歪んだ殺意

歪んだ殺意

これは日本では未公開か。1987年と言うと、オリヴィア・フッセーの頃か。私は「スペースバンパイア」を見た後スティーヴ・レイルズバックの出演作をできる限り集めたが、ハッセーとの共演作はこれも含め三本持ってる。意外と共演している。二人とも小柄なので釣り合いが取れるのか。IMDbだとレイルズバックは178センチ、ハッセーは157センチになっている。レイルズバックはもっと低いように見えるが。オープニングの音楽は「メトロポリス」(短くて音楽つけ直した方ね)に似ている。電子音楽ってやつ。内容は日本のいわゆる2時間ドラマそのまんま。美しい未亡人、夫にかけられていた高額の保険金、出没する謎の男、ヒロインの暗い過去、夫は本当に死んだのか。チャンチャンチャーン!エイミー(ハッセー)は突然刑事の訪問を受ける。夫のジェイソン(エドワード・アルバート)の乗った車が崖から落ちて燃えたと。遺体は黒焦げなので歯科医院のカルテで確認するしかない。妙なことに夫は死の直前男と性交渉を持っていたとのこと。エイミーは呆然とするばかり。葬式の時、ジェイソンの友人だというスコット(レイルズバック)が声をかけてくる。叔母のマーゴ(パイパー・ローリー)が現われ、エイミーに自分の家に来るよう勧める。ローリーは「キャリー」の異様な母親役が印象的だったが、あれ以来こういう役が多いのかな。「ストーリービル」も異様だったし。マーゴはすべてが芝居がかっている。仰々しいベールを垂らし、まがまがしいムードをあたりにまき散らす。エイミーは過去に精神を病んだことがあるらしく、マーゴは心配している。しかしどう見たって病んでるのはマーゴの方。何かを企んでいるとしか思えない。彼女はエイミーに誰かが近づくのをいやがる。ジェイソンのことも嫌っていたが、保険に入るよう勧めたのは彼女。ジェイソンは仕事に行き詰まっていたらしい。しかし何の仕事をしていたのかは不明。と言うか、見ている人は誰もジェイソンが死んだとは思っていないだろう。顔の判別できない死体イコール本人じゃない。冒頭わざわざ別の、(ホモの)男性見せるし。死体が彼だって暗示(明示?)してるようなもの。アルバートは「ローマの休日」などで知られるエディ・アルバートの息子。エディは大昔「農園天国」というテレビシリーズに出ていた。

歪んだ殺意2

エドワードの方は若くして・・55歳くらいで亡くなったらしい。見ていてもこれと言って魅力がなく、印象に残らない。エイミーの親友ケリー役ジューン・チャドウィックは金髪でなかなかの美女。若い頃のジェームズ・スペイダーによく似ている。ケリーはマーゴが嫌いで、エイミーを支えてくれているが、彼女には裏がある。裏があると言えば出てくる人のほとんどに裏があるんだけどさ。夫の死後エイミーのまわりで妙なことが起き始めるが、とにかくくり返しが多い。電話をかけようとする、ブラインドのすき間から何度も外を覗く、部屋から逃げ出す、部屋におそるおそる戻る、窓から外を見る、外から窓を見上げる、外に誰か立ってる、外に誰も立っていない。この頃の映画らしく喫煙シーンも多い。何かあるとタバコ、何もなくてもタバコ。ありきたりなセリフがかわされる。「誰かいるのよ」「確かにいるのよ」「また始まったのね」「助けてあげる」。ハッセーファンにはうれしい映画だろう。ほとんど出ずっぱり。87年というと30代半ばだが、すっきりと短い黒髪が清潔感を感じさせる。顔もすっきりしている。着ているものはわりとゆったりめのが多い。たぶん体つきは顔ほどすっきりしていないのだろう。ところでシャワーシーンを見ていてびっくりする。ガラス越しだからヌードと言ってもはっきり見えないのだが、髪の長さが違うのだ。こんな別人とバレバレの映像何で使うのかいな。エイミーは本当に妙なことが起きているのか、それともマーゴが言うように精神の病気が再発したのか混乱する。正直言ってマーゴのことは好きではないが、自分の病気のせいで長い間苦労をかけたことに負い目を感じている。あまりすげなくできない。ケリーが泊まりに来てくれたのはうれしいし、スコットと会うのも気が休まる。電話で桟橋に呼び出され、男に追いかけられたが、スコットが追っぱらってくれた。スコットも彼を目撃したということは、男は実在するということ。自分の気のせいではないのだ。マーゴはケリーやスコットが邪魔だ。スコットの身元を調べたようだが、エイミーにははっきり言わない。実際はスコットも怪しい男ポールも保険会社の調査員。高額なので詐欺ではないかと疑っている。ジェイソンは本当に死んだのか。エイミーもグルではないのか。今のところ一番怪しいのはマーゴだ。エイミーからマーゴに金が流れそうだ。

