Miscellanea
論文の書き方Tips
この項では、私がこれまで論文にコメントをしてきた経験と、これまで論文にコメントをされてきた経験から、Tipsとして有用そうなものをメモしていきます。
注意:
主に応用ミクロ理論、と呼ばれる分野の研究経験から来るTipsです。他の分野には必ずしも当てはまらない話もあると思います。
私はまだ評判を確立した研究者じゃないので、ちゃんと他の優れた人の意見も聞いてください。
私自身が常に以下のルールを守れているわけではありません。
メモ:
WordかLatexか、いずれを用いて書くにせよ、綺麗な体裁で書く。自分で体裁が整えられない場合はテンプレートなどを活用する。
原則、読み手を苦労させないように書く。具体的には、以下のようなルールに従ってみる。
数式を入れすぎない。自然言語で議論できる箇所は自然言語にする。
モデルセクションを5ページ目までに見せられるように、イントロを工夫して短くする。
最初の主要な結果は遅くとも15ページ目までに見せられるように、導出などのプロセスをうまく工夫して書く。場合によっては導出そのものをAppendixにやる。
読者が前後を何度も行き来する必要がないような、まっすぐな構造の書き方をする。
脚注をむやみに入れない。重要な情報は絶対に脚注に書かない。
イントロの構成は、
モチベーション
リサーチクエスチョン
分析方法
結果
インプリケーション
新規性・重要性・貢献
など、研究成果を人に説明するための重要な構造がわかるように書く。
関連文献のセクションでは、調べた研究をただ並べるのではなく、自分の研究の新規性と重要性・貢献を議論する。
新規性は、設定・分析・結果のいずれかで関連研究と違っている点を明確にする。
重要性や貢献は、新規性によってどのような意味のある結果が得られたか議論する。
モデルセクションでは、まず設定を明確にする。
設定・議論・分析を行き来しない。あくまで設定を書く。議論や分析はできるだけ別の場所で書く。
設定では、「プレイヤー」・「行動」・「利得」・「情報」・「タイミング」・「均衡概念」などが区別できるように構造化して書く。
複数のモデルを比較するような論文では、どのモデルの話をしているのか区別できるように構造化して書く。
分析のセクションでは、不必要な数式を載せない。必要な数式はちゃんと載せる。例えば、数式がないと理解しにくい議論がある時にのみ数式を載せる。数式がないと理解しづらい議論をわざわざ載せる必要があるかも考える。
命題は自然言語で書く。厳密性のために必要な場合には数式を添える。
何度も読み返し、何度も改訂する。
よく書けている論文のリストを自分の中に作っておいて、迷った時に参考にする。
何度も改訂するとよく分からなくなるので、ある程度煮詰まってきたら人に見てもらう。
資料:
The Craft of Research 研究の仕方というのを少し俯瞰して考えてみたい人はどうぞ
A Manual for Writers 論文執筆全般に関する作法が全てまとまっているので、何も持っていない人はとりあえず持っておくべき。
The Elements of Style 英作文の本のmust-readとしてよく紹介される。
English for Writing Research Papers アカデミックな論文を書くときの英語を改善するためのTipsがたくさん書いてある。
Writing Mathematical Papers in English 論文で数学的表現を行うときの英語の使い方。
LaTeX2ε美文書作成入門 Latexの使い方に自信がない人は持っておくと良い。
論文の探し方Tips
特定分野に関心があって、信頼のおけるテキストがある分野なら、教科書を読んでみる。
Economics, [キーワード], textbookなどでググってみると出てくる。
教科書も質がピンキリなので、自分で判別できないうちは、著者の業績がしっかりしているか、MIT Press, Cambridge University Pressなどの信頼のおける出版社から出ているか確認してみるとよい。
産業組織論ならTirole (1988)、Vives (2000)、Belleframme and Peitz (2010)などが代表的。
より細かいトピックに関心がある場合、レビュー論文や展望論文を読んでみるのもよい。
Handbookシリーズ(Handbook of Industrial Organizationなど)の章を見てみる。
Journal of Economic Perspectives, Journal of Economic Literature, Annual Review of Economicsなどのレビュー論文ジャーナルを漁ってみる。
個別の論文を探す場合は、ジャーナル論文、国際学会で報告されている論文、プレプリントの論文などをキーワード検索する。
検索に際してはGoogle Scholarが便利。
どのジャーナルがまともか判別できないうちは、RePEcのジャーナルランキングで300位以内くらいに載っているジャーナルに絞ると良い。細かいランキングの数字自体はあまりアテにならないので要注意。
産業組織論の場合、RAND Journal of Economics、Journal of Industrial Economics、Journal of Economics and Management Strategy、International Journal of Industrial Organizationが定評のあるフィールド誌。