世にも怪奇な物語

世にも怪奇な物語

第1話 黒馬の哭く館

この映画を最初に見たのは「月曜ロードショー」だと思う。はっきり言ってあまりおもしろくはなかった。三つとも意味がよくわからなかったし。一番印象に残ったのは1話目のこれ。ネットで調べると、どの批評でも「何と言っても3話目」とあって、次に2話目。1話の監督ロジェ・ヴァディムは、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニに比べ、格下の扱いである。しかし!私にとっては1話目がサイコーなのである。なぜかと言うと私は面食いだからである。それも王道からははずれた面食い。だからアラン・ドロンではなく、ピーター・フォンダなのである。テレンス・スタンプは問題外。今はもちろん違うけど、この映画での彼は何じゃこりゃだった。当時の私には理解不能キャラ。その点ピーターは・・彼が演じるウィルヘルムはドロンのような悪魔キャラでも、スタンプのような破滅への道まっしぐらキャラでもなかった。姉のジェーン・フォンダとの共演とあって、そこに背徳的な何かを感じ取ろうとする人もいるが、私には全然。改めてこの姉弟・・似てないなあ・・と思う。似てないから普通に見ていられる。ジェーンは髪型や衣装を次々に変える。ヴァディムは自分の愛する妻の美しさをこれでもかとばかりにうつす。たいていの人の感想も、ジェーンの美しさについてである。でも!私にはピーターの美しさ、端正さ、謎めいたムードの方が心に残るのである。彼のことを書いている人はほんのわずかなので、書いたとしても添え物程度なので、この私が書いてあげるのである。誰も書いてくれなきゃ私が書くのである。ああ、みんななぜ気づかない?原作ではフレデリックは男性である。ウィルヘルムは老人で、しかも執念深くて無能。これじゃ見る者の興味引かないし、映像的にも地味すぎるので、フレデリックは若い美貌の女性にする。ウィルヘルムはぐっと若くして、有能だが人間嫌いにしてある。馬と狩猟にしか興味がないというのは原作通り。フレデリックは莫大な財産を継ぎ、幼児期を過ごした海辺の城へ戻ってくる。家族はおらず、何でも召使いのユーグに言いつける。城には常にたくさんの取り巻きがいて、退廃的な日々を送る。誰も彼女を批判する者はいない。ただ一人ウィルヘルムを除いては。彼は分家の当主で、二人はいとこ同士である。両家は古くから反目し合っており、遠くから見かけることはあっても、会話をかわしたことはない。

黒馬の哭く館2

フレデリックは貧しいウィルヘルムをバカにしていたが、彼の方は無関心。そんなある日、森の中でフレデリックは罠に足をはさまれてしまう。偶然近くにいたのがウィルヘルム。初めて彼を間近で見たフレデリックは、彼のことが忘れられなくなってしまう。それは映画を見ている我々・・特に女性・・も同じだ。それまでフレデリックとその取り巻きの、くだらない生活ぶりを延々と見せられていたから。ウィルヘルムは別の世界の人間。アラン・ドロンも美しいけれど、ピーターのはまた別の美しさ。清らかで澄んでいて・・森の中の少し湿った清浄な空気。彼と馬は森と一体化しているように見える。罠にかかったフレデリックを見ていて、すぐには行動起こさない。手足が細長く、動作はやや鈍い。彼女のところへ行こうとして、ちょっと足を滑らせる。彼女の前に立つ。しゃがんで彼女を見上げる。フレデリックの方は何をぐずぐずしているのかとじれる。命令口調になる。彼女のまわりには彼のようなタイプはいない。罠をはずして彼女を見る表情。木に寄りかかって言葉をかける時の表情。フレデリックが別の方向見ていた数秒の間に、彼はもういなくなっている。音も気配もなくスッと消える。彼にもう一度会いたいと捜し回るフレデリック。館を訪ねればいいのに。そうすりゃ彼がどんな暮らししているかわかる。召使いや領民達はきっと彼を心から慕っていることだろう。やっと彼を見つけたのは廃墟みたいな城(たぶん)。彼はフクロウだか何かに餌をやっている。ぼんやりとした太陽の光に後ろから照らされ、この世の者とも思われない。下りてくるための動きがこれまた・・足が細くて折れそう。寒がるフレデリックをマントですっぽりくるむ。無言だけど、馬には声をかける。すっぽりくるみながら、珍しいものでも見るようにフレデリックを見る目つき・・ほよよ~。フレデリックは彼を城へ招く。いくら人間嫌いの変わり者でも、自分の魅力には勝てないはず。結局は彼も同じただの男だと思ってる。だから彼にきっぱり拒絶された時には怒りでいっぱいになった。彼は一人でいることを好む。人と群れなくても幸せでいられる。フレデリックのいる世界には興味はない。この時もふと気がつくと彼はいなくなっている。怒りでいっぱいのフレデリックの耳に、声が聞こえる。あれはどういう意味があるのだろう。この1話目で一番の謎って、私にはあの「フレデリック・・」という呼びかけに思える。