歪んだ殺意3

そのうちエイミーはマーゴによって薬漬けにされる。動けないエイミーを前に、酔って本音を吐く。彼女は家を相続したものの、維持費がかかって仕方がない。エイミーの世話のせいで時間も金も無駄にした。だから保険金をいただくと。実はエイミーは薬を飲むふりをして、スキを見て吐き出し、隠していた。今なら”水なしで飲めます!”とか”すぐ溶けます!”とか薬も進化しているけど、この頃は大丈夫ってか?やっとのことで抜け出し、近くの雑貨店に逃げ込み、店主のミルドレッドに助けを求める。しかしミルドレッドはマーゴとグル。ヤケド男のマスクをかぶってエイミーをおびえさせていたのは彼女。店にいた若者三人もエイミーを取り押さえるが、この三人もグルなのかな。パジャマ姿で飛び込んできてわけのわからないことを叫ぶエイミーはどう見たって病人。ミルドレッドが病人を家に戻すだけと説明し、三人が納得する方が筋が通る。若者を仲間に引き入れるのは危険すぎる。ケリーが誰かに電話かけてるシーンもまずい。「(怪しい男は)ジェイソンじゃないのは確かよ」・・そんなこと言うわけないでしょ、電話の相手はジェイソンなんだから!!それともスコットに電話しているのだと見ている者に思わせたかった?連れ戻されたエイミーはベッドに縛りつけられるが、難なくほどき、地下室へ。そこで過去を思い出す。幼い頃、パパがママを殴った・・と覚えていたけれど、その後でママがパパを刺し殺したのだ。それを目撃してしまったために長く治療を受けるはめになったのだ。一族には精神異常の血が流れていて、母親は狂っていた。地下室には布のかかった椅子があって、それを取りのけると現われたのは・・ここらへん「サイコ」のパクリ。さらにとどめとしてヤケド男も現われ、エイミーの恐怖は絶頂に。もちろん見ているこっちは笑いこらえてますが・・。すでに地下室に忍び込んでいたスコットがマスクをはぐとミルドレッドで。後ろから襲いかかったのはマーゴ。ナイフをかざして・・ってここも「サイコ」かよ。でもスコットに撃たれてあえなく絶命。目だけうつして死んだと表現。まあ生きてる時からどんよりとした生気のない目してましたから。肌は不自然なほど真っ白けっけ。何か塗っているのかな。顔だけでなく胸も白。たいてい胸の谷間見せてる。

