■モーツァルト作曲 歌劇『魔笛』
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756?1791)はオーストリアの作曲家。1791年9月,最後のオペラ『魔笛』の作曲と初演を果たし,2か月後に永眠している。台本はモーツァルトの友人で,興業主・俳優・歌手のエマヌエル・シカネーダー。エジプトの王子タミーノと夜の女王の娘パミーナ,鳥捕りのパパゲーノとパパゲーナの二組が結ばれるまでの童話的なオペラで,ドイツ語で書かれたジングシュピール(歌芝居)として,その後のドイツのオペラの発展の出発点ともなった。
♪「おいらは鳥捕り」はオペラの冒頭間もなく,パパゲーノが登場するときに歌うアリア。鳥を捕って夜の女王に献上するのがパパゲーノの生業で,「笛を吹いて鳥をおびき寄せるのと同じように,女の子も捕まえられればいいのになあ」と陽気に歌う。
この後パパゲーノはタミーノと出会い,タミーノは夜の女王から,ザラストロにさらわれた娘のパミーナを救出するよう懇願され,パパゲーノは嫌々ながらお供することになる。タミーノには魔法の笛が,パパゲーノには魔法の鈴が与えられ,三人の童子に導かれてザラストロの神殿に向かう。しかし,ザラストロはパミーナをさらったのではなく,邪悪な夜の女王から保護していたのであった。ザラストロはタミーノに,パミーナと結ばれるためには,試練の儀式を受けなければならない,と言って,まず「沈黙の試練」を課す。パパゲーノも試練に打ち勝ったら似合いの娘を世話すると言われ,しぶしぶ参加するが,すぐに沈黙に耐えられなくなってしまう。
♪「恋人か女房がいればいいのに」は,試練に耐えられなかったパパゲーノが神官から望みを訊かれ,鈴を鳴らしながら歌う。「だれも自分を気に入ってくれなかったら死ぬほどつらい,でも女の子がキスしてくれれば元気になれるさ」
すると老婆が現れ,パパゲーノに結婚を迫る。自棄になって応じているうちに,その老婆は実は,若い娘パパゲーナだと分かる。しかし,神官は「試練に耐えられなかったのだから」と彼女を連れ去る。
♪「パパゲーナ! パパゲーナ! パパゲーナ!」とパパゲーノは呼ぶが,試練に耐えられなかったから彼女を失ったのだと絶望し,首を吊ろうとする。すると三人の童子が魔法の鈴を使うように勧め,鈴を鳴らすとパパゲーナが姿を現す。再会したパパゲーノとパパゲーナは「パ,パ,パ・・・」と驚き,喜び,「たくさんのちっちゃなパパゲーノとパパゲーナに恵まれますように」と楽しく歌う。
オペラはこの後,ザラストロの国に攻め入った夜の女王たちが滅ぼされ,試練に打ち勝ったタミーノ,パミーナとともに,一同で太陽と神々を讃えて幕となる。
■中田喜直作曲 「ゆく春」
中田喜直は東京音楽学校でピアノを学ぶが,同校の作曲科に在学中の兄の影響もあって作曲に関心を抱き,卒業後は作曲家として活動をはじめた。1946年には作曲家グループ『新声会』に参加する。この会には柴田南雄を中心に,畑中良輔,團伊玖磨らがおり,演奏家との共同作業のもとに例会が毎月定期的に開かれた。中田は歌曲集『6つの子供の歌』,『海4章』をはじめ次々と作品を発表した。中田は生涯にわたって声楽作品に取り組んだ。その叙情性に溢れた作風は多くの人々に愛され,いわゆる芸術歌曲から「夏の思い出」「雪の降る町を」などのラジオ,テレビで親しまれた愛唱歌や童謡,合唱作品に至るまで多くの傑作を世に送り出している。晩年までその創作意欲は衰えることはなかったが,2000年この世を去った。
♪「ゆく春」は去りゆく春を惜しむ想いが歌われている曲だが,曲中で“ちょうちょ”のメロディーが効果的に用いられているのが面白い。
■ドリーブ作曲 歌劇『ラクメ』
1883年初演のオペラ『ラクメ』は,19世紀後半のイギリス統治下のインドを舞台に,イギリス人将校と恋に落ちてしまったインドの巫女ラクメの悲恋の物語で,当時流行した東洋的雰囲気が色濃いオペラ。
全曲が上演されることはまれだが,コロラトゥーラのアリア「鐘の歌」とともに,今回演奏するこの「花の二重唱」は有名で,CM等にも多用されている。
