16ブロック

16ブロック

予告は何度か見ていて、見たい気持ちと見たくない気持ちが半々。ブルース・ウィリスはいつも号泣するか深刻な顔しているかのどちらかなので、またか・・って思っちゃう。今回も目のふち赤くしてしているので、また号泣かよ・・と見る気失せちゃう。だからパスするつもりだったけど、公開始まるとやたら評判いいし、監督リチャード・ドナーだし。「タイムライン」の、実写にこだわる骨太さが印象に残っている。彼が監督なら期待できるかも・・。そう思って見に行ったのよ。そしてその期待は裏切られなかった。ストーリーは「アサルト13」風。警察内部の腐敗があばかれそうになって、証人が消されそうになるのを、一人の刑事が守る。つまり主人公の敵は身内。ジャック(ウィリス)は「アサルト13」の主人公と同じで酒びたり。仕事中も飲んでるし、まあよくクビにならずにいるもんだ。年くってるぶんおなかは出ているし、額はハゲ上がってるし。今だって夜勤明けだし二日酔いだしでもうよれよれ。うちに帰って酒飲んで寝ることしか頭にないけど、運悪く証人護送の仕事押しつけられちゃった。10時までに裁判所へ連れて行かなくちゃならないんだけど、担当の刑事は渋滞に引っかかってる。その代わりに・・というわけ。裁判所までは16ブロック(1.3~1.6キロ)、わずかな距離だしすぐすむはずだったのに・・。証人のエディ(モス・デフ)、まあしゃべることしゃべること。もうどうしようもないくらいしゃべる。きっと生まれる前からお母さんのおなかの中でしゃべっていたに違いないわ。ジャックはよくあのままにしておいたな。私だったらさるぐつわしちゃう。途中で謎の男達に襲われ、銃撃戦になる。この男達はブキミな感じがあってよかったと思う。何にも怖くない、痛くない、ためらいがない。無表情で非人間ぽい。ジャックの応援にかけつけたのが元相棒で親友でもあるフランク(デヴィッド・モース)。やれやれと一安心したジャックだが、フランクの相棒ジェリーを見たとたん、それまでしゃべり続けていたエディが黙り込む。うるさくしゃべりまくる男(たいていは黒人)の出てくる映画なんて、見たいとも思わないけど、それまでうるさかったのがぴたっとやんだ時の何か変だぞ・・というムード。その静けさが非常に効果的だった。

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フランク達がエディを消そうとしているのを知ったジャックは、エディを助けることに決め、警察全部を敵に回すはめになる。10時までに裁判所へ行って証言しないと、フランク達の悪事は闇に葬られてしまう。てなわけで身内との戦いであると同時に、時間との戦いでもある。もう一つ(後でわかるけど)良心との戦いでもあるんだけどさ。まあいろいろあって、全体的にはうまくできている。それでもところどころ「?」な部分はある。16ブロック、2時間ほどの間に起きる出来事だから、あいまいなところがあっても別に不思議じゃない。全部完璧に説明される方がおかしい。ジャックのことはよくわからない。妹ダイアンがいることは後でわかるけど、結婚してる(してた)のか不明。なぜ足を悪くしたのか不明。キャロラインて誰?フランクの態度もおかしい。話すことに時々不明なことがある。後にジャックの秘密が明らかになるから、不明な部分も意味がわかってくるけど、それにしたってああいう場合、フランクがジャックの秘密黙っているなんてことありえない。ばらしてジャックとエディの仲を不安定にするはず。ジャックが自分の位置を知らせるケータイ持ち歩いているのも不思議。あたしゃてっきり走っている車に投げ込むとか、他人のポッケに突っ込んで敵を惑わせるかと思ったら・・。それとジャックは、検事補に連絡がついたのなら裁判所から誰か迎えによこしてもらえばよかったのよ。そうすりゃフランク達もうかつには手が出せないでしょ。ストーリーは、バスジャック(ジャックがバスをバスジャック・・早口言葉かよ!)というハデな展開になり、狙撃班が出動し、「ホステージ」みたいになっちゃう。あっちではウィリスが交渉する側だったけど、こっちでは交渉される側。バスの乗客はわりとみんな大人しかったけど、実際にはもっと騒ぐだろうな。客の中に銃を持ってる人がいたらもっと違った展開になる。誰も持っていなかったのは客にとってもジャック達にとっても幸運だった。普通こういう映画では、どちらかが命落として悲劇的な結末迎えるものだ。目のふち赤くしたウィリスはきっと号泣し、その後死んでしまうに違いない。悪くするとスローモーションで見せられるかもしれない。そのシーンが目に浮かび、なかばうんざりしていたのよ。そしたら・・。

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あそこまで窮地に追い込まれて、あんなに銃やら何やら向けられていて、何かの拍子にズドンといって、取り返しがつかなくなることもありえたのに・・作り手はあくまでも希望のある結末にしたのよ。「人間は変わることができる」というのがこの映画のテーマだと思うけど、私には「生き残ったこと」がとても印象的だった。あんなに絶望的な状況だったけど生きのびたのは、ジャックがそこで死ぬ運命ではなかったということ。それは彼自身だけのことではなくて、まわりの者も影響しているの。つまりバスの乗客がみんな大人しくて騒ぎ立てず、銃を持ってる人誰もいなかったってこと。あるいは裁判所でジャックに狙いを定めていた狙撃手が、別の刑事の不審な行動に気づいたこと。ジャックはエディと出会ったことで過去を清算できたけど、彼が変われたのはそれ以外の多くの人のおかげでもある。人間ってそういうふうにお互いにかかわり合って生きているものなのだ。ラストは立ち直ったジャックの誕生パーティ。やはりケチなチンピラから立ち直ったエディが送ってくれたケーキが置かれる。ラストはしみじみとしたいいシーンだ。いちおうケーキに書かれた文字が泣かせどころなんだろうが、私はあんまり感動しなくて、妹に写真をとってもらうジャックの表情にじーんとさせられた。いちおうアクションものとしてドキドキさせられたけど、最後に心がじわーんとあったかくなって、ヒューマン・ドラマって感じだった。ダイアン役のジェナ・マローンもよかった。彼女「コレクター」で有名なサマンサ・エッガーの娘だそうな。サマンサのことパンフには「コレクター」でアカデミー主演女優賞射止めたって書いてあるけどこれは間違い。ノミネートなのだぜい。射止めたのはカンヌとゴールデン・グローブの方でありんす。さてこの映画を見たのは明日で終わり・・という木曜日。そのわりには丸の内東映2にはけっこうお客入っていた。実は私は上映前ここで流れる「お客様へのお願い」が好きだ。映画館によっていろんなタイプ(アニメだったり普通に女の人が出てきてしゃべったり)があるが、ここのは「サンダーバード」風なのだ(テレビ版じゃなくて実写版の冒頭アニメ部分)。軽快な音楽、カラフルな色彩、バビューンという感じ・・。ケータイ電話はお切りくださいという部分でのピピッピピッという音は、まるで救助を求める信号音のようで・・(妄想)。