歪んだ殺意4

ハッセーのなら見たいと思う人いるだろうが、こんな真っ白けっけオバハンの谷間なんか見たいかよ。解剖を待っている死体みたいじゃん。夜中にエイミーのところへ来た時の格好にはぶったまげる。白くてサラサラの、シュミーズみたいなのを着ていて、夏の暑い時とかそういうの着ている人もいるけど、彼女のは腕のところに毛足の長い・・毛皮みたいなのがついていて、どう見たって寝巻には不自然。しかもお化粧ばっちり。でもまあとにかくマーゴは死に、エイミーは200万ドルの小切手を受け取る。スコットとはデートでいいムードになったりするが、邪魔が入ったりして結局は何もなし。彼が調査員と知っても、自分も疑われていたと知っても、さほどショックも受けていないようで。さらりと別れて、過去を振りきり、未来へ向かって一歩を踏み出して終わり・・かと思ったら、まだ続く。エイミーはメキシコへ。着いた家で待っていたのはジェイソン。彼が出てきても誰も驚かない。やっぱりね~。ジェイソンとエイミーで仕組んだ保険金詐欺。身代わりとして選んだのはゲイリー・ウォーカーというホモの男性。二人には腕に同じ柄の刺青があるが、何も説明されない。身元確認の時も刺青のことは何も言ってなかった。それにしてもこの名前は・・ウォーカー・ブラザーズのファンとしては複雑ですぅ。エイミーはジェイソンと連絡を取るような愚は犯さず、じっとがまんしていた。それと、身代わりのこととか詳しいことは聞かされずにいたはず。何も知らない方が警察や保険会社に対し、自然な態度が取れる。とは言え、夫は身代わりを仕立てることに首尾よく成功したのだろうか。もしかして本当に死んじゃったのじゃ・・。マーゴならやりかねない。確かめたくても確かめられない。誰が見ているかわからない。だからジェイソンが無事なのを知って安堵する。ジェイソンはもう存在せず、今の彼はゲイリーだ。メキシコで二人は出会い、共同名義で口座を作り、200万ドルはそこへ・・。ところが・・電話がかかってくる。ケリーからだ。待ちきれなくなったのだ。エイミーはすぐ気づく。ジェイソンとケリーはグルなのだ。メキシコへ来たエイミーは心が晴れず自殺するのだ。そうすりゃ金はゲイリーのもの。たぶんこういう計画だろう。逆上したエイミーはジェイソンを刺し殺す。母親と同じことをしてしまう。と言うか、まな板やレモンなどと一緒にナイフがうつった時点で予想つくけど。

歪んだ殺意5

そこへ現われたのがスコット。さあどうなる?もちろんスコットも金目当て。調査しているうちに死体がジェイソンではないことに気づいた。歯科医院に勤めているケリーがカルテを入れ替えたのだ。入れ歯のこと言ってたけど何のことかいな。すでに死んで埋葬されているジェイソンを殺したって何ていうこともない。彼がジェイソンだと知ってるのはエイミーとスコットだけ。いやいや、ケリーも知ってますぜ。とは言え彼女はたぶん何も言わないだろう。へたに騒げば殺人や詐欺に協力したのがバレちゃう。感じがよくて味方と思えたけど、実は金目当てというのは「ダイヤモンド・アイ」と同じだな。この後どうなるのかは不明。エイミーの呆然とした表情のアップで終わり。したがって我々は頭の中でその先を続ける。警察に自首するなら別だが、このままでいたいと思うなら、エイミーはスコットに協力してもらうだろう。ジェイソンの死体の始末は彼女には無理だ。それにしても・・ジェイソンを刺し殺したというのに、エイミーの真っ白な服には一滴の血もついていない。いくら何でも不自然だ。クリーニング代をケチったのか。話を戻して、スコットは死体を船に運び、身元がわからなくなるようにしてから、沖合に捨てるだろう。金は山分けし、別れればいい。どっちかが欲を出せばまた殺しが起きる。エイミーがマーゴの家にいたのは、保険金が下りるまでの時間稼ぎだったのだとわかる。金が下りるまではマーゴはエイミーを生かしておくだろう。彼女の異様な言動はかえっていい目くらましになった。そう、エイミーはああ見えて実はかなりのしたたか者なのだった。同情しながら見ていた視聴者は裏切られる。ラストの彼女を見ても、誰も気の毒とは思わない。てなわけで、決して出来のいい作品ではないものの、まあまあ楽しめる。特に私のお目当てはレイルズバックなので、若くてさっぱりした感じの彼を見ることができてうれしかった。映画サイトでは105分になっているが、実際に見てみると98分くらいしかない。ビデオ化にあたってカットしたのかしら。そのせいでいろいろ説明不足になっているのかしら。まあいけど。