悪魔が来りて笛を吹く
これは五回もあるので、見るのが大変。ゆったりとした作り・・と言えるが、見ている間中ここはいらない、ここは長すぎる・・と思いっぱなし。四回にできるよ。原作はくり返し読んでる。今回もまた読んだ。内容頭に残ってるうちに感想書かないと・・。テレビの方は大昔見てかなり印象に残った。それは大部分沖雅也氏のせいだけど。79年に映画化された時は期待したけど、西田敏行氏の金田一は違う気がした。テレビで放映されたのを見たら、何から何まで何じゃこりゃ・・だった。こっちのテレビシリーズの方がよっぽどマシ。昭和22年、天銀堂という宝石店で大量殺人が起きる。衛生局を名乗る男に伝染病の予防薬なるものを飲まされ、10人が死亡、三人が重体。その間に男は宝石を奪って逃走。モンタージュ写真が新聞に出ると、密告状が届いて元子爵椿が事情聴取を受ける。彼はモンタージュ写真にそっくりだった。そのうちアリバイが成立して釈放されるが、ほどなく失踪。信州で遺体が見つかる。自殺と思われるが、なぜかその後椿らしい人物が出没。娘美禰子が金田一に調査を依頼する。この作品のキモは、椿の妻あき子(漢字が出てこん・・)の狂い咲きのような美しさ、怪しい色香である。それ以外のキャストは順当である。気が弱く、潔癖な椿は江原真二郎氏。生真面目で、堅い感じの美禰子は壇ふみさん。あき子の兄で、すべての元凶、利彦が長門裕之氏。その妻で、いつもおどおどしている華子が岩崎加根子さん。その息子で、父親とは似ても似つかぬ誠実な一彦が星正人氏。年を取ったとは言えキレ者で、油断のならない玉虫元伯爵が加藤嘉氏。その妾で、開けっぴろげな性格の菊江が中山麻理さん。あぶらぎって精力的な目賀博士に観世栄夫氏。あき子を今でもねんねえの小娘かのように大事に扱う信乃が原泉さん。よく働き、彼なしでは一日もやっていけないほど重宝な(・・つまり当時のようなヤミ全盛時代では、世間知らずでお上品な華族様は手も足も出ないのだ)三島が沖氏。他に女中のお種が白石幸子さん。お種は椿が妻や義兄、元伯爵らにないがしろにされてるのが悔しくてたまらない。
悪魔が来りて笛を吹く2
このように皆これ以上ないくらいのはまり役なのだが、肝腎のあき子役草笛光子さんだけは・・何だか違う気がするのだ。演技のうまい人が上手に演技しているという感じ。やや肥り肉とか、いちま人形のようなとか、甘ったるい声とかいうのは原作通りなのだ。でも・・何か違う。何とも言えない変てこな感じが草笛さんにはない。変てこなように見せることはできても、その底に正常さがどうしてもある。ラストで正常に戻る、その下地がある。この点だけは映画の鰐淵晴子さんの方がいい。そこだけ別の世界のような変てこさは十分あった。さて・・玉虫、利彦・・次々に殺人事件が起きる。天銀堂事件の時、椿は須磨へ行き、さらに淡路へ渡っていたのだが、そこでも妙海尼が殺される。金田一は犯人に先を越されてばっかり・・。天銀堂事件の犯人で、妙海尼を殺し、椿の身代わりも務めていた飯尾という男も死体で見つかる。さらには目賀博士も。彼は原作では死なない。それまではほぼ原作通りの流れで来ていたのに、終わり近くになると変更が目立ってくる。作り手の意図はわかっている。それまでは情欲に溺れ、自分というものがなく、愚かだったあき子が、突然変身する。光り輝くような聖母、慈母になり、美しく死ぬ。どうやって死んだのかは不明。ウ~ム、またかよ。性女として生まれ、性女として生き、性女のままで死ぬのでいいじゃんよ。どうして直前になってわざとらしく改心するのかよ。それまでだっていくらだって機会があっただろうに。目賀が殺されるのは、あぶらぎった愛人である彼がいたのでは、あき子が聖女になれないからだ。原作では彼女は極度のショック、恐怖、混乱のうちに犯人が薬に仕込んだ毒によって悶死する。彼女は母性愛に目覚めたりしないし、反省も悔恨もなし。真実に向き合う代わりに、大急ぎで逃げ出す。そして死ぬ。最後まで愚かで、そして哀れ。犯人の復讐はついに完結。テレビではそれらしきメロディーがじょうじょうと流れ、どうだ泣けるだろ泣かぬかこら作戦が延々展開される。たぶん今の人はウルウルするより笑っちゃうのでは?三島こと治雄に関しては、あれだけではわかりにくいと思う。
悪魔が来りて笛を吹く3
こんなに時間に余裕があるのなら、もっと彼のこと描写すればいいのに、あき子達のわざとらしい濡れ場を延々と・・(見たくねえ!)。植辰の息子として育ったけど、いつしか実子ではないことに気づいたこと。おこま(後の妙海尼)、小夜子母子と仲良く付き合い、小夜子と結婚するつもりだったのに、治雄の背中にあるアザを見たとたんおこまの態度が変わり・・猛反対するようになったこと(実は治雄は利彦とあき子の間に生まれた子。小夜子とは異母兄妹になる)。いきなりぽこっと治雄という名前が出てきて・・あれじゃあ原作読んでない人にはぴんとこない。小夜子は自殺したことになっているが、出川刑事は、彼女は実は生きていて、椿家へ入り込み、復讐して回っているのではないかと思っている(昔玉虫の別荘で利彦がおこまを手込めにして生まれたのが小夜子)。年齢や美しさから言って、当てはまるのは菊江とお種。この部分もテレビには出てこない。それでいて菊江やお種の思わせぶりなシーンだけは入ってる。見てる人は、結局あの二人の妙なそぶりは何だったの?・・と、不思議に思う。あと、母親と目賀のあさましい姿に怒り、苦悩する美禰子の描写もなかったな。それにしても植辰に植松、おこまにおたま、伯爵に子爵、風神と雷神・・何かこんがらかるようなものばっか出てくるな。沖氏は残念だったな・・いったい何があったのかな。でも若くして亡くなったからこそ、こうやって美しい姿だけが残る。治雄の苦悩を余すところなく演じ切り、大熱演。本シリーズで一番印象に残ってるのが実は彼。身元がばれる前の、せっせと働くシーンもよかった。金田一は相変わらずだ。髪をかきむしるのも、度重なるとうんざりだ。今回も誰一人救うことができない。まあ探偵だから謎を解明するのが仕事、人命救助が任ではないと承知している。でもそれにしたって無能だよな。いつも通り日和が出てくるが、彼が原作の等々力の代わりかと思ったら、等々力もちゃんと出ていた。演じているのは早川保氏。出川刑事は森次晃嗣氏。他に三島千恵子さん、児島美ゆきさん、吉田義男氏。何と言うか・・豪華キャストだし、みんなちゃんとしている。製作年度が新しくなればなるほど出演者に重みがなくなり、学芸会になってしまうのはなぜなんだろう・・。
悪魔の手毬唄
こちら五回の予定が六回になったそうで。時間に余裕があるから、かなり原作に近い。原作通りというのは見ていても楽しいが、四回目あたりから引き延ばし感が出てくる。磯川ではなく、日和警部が出てくる。長門勇氏がいい味出してる。リカ役は佐藤友美さんで、大柄でどことなく垢抜けているのは原作のイメージに近い。ただ、息子の歌名雄役高岡健二氏、娘里子役池波志乃さんとのバランスは悪い。若過ぎて親子に見えない。池波さんは意外な配役。アザの量が少な過ぎる気も。文子と泰子は原作とは逆のイメージ。美人で、それを自覚しているような泰子。でも、ここでの彼女はややもっさりしていて、どちらかと言えば文子のイメージ。文子の死に様は、2時間ドラマや映画のようなハデな仕かけではなく、原作通り。歌名雄が泰子の遺体を抱いて慟哭するシーンでは、抱えているのが人形に見えて仕方ない。ゆかり役は夏目雅子さん。リカや里子をいやに意味ありげにうつすので、原作を知らない人にも展開は読めてしまう。泰子と老婆を目撃した里子は、それまでかぶっていた頭巾をはずし、素顔をさらけ出す。母への一種の警告である。また、文子を家まで送るのは、母が手を出さないようにするためだ。それにもかかわらず文子は殺されてしまったけれど。金田一は何のために出ているのかわからない。髪をかきむしり、顔をゆがめているだけ。あらかた殺されてしまってから謎解き。時々女性の声でナレーションが入るが、余計である。もし入れるのなら金田一の声の方が自然だ。泥まみれの犯人の死体が沼から引き上げられ、それが母であると知った時の歌名雄の驚きと嘆き・・ここらへんは原作通りで、よかったと思う。謎解きにも時間をかけているが、そのわりには触れられない部分もあり、物足りない気も。例えば源治郎の女出入りにはリカも手を焼いていたこと。金持ちだったのが没落し、そのせいで物事を斜めに見るようになった放庵。殺人のようなことはしないけど、現場に細工はしそうなところ。自分の夫と懇ろになった女達へのリカの復讐心。事件が終わってから金田一や日和がリカを弁護していたけど、あんまりねえ。娘を殺されて悲嘆にくれる人々に何食わぬ顔で接し、その間にも次の殺人計画を練っているんですぜ。同情できます?