黒馬の哭く館3

また、私はあれはウィルヘルムの声だと固く信じているが、誰だかわからない者の声と書いてる人もいて。フレデリックはユーグに命じて、ウィルヘルムの厩に放火させる。ウィルヘルムは愛馬を助け出そうとして焼け死ぬが、ユーグはわざと扉が開かないよう細工でもしておいたのだろうか。それとも熱で金具が変形したのか。フレデリックは彼の死を聞いて驚く。まさか彼が死ぬなんて。てことは、馬を焼き殺してウィルヘルムが悲しむのを見たかったってこと?ふと気がつくと壁掛けが燃えている。新しく作り直せと職人に命令する。煙の中から黒い馬が現われる。誰の馬かわからない。暴れて手がつけられないが、フレデリックにはなぜか従順だ。火事の後、彼女はすっかり変わってしまう。一人でいることが多くなり、黒馬に乗って駆け回る。壁掛けができていくのをじっと見ている。それには巨大な黒い馬が。うつろな日々を送るフレデリックを延々とうつされても、正直言っておもしろくはない。呪いだの恐怖だのと言われてもぴんとこない。彼女が運命の時を待っているのはわかるが、それだけでは見ている人は・・特に女性は・・ついてきてくれないので、ありし日のピーター・・じゃない、ウィルヘルムをチラッとインサートする。そうすりゃ女性はまたウィルヘルムがうつるかも・・と、画面を注視してくれる。例の廃墟へ行くと、フクロウがぽつんと同じ場所にいるのが悲しい。もう餌をくれる人はいなくなった。私はこのフクロウは子供か、ケガをしていて、それでウィルヘルムが餌をやっていたのだと思っている。夜、雷鳴が響き、やがて草が燃え始める。居ても立ってもいられず、フレデリックは黒馬に乗って駆け出す。やがて人馬共に猛火の中に。原作だと馬を制御できず炎の中へになってるけど、こっちは自らって感じ。それにしても・・ウィルヘルムをああいう神秘的なキャラに変更してくれて本当によかった。フレデリック達の乱れた生活ぶりだけじゃ、見ている者は自分まで汚れた気になってしまう。たぶんヴァディムは嫁さんを美しくとることに夢中になっていただろうが、私にはジェーンよりもピーターの方が美しく見えた。ありがとう、ヴァディム!ちなみに「我が妻バルドー、ドヌーヴ、J・フォンダ」によると、ピーターはテリー・サザーンと撮影の合間を縫って「イージー・ライダー」のシナリオを研究していたとか。