神聖なバラモン寺院の敷地に誤って踏み込んだイギリス人将校ジェラルドは,ヒンズー教の高僧ニラカンタの娘であるラクメと出会い,二人は恋に落ちる。イギリス軍人が不法に侵入したことを知ったニラカンタは激怒し,神聖な寺院を冒涜した男への復讐を誓う。
ニラカンタは侵入者をおびき寄せるためにラクメに「鐘の歌」を歌わせ,ジェラルドが現れるとラクメが気を失いかけるので,誰が侵入者か見破ったニラカンタは雑踏の中でジェラルドを刺して瀕死の重傷を負わせる。
ラクメはジェラルドを森の中にある隠れ家で懸命に看病する。ラクメが,永遠の愛を得るための聖なる水を汲みに行った留守中に,ジェラルドの同僚フ レデリックが現れ,婚約者と軍人としての責務を思い出させる。戻ってきたラクメは,母国を想うジェラルドの心境の変化に気づき,毒草を噛んで,ジェラルド の罪を自らの死で償うことを言い残して死んでいくのだった。
♪「花の二重唱」は,第1幕でラクメと侍女マリカが小舟に乗って蓮の花を摘みに行く情景で歌われる。
■ドビュッシー作曲 「現われ」
クロード・ドビュッシーが20~22歳(1882~4)の頃の作品。当時発表されたばかりのステファヌ・マラルメの詩に作曲された。詩のイメージがそのまま音符になったような幻想的な歌曲。
♪〔歌詞対訳〕
月は悲しんでいた。
泣いている熾天使は,夢見がちに弓を指にとり
花々の香気の静けさの中で,消え入りそうなヴィオルを奏でる。
その音色は白いむせび泣き,花冠の蒼穹を滑り落ちる。
それは君が初めてのキスに祝福された日。
僕の夢想は自ら苛むことを好み,悲しみの香りに賢しげに酔っていた。
後悔も幻滅もなく,一つの夢の収穫がそれを摘んだ心に残した香り。
だから僕はさまよった,古い石畳に目を落としたまま。
その時,髪に日の光をまとって,街の中,夕暮れの中,
君が僕に笑いかけながら現れた!現れた!
僕は光の帽子をかぶった妖精を見たと思った。
昔,甘やかされた子供の頃,美しい眠りの中を通りすぎ,
いつも少し開いた手から,香る星の白い花束を雪のように降らせた妖精を。
■ビゼー作曲 歌劇『カルメン』
フランスの作曲家ビゼーの代表作で,メリメの同名の小説から構想を得ている。1875年パリで初演され,ビゼーはその3か月後に36歳で亡くなっている。初演時の評判は芳しくなかったといわれているが,現在では世界的に最も公演回数の多い人気演目のひとつであり,誰でもどこかで耳にしたことのある名曲が満載の傑作オペラである。
舞台は19世紀半ばのスペイン・セビーリャ。タバコ工場で働く奔放なロマのヒロイン・カルメンとその魅力に取り憑かれた真面目な竜騎兵ホセの恋の成り行きと悲劇的結末の物語である。
第1幕,タバコ工場の休憩時間。女工たちの中にひときわ魅力的なカルメンが街の男や警護の竜騎兵たちの注目を一身に集めている。彼女はひとり無関心なホセを誘惑するように一輪の花を投げつける。突然魔法にかかったように魅入られるホセ。
♪そこへ故郷から純情な娘ミカエラが彼の母の手紙を携えてやってくる。母の代理といってミカエラからの口づけを受け,漸くカルメンの魔力から解き放たれたホセは,長く母のもとから離れている不孝を詫び,ミカエラと故郷の風景を懐かしみながら母が望む彼女との結婚を誓うのだった。若い男女の歌う大変甘美なメロディの二重唱であるが,内容の大半が母と郷里を慕うもので,必ずしもラブデュエットは言えないのは少し意外である。
その後,ホセは結局カルメンの魅力から逃れられず,終には脱走兵となってカルメンの仲間の密輸団一味と行動を共にするまで身を落とすが,移り気なカルメンの心は花形闘牛士エスカミーリョとの新しい恋に移ってしまう。嫉妬に狂い既に常軌を逸したホセはカルメンをつけ回し,エスカミーリョへの歓呼が響くセビーリャの闘牛場門前で復縁を拒むカルメンを刺し殺してしまう。
■グノー作曲 歌劇『ファウスト』