犬神家の一族
五回だから描写はていねい、展開はゆっくり。四回目あたりからだらだらし始める。豪華キャストだし、ロケもセットもちゃんとしている。印象深い主題歌が流され、古谷一行氏の金田一はまだういういしい。松子が京マチ子さん、竹子が月丘夢路さん、梅子が小山明子さん、古館弁護士が西村晃氏、署長橘がハナ肇氏、佐兵衛が岡田英次氏、佐清・静馬が田村亮氏、佐智が松橋登氏、佐武が成瀬正(正孝)氏。映画と比べても遜色のない豪華さ。例外は珠世役四季乃花恵さん。いや別にけなしているわけではない。演技力や宝塚という話題性でいける・・と思ったんだろう。でも珠世はこういう地味で、どこにでもいるタイプじゃない。ものすごい美人でなければならないのだ。正直言って小夜子役丘夏子さんの方がきれいだ。内容の変更はどの作品も似たり寄ったり。佐兵衛の魔力が死んだ今でも松子に影響及ぼす・・というのだけはやめて欲しいけど、今回は竹子や梅子まで影響されていたな。佐清の仮面は映画版とは違い、能面風。鼻のところ穴開いてたっけ?そればっか気になって・・。田村氏は大昔「吸血蛾 美しき愛のバラード」に出ていたな。テレビ化されたと知った時は大いに期待したけど、原作とは似ても似つかぬストーリーで、大はずれだった。そもそも金田一が愛川欽也氏ってアンタ・・。話を戻して、絶世の美女だの数十億の遺産だの、そんな手の届かない世界の話なんてどうでもいいんだよな。金田一が泊まる那須ホテルの女中キヨちゃん(井上聡子さん)は、小太りのイモねえちゃん。珠世とは月とスッポン。でもせっせと元気に働き、何の心配もなさそうだ。何だか素朴な彼女が一番印象に残った。琴の師匠菊乃は省略され、松子の犯行もご都合主義。佐智が珠世を連れ込んだ場所がどうして彼女にわかるのか。殺した静馬を湖に逆さに突き立てるほどの力持ちなのか。まあ張りぼてだから軽かっただろうが(静馬の死体、佐武の生首、いずれもひどい出来)。ラスト、東京で働くことにしたと言う珠世。数十億の財産はどうするの?原作だと小夜子は佐智の子供を宿しており、松子は財産の半分をその子に譲るよう頼むことで、竹子や梅子への罪滅ぼしをするけど、そんな気配りもなかったな。ま、どうでもいいんですけどさ。半分くらいは着物の宣伝みたいだったし。
仮面劇場
四回だが、二回でもいいような内容。ものすごい水増しで、犠牲者は原作の三人に対し、八人。景気よく殺されるが、そのぶんつじつまは合わない。しかも原作にはないどんでん返しがあって、それで一気に解決するどころか、ますますつじつまが合わなくなってしまった。瀬戸内海の船の上で、金田一は美しい富豪の未亡人大道寺綾子(司葉子さん)と知り合う。連続殺人と同じくらい、この綾子と志賀(池部良氏)のもたもたしたロマンスが描かれる。二人とも原作の設定よりはだいぶ年齢がいっているので、美男美女とは言え、少々くたびれて見えるのも事実。さて、棺のような箱を乗せた小舟が波間を漂っており、引き寄せて箱を開けると、薬で眠らされ、花で囲まれた美少年が・・。いわゆる水葬礼というやつだが、生きている者をなぜ?虹之助という名前なのはわかるが、それ以外は不明。何しろ彼は目は見えず耳は聞こえず話せずの三重苦なのだ。綾子は気の毒に思って彼を引き取り、鎌倉へ。近くには志賀のいとこ静馬(富川澈夫氏)、由美(服部妙子さん)兄妹も住んでいる。で、殺人事件がどかどか起きるわけだが、元々これは金田一物ではなく、由利と三津木のコンビが出ている。はっきり言って今回の金田一は無能である。八人も殺され、しかも犯人をつかまえることができない。どんでん返しの部分・・実は虹之助は三重苦ではなかった!・・を見抜くが、たぶん見ていた人全員そんなあ・・と、あまりな安易さに呆れ返ったことだろう。ここまで引っ張っといてこれかよッ!しかも作り手はその部分のまずさから気をそらせようとでもいうのか、金田一の綾子への淡い恋心をこれでもかと強調しまくる。あるいはやっと実りそうな・・別に実らなくてもいいような・・志賀と綾子のロマンス。それよりさあ・・推理物なんだから、そっちの方ちゃんとしろッ!虹之助役は長尾深雪さんで、私は「みゆき」だと思っていたが、「ふかみ」と読むようだ。女性が男性の役やるというのでちょっと話題になったが、後で虹之助にそっくりな琴絵が出てくるので、男の人が演じるわけにはいかないのさッ。虹之助が綾子に引き取られ、その綾子が志賀達と知り合いというのは、ありない偶然である。
仮面劇場2
しかし、作者はそれ以外のこと・・例えば三重苦の虹之助になぜあんなことができたのかは、破綻のないよう気を配って構成している。ところがテレビではそれらの苦心はすっぱり無視し、やたらめったら死人を増やし、つじつまには知らんぷりを決め込むのである。例えば鵜藤・・彼は原作でも殺されるが・・テレビを見ていてもなぜ殺されたのか、誰に殺されたのかわからない。綾子は志賀が、志賀は綾子が殺したのではと疑い、お互いかばい合う。鵜藤は、梨枝子夫人(静馬と由美の母親)を殺すのに使われたチョコレートに、志賀が毒を仕込んでいるのを見た、ばらされたくないなら金を払え・・と、綾子をゆする。しかし毒を仕込んだのは後でわかるが虹之助である。鵜藤はウソをついたのか。志賀も後でわかるが虹之助の正体を知っているから、事件が起きれば虹之助の仕業とわかるはず。綾子さんじゃない自分がやったと主張して警察につかまれば、毒を持ってる虹之助を野放しにすることになる。犠牲者が増えるとわかっていて、そんなことしますかね。一方鵜藤のゆすりが事実なら、そこに虹之助が絡む余地はなく、志賀か綾子が殺したことになってしまう。電報の件もあいまいだ。あれは志賀の妹琴絵が精神病院から脱走したという知らせのはずだが、院長(下條正巳氏)は「よくあることで」ですませる。よくあることで、そのうち戻ってくるのならいちいち電報打たないと思うが。金田一は事件が起きる度に、寝ている虹之助の様子を見にくるが、顔だけ見て終わりなのはおかしい。疑っているのなら布団をはいで、足の裏とか裾とか汚れていないかどうか調べるはずでしょ。他にも突っ込みどころは満載だが、切りがないのでやめとく。とにかく非常にお粗末な内容。でも私は鵜藤役で睦五朗氏を見ることができたのがうれしかった。睦氏と言えばデヴィッド・ジャンセン。「逃亡者」「秘密捜査官オハラ」、その他テレビムービーでもジャンセンが出ていれば声は睦氏。他にナレーターもよくやってる。梨枝子夫人役富田恵子さんは草笛光子さんの妹だそうな。私にとっては「ハニーにおまかせ」のアン・フランシスだなやっぱ。
仮面舞踏会
原作はかなり長い。美貌の映画スター、鳳千代子(草笛光子さん)は、演技力だけでなく、結婚離婚のくり返しでも有名。最初の夫笛小路泰久(久保明氏)との間に娘美沙(村地弘美さん)ができたが、甲斐性なしの夫に代わって働かなければならず、養育は姑の篤子(乙羽信子さん)に任せっぱなし。その泰久は軽井沢の別荘のプールで死亡。泥酔し、水に落ちたとたんの心臓マヒだが、やや不審な点も。二番目の夫阿久津は交通事故で死亡。ひき逃げだが、故意とも思われる。今の千代子は飛鳥(木村功氏)にプロポーズされたところだが、三番目の夫槇、四番目の夫津村(佐原健二氏)が相次いで死ぬ。この連続殺人に、心中し損なった青年田代(三ツ木清隆氏)が絡んでくる。ちなみに彼が心中し損なったのは、金田一が発見したため。原爆症で、生きる気力を失っている田代を、何とか立ち直らせようと奮闘する看護婦ミチは、原作には出てこない。原作での阿久津の妻夏江の役どころ・・重要な事件を偶然目撃する・・を担う。津村と槇の死は原作とは変えられており、筋が通らなくなっている。何も知らないで見ている人は、意外な犯人・・美沙・・にびっくりするだろうが、それと同時に彼女一人では無理なのでは?・・と思うはず。例えば大人の男性(の死体)を少女が一人で運ぶのは無理だが、金田一は火事場の馬鹿力でかたづけてしまう。嵐の中、地面を掘り、人を地中に埋めるのは大変な手間のはずだが、やり過ごす。また、津村の別荘で槇が死体で見つかるが、誰が運んできたの?槇が津村の別荘で死体で見つかり、津村が行方不明(埋められているからね)となれば、疑われるのは津村。死体の移動はそのせいだろうが、美沙の仕業だとすると、テーブルの上にマッチ棒の配列なんか再現するはずがない。この配列が犯人究明の決め手なんだから。原作を読んで思うのは、不幸な星の下に生まれた美沙のこと。戦争中空襲で篤子は美沙を死なせてしまう。これが知れると笛小路家と千代子の縁が切れてしまう。そこで、空襲のどさくさにまぎれ、見つけた赤ん坊を美沙として育て始める。
