S.W.A.T.
この映画の公開に合わせてかどうか知らないが、テレビシリーズのDVDも発売された。こんなのいいから「ジェリコ」とか「特攻ギャリソン・ゴリラ」とか「電撃スパイ作戦」をDVD化してくれい!・・私はテレビシリーズの方は見たことないが、顔ぶれは知ってる。「テレビジョンエイジ」の表紙も何度か飾ったし。ロバート・ユーリックやマーク・シェラはハンサムだから、日本でも人気があっただろうな。映画版「S.W.A.T.」はWOWOWで見たが、スピーディーでおもしろかった。チームのリーダーであるホンドーは今風に黒人である。テレビ版でのホンドー、スティーヴ・フォレストはラスト近くちょこっと出ている。昔はこういう渋い顔つきの役者がいたものだが、今はあんまりいないな。ディーク役のロッド・ペリーも映画版ディークの父親役で出ているし、ボクサーが家で見ているテレビ番組は「S.W.A.T.」だ。テレビでのテーマ曲もアレンジされて流れたり、出演者が口ずさんだり・・。もっともこういうことのほとんどはパンフやDVDのコメンタリーで知ったことで、最初は気がつかなかったんだけどさ。何しろ元のを見ていないんだからさ。サミュエル・L・ジャクソンは出すぎという感もあるが、ホンドー役はまさにはまり役。見ていて全く違和感がなく安心できる。・・つまり「ツイステッド」のように実は犯人でしたとか、「閉ざされた森」みたいに実は生きてましたとか、「ディープ・ブルー」みたいに途中で食べられちゃいましたとか、そういう引っくり返りがない。あるはずがない。ジャクソンの特徴は家庭臭のないことだ。彼の演じるキャラはたいてい独身で、たいてい(休日も)仕事をしていて、たいてい(夜中でも)起きている。子だくさんの父親とかそういう役ってあったっけ?私が彼を知ったのは「死の接吻」で、非常にひねくれた性格の刑事役だった。まあ途中から主人公に協力するようになり、結局はいいヤツだったんだけどさ。それにしてもあれこれとよく映画に出ている人だ。「閉ざされた森」みたいに大声でがなりたてることが多く、鼻についてうんざりさせられるのだが、今回はそんなこともなくよかった。ホンドーは常に余裕があり、経験(人生でも仕事でも)が豊富である。下で使われる者が無条件に信頼できるリーダーである。それはそのままジャクソン自身のことでもあるが。
S.W.A.T.2
この映画の特徴は、人生にはつきもののいろいろなゴタゴタをしぼって表現していることである。一番見せたいのはSWATについてだから。有能な人材をスカウトし、訓練し、実戦へ。銃などの装備、作戦、駆け引き、銃撃戦、肉弾戦、休みなしの過酷な任務などが描かれる一方、ホンドーとフラーとの過去の軋轢は明らかにされない。フラーが出世主義者で官僚タイプで、明らかに無能なのは過去のエピソードを出すまでもない。ホンドーが三年間現場を離れていたのはフラーが陥れたのか、ホンドーの方で嫌気がさしたのか。しかし犯罪の凶悪化、多発化はホンドーを呼び戻さざるをえないほどで・・。そうなればホンドーはフラーなんかメじゃないから好きかってにするわけよ。仕事以外で描かれる個人的なことは、彼がゴルフ好きらしいということだけ。その切り捨てぶりがいい。次にコリン・ファレル扮するストリート。彼のキャラクターがまた好もしい。最初に描かれるのは相棒のギャンブルや上司のフラーとのこと。どちらも仕事上のトラブルで、SWATじゃなくたって勤めていれば、生きていればたいていの人が経験することだ。相棒との信頼関係は重要だが、ギャンブルは明らかにストリートに甘えている。自分の腕を過信し、独断的行動を取り、しかも自分の非を認めようとしない。上司がフラーというぼんくらだったのも不幸なめぐり合わせだったが、例え誰が上司だろうと、彼は遅かれ早かれクビになるか自分からやめるかしていただろう。ストリートはそんなギャンブルをなだめ、尻ぬぐいをし、彼のせいで武器保管係という閑職に追いやられてもふてくされもせず、じっとチャンスを待つ。大酒をくらうとか人にあたりちらすとかそういうのではなくて、映画は海辺でトレーニングにはげむストリートをうつす。彼だって元々そういう自制心を身につけていたわけではあるまい。もっと若い頃にはムチャをやったかもしれない。でも今はしない。ギャンブルに「オレを売ったな」といんねんつけられても動じない。彼はギャンブルを売ってはいないし、ギャンブルにだってそれはわかっている。ずっと相棒だったのだから相手の性格はわかっているはず。でもギャンブルは言わずにはいられない。自分の悪いところを認めようとも直そうともしない。したがって悪の道へ簡単に踏み込んでしまうのだ。ストリートは若い頃はムチャをやっても次の段階へ進むことができた。