フランス人作曲家シャルル・フランソワ・グノーによるオペラで,1859年パリのリリック劇場にて初演された。ゲーテの『ファウスト』第一部を原作とし,「宝石の歌」「この清らかな住まい」「金の子牛の歌」などのアリアに彩られたフランス・ロマン派の重厚な悲劇。悪魔メフィストフェレスと契約して若さを手に入れた老博士のファウストと,彼に翻弄されて悲惨な死を遂げるマルグリートとの悲劇が描かれる。
老学者ファウストはすべてが無であることに絶望し,悪魔メフィストフェレスを呼び出して,青春を取り戻す代わりに地獄では悪魔の下僕となるという契約を結ぶ。
♪アリア「門出を前に」は,マルグリートの兄のヴァランティンが出征日,一人残してゆくマルグリートの無事を祈って歌う。
悪魔の力で美しい若者に変身したファウストは,美しい町娘マルグリートに恋をする。慎ましいマルグリートは初めはファウストの求愛を退けるが,実はファウストのことが気になっている。悪魔がこっそり置いておいた宝石箱をきっかけに,ファウストとマルグリートは二人きりで散歩をする。
♪「もう遅いですわ,おやすみなさい」とファウストを帰そうとするマルグリート。ファウストは「あなたの顔を見つめさせてください」と歌う。マルグリートも初恋の喜びにうっとりとする。マルグリートは自分と同じ名前のヒナギク(マーガレット)の花を摘み,「愛してる,愛してない…」と花占いをする。「愛してる」と出たので彼女は喜び,ファウストもまた「その花を信じてください」と歌う。相思相愛の喜びにひたる二人。しかし突然マルグリートは強い不安に襲われ,「帰ってください」と言い出す。ファウストは「私の苦しみをわかってください」と訴えるが,マルグリートのあまりの様子に折れて「では明日に」と言う。マルグリートも「明日ならいつでも」と答え,去り際にキスを送る。ファウストは喜んでその場を立ち去ろうとする。
■モーツァルト作曲 歌劇『フィガロの結婚』
歌劇『フィガロの結婚』はモーツァルト三大オペラのうち最も早い1786年に初演された。貴族を痛烈に批判する当時としては危険な内容であったため,初演されたウィーンでの評判はいまひとつだったが,その後のプラハでの公演では成功を収め,後の『ドン・ジョヴァンニ』の作曲へとつながるなど,モーツァルト絶頂期に作曲された最高傑作のオペラ。原作のタイトルである"La Folle joume, ou le Mariage de Figaro"(狂おしき一日,またはフィガロの結婚)も示すとおり,オペラの中ではすべてのストーリーが1日の出来事として描かれる。これは当時のオペラブッファの制約である三一致の法則(一日のうちに,一つの場所で,一つの出来事)に従っているためである。登場人物は脇役まで入れると11人で,オペラの中でも多い部類に入る。このオペラの見所は,何と言っても多彩な登場人物の立場がころころと入れ替わる滑稽さにありる。小姓が突然兵隊になったり,敵だと思っていた人物が両親だとわかったり・・・。各人の感情が目まぐるしく変化を繰り返す中で,ただ一人最後まで何も変わらず騙され続けるのが,仇役のアルマヴィーヴァ伯爵である。
♪この二重唱「ひどいやつだ!」でも,伯爵は騙され続ける。侍女のスザンナが庭での密会を承諾したことに喜ぶ伯爵だが,実はそれもスザンナの作戦だった。しつこく言い寄る伯爵に戸惑いながら返事をするスザンナが,うっかりYesとNoをいい間違え,伯爵を驚かせるなど,二人のやり取りがユニークに表現された一曲である。
■ドニゼッティ作曲 歌劇『ランメルーモルのルチア』
ドニゼッティ作曲のベルカントオペラの最高傑作のひとつ。ロマン派の詩人スコットの小説から題材を得ている。初演は1835年ナポリ。舞台は16世紀末のスコットランド・ランメルモール地方。長年の仇敵同士である二つの地方豪族の一方の当主の妹ルチアともう一方の家の跡取りであるエドガルドとの実ることのない悲劇的な恋の物語である。
ある夜遅く,エドガルドは密かに恋人ルチアを呼び出し,スコットランドへの援軍を頼みに明日フランスに渡ると告げる。長い別れに絶望するルチア。この際兄エンリーコに告白し結婚を認めてもらおうというエドガルドにルチアがまだ秘密にしておいてと懇願すると,彼は憤懣する。
