蔵といえるわけです。

☆左の絵を見て、反応の後に残るもの(灰とも言います)が何か分かりますか。ヘリウムだけですよね。ヘリウムは安定で無害、温暖化ガスでもオゾン層破壊物質でもありません。外に捨てても問題ありませんが、貴重な資源なので、再利用しましょう。

☆三重水素は放射性物質ですが、上の上の絵のとおり発電所の中で循環しています。その量は1つの発電所の中で5キログラム程度です。(原子力発電所内の放射性物質の量と比べると桁違いに少ないです)金属の容器や配管の中に(何重にも)閉じ込められているので、外には出てきません。回収しきれないものが外に出てくるかもしれませんが、その量は法律や基準等で厳しく規制されます。最悪の事故を考えて、もし三重水素が外に漏れ出したとしても、周辺の人が避難しなければならい事態にはならないと計算されています。

未来の核融合発電~DD反応、D-3He反応と直接発電

☆近未来の核融合発電では、重水素と三重水素(リチウムから炉内で生産)を反応(これをDT反応といいます)させてエネルギーを取り出します。発生する中性子を熱に変換し、この熱で水を沸騰させて蒸気タービンを回し、発電します。蒸気タービンを回して発電するところは、火力発電や原子力発電と同じです。ここで、多くの人に次のような指摘を受けます。蒸気タービンの発電効率は40%ぐらい、残りの60%は熱として環境に放出するので、地球環境に影響を与えるのではと。(排出した熱が環境に影響を与えるかどうかの議論は別の機会として)核融合発電は、「直接発電」を使って発電効率をもっと高くできる可能性を秘めています。

☆プラズマの温度をもっと高く(数億度に)できると、三重水素を使わずに、重水素だけで燃やすことができます。上の図はその反応を示したものです(触媒DD反応といいます)。もしこの反応が実現したら、完全に海水中の重水素(資源は無尽蔵!)だけで発電できます。そしてエネルギーを持った陽子(=水素の原子核)は、正の電気を帯びているので、熱エネルギーに変換せずに、直接電気に変えることができます。これを「直接発電」といい、発電効率は90%を超えるといわれています。一方、同時に発生する中性子のエネルギーはやはり熱に変えるしかありませんが、全体としての発電効率は70%くらいになるでしょう。

☆初期の核融合発電ではDT反応を使いますが、いつか人類はDD反応を使って発電を成功させるでしょう。それは100年後かもしれません。月、木星、土星に沢山あるヘリウム3をもし採取することができれば、D-3He反応を使ってさらに効率のよい発電ができます。(これは少しSFの世界かな。)夢はいつか夢でなくなる。それまで人類が仲良く暮らしていけたらですが。