S.W.A.T.3
自分の天職はSWATと自覚し、めぐまれない状況にも動じない。ホンドーも昔から今のような余裕のある指導者じゃなかったと思う。若い頃はすぐ頭に血が上るようなタイプで、経験を積むにつれて性格が変わってきたのでは?ホンドーもいろいろ回り道した、させられたクチなのでは?ストリートを一目見て気に入ったのは、自分と同じタイプだと見抜いたからなのでは?さてストリートはある日突然恋人から別れを告げられる。しかし描写はあっさりめ。だいたいあの恋人ちーとも魅力なし。死んだ魚のような目をしている。いつまでも結婚してくれないから別れるわ・・ああそうですか・・ってなもんよ。見ている人で彼女に共感する、あるいは同情する人いるんですか?ストリートが結婚に踏み切れないのはSWATが危険な職業だからだろう。でもディークやボクサーのような妻帯者もいるわけで、危険をどうとらえるか・・なんだろうな。どんな職業にも何かしら危険はある。未練はあるけど、別れを告げられてショックだったけど、でもそのことでストリートはどーのこーのということはなくて、だってやっぱオレはSWATに戻りたいんだもーん。・・で、戻ってから女性隊員のサンチェスに気持ちがぐらついたりするんだけど自制する。恋人の兄であるボクサーがまたねちねち言うのよ。妹にはストリートと一緒になって欲しいと願っているからなんだけど。ホントはストリートのこと買っているんだけど。ストリートにすれば新しい恋人ができたようだなんていう彼女の近況なんか聞きたくない。だって向こうから去って行ったんだもんねー。妹を気遣うボクサーの気持ちはわかるけど、自分には結婚する意志はないし、彼女に会う気もない。普通の映画だったらここらへんにはもっと時間を割く。ストリートは「考え直してくれ」と恋人に頼むだろう。SWATをはずされた今、心のよりどころは恋人だけ。彼女を失いたくない・・とか何とかさ。でもそうならなくてボクサーの言葉にもあいまいな表情を浮かべるだけ。そういうストリートのキャラに物足りなさを感じる人もいるだろうが、私はそういうところが気に入った。新しい恋人ができたくらいだから彼女、ストリートとの別れはそんなに辛くもなかったのか。それとも当てつけのつもりで好きでもない人とつき合っているのか。結局恋人はそれっきり姿を現わさず、見ているこっちも助かった。
S.W.A.T.4
サンチェスとのことも、流れから言ったら恋人どうしになっても少しもおかしくない。二人でお酒を飲んで家まで送って、お互いフリーだし好意も持ってる。それでも次の段階には進まない。なぜかと言えばこの映画が描きたいのはSWATだから。ホンドーの過去、ストリートと女性とのあれこれを入れていたら、この映画の持つスピード感はかなり鈍っていたことだろう。省略して正解よん。それにしても・・この映画でのコリンはいい。コメンタリーで監督はスティーヴ・マックイーンに似てると言ってるし、ストリートの部屋には「ブリット」の大きなポスターが貼ってあるし・・。でも似てますかね?コリンの特徴はルックスにあると私は思う。きょろんとした丸い目、鼻と口は小さめで形もいいとは言えず、全体的に子供っぽい印象。パンフの表紙を見てもわかるが、他の三人にくらべふてぶてしさや迫力に欠ける。本来ならLL・クール・Jの写真の位置にコリンが来るはずだ、主役なんだから。それでいてつんと上に立った短い髪(黒なのがいい)、太い眉、がっちりとした体格(やや背が低めなのがいい)で、性格は素朴で自制心があり、仕事熱心、研究熱心。