仮面舞踏会2
ろくでなしの泰久とは違い、千代子には経済力がある。1000年以上の歴史を持つ笛小路家を絶やしてなるものか。そのうち美沙が色盲だとわかると、学校もやめさせ、自分で教育する。そうやって10数年、美沙の病弱を理由に、千代子から金をしぼり取る。美沙が交通事故にあった時輸血した阿久津は、血液型から美沙が泰久の子供ではないことに気づく。そのうち色盲の件から、美沙は千代子の子供でもないことがわかる。しかし紳士を気取る男達の沈黙のせいで、千代子は何も気づかない。千代子は篤子にだまされているとは言え、ある意味無責任な女である。結局彼女は華やかな世界にいて、ちやほやされるのが好きなのだ。美沙がママと一緒に暮らしたい、学校へ行きたい、友達が一人もいないと訴えても耳を貸さない。確かに金を稼ぐには女優でいた方がいいが、本当に娘のことを思うのなら貧しくとも娘と二人で生きることもできたはず。そうすれば美沙も殺人鬼にならずにすんだ。美沙が犯人とわかり、田代と共に行方をくらましたってのに、篤子と茶室にいるのも変だ。この時点では千代子は美沙の出生の秘密は知らず、自分の娘だと思っている。普通の母親なら必死こいて捜し回るはずでしょ。篤子は秘密が全部ばれたと知ると、服毒自殺するが、その時でも毒を盛ったのは千代子・・と、印象づけるのを忘れない。そんなこと誰も信じないけど、誰かを道連れにしないではいられないのだ。死ぬシーンは念入りに描きすぎ。・・美沙は自分が誰なのかわからない。不安の中で一番頼りにしたいのは母親だけど、その母は新しいロマンスに夢中。原作での「あたしはいったいだれなのよう」という言葉が心に残る。絶望、怒り、悲しみ、孤独・・17歳の少女には重すぎる運命だぜ。この言葉テレビにもちゃんと入れて欲しかった。村地さんは清純派スターとして人気があったけど、もう引退したのかな。原作そのままの、可憐でちょっぴりおどおどした、いいとこのお嬢さんて感じではまり役。この作品は津村と槇、特に槇の部分でいいかげんな展開が目立つのが惜しいが、わりとよくできている方だと思う。あ、ところで猫を殺したのは誰?
黒猫亭事件
このエピソードを見るのは初めて。池田秀一氏が出ていることもつい最近まで知らなかった。昭和22年、真夜中のパトロール中の警官が、近くの寺の僧日兆(池田氏)の怪しい行動に目を止める。場所は黒猫亭という酒場の裏庭。掘り出されたのは女の死体。なぜか顔が潰され、見分けがつかない。日兆によると、数日前犬が落ち葉を掘り返しており、人の脚らしきものが見えたとのこと。そんなばかなと思いつつ気になって仕方がなく、とうとう掘ってみることにしたと・・。黒猫亭のマスター糸島(田口計氏)と妻の繁(太地喜和子さん)は、店を手放し神戸へ。次の持ち主により店は改装中。不思議なことに手放す前の二週間あまり、繁はドーランにかぶれたと称し、誰にも顔を見せていない。糸島には鮎子という愛人、繁は土建屋の風間(近藤洋介氏)と深い仲。元々大陸で結婚し、敗戦で繁の方が一足先に帰国。風間の愛人におさまっていたが、そのうち糸島も帰国。この時の彼は船で千代子という女性と一緒だったが、すぐ色街に売り飛ばしてしまう。鮎子の出現以来夫婦仲は悪化、しょっちゅうケンカしていた。殺人現場には血痕があったが、なぜかネコの血もまじってる。女の死体のそばからは、繁がかわいがっていたという黒猫の死骸も。それでいて店のあたりには別の黒猫もうろついてる。金田一は風間とは中学の先輩後輩の間柄。私は鮎子に殺される・・そんな繁の言葉に不安を覚えた風間は金田一を呼び寄せたわけだが、一足遅かった。殺されたのは繁か、鮎子か。原作は文庫で120ページほど。テレビだと一回じゃおさまらないし、二回に分けるにはちょっと短いという中途半端な量。最初の方はほぼ原作通り。二回目になると引き延ばし感が出てくる。ストーリーが横にそれ始める。繁を悪女ではなく、悲しい運命に翻弄された気の毒な女、初めて真の愛情を知った女に描こうというのが見え見え。途中から聖女に祭り上げるのは今までさんざんあったから、今回もまたかよ・・という感じ。悪女を悪女として最後まで描き切ることの何と難しいことよ。お涙ちょうだいに仕上げる方がよっぽど簡単だ。
黒猫亭事件2
・・最初は物珍しくてよかったけど、そのうちしつこさや変態ぶりを持て余すようになった。亭主が現われたのは手を切るチャンス!そういう女で別にいいじゃんよ。原作だと繁は最初の結婚で姑にさんざんいびられ、殺してやろうと毒薬を用意するが、誤って夫の方が死んでしまう。それで大陸へ逃げたのだが、テレビでは未遂になってる。千代子殺しも糸島殺しも日兆の仕業で、繁がやったのはネコ殺しくらいか。原作では最後自殺するけど、こっちはつかまる。代わりに日兆が自殺し、何じゃこりゃ状態。説明されず終わってしまうこと多数。繁の本当の目的は糸島殺し。過去をネタに自分からしぼり取るダニのようなやつ。終戦のどさくさでいったんは逃げられたものの、また見つかって元のしぼり取られ生活。殺せば自分が真っ先に疑われるから、鮎子という女をでっちあげ、糸島と共謀して繁を殺したことにする。そのためには女の死体が必要だが、千代子を身代りにする。糸島も殺したから事件は迷宮入り。自分は自由の身だ!あの~それじゃあ糸島が鮎子と逢引きしたり、そのことで凄まじい夫婦ゲンカしたのは何だったのさ。原作ではちゃんと説明される。私達最近倦怠期だから不倫ごっこしましょうよ。私はいつもと正反対のタイプに変身するから、それでラブホへ行けば密会みたいで新鮮よ。夫婦ゲンカだって思いっきりハデにやって、みんなをだましましょうよ。その方がスリルあるでしょ。二回あるんだからそれくらい説明する余裕あるのにスルー。クライマックスもふにゃふにゃ。原作だと日兆が繁を土蔵にかくまうが、彼がカギをかけてしまったため(それと言うのもせっかく自分のものにした女を逃がしたくないからだが)、逃げることができなくなる。でもテレビでは(日兆は自殺してしまうから)閉じ込められもなーんもせず、逃げようと思えばいつでも状態。それでいて逃げない。金田一は墓石の不自然さに気づいておりながら放置するし。結局悲しさも怖さもワクワクもドキドキもなーんもなしのふにゃ作品で終わってしまいましたとさ。私は池田氏のファンなので(「ガンダム」ではなく、「越前竹人形」や「女と刀」の方ね)、見ることができてうれしかったですけど。
獄門島
この作品にはまいった。こんなにつまらないのは初めてだ。四話完結だが、長すぎる。時間があり余っているから、金田一はやることがない。だらだらぐだぐだ。頭をかきむしっているか、逆立ちするか、わけもなく走り回っているか。金田一の推理が追いつかないほど次から次へと事件が起きるなら、それも仕方ないが、どう見たって(標的全員殺されるまで)やることなさそう。うつし方もひどい。まるで舞台のような人物配置や動き。音楽や効果音がやかましい。くどい、わざとらしい。セリフもよく聞こえない。説明役を担う床屋が出てくるが、早口なのでその役目を果たしていない。この人は落語家か。落ち着きのない凝った映像も、くり返し見せられ、鼻につく。注目は「雨」の大ヒットで知られる三善英史氏が出ていること。大河ドラマ「元禄太平記」では清水一学をやっていたと思う。あと、荻島真一氏の「隠密剣士 突っ走れ!」にゲストで出ていたと思う。御高祖頭巾をかぶって女性のフリしてた。鵜飼役はぴったりだと思うが、原作とはだいぶキャラが違う。こっちはつんとしていてしらけた感じ・・要するに嫌なやつ。原作の方は・・戦時中この島にいたが、彼のようななよなよしたタイプは兵士としては使い物にならない。でも島民から何かを調達する時にはちょうどいい。女達は彼のためなら便宜を図ってくれる。戦後復員したものの、すぐ島に舞い戻ってくる。常に誰かに操られ、波に漂う、風に吹かれる、ふらふらとはかない存在。悪質ではなく恥も感じているが、他に生きていくすべを知らない。ラスト、ご用ずみとばかりに追い出され、しょんぼりと船に乗る。正直言って三善氏は演技うまくない。でももうちょっと何とかなったはずなんだよなあ。殺される三姉妹の母親小夜役は葉山葉子さん。原作だとものすごい悪女だが、こちらはかなり美化されている。与三松(仲谷昇氏)との純粋で悲しい恋が強調される。早苗役は島村佳江さんだが、葉山さんがやった方がよかったのでは?小夜は原作通りの悪女、鬼ババアでいいじゃん。でないと頭のおかしい三姉妹が生まれる設定に説得力がない。生まれて間もない子猫が二回ほど出てくる。ここだけはかわいくてよかった!