♪ルチアの必死の取りなしで心を鎮めたエドガルドが,神が見ておられるこの場で今から結婚式を挙げようと提案し,二人だけで指輪の交換を行ってひとときの幸福に浸る。出発を急ぐエドガルドにせめて手紙を下さいと悲痛に願うルチア。二人は心を合わせ,どんなに離れていても二人の熱いため息が風に乗って通い合うでしょうと歌いエドガルドは旅立って行く。後の悲劇を予感させる繊細で起伏のある美しい二重唱である。
この後,エンリーコの策略でエドガルドが心変わりしたと誤解したルチアは絶望と混乱のうちに兄の勧める政略結婚を承諾してしまう。既に弱っていたルチアの繊細な精神は,結婚式に乱入したエドガルドから裏切りをなじる言葉とともに指輪を投げ返されたショックで終に崩壊し,初夜の床で新郎を殺し,自分も息絶えてしまう(血染めの花嫁衣裳で歌う狂乱の場はオペラ史上有名な場面)。ルチアの死と最後の様子を知らされたエドガルドは周囲が止めるのも聞かず彼女の跡を追うのだった。
■ベッリーニ作曲 歌劇『ノルマ』
1831年にミラノで初演された,ベルカントオペラの代表作の一つ。舞台は紀元前のローマ帝国支配下のガリア地方。ローマの圧政に苦しむドルイド教徒の巫女長ノルマは,ひそかにローマ総督ポリオーネと愛し合い,2人の子供をもうけていた。ノルマは祖国と恋人の間で思い悩むが,ポリオーネは若い巫女アダルジーザに心を移していた。任期が終わるポリオーネは一緒にローマへ帰ろうとアダルジーザを誘うが,恋愛を禁じられた巫女であるアダルジーザはノルマに相談する。アダルジーザの相手が誰かを知らないノルマはアダルジーザを許すが,そこへポリオーネが現れ二人の女性は同じ相手を愛していることを知る。家に帰ったノルマは子供たちと心中しようと考え,眠っている2人のわが子を殺そうとするができない。
♪ノルマはアダルジーザを呼び出し,自分の子どもを連れてローマに行くように言う。しかしアダルジーザは,「御覧なさい,ノルマ,あなたのいたいけな子供たちを」と呼びかけ,自分は身を引くので子供たちのためにも生きてほしい,と言う。アダルジーザの真心にノルマは揺り動かされ,二人は友情を取り戻す。
■ヴェルディ作曲 歌劇『椿姫』
歌劇「椿姫」は,ヴェルディの中期の代表作で,この作曲家が同時代から題材をとった唯一の作品。原作はA.デュマ・フィスの小説「椿姫」,原題は「La Traviata(道を踏み外した女)」。1853年ヴェネチアのフェニーチェ劇場にて初演された。
舞台は19世紀中頃のパリ。社交界の花として享楽的な日々を送る高級娼婦のヴィオレッタは,不治の病に冒されていた。彼女の館での夜会で出会った地方名士の息子アルフレードの求愛に真実の愛に目覚め,パリの喧騒を離れて共に社交界を離れ,幸せに暮らすヴィオレッタだったが,社会規範や家名を重んじる彼の父ジェルモンから,別れないと娘の良縁が破談になると強く迫られる。激しく拒絶したヴィオレッタであったが,葛藤の末に終には自ら去る決心をする。
♪「命じてください。」「愛していないと言うのです。」「信じないでしょう。」「では,立ち去るのです。」「彼は私の後を追うでしょう。」「その時は…」 どんな方法をとっても彼と別れねばと悲壮な決心をし,死にたいと激高するヴィオレッタに,ジェルモンは「死んではいけない,貴女の愛の犠牲はいつの日か天から褒美を受けるでしょう」と慰める。最後はお互いの幸せを祈り,ジェルモンは立ち去る。
♪「神よ,私に力を与えてください!」 泣きながら,パリでの仮面舞踏会へ出席の返事をアンニーナへ託すヴィオレッタ。アルフレードへの別れの手紙を書いていると彼が帰ってくる。彼は父親がヴィオレッタを訪ねてきたことを知らず,父も君に会えば分ってくれると言い,なぜ泣いているのかと尋ねる。ヴィオレッタは涙の訳を隠して微笑み,アルフレードへの愛を誓って,立ち去るのだった。
