第19回動的語用論研究会
なお、龍谷大学では、インターネット接続は、eduroamがありますので、アカウントをお持ちの方は、接続が可能です。
事前申込みをいただいた方には、10月4日(金)までにZoom情報をお送りいたします。10月5日(土)までにzoom情報が送られない場合は、以下までメールにてご連絡ください。
秦かおり( hata.kaori.hmt@osaka-u.ac.jp )
【プログラム】(開始時間がいつもより1時間遅くなっておりますのでご注意ください)
趣旨説明と講師紹介: 1:50 p.m.~2:00 p.m.
田中廣明(京都工芸繊維大学・名誉教授)
【テーマ】「ことばのダイナミズムの本質に迫る:周辺から核心へ」
第一部【研究発表】(使用言語:日本語)
2:00 p.m.~2:50 p.m.
平尾 恵美(舞鶴工業高等専門学校)
「insubordinationの選択と振る舞いに関する一試考 」
(10分休憩)
第二部【講演】(使用言語:日本語)
3:00 p.m.~4:00 p.m.
村田 和代 (龍谷大学)
「コロナ禍の語りにみられる『分断』―マクロからミクロへ 」
(10分休憩)
第三部【特別研究会 】(使用言語:日本語)
4:10 p.m.~5:40 p.m.
Levinson (2024)を読もう:
日本語解説:田中 廣明(京都工芸繊維大学・名誉教授)
コメンテーター:西田 光一(山口県立大学)
対象本:Stephen C. Levinson (2024) The Dark Matter of Pragmatics: The Known Unknown (Cambridge UP)(昨年(2023年)のIPrAでの会長講演を本にしたものです)
https://www.cambridge.org/core/elements/dark-matter-of-pragmatics/D1982FE5FE9E5E60F1ADA27F797B114A
からフリーでダウンロードできます。60ページほどです。会長講演は、以下のYoutubeで見られます。
https://www.youtube.com/watch?v=eanwrpVYqLg&t=1940s
(解説(50~60分)+コメント・質疑応答 (30~40分))
連絡先:田中廣明(京都工芸繊維大学・名誉教授)
(h-tanaka ::: js3.so-net.ne.jp(:::をアットマークに変えて送信して下さい)
世話人兼発起人:田中廣明(京都工芸繊維大学・名誉教授)・秦かおり(大阪大学)・吉田悦子(滋賀県立大学)・山口征孝(神戸市外国語大学)・岡本雅史(立命館大学)・小山哲春(大阪教育大学)・木本幸憲(兵庫県立大学)・西田光一(山口県立大学)・五十嵐海理(龍谷大学)
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【お知らせ】
田中廣明・秦かおり・吉田悦子・山口征孝(編)(2019) 『動的語用論の構築へ向けて(第1巻)』(開拓社)、田中廣明・秦かおり・吉田悦子・山口征孝(編)(2020) 『動的語用論の構築へ向けて(第2巻)』(開拓社)、田中廣明・秦かおり・吉田悦子・山口征孝(編)(2021) 『動的語用論の構築へ向けて(第3巻)』(開拓社)を刊行しました。詳しくは、開拓社、アマゾンのサイトをご覧下さい。
日本語用論学会第20回記念大会(2017年12月16日(土)17日(日)・於・京都工芸繊維大学)において、「動的語用論の構築へ向けて―共通基盤化(grounding)の実際を例証する―」と題してワークショップ(田中廣明(京都工芸繊維大学)・吉田悦子(三重大学)・秦かおり(大阪大学)・山口征孝(神戸市外国語大学))を行いました。詳しくは、日本語用論学会第20回大会発表論文集第13号(Proceedings of the 20th Conference of the Pragmatics Society of Japan)のpp. 287-306にまとめてありますので、ご参照ください。
また、東アジア(中国、日本、韓国)の語用論の状況をまとめた書籍:East Asian Pragmatics: Commonalities and Variations, (2022) Ed. by Xinren Chen, Doreen Dongying Wu, London: Routledge(Chap. 3:Indigenous pragmatic research on Japanese)にもDynamic Pragmatics (Hiroaki Tanaka)の紹介がありますので、ご覧下さい。
発表要旨
1. 「insubordinationの選択と振る舞いに関する一試考」
平尾 恵美(舞鶴工業高等専門学校)
従属節とは、その名が表すように、主節に対して従位の関係に立つ節のことを指す。ところが、実際には従属節が単独で用いられることも珍しくない。勿論、単純に主節が省略されているケースもあるが、街で知人のMaryに偶然出会って言うIf it isn’t Mary!(「メアリーじゃないか!」と驚きの感情を表出する)のように、単純な主節の省略を超えた、「従属節の慣習化された主節用法」つまりinsubordinationも存在する。本発表では、英語のinsubordinationを中心に、実際の会話場面においてinsubordinationが選択される場合(と、されない場合)に着目し、insubordinationが動的な会話の流れの中でどのように振る舞うかについて考察する。
発表の前半では、発表者のこれまでの研究から、insubordinationが、主節と従属節で構成される文や単純に主節が省略されているケースとは、(連続的でありながらも)明確に区別されることを示す。加えて、insubordinationにはタイプ(構文)に応じて種々の語用論的な機能(感情表出や申し出など)があることを述べる。
発表の後半では、分析データを実会話に絞り、insubordinationの振る舞いについて議論する。ある発話内行為を遂行したい場合、その遂行手法はinsubordinationに限られない。その中で敢えてinsubordinationを選択する(あるいは選択しない)ことによって、会話がどのように進められているかを考察する。従来の研究ではinsubordinationそのものに焦点を当てることが多かったが、発表者は本発表を、会話の流れという大きな枠組みにおけるinsubordinationの役割を考える試みの始点として位置づける。
参考文献
Evans, Nicholas (2007) Insubordination and its Uses. In Nikolaeva, Irina (ed.) Finiteness: Theoretical and Empirical Foundations, 366--431. Oxford: Oxford University Press.