女王蜂
これはたぶん見るの初めて。これでシリーズ全部踏破かな?絶世の美女智子役が片平なぎささんというのはちと苦しいが、映画版中井貴恵さんに比べりゃね。片平さんは明るくて健康的というのが持ち味だから、こういう悩み苦しむ薄幸な役は似合わない。内容は大幅に変更されている。特に、智子と結ばれるはずの多門が途中で殺されてしまうのにはびっくらこいた。あたしゃてっきり・・智子に向かって「犯人の目星はついている」と自信ありげに言うのは、犯人に聞かせるためだと・・。毒殺されるのは(金田一と示し合わせての)芝居であって、犯人油断させるためだと・・。つまり死んだことにして裏で自由に動き回って、クライマックスで劇的に再登場。○○が犯人だというのっぴきならない証拠突きつけるのだと・・。そしたらそしたら死んだままで・・。あ~んせっかく夏夕介氏の美形ぶり楽しんでいたのに~。多門はギリシャ彫刻のような肉体と美貌、男らしい性格で智子にぐんぐん近づき、ラストすべてを失った智子をやさしく受け止める・・はずなのだ。それをそれを・・何でだよ~。作り手はどうしても智子を悲劇のヒロインに仕立て上げなきゃ気がすまないらしい。智子の父日下部は実は元宮家の御曹司。今では彼女だけが血を引いている。でもテレビではそういうのなし。結局日下部はどこの馬の骨ともわからない。智子は裕福になることも幸せになることも許されないのだ。一人ぼっちで島に残り、亡くなった人達の菩提を弔わなければならないのだ。金田一や日和が「早く忘れて」だの「幸せになって」だのと言うのが何とそらぞらしく聞こえることか!!20年前の殺人も、琴絵は持病の発作が起きただの、日下部との口論はよくある恋人どうしのちょっとしたすれ違いだの、何でそんなふうにしちゃったのかな。開かずの間の描写にもびっくりだ。20年間封印されていたのにクモの巣一つない。金田一がちょこっとホコリ吹いて終わり。部屋ごと真空パックされてたらしい。鎌倉時代に作られた抜け穴も同様。九十九役は川合伸旺氏。原作だと見るからに嫌らしくアブラぎっているが、こちらはまともそうで親切でお相撲さんみたい。こういう変更は大歓迎だと喜んでいたら豹変・・あらら残念。他に坂東正之助氏が出ていたのが珍しかった。
真珠郎
「真珠郎はどこにいる」・・原作もテレビもこの言葉から始まる。夜・・乱舞する無数のホタル。柳の木の下にたたずむ美青年・・ホタルをつかまえ、口にほうり込む。すると頬にホタルの火が透けて、そのうち全身がぼうっと緑色に怪しく光り出す。「ウルトラQ」か「怪奇大作戦」みたいなムード。この「真珠郎」は「八つ墓村」や「犬神家の一族」などとは違い、あまり映像化されていないのでは?2時間ドラマで「神隠し真珠郎」というのがあるけど、まだ見ていない。冒頭部分ちょっと見ただけで何じゃこりゃ度全開。原作は登場人物少ないけど、何でこんなうじゃうじゃ出てくるんだ?それはまた置いといて、原作は椎名という男性の一人称で書かれているので、話はあまり広がらない。彼が見たこと、聞いたこと、思ったこと。金田一は出てこず、由利麟太郎が出てくる。椎名の名前は耕助だが、それだと金田一と同じになるせいか、テレビでは肇になってる。昭和23年、大学講師の椎名(原田大二郎氏)は、同じく講師の乙骨(中山仁氏)の誘いで、夏の休暇を信州の鳥越湖畔で過ごすことに。滞在するのは鵜藤(岡田英次氏)の屋敷。彼は生物学者だったが、何があったのか20年あまり前東京を離れ、ここに引っ込んだ。数年前から体が不自由で、姪の由美(大谷直子さん)が世話をしている。美しいが、どこかカゲのある女性。金田一と椎名は知り合いという設定。金田一は遠縁を頼っていくところ・・早々の登場である。この遠縁だという和尚が、加藤嘉氏。入れ歯をはずしたフガフガ状態で、よくしゃべる元気なじいさん。「悪魔が来りて笛を吹く」とはえらい違いで、とっても愉快。バスで出会った謎の老婆、柳の木の下の美青年、それを聞いた鵜藤の驚きぶり、蔵に誰かいるという村人のうわさ、ある日突然の浅間山の噴火、そのさなか望楼で演じられた惨劇、逃げ水の淵、鵜藤の首なし死体・・金田一がウロウロしているのを除けば、ほぼ原作通り。感心したのは鵜藤の家。昔の遊廓をそっくり移築したという設定だが、どっしりと重厚な造り。玄関、廊下、階段、蔵の中、赤いじゅうたん(←?)、杉戸の絵・・とてもすばらしい。また、火山の噴火、湖面のざわめきなど、特撮シーンも(山は時々絵に見えたが)。とにかく手抜きせずちゃんとやってる。
真珠郎2
椎名はどことなく金田一と雰囲気が似ている。違っているのは、彼は物事を表面に見えてる通りに見てしまうこと。だから目撃者にはうってつけ・・と、選ばれる。彼は由美に引かれるが、彼女の苦悩には気づかない。気づいても勘違いする。強引さがなく、やさしいけれど気のきかないタイプ。でもその善良さ故に、乙骨と由美の計画は途中でうまくいかなくなる。三回だが、二回半で終わってしまうような内容量。だから残りの30分くらいは椎名と由美の悲恋で引き延ばす。いちおう回想シーンやら謎解きはあるが、そのわりには説明不足。由美の告白書はぶつ切りにせず、あれですべてがはっきりするようまとめればよかったのに。由美の美しい死を見せたいという作り手の意図はわかるけど、あれじゃあウルウルする一方で、疑念が残り、すっきりしない。鵜藤を殺した伊那子は、重い死体を運び、噴火の最中ボートで湖を渡り、死体を洞窟に捨て、また漕ぎ戻ってきたのか。次に由美が殺されるが、これは偽装で、殺されたのは伊那子。由美はこの時乙骨も殺すことができた。そうすりゃ乙骨の支配から逃れ、世間には自分を死んだものと思わせることができた。なぜそうしなかったのだろう。この時点では鵜藤から由美に渡った遺産が、まだ現金化されていなかったからか。最後に乙骨が由美に殺されるが、彼女は死んだことになったまま乙骨と暮らしてた?他に本物の老婆の変死もあるが、誰が殺したかは不明。バスで出会った老婆が、由美の変装だとはっきりわかってしまうようなうつし方はまずい(普通は三回目の終わり頃の謎解きで明らかにする)。信州で起こった事件なのに、日和が突然出てくるのもおかしい。さて、真珠郎と伊那子の二役やってるのは早川絵美さん。男のようにも女のようにも見え、しかも美しく謎めいていて、邪悪にも見えなくちゃならない役だが、はまり役。濡れた髪をブルッと振るシーンが特にいい。まあ多少不満は残るものの、よくできた作品。セットやロケの美しさ、じっとりと粘りつき、絡みついて放さない欲や業・・そういうのがよく出ていた。
不死蝶
これも見るのは初めて。内容忘れていたので、原作を読み返した。昭和30年、金田一は日和警部の頼みで信州射水へ。射水と言えば富山だが、こちらは諏訪湖の近くという設定。今この町には、ブラジルのコーヒー王の養女となったマリ(竹下景子さん)が、母親の君江、家庭教師の朝子と共に滞在中。この町の二大勢力だった玉造家と矢部家のうち、隆盛を極めているのは矢部の方。金田一を呼んだのは当主の杢衛(小沢栄太郎氏)。23年前、彼の次男英二を殺し、鍾乳洞へ逃げ込み、井戸へ身を投げたとされている玉造の朋子が、実は生きていて、それが君江なのではないか。それを調べてくれというのが依頼。長男慎一郎(山本昌平氏)には、杢衛の決めたいいなずけ峯子(岩崎加根子さん)がいたが、朋子と恋に落ち、駆け落ちする気だった。昔から憎み合っている両家だが、玉造の方は敗戦を機に没落。たった一人の生き残り康雄(江木俊夫氏)と、慎一郎の娘都(栗田ひろみさん)とは、駆け落ちしようと言い合う仲だ。歴史はくり返す・・。今マリ達が滞在している屋敷も元々は玉造のもの。君江はなかなか姿を見せないが、マリが二役やってるというのは、原作を読んでなくてもすぐわかる。英二殺しの犯人は、朋子らしき女性が現われたと知ればきっと行動起こす。犯人を罠にかけ、亡くなった母の汚名を晴らすのがマリの目的。でもそのせいで新たな殺人が起きる。まず杢衛、続いて古林。23年前、英二の死体を発見したのが古林。何か知ってるはずだったのに・・。鍾乳洞は映像化するのが難しい。いやに広々としているし、張りぼて感が漂う。原作は夏だが、こちらは冬。吐く息が白く、寒そうだ。竹下さんはヘアスタイル、メイク、表情など、どことなく山口百恵さん風。「赤い鍾乳洞」!!とても億万長者の養女には見えない。町の有力者を招いてのパーティも、えらくしょぼい。盛大なパーティ・・テーブルには酒や料理がどっさり、使用人が忙しく行き来し、大勢の客が笑いさざめく・・はずが、料理どこ?酒どこ?客は数人・・いかにも手持ち無沙汰で、ちゃんともてなされていない。登場人物では康雄の祖母、妹がカットされ、テニス選手田代も出てこない。その代わり新聞記者(山本紀彦氏)が出てきて、これが金田一の助手になるのかと思ったらほとんど絡んでこない。その分日和が出てきていつも通りいい味見せる。
