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これを最初に見たのはWOWOWで、だいぶ前だ。その後DVDを購入。クレイグ・ビアーコは「ロング・キス・グッドナイト」で初めて見て、何て美男なのだろうと驚いた。この映画では主役だから、その美しさをずっと見ていることができる。時期的には「マトリックス」と同じで、あっちはあんなにブームになったのにこっちは・・。原作「模造世界」が出たのは1964年。その頃から仮想空間という考えはあったのだ。これにはびっくり。原作はずっとほったらかしてあったのをやっと読んだ。最初に映画を見た時には意味がよくわからなかったけど、今回は少しは・・。でも、冒頭からこれも次のこれも実は仮想空間なのだ・・とわかった上で映画を見るのはちょっと味気ないけど。まずコンピューター関係の会社があって、ダグラス(ビアーコ)とホイットニー(ヴィンセント・ドノフリオ)はボスのフラー(アーミン・ミューラー=シュタール)の元でもう六年も、あるソフトの開発を続けている。仮想空間の中の個体・・仮想人間にいろいろ学習させる。将来的にはユーザーの頭のなかみが個体の頭に転送され、全く現実としか思えない仮想空間を楽しむとか、そういうことを目指しているのだろう。ただ、今の段階では人体への負担も大きく、時間も短く、気軽にとはいかない。フラーは何度もあっちへ行き、何かに気づく。殺されたのはそのせいか。刑事のマクべイン(デニス・ヘイスバート)がいろいろ調べ回る。フラーの娘だというジェイン(グレッチェン・モル)がパリから戻ってくる。ダグラスは自分がフラーを殺したのでは・・と思う(血のついた衣類があったし)が、記憶はないし、第一なぜそんなことをしなくちゃならないのか。事実解明のためには自ら仮想空間へ行き、調べるしかない。ホイットニーに協力してもらって、仮想空間・・1937年のロサンゼルスへ。そこではダグラスはジョンという銀行の窓口係、フラーはグリアソンという骨董店のおやじ、ホイットニーはアシュトンというバーテンダーだ。アシュトンはフラーからダグラスあての手紙を預かっているが、そのことは黙っている。手紙を盗み読み、ある衝撃的な事実を知る。
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何の前知識もなく見ていると何が何だかわからないが、全編にわたって静かでていねいな作りなので、さほど気にならない。予告編はもっとドラマチックで、起伏に富んだSFアクション風だが、本編は全然違う。まあだからこそ私は「マトリックス」なんかよりこっちの方を気に入ったのだが。90年代から37年への逆行だと思って見ていると、最後の方でもう一段階あるとわかる。2024年である。フラー同様ダグラスも、自分達がただの電子の集まりなのを知る。自分達は存在しないのだ。現実はもう一段階上にあるのだ。ダグラスはフラーや、ゆすりに来たトムを殺す。ホイットニーの体に入ったアシュトンも殺す。ダグラスにその記憶がないのは、彼を支配しているのが現実のユーザー、デヴィッドだからだ。ここらへんがややこしいのだが、現実の人間は24時間仮想空間にいるわけにはいかない。例えば眠る時には現実の世界に戻る。ジェインはデヴィッドの妻だが、昔はあったデヴィッドの良心の部分が失われたのを危惧している。デヴィッドは仮想空間や仮想人間を操っているうちに、自分を全能の神と思い始めたのだ。それだけではすまず、殺人も。夫が眠っている間に仮想空間に入り込んだジェインはダグラスに恋してしまう。ダグラスはデヴィッドの善の部分。そりゃ夫と外見が全く同じで(超美形で)、しかも善人とくりゃ・・こっちの方がいい!となるわな。この・・デヴィッドが仮想空間に接続しているかいないかによって、ダグラスのなかみが違ってくるというのは、見ている人にちゃんと伝わっていたかしらね。ラストでデヴィッドとジェインはヘッドホンみたいなのを頭からはずすけど、あれが仮想空間へ入り込むための装置なんだわな。90年代では大がかりな装置だったけど。ビアーコは表情も声もソフトで、あまり強烈な印象はない。ドノフリオみたいな個性的な人が隣りにいるとみんな持っていかれてしまう。90年代のホイットニーのドノフリオは長髪で、しゃべり方とかちょっとフィリップ・シーモア・ホフマン風。ビルが林立する美しい夜景や、1930年代のロスとかしっかり作ってある。30年代の自動車の数だけでも相当なものだ。ところどころ「ダークシティ」風味が感じられたのも、私的にはうれしい。