この後,裏切られたと思い込んで憤ったアルフレードが漸く真実を知ってヴィオレッタの元に駆けつけたとき,彼女はすでに死の床にあり,彼の腕の中で息絶える。
■プッチーニ作曲 歌劇『トスカ』
原作はフランスの劇作家ヴィクトリアン・サルドゥーが,名女優サラ・ベルナールのために書いた戯曲『ラ・トスカ』。プッチーニによるオペラは全3幕で,1900年にローマで初演された。
舞台は1800年6月,オーストリア支配下のローマ。画家カヴァラドッシは,脱獄した政治犯のアンジェロッティをかくまった罪で捕らえられる。
警視総監スカルピアは,カヴァラドッシの恋人で歌姫のトスカを我が物にしようと企み,彼女の面前でカヴァラドッシを拷問する。
♪「彼を助けて!」と懇願するトスカに,スカルピアは「美しいご婦人には,自分を金で売ったりはしない。私は歌姫への恋に苦しんできたのだ」と言って,トスカの身体を要求する。
追い詰められたトスカはアリア「歌に生き,愛に生き」で,「これまで芸術と信仰に生きてきたのに,なぜ今,このような苦悩をお与えになるのですか」と神に訴えるのだった。
この後,トスカはスカルピアから,カヴァラドッシを空砲による見せかけの銃殺刑とする約束を取り付け,国外逃亡のための出国許可証を手にし,「これでお前は俺のものだ」と言うスカルピアを,食卓にあったナイフで刺し殺す。
一方,“見せかけ”のはずの銃殺刑は,死ぬ前のスカルピアの計略により実弾が込められており,カヴァラドッシは処刑されてしまう。
絶望したトスカも,追手の迫る中,処刑場となったサンタンジェロ城の屋上から身を投げるところで幕となる。
■トスティ作曲 「最後の歌」
フランチェスコ・パオロ・トスティは1846年に生まれたイタリアの作曲家で,歌曲『最後の歌』はフランチェスコ・チンミーノの詩をもとに,1905年に発表された。美しい旋律とは裏腹に,好意を抱いていた女性ニーナの結婚を前に,ひたすら未練を歌うという,現在であればストーカーすれすれの際どい内容の歌詞が歌われる。とはいえ,ニーナへの未練を歌う少し暗いメロディーと,思い出を回想する甘いメロディの対比は非常に美しく,トスティの歌曲の中で最も愛される曲の一つになっている。
■マスカーニ作曲 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」
カヴァレリア・ルスティカーナとは「田舎の騎士道」という意味であり,イタリア・シチリア島のある村で復活祭の日に不倫関係のもつれから起きた決闘と殺人の物語である。
復活祭の朝,村娘サントゥッツァはトゥリッドゥの母ルチアの元へ,トゥリッドゥはどこへ行ったのかと問いに行く。トゥリッドゥは,今は馬車屋のアルフィオの妻である昔の恋人ローラと逢引きを重ねる仲に戻っていたのだった。
♪二重唱では,どこへ何をしていたの?と問いかけるサントゥッツァに対し,トゥリッドゥはしらを切り,くだらない嫉妬は止めてくれと激怒する。
そこへ不倫相手であるローラが登場し,サントゥッツァは怒りをローラにぶつける。
しかしローラは素知らぬ顔で「私は主に感謝し地に口付けるわ!主の救いが貴女達にありますように」と言い,さっさと教会に入る。
その後,ローラに無礼な事を言ったとトゥリッドゥはサントゥッツァに詰め寄り,サントゥッツァは嫉妬に震え,どうか見捨てないでくださいとすがるが,激しい罵り合いとなっていく。最後,サントゥッツァを突き飛ばし,教会へと向かうトゥリッドゥに,「呪われた復活祭になってしまえ!」とサントゥッツァは呪いの言葉を吐く。
その後,サントゥッツァはローラの夫のアルフィオに二人の関係を暴露し,怒り狂ったアルフィオは復讐を誓う。
♪ここで演奏される間奏曲は,復活祭の祈りであり,シチリアの青空のように澄み切った旋律である。ここまでの暗澹たる人間関係や,あとに続く惨劇との落差で,一層胸に沁みる音楽となっている。
そして,トゥリッドゥとアルフィオは決闘になる。「トゥリッドゥが殺された!」という声が聞こえ,サントゥッツァとトゥリッドゥの母ルチアの絶望的な叫びとともに物語は幕となる。