不死蝶2
全体的に、最初から見せすぎという印象。古林と峯子の妙なそぶりとか。本来ならクライマックスまで浮かび上がってこない峯子が、早々と犯人候補に。いつもなら悪役の山本氏を慎一郎役に持ってきたのはとてもよかったと思う。彼は朋子と結婚できず、好きでもない峯子を押しつけられ、生きる意欲なくしている。矢部家をしょって立つような能力はなく、絵を描いて暮らしている。峯子の兄宮田(植木等氏)は古林と同じような境遇・・戦争で妻子も財産も失い、尾羽打ち枯らして杢衛を頼る・・だが、非常に有能で、慎一郎に代わっていっさいを取り仕切っている。なくした娘に似ていると都をかわいがる。さて慎一郎が描き続けるのは朋子の絵・・ここらへん峯子も気の毒ではある。夫にかまってもらえないため古林によろめき、弱味を握られる。慎一郎は君江のうわさを聞いても無関心。今更どうでもいい。とは言え都のことは気にかけている。妻の不倫を娘に悟られないようにするし、康雄と一緒にここを離れることにも賛成だ。古林役はやはり悪役専門の松山照夫氏。二人のベテラン悪役を揃え、きっと何かあると思わせ、松山氏はやっぱりワルだったけど、山本氏は違ってた・・そこが何だか新鮮だった。セリフも表情も抑え気味だけど、苦悩がひしひしと伝わってきた。原作では金田一が珍しくヒロインに不快感示す。マリにとって杢衛や古林の死は、真犯人が罠にかかり、動き出したというサイン。むしろ喜ばしいことである。さすがにテレビでは杢衛の死を悼んでいるけど(実の祖父だし)。宮田の自殺もマリには合点が行かない。だから金田一が説明する。都のことを考え、自分が峯子を殺し、彼女の罪を全部ひっかぶって死ぬ。日本人の特性・・自己犠牲の精神。そこまで説明されても、原作でのマリが金田一に謝礼として贈るのは、大きなダイヤという無粋なもの。もちろんテレビではラストは父と娘の涙の対面。見ているこっちも釣られてウルウル。ふと金田一が外を見ると、冬だというのに蝶がヒラヒラ。いかにも作り物なのが残念だが、薄幸な朋子の言葉が思い出され、ロマンチック。
本陣殺人事件
さてこれも久しぶりに原作読んで、録画しといたのを見て、内容忘れないうちに・・って、そればっか!昔見た時は、三郎の最期が原作とは違うなあ・・と。えらくドラマチックにしてある。三郎役は荻島真一氏だったのね。原作は昭和12年。だから金田一もまだ25、6歳。探偵小説マニアの三郎は、同年代の名探偵に敵愾心を燃やす。テレビの方は昭和23年。岡山のとある村の由緒正しい名家一柳家では、長男賢蔵(佐藤慶氏)の婚礼が行なわれようとしている。新婦克子(真木洋子さん)は、早くに両親をなくし、叔父の久保(内藤武敏氏)に育てられた。彼らは元々は小作人、一柳家とは身分違いと強く反対する者もいたが、賢蔵は反対されるとかえって意地になる性格。久保は金田一のパトロンでもある。原作では事件後彼を呼び寄せるが、テレビでは式に列席。事件が起きて駆けつける時、雪の上に足跡がないかどうか気にするのは原作では久保だが、テレビでは金田一。確かにこの方が現実的。三回完結だが、かなりもたもたした印象。少し行ってまた後戻りしているような感じ。日和達が、奉公人が聞いているのもかまわず捜査内容を声高に話すのも気になった。さぞ村の隅々までうわさが行き渡ったことだろう。金田一と日和は初対面のようだ。当然日和は金田一を邪魔者扱いするが、会議の時大阪での働きぶりを聞かされ驚くものの、まだ半信半疑。このシーンでは菅貫太郎氏が出ていて、いつもなら悪役なのに・・と、珍しかった。荻島氏、真木さん、菅氏・・いずれも故人だそうで、残念なことだ。さて、夜明けに琴の音とか異様な音がし、離れへ駆けつけてみると賢蔵、克子が死んでいる。誰かが侵入した形跡はあるが、出て行った跡はない。カギは内側からかかっていたし、周囲は一面新雪で、どこにも足跡はなし。密室殺人である!これの種明かしは、何度見てもよくできていると思う。琴糸、日本刀、中がくり抜かれた竹、鎌、水車・・日本的、そして古くからあるものだ。また、コロコロコロ、ピンピンピーン、ブルンブルン・・そして水車の規則正しいゴットン、ゴットンと言ったさまざまな音が加わり、よりいっそうの効果を出している。
本陣殺人事件2
残念ながらテレビの方は、賢蔵や三郎の母、糸子(淡島千景さん)に余計なもの(義弟の伊兵衛との不倫)くっつけ、一柳家の呪われた血を強調する。賢蔵も三郎もこのことを知っている。賢蔵は母に裏切られ、克子の清潔さに救いを求めるが、その克子に直前になって男にだまされた過去を告白され・・。三郎は三郎で母さんが好き、母さんはきれいだ・・と超マザコン。糸子は賢蔵の葬式の合間にもよろめくし、おまえら何やってるんだ!・・って感じ?呆れた久保は「克子は死んだ方がよかったのかも知れん、(生きていたら)地獄の毎日だったろうからな」と吐き捨てる。作り手は糸子の美しさ、色香をうつし出そうとあの手この手。でもねえ・・余計なんですってば。第一淡島さんと佐藤氏は四つしか違わないので、とても母子には見えない。登場人物では次男の隆二が削られ、分家の良介が伊兵衛に変わっている。末娘鈴子役は西崎みどりさん。日本人形のようにかわいく、歌もうまかったが、今はどうしているのかな。鈴子は死んだ子猫を埋葬するんだけど、死体のはずなのに動いていて・・生きてるのに埋葬しちゃったのかよッ!次に出てきた時はぬいぐるみ?ちゃんとしろよ、こら。さて、三郎は自分や兄の計画が金田一にばれそうになると、わざと深手を負い、三本指の男にやられたと言い張る。原作とは違い、彼はその傷が元で死んでしまう。原作での彼は学校も長続きせず、家でごろごろしているような出来損いの青年。賢蔵の苦悩の末の計画もおもしろがる始末。性格が破綻しているが、テレビの方はそうでもなく、京大生か何かで、たぶん秀才。ドラマチック、ロマンチック、悲劇の主人公風にしてある。そのせいで、私の記憶に残ったのだろう。全体的に賢蔵の異常な行動に説得力がないように思われる。説得力を持たせようと糸子に盛んに呪われた血だの何だのと叫ばせる。糸子の夫もかっとなると何をしでかすかわからないような性格。それが賢蔵にも伝わっているとか何とか、そういうふうに思わせたいのだろうが、うまくいってない。金田一の解説によって明らかになり、見ている者をそうだったのかと納得させるはずの、賢蔵の動機・・それが不十分。
三つ首塔