第2話 影を殺した男

走ってくる男、鐘楼から落ちる男。教会へ走り込んだ男は、ミサが始まるからと渋る神父に無理を言って強引に懺悔。ことの起こりは学校にいた時。もういっぱしのワルを気取るウィリアム・ウィルソン。母親からの手紙を、読まずに破り捨てる。同級生をネズミの入った樽の上に吊るし、上げたり下げたり。そこへ現われたのが同姓同名のウィリアム・ウィルソン。元祖(区別するためこう書く)ウィルソンにとっては生まれて初めての競争相手、分身の登場だ。そのうちがまんできなくなって夜、寝ているところを首を絞めて殺そうとする(が、見つかる)。数年後元祖ウィルソン(アラン・ドロン)は医学校へ通っている。若く美しい女性をとらえて生体解剖をしようとする。あわやという時現われたのが分身ウィルソンだ。せっかく助けてもらったのに、瓜二つの二人を見て混乱した女性は、メスを持ってる元祖の方に抱きついてしまう。その後女性がどうなったか神父は心配するが、元祖にとってはそんなことはどうでもいい。聞いてもらいたいのは自分の話だけ。ここが一番印象に残る。とにかく自分!今度は軍隊に入った元祖。公然と自分を批判する黒髪の美女(ブリジット・バルドー)にカード勝負を挑む。最初は勝たせておき、途中から形勢を逆転する。すっからかんになった彼女を、金の代わりに鞭でさんざん打つ。そこへ現われたのが・・いや、ちょっとアンタ、現われるのが遅いでしょ。鞭打たれる前に現われなきゃだめでしょうが!とにかくまたしても分身が現われ、逆上した元祖は剣で勝負を挑むが負ける。立ち去ろうとする分身をナイフでブスリ。やっと自由になれたかと思えたが、神父に話した後、鐘楼から飛び降りる。なぜか彼の腹には、あるはずのない・・分身の腹にあるべきナイフが突っ立っていて。2話は当時のフランス映画界を代表する二大スターの共演というのが話題だった。しかもバルドーは黒髪でイメチェン。そのせいか解剖されそうになる金髪の女性と混同している人も。こっちのカティア・クリスチーヌも美人だ。あと、子供時代の元祖ウィルソンを演じたマルコ・ステファネッリのドロンそっくりぶりも驚き。

第3話 悪魔の首飾り

3話目は前にも書いたけど何じゃこりゃだった。映画通なら、すばらしい、傑作とほめちぎるのだろうが。最初に見た時はまだ子供。理解不能なシーンのオンパレード。いきなり現代に飛ぶのも不思議だった。出てくる人達はこってりメイクしてたり、表情やしゃべり方がわざとらしかった。とにかく自然でまともな人が一人も出てこないという変わった映画。イギリスのスター、トビー(テレンス・スタンプ)はローマへやってくる。カトリック西部劇でキリストの役をやることになっている。その前に何かの映画祭の前夜祭に出る。彼のお目当てはフェラーリをもらうこと。映画祭なんかどうでもいい。彼は明らかにアル中で、時々幻覚を見る。白いマリを持った金髪の少女で、彼は少女を悪魔だと思っている。3話を見た人は全員この少女の気味悪さにびっくりし、何年・・いや何十年たっても忘れられなくなる。今見ると、出番は意外と少ない。トビーはクスリをやっているところは出てこないが、そっちの方も中毒なのだろう。スタンプの演技はすばらしく、汚らしく見える時と、美しく見える時がある。昔テレビで見た時は全編汚らしく見えた。たぶんDVDほど画面がきれいじゃなかったからだろう。おまけにわけのわからない話がダラダラと続く。退屈し、呆れ、早く終わってくれとしか思わない。原作は読んでいない。たぶん全然違ったものになっているのだろう。今、一冊だけ持ってるポーの短編集を読んでいるところだ。非常に読みにくく、内容が頭に入ってこない。原作では1話目のフレデリックは男だし、2話目でカモにされるのも男である。読んでいてもちっとも華やかではないのだ。他に書くことあるかな・・そうそう、3話ではフェラーリをかっ飛ばす。このシーンやワンワンという爆音を聞いて思い出すのが「探偵アカデミー」。フェラーリをものすごい勢いでかっ飛ばすシーンがあって、そこだけは抱腹絶倒なのだ。本来ならフェラーリ・・じゃない、フェリーニはやはりすばらしいとか書かなくちゃいけないのだろうが、正直に書きます。3話目はつまらんです(スタンプの演技と少女の怖さは別ね)。