子供っぽさ、ひ弱さ、落ち着きのなさを感じさせながらも、一方ではゆるぎのない強固さを感じさせ、しかも一つの体の中にそれらが無理なくおさまっている。それがコリンであり、ストリートである。何よりもストリートの場合、善と悪との区別がつくのがいい。まあこれはまた後で書くけど。とにかくコリンはジャクソンに劣らずはまり役で、ぜひ「2」も作って欲しい!「2」と言えば、おかしいのは監督がコメンタリーで「私はご免だ」と断言していること。他の場所で撮影すればもっと楽なのはわかっているが、何しろロス市警のSWATが主人公だからロスでとるより他なかったのだ。規制は多いしお金はかかるし、まあ大変だったのだろう。こっちは観光気分で気楽に見ているけどさ。作り手の苦労なんか感じているヒマもないほど次から次へとストーリーが展開する。ギャンブルとの訣別、ホンドーの復帰、隊員スカウト、訓練。・・一方でフランス人の麻薬王アレックスが入国し、次々に犯罪を・・と思ったらつまんないことで逮捕されてしまう。「オレを逃がしてくれたら1億ドル払う」なんてテレビカメラに向かって言ったもんだから大騒ぎになる。
S.W.A.T.5
テレビにくり返しその映像が流れ、それをまともに受け取るアホがいて・・。日本だったらどうだろう。民放だったら流すだろうけどNHKはその部分を流すかな・・なんてふと思ってしまった。日本ならワイドショーが大騒ぎするだけで、あんな襲撃事件は起きないだろうな。アメリカでも起こらないと思うんだけど、監督は報酬が1億ドルなら起きても不思議じゃないと考えているのよね。そこがびっくりしたな。さてアレックスを護送中、立て続けに奪回事件が起きる。アレックスはモンテル・ファミリーという犯罪組織を率いているんだから、頭からっぽ金目当ての連中とは別に、ファミリーによる大がかりな救出作戦が取られると思うんだけど。そういうのがないのでアレックスはちっとも大物に見えないのよ。やさ男だしね。でもそこがいいのかも。いかつい顔した大男に「1億ドル払う」と言われるのと、吹けば飛ぶような男に言われるのと、どちらが本当っぽいか。見かけによらずこの男、いっぱい金持っているのでは?・・アレックスにはそう思わせる雰囲気がある。大物感がないぶん、救出する側にも安心感がある。つまりお金の支払いをめぐってトラブルになっても、アレックスなら屈服させられそうな気がする。いかつい大男だとトラブルになった場合、こっちの身が危ない・・とかさ。そういう御しやすい雰囲気は見かけだけで、実際のアレックスは一筋縄ではいかないんだけどさ。てなわけでアレックスにやさ男オリヴィエ・マルティネスを配したのはいい選択だったと思う。ただしアクション大作の大道を行く・・とは言えなくなったけど。サンチェス役はミシェル・ロドリゲス。サンチェスは何度試験を受けても女性だからとフラーに落とされてしまう。未婚の母なのか離婚したのか一人で女の子を育てている。念願のSWATの一員となった彼女は仕事を第一に考え、例えストリートといいムードになってもあっさり別れる。公私をごちゃまぜにしない。少なくとも今のところは。ロマンス関係があっさりめなのは続きは「2」でどうぞ・・ってことなのかな。この映画で残念なのは、せっかくの紅一点なのに彼女の見せ場があんまりないこと。スカウトされる時も病院で手当て受けてるし、実際に仕事しているシーンが用意されてないのよ。ディークにはちゃんとあるのに。召集された後は集団行動だからますます目立たなくなってしまう。
S.W.A.T.6