今作は少々省略部分はあるが、ほぼ原作通り。四回だが、三回にまとめた方がスピード感が出ただろう。困るのは上杉役佐分利信氏が終始ボソボソと、何を言ってるのかさっぱりわからないこと。字幕をつけろ!と言うか、ミスキャスト。原作を読んだ時は、なかなか犯人の見当がつかなかった。あまり表に出てこず、うまく隠れている。学者肌の堅物だから、誰も疑わない。根っからの悪党ではなく一般人だから、犯行も行き当たりばったり。いろいろヘマをしても、まわりが怪しすぎる連中ばっかりだから、目を付ける人はいない。ところがテレビでは、最初からものすごく怪しいのだから困ってしまう。姪の音禰(真野響子さん)への恋情は、隠されるどころか表に出っぱなし。機会を見つけては音禰の体を這い回る手のいやらしいこと!その上金田一が面と向かって「女性として好きなんでしょ」・・そばに姉の品子がいるってのに、こんなぶしつけなこと普通は言わない。と言うか、そもそも金田一はこの事件には関係ない。上杉の還暦祝いが行なわれているホテルへ、ノコノコ現われたのは、同業者岩下にたかるため。それなのに遺言状の披露の場に同席するなど、いつの間にか関係者ヅラしてまぎれ込む。誰が雇ったの?日和に頼まれた?弁護士の黒川は片手が義手で、何かありそうに見せて結局は何もない。原作は昭和30年だが、こちらはもっと前っぽい。アメリカにいる玄蔵という男性の遺産10億(原作では100億)をめぐる、血で血を洗う惨劇。景気よく人が殺されていくが、金田一は何もできない。上杉家へ現われてはどうでもいいようなことしゃべる、盗み見する。何しろ上杉の言動が怪しすぎるので、どんなバカでも彼に目を付ける。いや別に金田一をけなしているわけではない。元々原作は音禰の一人称で書かれている。だから金田一は時々ひょっこり出てくるだけ。音禰と五郎(黒沢年男氏)はできるだけ金田一を避けているから、なおさらだ。でもテレビはそうはいかない。主人公だから常に出て来なくちゃ・・だから不自然な出現の仕方となる。それにしても真野さんは美しい。原作によれば音禰は美女で八頭身。たぶん現代の女優さんの方がもっと美人でスタイルもいいと思う。でも良家の子女、箱入り娘・・そういうのを見る人全員に納得させられる雰囲気の持ち主となると・・。
三つ首塔2
黒髪の美しさ、肌の白さ、知性、気品・・真野さんは音禰役にぴったりだ。それにしても原作を読んでいて思う。こういうのに出てくるヒロインの、何と男性に都合のいいことよ!手の届かない高嶺の花・・深窓の令嬢・・それでいてひとたび男を知ると、身も心も恋いこがれ。最初は暴力でも、いつしか恋に。貞淑さと淫乱さ・・これぞ男の理想・・ケッ!!言っときますがそんなの男の幻想。他に音禰の叔父佐竹役で米倉斉加年氏。戦争のせいですさんだ生活をしているが、音禰を愛し、心配もしている。自分はこんなだが、音禰にはちゃんとしていて欲しいと願う、まともな一面も。だから彼にしかられるのは、音禰にはこたえる。由香利役は大関優子(佳那晃子)さん。音禰とは正反対のキャラだが、この女優さんもすごい美人だと思う。脱ぎっぷりもいいし、彼女の音禰役もいいかも。養父の鬼頭(小池朝雄氏)と組んでSMショーやってる。鬼頭は原作では大男だから、小柄で細い小池氏はちょっとイメージ違う。網シャツでムチふるってたけど、見ていて笑ってしまった(すみません)。美青年だが実はしたたか、男も女も手玉に取る古坂役はピーター氏。ぴったりな役どころだが、絞殺死体になった(←?)時、しっかり息してるのが丸わかり。目玉も動いてたみたいだし。他に小松方正氏、殿山泰司氏・・キャストは豪華だ。クライマックスの舞台は三つ首塔。やっと見つけたものの、音禰と五郎は井戸の底へ。そこで彼が実は音禰の結婚相手俊作だと判明する。原作では助け出されるまでに10日くらいかかったけど、こっちは一日か二日。犯人だとばれた上杉は、塔に火を放ち自殺。俊作は自分の身元を証明する手形が焼けてしまうと絶望するが・・金田一がそれを差し出す。おい、いつの間に見つけたんだ?持ってるならもっと早く出さんかい!これで10億はまるまる音禰と俊作のもの・・ケッ!!さすがに音禰は「お金なんかいらない!」と叫んでいたけどね、あった方が何かと便利よ。この焼失シーンはすごい迫力。ちゃんと塔を作って、ちゃんと燃やしてるのが偉い!それにしても玄蔵が余計なことしなきゃこんなに死人出さずにすんだんだよなあ。罪作りなじいさんだぜ。
迷路荘の惨劇
横溝正史作品は、文庫でほぼ全部持ってる。古谷一行氏のテレビシリーズもだいたい見てる。でもこれがテレビ化されてるとは気づかなくて。10年前テレビでやったの(上川隆也氏が金田一耕助役)は見たけど、はっきり言って何じゃこりゃだった。昭和25年、静岡、富士山の裾野、ホテルとしてオープン予定の名琅(めいろう)荘。元々は古舘種人(たねんど)伯爵の別邸で、二代目一人(かずんど)があれこれ手を加え、今では仕かけだらけ。洞窟にも通じており、そのせいで誰も名琅荘とは呼ばず、迷路荘と。一人は最初の妻をなくした後、親子ほども年の違う加奈子と再婚。ところが庭師静馬との仲を疑い(これは加奈子に言い寄ってはねつけられた辰人(たつんど)が、恨みに思ってあることないこと吹き込んだせい)、加奈子を斬り殺し、静馬の片腕を切断するが、なぜか反対に斬り殺される。重傷の静馬は洞窟に逃げ込み、行方知れず。今でも片腕の男が出没するといううわさが。迷路荘は今では三代目辰人から実業家篠崎の手に。ついでに妻の倭文子(しずこ)も篠崎の妻に。先代の法事が行なわれることになったが、その日は同時に加奈子の、もしかしたら静馬も・・の命日でもある。関係者が一堂に集まるが、片腕の男も出没。それで金田一が呼ばれる。登場人物はかなり削ってある。加奈子の弟柳町、篠崎の先妻の娘陽子、篠崎の秘書奥村はカット。殺人の順番も違う。邸内を取り仕切っているのは糸という老婆で、たいていの説明は彼女によってなされる。原作と大きく違うのは倭文子のキャラで、呆れるほど悲劇のヒロインに仕立て上げられている。彼女は華族の末裔で、美しさと冷たさの影にしぶとさがあって、一筋縄ではいかないタイプ。能面のように無表情で何を考えているのかわからない。それでいて英語はペラペラ、接待術に長け、ドレスも似合う。原作で描かれるこういう女性を、現実に出してくるのって難しいと思う。だから映像化されると英語もドレスも華族もカットされる。ラスト近くになると全然別の展開になって、見ていてありゃりゃ~となる。新しい方のテレビ化作品で、彼女がこれでもかとばかりに悲劇のヒロインになってるのを見て首を傾げたが、そうか、1978年の時点でもう全然別のキャラにされていたんだ・・と、わかった。
迷路荘の惨劇2
えーと何ですと・・倭文子は実は加奈子のいとこで、倭文子も加奈子も静馬もみ~んな古舘村の出身で、村人は昔から古舘一族には絶対服従で、積もり積もった恨みがどうのこうの。ありゃりゃのりゃ、何でこうなるの~?今回の殺人事件の首謀者は辰人で、無理に倭文子に手伝わせ、篠崎に罪をなすりつけて、莫大な財産いただこうと。でも倭文子は篠崎を心から愛していて、糸の助けで・・オヨヨこの二人手を組むんですか?まあわりとうまく作ってあるけど、終わり頃になるともうぐっちゃぐちゃ。ふにゃふにゃのへろへろ。この小説の肝は、自分達の欲望のためなら他の者はどうなってもかまわない・・みたいな。華族・貴族特有の特権意識と言うか、そういうのにあると思うけど、それが耐え忍ぶ女・・ついには恨みを晴らし、美しく死んでいくヒロインと・・そういうふうに変更されている。倭文子の死体なんてアナタ、ピカピカキラキラ光り輝いて。本当は生きたままネズミに食われるはずなのに。自殺の方法も睡眠薬って、そんな時間のかかる方法取りますかっての。すぐ見つかってたじゃん。いやホント何でこうなるんでしょうあはは(笑うしかない)。30年以上たって、今では辰人役仲谷昇氏も、篠崎役三橋達也氏も刑事役小鹿番氏も故人に。日和(ひより)警部役長門勇氏、一人役西沢利明氏、糸役千石規子さんはまだ生きてる。静馬役滝沢双氏は知らない人だが、なかなかのイケメン。倭文子役は浜木綿子さんで、能面のように無表情で、ずっと目を伏せて黙っているというのはよかったけど、しゃべり出すと、その重さが気になった。重い宿命を背負っている役だからそうなって当然だけど、こちとらそういう二重三重のしがらみにがんじがらめのヒロインなんていいかげん飽きていて。辰人に操られているように見えて実は彼女が首謀者、邪魔者はさっさと消し、自分の欲望まっしぐら、財産全部いただきよ・・と、それくらい不敵なキャラであって欲しかった。糸とは目と目で意志を通じ、お互い助け合うなんて、そんなお涙ちょうだいの甘甘関係じゃありませんてば。何さ鬼ババア、何さ性悪女・・と、バチバチ火花散らして欲しかった。
八つ墓村
