THURSDAY
この映画は思わぬ拾い物といった感じ。ストーリーを文章で書くとおもしろくも何ともないし、カバーを見れば無名の人ばっかり。一人ミッキー・ロークだけは有名だけど、ああじゃあきっと二流か三流のバイオレンスものだろう・・なんて。だから覚悟して(?)見始めたのだが、最初は何?これ・・だった。そのうちえっこれってブラックコメディー?だんだんあらこれどうなるのよいったい・・最後いやーんこれおもしろいじゃないのよ、きゃー見つけてよかった・・と一人で浮かれてしまった。中古ビデオの中からこれを買ったのはトーマス・ジェーンの出演作だからだ。これ日本では未公開だと思う。麻薬の取引やら殺人やら後ろ暗い過去のある青年が、きっぱり足を洗って結婚して真面目に暮らしているところへ昔の仲間が来て・・という典型的な巻き込まれ型ドラマ。ただしこの悪友ニックが具体的にどういうことをしでかしたのかという詳しい説明はない。いきなり現われて、結婚してフランスへ行くのだがその前にかたづける用事があるから車を貸してくれ・・と言う。ケイシーは快く車を貸すが、置いていったニックの荷物が麻薬なのを知って激怒する。彼のところにはピザの配達を装って麻薬を取りにきたラッパー(ケイシーは見つけるなりみんな流しに捨ててしまったから何もない)、金を捜しにきた男女、さらには養子縁組の調査員まで来る。ニックは麻薬とお金の両方を持っていて、両方の持ち主から、そして自分の仲間からも追われているらしい。ニックの用事がどういうことだったのかはよくわからない。しかもしくじって撃たれてしまう。その首を切り落として持ってきたのがM・ローク扮するカザロフ刑事。彼って悪徳刑事?ニックがお金を奪ったのは彼(警察?)かららしい。金を捜しにきた男女もニックの仲間だが、この二人もニックに裏切られたようだ。このように「~らしい」とか「~ようだ」としか書けないほど、ケイシーがとばっちりを受けたトラブルに関しては説明されていない。この映画の焦点は最悪のトラブルに巻き込まれたケイシーがいかにそこから脱出するかにある。ケイシーはまずスキを見てラッパーの男の銃を奪い、しばり上げる。この男殺し屋にしては間抜けで、ケイシーと一緒にマリファナを吸ってフラフラになってしまう。近くミュージシャンとして契約するハナシもあるから、そうなったらもう殺し屋はやめるんだ・・などと言う。
THURSDAY2
ケイシーに銃を突きつけている時に、あろうことか歌を聞かせてくれという電話が入る。困惑するが、でも何とか契約したいものだから歌い出す。歌えばついついノってしまうのがラッパーの宿命。夢中になって注意がおろそかになったところで銃を奪われ、しばられてしまう。そこへ来たのが調査員。相手をしていると今度は見知らぬ女が訪ねてくる。女は調査員にニックから聞いたのだが・・とケイシーの過去をばらし、養子の話をおじゃんにしてしまう。この女ダラスは色情狂で、ケイシーをしばってさんざんなぶりものにする。あまりのひどさにいつの間にか家に忍び込んでいたもう一人の男に頭を吹っ飛ばされてしまう。簡単に撃ち殺すくらいだから仲間といってもあまり仲がよくないことは確かだ。やれやれと思ったのもつかの間、今度はこのビリーが電気ノコギリとバーナーを取り出し、ニックが戻るまでの間におまえを切り刻む、血が出ないように切り口は焼く・・などと言う。ケイシー絶対絶命のピンチ。その時隣りの家に警察が来て撃ち合いに・・どうやらこの家と間違えたらしいが・・。その日の朝新聞を取りに出た時にあいさつした東洋人のお隣さんのところかな?ビリーが様子を見に行っている間にやっとのことでいましめを解いたケイシーは、戻ってきたビリーを隠し持っていたフライパンでたたきのめす。ラッパーから奪った銃があるのだが彼が手にしたのはフライパン。このシーンは「ディープ・ブルー」を思い出させておかしい。ダラスが調査員にばらしたケイシーの仕事は、「ブギーナイツ」とそっくり。あっちではT・ジェーンは死んでしまったけれど、こっちでは生き残っているというだけ。この仕事で仲間のジミーは死に、相手側の死者に身重の女性がいたことでケイシーはやばい仕事からきっぱり足を洗う決心をした。ロスからヒューストンへ移り、建築の勉強をし、食堂で働いていた女性と結婚し、仕事も来るようになった。生活はラクになったが幸せかというとそうでもない。妻はいつの間にかやり手の実業家みたいになっていつも忙しく、大人しくて何でも言いなりの夫にはイライラしている。ケイシーは過去を隠し、妻を愛しているので完璧な夫になろうと努力しているのだが、妻にはそれが物足りない。もっとワイルドになって・・というわけだ。今のところこの二人が何とか夫婦としてやっていけているのはケイシーの方が自分を殺しているから。
THURSDAY3
ケイシーが妻の望むようなワイルドな夫だったら、二人の間にはケンカが絶えないだろうし、夫婦間のすきまを埋めようと養子を迎えたところで、問題が解決するはずはない。さていくら大人しい男でも続けてとんでもないトラブルに巻き込まれれば、昔取った何とやらでだんだん本性が現われてくる。そんな中でも絶対に人は殺さないとか、妻を裏切らないとかそういう信念を曲げないところがいい。特に今の彼は前に書いたように、妻とはあまりうまくいっていないのである。ひどい目に会わされてもじっと耐えて、チャンスをうかがい、何とかピンチを脱する。無駄に騒ぎ立てず、どうすべきかを考える。やばい仕事をやっていた時にはこんなピンチはいくらでもあったことだろう。その時の経験が今役に立っている。車庫にはラッパーとビリーと死んだダラス。そこへニックの首を持って現われたカザロフは男二人をあっさり撃ち殺し、死体を三つに増やす。ニックが我々から奪った金を7時までに見つけろと言い残して姿を消す。ケイシーは皮肉なことに自分がやられそうになった電気ノコギリを使って死体を切断し、ゴミに出す。うーんどう考えても途中で死体だってばれると思うけど・・。ふとニックの最後の電話を思い出したケイシー。車の中のスペアタイヤに隠された200万ドルと彼ら夫婦のためにニックが用意した時計のプレゼントを見つける。あらまカザロフさんよ、あんたが運転してきた車の中にお金はちゃんとあったのよ。もう少し注意すれば取り戻せたのにねえ。ニックの心遣いに感謝するケイシー。彼のおかげでさんざんな目に会ったが、今まで押さえつけていた自分の本当の姿が見えてきた。妻の言いなりになっていた大人しい自分は本来の自分ではなかった。ラッパーのケータイを利用してケイシーは麻薬を受け取る側にも電話をし、彼の家でカザロフ達と鉢合わせするよう仕組む。双方からうまく逃れたケイシーだがもう家には帰れない。仕事中の妻の前に現われて金を見せ、自分とフランスへ行くか、さもなければお別れだ・・と選択を迫る。突然のことにめんくらう妻だが夫を失うのはいやだ・・てなわけでハッピーエンド。これが木曜日に起こった出来事。ずいぶんめまぐるしい一日だったわけだが、奥さんにとってはこれからがめまぐるしいだろう。信じられないようなハナシを聞かされるのだから。てなわけでT・ジェーンの魅力全開の映画でした。