そこらへんはとても残念に思った。活躍も「2」までお預けってこと?この映画、まず手初めだからと、元SWAT(ギャンブル)と現SWAT(T.J.)の二人を犯人にしちゃう。その方がストーリー作りやすいからだけど(大物犯罪者としてのアレックスを描かなくてすむ)、安直感はどうしても出てくる。同じ能力、技術を持っている者どうしの、だましだまされギリギリの戦い・・それが売りなんだけど、内輪で何やってんだよ・・ってことにもなる。ギャンブルには元々そういう犯罪者的傾向があったってことだけど、T.J.は?彼はなぜ裏切ったの?彼は仲間とはちょっと距離を置いている。ボクサーもそうだが、それは彼がSWATとしてはベテランの部類に入るからだ。T.J.はエリートで有能でありながら、物事を斜めに見ているところがある。ポーズをつけていて本心を明かさない。こういうタイプは恐怖心もあまり感じず、お金や名誉にも無関心なのでは?だが彼は1億ドルの話に乗る。お金に困っていたのか、危険なわりに低い給料に嫌気がさしたのか。ギャンブルなら誰しも裏切って当然だと思う。彼の場合お金は二の次で、フラーやストリートへの恨みが第一にあったと思うが。途中でT.J.は不審な行動を取る。料理にあたったとか言って集合にちょっと遅れたりしたら・・それはもう内通者のしるし。見ている者にはぴんとくる。最初アレックスはヘリで護送されるはずだった。この時点でもうT.J.はギャンブルと手を結んでいたのか。ヘリを狙撃するのにちょうどいい場所を見つけるには準備の時間が必要だ。ヘリがやられたためアレックスは車で護送されることになる。こういう場合に備えてA作戦B作戦といくつか護送方法が用意されていたはず。T.J.はそれらもギャンブルに知らせていたはずだ。T.J.はギャンブルと違って仲間は傷つけたくない。だからボクサーが重傷を負った時には動揺する。しかしヘリの操縦士だって墜落して命を落としたんだし、犠牲者が出ることはわかっていたはず。誰も傷つけずにアレックスを逃がすなんて不可能だ。・・てなわけでT.J.に関しては裏切ってもインパクトなし。動機不明ということで説得力なし。・・しかし現実にこういうことが起こらないかと言うと、そうでもない。ある日突然人は魔が差す。1億ドルをちらつかせたってストリート、サンチェス、ディークらには何の影響もない。
S.W.A.T.7
へへっと笑ってまともには取り合わない。家族持ちにはお金が必要だが、それでも「よし、乗った!」とはならない。話はそれるが私自身仕事(あるいはアルバイト)でお金を扱ったことがあって、時には大金だったりするが、欲しいと思ったことはない。なぜならそれは自分のお金ではないからだ。いくらたくさん積んであってもそれらはただの紙束だ。1円の狂いもなく操作しなければならない貴重品だが、そのことを別にすれば自分とは無関係なものだ。だからいくらたくさんあろうと、いくら金庫が開いていようと、いくら監視カメラにうつっていないとわかっていても手を出さない。お店とか金融機関で一番重要なのは、正確さとかそういうことより自分のものと他人のものとの区別がつくことだと思う。たいていの人は区別がつくからお金や商品を盗んだりしないし、他人の奥さん(あるいはダンナ)に手を出したりしない。そうやって社会の秩序は保たれている。でも中には区別のつかない人がいて問題が起きるわけだ。一儲けしてやれとサークルの会費を株に投資したら暴落してしまったとか、目前の支払いに迫られてついお客の金を・・とか。その人達は別にそのお金がなかったら死んでしまうほどの窮地に追い込まれていたわけではない。でも手を出してしまう。・・で、そういう場合でも表沙汰にはならず、たいていは内輪で処理してしまうのよ。ギャンブル達の企みは失敗し、T.J.は自殺するけどホンドーは黙認する。SWATの名誉は傷つかずにすむってこと?ギャンブルも死んだからT.J.の裏切りを知っているのはアレックスだけ。でもどこにT.J.裏切りの証拠がある?この映画のクライマックスは橋に小型ジェットが着陸、あるいは離陸しようとするあたりか。その後ストリートとギャンブルとの線路での死闘があるけどあんまり・・。暗くて何が何だかわかんないしね。・・てなわけでこの映画に対する評価は、軽いとかうすいとか、まあそういうのが大部分。重みより軽い乗りを楽しむ映画になっている。SWATに関してはできるだけリアルに描こうと努めているにしても、娯楽映画に徹しているのは確か。私自身は前にも書いたけどストリートのキャラのまっすぐさが心に残った。単純で素朴で、善悪の区別がつく。「ゴッド」のクレイにも通じるところがある。ぜひ「コリンのストリートの活躍するS.W.A.T.2」を作ってください!