五回もあるので、見るの大変。私が原作で好ましく思うキャラは、まず春代。次が典子。でもこれまでのところ、ちゃんと描いてくれていないと言うか。特に典子は省略されている場合が多い。慎太郎役が宅麻伸氏なら、美也子の動機は彼と結ばれるため・・となる。今回のような草薙幸二郎氏だと、そういうことはありえなくて、美也子は辰弥と結ばれる。したがって典子は省略される。動機も変わってくる。慎太郎に田治見家の財産を継がせ、自分にプロポーズさせようというのから、本家の、分家に対する冷たい仕打ちへの復讐ということになる。美也子はしたたかで貪欲な妖女ではなく、運命にもてあそばれた薄幸のヒロインということになる。そのために関係のない人までどしどし殺すのは矛盾すると思うが。私は辰弥がいるのは東京だとばかり思っていたが、神戸だった。でも何で神戸に金田一がいるの?彼が八つ墓村に現われる理由も不明。血の匂いを嗅ぎつけた?いつも彼に関しては無能だの何だのとけなしているけど、今回はそれどころじゃない。例えば昔32人殺されたと聞いても、殺人が起こっても、ふーん。ひどい時にはうれしがってるようにしか見えない。自分は誰かに襲われるとか、毒を盛られるとかそういう心配はないから、気楽なもの。だんだん材料が増えて、自分の推理が整っていくのを楽しんでいる。極めつけはラストだけど、それはまた後で書くとして・・。辰弥(荻島真一氏)はヤミ物資の運搬をやっているようだ。ラジオの尋ね人がきっかけで、自分が田治見家の跡取りだと知る。諏訪弁護士役は内田朝雄氏。辰弥と祖父の丑松の対面の時、用があるからと出かけるが、その時のうつし方がわざとらしくて。後でその理由はわかるけど。で、辰弥の目の前で丑松が悶死。分家の未亡人美也子(鰐淵晴子さん)に連れられて田治見家へ行くと、今度は兄の久弥(中村敦夫氏)が悶死。初七日の席ではお坊さんの洪禅が悶死。鰐淵さんは目のあたりが腫れぼったくて、まだ若いのに老けて見える。美也子は、あたりがパッと明るくなるような、生命力にあふれた、一種の体臭のようなものを感じさせる女性のはずだが。いくらメイクしても寝不足は隠せませんでした・・みたいな、くすんだ顔していないと思うが。
八つ墓村2
こんな田舎には似つかわしくない顔立ち・・という点では合っているが。生気のある、姉御肌の・・となると、やっぱり映画版の小川真由美さんみたいな?あの映画は二回ほど見ているはずだが、どうも記憶に残らなくて。記憶に焼きつけるためにも、もう一度見たいのだが。中村氏は肺病で死にそうには見えない。春代役は松尾嘉代さん。いい配役だと思うけど、心臓や腎臓が悪いという設定はなし。大筋は原作通りだけど、細かいところがちょこちょこ変更されている。春代の離縁の理由となった病気が子宮何とかかんとかだとか、初七日の事件の時の台所方の事情聴取とか、そこまでやらなくてもいいのに。その一方で、ここはもう少し説明しておいた方がいいんじゃないのという部分をすっ飛ばす。辰弥が美也子に引かれていく過程も、説得力がない。いつ出てきても生気のない顔じゃあねえ。辰弥が美也子と結ばれても、待っているのはアンハッピーエンド。犯人は美也子だから未来がない。映画のリメイク版のように、辰弥と美也子に恋愛感情が生じなくても、典子の存在が全然関係してこないのでは、これまた未来がない。何を言いたいかと言うと、原作を読んでいる人はわかるが、ひどい目に会った辰弥は、その代償として、かけがえのないものも手に入れる。それが典子。最初こそ華やかな美也子の色香に引かれるが、そのうち典子の存在に気づく。田治見家の前の当主要蔵が、26年前に起こした32人惨殺事件。そのショックで月足らずで生まれ、辰弥とは一つしか違わないのに、成熟し損ねたように見える、日陰の花のような女性。美しくもなく、頭も少し足りないように見える。しかし彼女は因習にとらわれない無垢な女性。一目見て辰弥に引かれ、その後はぐんぐん接近してくる。疑いやら憎しみやら、誰を信じたらいいのかわからない状態。その中でも一点の曇りもなく澄んだ状態でいられる女性。辰弥との恋で、どんどん美しく輝き始める女性。洞窟の中で辰弥と結ばれ、彼の子供を身ごもる。ちょうど辰弥の両親・・鶴子と亀井・・のように。要蔵に拉致される前、すでに鶴子は亀井の子を宿していたのだ。歴史はくり返す。それはともかく、新しい生命の芽生えは、未来を約束する。要蔵の子供ではないから、田治見家の財産は継げない。その代わり呪われた血も受け継いでいない。尼子残党が洞窟に隠した財宝も見つけたし・・。要するに原作はハッピーエンド。
八つ墓村3
それがこちらでは・・何だか変なことになってる。殺人は続く。辰弥の出生の秘密を知っているらしい梅幸尼が殺される。原作とは違い、絞殺の後槍でぶすり。洪禅が毒殺された時、梅幸尼も席にいたので、同じ毒殺にするわけにはいかない(原作ではお斎(とき)の前に退出し、届けてもらった膳を食べて悶死)。で、殺した後吊り下げる。女(美也子)一人の力じゃ無理だぜいという伏線か。この梅幸尼も何を知っていたのか結局は不明。次に久野が失踪するのはいいとして、慎太郎までいなくなるので、この頃になるとありゃ何だか変だぞムード。神戸にいた頃、自分のまわりをうろついていた怪しい男は慎太郎なのでは・・と、辰弥が疑うのは原作通りだが、今回の慎太郎は戦争のせいで足が少し不自由。神戸での男は足は何ともなかった。慎太郎を疑うのなら、足に着目すると思うが何もしていない。それにしても今回の慎太郎はカゲが薄い。重要な役なのに。辰弥と美也子の美男美女カップルで行くから、君はさっさと消えてね状態。彼がやっていたことも、洞窟の探検ですまされていたな。そうじゃないでしょ!ちゃんと徳川の・・じゃない、豊臣の・・じゃない、尼子の財宝捜しだと言いなさい!二人が結ばれるシーンは延々と・・いいんですかお茶の間にこんなの流して。鶴子(神崎愛さん)の方はそれなりに、それらしく、そのようで、それでいて・・。亀井も荻島氏だから忙しい(←?)。美也子の方は・・たぶん季節は冬でしょう、雪が降ってるシーンありましたから。洞窟の中はさらに冷えるでしょう。したがって延々見せといて、結局は1ミリの着衣の乱れもなし。何をしていたんでしょう?いや別にそんなことはどうでもよくて。典子を出してこないのなら、せめて春代の方はちゃんと描写して欲しかったけど。何ですか、辰弥がお風呂に入ってると、お背中流しましょう・・って「将軍」かよッ!ついでに夜伽も・・って言い出すかと思っちゃった。こちらでの春代は双子の大伯母、小竹、小梅にいろいろ命令されてて。リメイク版での二人は岸田今日子さんで、人間と言うより妖怪だったけど、こちらは・・特に小竹役毛利菊枝さんはすごい迫力で。これなら要蔵もコントロールできたはずだが・・なんちゃって。話を戻して春代は美也子のような美貌も健康も持っていない。典子のように辰弥に愛されるという幸福も味わうことはない。嫁いだものの、子供が産めないと離縁され、高齢の伯母達、病気で気難しくなってる兄の世話に明け暮れる。自らも体調が悪く、長生きできないとわかっている。そんな中、辰弥が現われる。
八つ墓村4
血の繋がりはないと知っているので、異性として見るけど、向こうはそんなこと知らないから姉としか見てくれない。それでもそばにいてくれるだけでうれしい。できれば一人じめしたい。辰弥が美也子や典子と一緒にいるのが妬ましい、心配だ。表に出すまいと努めてもついつい出てしまうのが恥ずかしい。そういう切なさをもっと描いて欲しい。あれじゃあ春代が何のために洞窟に入って、殺されるはめになったのかわからない。お弁当を届けに来たんですってば。犯人に襲われ、刺されたけど、小指を食いちぎってやった。・・のなら、口の端に血くらいくっつけろよッ!この・・ああそうだったのか、春代はそんなにも辰弥のことを思っていたのか、そうかそうか気の毒にのう・・となるところなのに・・。思いは遂げられなかったけど、辰弥に抱かれて死んでいくのだからよかったのう・・となるところなのに・・。何で血がついてないの?ってそっちの方が気になるようなうつし方しないでくださいッ!美也子はかまれた傷が元で死ぬはずだけど、こちらはそうはならない。と言うか、共犯者がいて、それは諏訪弁護士で・・って変なことになってる。彼女は、辰弥が実は鶴子と亀井の間にできた子だとは知らない。だから田治見家の跡取りとしてすぐ始末するつもりだった。でも途中から辰弥を好きになってしまい、殺すのは気が進まない。でも諏訪の方はそうはいかない。だから最初こそは共犯だったけど、途中からは諏訪が主犯・・と、そういうふうに持っていきたいようだ。何度も書いてるけど、悪女を悪女として描ききる覚悟が作り手にはない。いつも逃げ道用意する。その逃げ道に説得力があればいいが、ないことがほとんど。今回だって、夫を自殺に追い込んだ本家の冷たい仕打ちに対する復讐・・と、いくら涙ながらに力説しても、な~んも無念さが伝わってこない。原作だと金田一は美也子の夫の兄に雇われたことになってる。脳溢血で死んだことになっているが、美也子が弟を毒殺したのではないか・・調べて欲しい。だから金田一は最初から美也子を疑う立場にいる。そのわりには犠牲者続出・・いろいろ弁解はしているが。まあとにかく原作の美也子には、慎太郎と一緒になりたいという明確な動機がある。戦時中は軍人として羽振りがよかったが、戦後は落ちぶれてしまった。財産なら美也子が持ってるが、今結婚するのは慎太郎のプライドが許さない。