Evans, Nicholas and Honoré Watanabe (2016) The Dynamics of Insubordination: An Overview. In Evans, Nicholas and Honoré Watanabe (eds.) Insubordination,1--37. Amsterdam: John Benjamins.
(参考) https://researchmap.jp/e.hirao
2.「コロナ禍の語りにみられる『分断』―マクロからミクロへ」
村田 和代 (龍谷大学)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、私たち自身や他者に対する見方を大きく変えた。パンデミックによって生じた目に見えない社会的な分断は世界中で観察され、これらについては様々なメディアでも取り上げられた。本発表では、パンデミックについての語りの中で、「どのような社会的分断が」「どのように語られているのか」を考察する。
発表の前半では、現在取り組んでいる共同研究について紹介する。RQを「全世界レベルの災害の中で日常を生きる若者たちが、パンデミックについて『何を』『どのように』語り合うのか」とし、相互行為研究の多様なアプローチを用いて、量的・質的双方から動的・多層的に考察するものである。COVID-19についてのZoomによる初対面ペア会話を6言語で180会話を収録したデータを共有して研究を進めている。
発表の後半では、日本語データに着目し、量的分析結果とも関連付けながら、相互行為的社会言語学(Holmes, 2008)の分析枠組みを採用し、アイデンティティ構築 (Marra and Angouri, 2011)の観点から、語りに見られる分断が相互行為の中でどのように構築されるかを考察する。
参考文献
Holmes, J. (2008). An introduction to sociolinguistics. 3rd ed. London: Longman.
Marra, M. and J. Angouri (2011) Constructing Identities at Work, Basingstoke: Palgrave Macmillan.
(参考)https://researchmap.jp/KazuyoMurata
3. Levinson (2024)を読もう:
日本語解説:田中 廣明(京都工芸繊維大学・名誉教授)
コメンテーター:西田 光一(山口県立大学)
対象本:Stephen C. Levinson (2024) The Dark Matter of Pragmatics: The Known Unknown (Cambridge UP)
2023 年に開催された IPrA (国際語用論学会: 18th International Pragmatics Conference in Brussels, on Wednesday 12 July 2023)での、Stephen C. Levinson 氏の会長講演では、従来、現在、また今後の語用論が進む(進んできた)道筋について、重要な指摘をしている。この特別研究会では、その講演を簡潔にまとめた上記The Dark Matter of Pragmatics: The Known Unknown をとりあげ、我が国おける語用論の今後を考えていく上での端緒としたい。
氏は、The Dark Matter of Pragmatics と題し、天体物理学から借りたダークマター(暗黒物質)と言う用語を語用論に模した講演を行っている。ダークマターは、我々が直接その存在を確認できるものではない。同様に、我々は語用論のほんの一握りの「目に見える(visible)」部分しか確認できておらず、残りはいわば「語用論のダークマター」とされる部分であるとする。
ここでは、我々の発話機構の持つ発声上のボトルネック(bottleneck)に注目し、それ が障害となり、「(話し手が)最小に発話し、(聞き手が)最大に復元する」というアンバランスを生むとする。そのボトルネックを解消する「秘訣(trick)」 を5 つ 取り上げ、それぞれの秘訣に関する項目で未解決な問題を「知られているが未解決」,すなわち「既知の未知(known unknowns)」 として、語用論の持つ問題点と今後の可能性を指摘している。また,今後の研究について、ダークエネルギーになぞらえ、ヒューマン・コミュニケーション全体の謎に迫っている。
氏は、この会長講演の最後に “We are still too much in thrall to 50-year old[dated] theory ― I look forward to a renaissance of theoretical work, which will come from YOU! Over to you the next generation!” (私たちは、50 才にもなる、古くさい理論に依然として「奴隷」にとらわれすぎているのです。私は、理論的な仕事のルネッサンスを期待し、それは「皆さん」からなのです。次の世代の皆さんに渡します)と、(発表者から見ると)いわば檄を飛ばしている。50 才とは、Grice 理論、関連性理論なども、誕生以来 50 年を過ぎていることを指している。(お時間があれば、上記サイトでyoutubeを視聴、あるいは、この本をお読みください)。
さらに、本研究会の趣旨である、動的な言語使用に関わる部分も指摘し、議論したいと思う。