八つ墓村5
尼子の財宝を見つけ出し、自分にも財産ができてからでなくては。・・でも美也子はそんなの待てない。手っ取り早く田治見家の財産を慎太郎に継がせよう・・と企む。疑われないよう、26年前の事件の記憶を利用する。きっかけは久野の書いたメモ。自分の無能さを棚に上げ、疎開してきた医師に患者を取られたことを逆恨み。直接殺したのでは疑いがかかるから、隠れ蓑を考える。実行する度胸はなく、想像して楽しむだけ。でもメモという形のあるものにしたせいで、偶然美也子の目に止まることに。こちらでは選挙に落選した恨みとか、そういうことになってたな。実は医師の免許持ってないとか、そんな設定くっつけられていたけど、立候補なんかしたら真っ先にそれを暴き立てられ、当選どころか職も失う・・悪くすりゃ逮捕されると思うが・・。こちらでは春代は犯人の名前言い残して死ぬ。だから洞窟にノコノコ現われた美也子を、辰弥は激しくなじる。泣き落としが通じないと知ると、今度はナイフをかざして襲いかかる。「私と一緒に死んで!」・・ナイフ、ちっせ~!そこに現われたのが謎の老人。いつからか村に住みついたが、いつも兜の面頬で顔を隠し、素顔は誰も知らず・・もちろん見てる人全員彼が亀井だと知っているけど、途中でもう一人面頬をつけた男が出てきて、アレレ?となる。これが実は諏訪で、彼は亀井のいでたちを利用して、密かに殺して回っていたのでしたとさ。彼の動機も26年前に家族を殺されどうのこうの。でもあの・・26年前は子供だった・・みたいな言い方されても・・。26年前も今と同じくらい年取ってたはずだが・・。八つ墓村は時空がゆがんでいるのか・・。五回目ともなると展開もだらだらし始める。洞窟の中ではコウモリがちょこっと羽ばたいただけで小判が・・大判かも知れんが・・チャリーン、ジャラジャラと落ちてくる。辰弥と美也子はたぶん亀井が見ているのにいちゃつく。その亀井も辰弥を救おうとして美也子と相討ちに。父子の名乗りすらなしかよ!辰弥が亀井の子とわかる過程も・・金田一が気づく流れは断然おかしい。この部分がこの作品の最大の謎。だって金田一は辰弥の部屋に初めて入り、初めて屏風を見て、それを無断で持ち出し、勝手に経師屋を呼び、中に封じ込んであった鶴子の手紙取り出し、ついでに亀井の写真まで見つけるのだ。
八つ墓村6
もう超能力、千里眼としか言いようがない。ここらへんは都合よすぎる。諏訪に目を付けるのも同様。さて・・事件が解決してから数ヶ月後・・金田一がいるのは東京?事件が起きると例によって本庁から日和を呼び寄せていたけど、東京から岡山まで?それはともかく、日和の持ってきた新聞・・台風のせいで川が氾濫し、八つ墓村一帯は壊滅してしまった。田治見家も洞窟も財宝も。もう八つ墓村は存在しない。身元不明の男性の遺体が見つかるが、辰弥だった!え~うそ~そんなのあり~?金田一の反応はこの時もあっさりめ。今回の彼は、同情めいた感情表わすのは鶴子に対してだけ。それ以外の人達に対しては、ふぅーん、へぇーん、ほぉーん。事件がどうきっちり説明ついてすとんと腑に落ちるか、それにしか興味ないみたい。まあそうだからこそ陰惨な事件にいくら出会っても変わらずにいられるんだろうけど。どんなに犠牲者が出ても自己嫌悪に陥らずにすむんだろうけど。でも見ている方としては、そんな傍観者的な、お気楽な態度されたのではねえ。辰弥も結局は死んでしまうという空しい、身もふたもない結末考えたの誰?時々鶴子の霊が出てきて、辰弥を呼び寄せたふうの描写されるけど、それは辰弥を幸せにするためであって、溺死させるためじゃないでしょ。財宝のことは辰弥は黙っていたのか。田治見家がどうなったかも不明。事件で生き残ったの小竹だけだし、慎太郎は死んじゃったし。でもみ~んな流れてなくなったのだから、今更どうでもいいでしょ・・ってか?と言うわけで最後の方は暴走状態。いい感じで始まったのに残念。でもまあいくつかいいシーンはある。毛利さんの迫力おばば。屏風に霧吹きで水をかけ、手紙を浮き出させて読んでは涙を流す鶴子の気の毒なこと!両親に紹介するという亀井の手紙に、幸せで胸いっぱいなところ。金田一が宿とした雑貨屋の娘かずちゃん(津山登志子さん)が、父親(常田富士夫氏)と駐在のケンカを止めるため、ブリキ缶をガンガン叩いて割り込むシーンもいい。八つ墓村の被災を聞いた金田一が、「かずっぺんとこは大丈夫だったかな」くらい言ってもいいはず・・と思ったのは私だけ?最後に・・原作には美也子、春代、典子という三人の、それぞれタイプの違う女性が出てきて辰弥に絡む。この三人(鶴子を加えて四人でもいいけど)の方から見た事件・・「女達の八つ墓村連続殺人事件」・・も描けそうだ。
夜歩く
これは3話完結だが、1話目を見逃してしまった。金田一シリーズは感想全部書きたいと思っているので、テレビ欄はいつも注意して見ているのだが。1話目はこの次いつやってくれるかわからないので、感想書いてしまおう。原作も読み返したので、その記憶が薄れないうちに・・。原作だと金田一が登場するのは舞台が岡山へ移ってからだが、こちらは違う。金田一と屋代(谷隼人氏)は戦友・・しかも金田一の命の恩人ということになっている。また、屋代と直記(村井国夫氏)はいとこという設定のようだ。直記の父仙石(伊藤雄之助氏)は、主人である古神の未亡人お柳(南風洋子さん)といい仲である。古神家は番頭である仙石のおかげで没落もせずここまで来れた。当主守衛(清水絋治氏)と画家の蜂谷(岸田森氏)は、お柳の娘八千代(范文雀さん)をめぐって争っている。直記も八千代が好きなのだが、彼女の父親は仙石かも知れず、ためらっている。一方守衛は、八千代とは異母兄妹だが、彼女の父親が仙石なら血の繋がりはないから、彼女と結婚したい。何やらややこしいが、とにかく八千代をめぐって三人の男が争っているわけだ。実際にはこれに屋代が裏で関わっているから四人だが。最初に殺されるのは蜂谷だが、首がなく、守衛の行方もわからなくなるので、身代わりという線も。原作だと二人ともせむしだが、テレビではその設定なし。この・・首がないせいで、どちらが殺されたのかはっきりしないというのが原作のキモなのだが、テレビの方はいつの間にか別の方向へ。屋代は愛するお静が直記に乱暴され、発狂してしまったことを深く恨んでいる。だから八千代を殺して首を斬りお静と思わせ、直記を殺して首を斬り自分と思わせ、自分とお静は死んだことにして新しく出発しようと・・そういう筋書きだったはず。でもテレビでは直記を犯人に仕立て上げる方向へは行っていない。八千代はお静の身代わりにされたわけでもない。第一彼女の首はどこへ?直記も八千代も、もっと気性が激しく、欲望でギタギタな感じのはず。テレビの方は二人とも大人しすぎるね。ところで私は八千代が恐怖におののきながら死体のそばを歩き回る(夢遊病のふりをして)シーンが印象に残っていたのだが、今回見たらそんなシーンなかったな。自分で勝手に作り出していたのかな?