ツイスター

ツイスター

ハイ!私はジョー、本当はジョアンって言うんだけど、誰もそんなふうには呼ばないわ。映画「ツイスター」は簡単に言うと竜巻の話よ。複雑に言っても竜巻の話よ。・・と言うか、そうなるはずだったの。でもそれじゃ私達が出ている意味がないわ。ウフ、何のことかはそのうちわかってくるわよ。そりゃ竜巻はうまくできているわよ。はりきって登場するし猛威をふるう。見ている人は、つまり観客のことだけど、洗濯機にほうり込まれて水流「強」でガラガラと回されているような気分にさせられると思う。あの竜巻はどう見たって洗濯機の中の渦よね!人間も負けじとお祭り騒ぎで走り回るわ。この映画には同じような装置を持った(もちろん私とビルが考案し、ミラーは盗んだだけよ)お金たっぷり余裕派と、その日暮らしのオンボロ派が出てくる。実際にはもっといろんなグループが竜巻の追跡に加わっているけど、そんなの出してたら散漫になっちゃうから二グループだけ。その中でも私達の方に時間を割いて(当然よ)、ミラーの方はいいかげんね。りっぱな装置とぴかぴかの車が整然と走るだけで終わり(いい気味よ)。竜巻ったって一年中起きるわけじゃない。アメリカ全土で起きるわけでもない。シーズンがあって(年に二、三ヶ月)、特定の地域(カンザス、オクラホマ、テキサス)で発生しやすいの。ちなみにこの映画の舞台はオクラホマよ。竜巻を追っかけていない時もいろいろやることはあるのよ。でも映画ではホント一年中追っかけをやっているような描写ね。あれじゃあ彼らの正式な職業名すらわかんないわ。どこから資金を得ているのかもわかんない(私にもわかんないけど)。ミラーはオクラホマ科学技術大学大気科学研究室長よ。何これ、F5くらいの仰々しさね。あッ映画の中でF5とか出てくるけどこれは竜巻のスケールを表わしているの。Fは考案した日本人藤田氏のFよ。さてと・・いくら映画でも竜巻だけじゃ話が持たないから副ストーリーとしてヒロインである私の現在と過去が出てくる。私は幼い頃父親を竜巻で失ったの。竜巻のことはあの頃も今も大して詳しいことはわかっていない。いつどこで発生し、どのような進路を取るのか。あの時もっと早くに警報が出ていれば父は死なずにすんだかもしれない。現在の私達がまるでお祭り騒ぎのように竜巻を追いかけているように見えるのは、竜巻の持つ不定性のせいなの。

ツイスター2

もちろん映画向けにハデにしてあるわよ。さて・・私は父に続いて今また夫であるビルを失おうとしている。確かに私達の結婚は失敗だったかもしれない。どちらも気が強いし傷つけ合うばかりだった。彼が姿を消すのは今回が初めてじゃない。彼のことだからしばらくすれば戻ってくる。そう思って大して心配もしていなかった。離婚届なんて何度となく突きつけられたけどろくに見もしなかったわ。今回のビルはいつもと違ってた。ずっと音沙汰がないからこっちから連絡したの。そろそろ(竜巻の)シーズンよ・・って。ドロシーのことは秘密にしといたの。驚かせるつもりだったから。現われたビルは見知らぬ女性と一緒だった。音沙汰がなかったのはこのせいなのね。精神科医ですって?セラピーに行って治療がいつの間にか恋愛に変わり、ついでに婚約したってわけ?ミラーが盛んに色目をつかってきたのはそのせいね。もう離婚は決定的だとにらんでいるんだわ。何しろお金はあるしハンサムだし自信もたっぷり。これでなかみもたっぷりなら私も少しは考えるけど、彼の今の地位はビルの業績をかっさらって得たもの。数年たてば化けの皮がはがれるわ。ああいえそんなことはどうでもいいのよ。ドロシーがほぼ完成して、あとはうまく竜巻のど真ん中に設置できれば・・というところまで来ているのにビルったら何が「離婚届にサインしてくれ」よ!データの送信に成功すれば竜巻のメカニズムが解明できるはず。ミラーに先を越されたら今までの苦労は水の泡。研究資金はみんなあいつに持っていかれてしまうわ。ドロシーを見ればビルの気持ちも変わる。その通り彼は完成を喜んでくれた。でも離婚の意思は変わらない。何と言っても彼女メリッサがここへ来ていることはまずいわ。彼一人なら何とかなるけど、余計なのがああやってへばりついていたのでは・・。ビルだって彼女の手前そうすぐには軟化できないわ。・・正直に言うけど私はまだビルに未練がある。別れたくないの。私一人じゃ研究はムリ。夫婦としてやっていくのはムリでも相棒としてならやっていけるはず。でもサインしたらビルは私の手から離れてしまう。メリッサのものになってしまう。あんな女・・うわべは二人とも仲良くしてるけど、私の見るところ彼女大したことないわ。もちろん向こうも私のこと観察しているんでしょうね、何しろ有能な医者だから。

ツイスター3

お上品ぶってるけど竜巻を前にしたら知性も落ち着きもふっ飛んでしまうに決まってるわ。ここは居心地のいいオフィスじゃない。雨・風・雷・雹(ひょう)、何でもありの現場なのよ。ビルだってデスクワークって柄じゃない。お天気お兄さん?冗談じゃないわ。メリッサのせいで彼は自分がわからなくなっているの。でも運のいいことに今年は竜巻の当たり年。ビルには気圧の変化を感じ取る能力がある。頭の中は離婚を成立させようという気持ちでいっぱいだけど、体は別のことに反応しているの。体はそっちの方に行きたがっている。竜巻に引き寄せられたがっている。私にはわかるけどメリッサにはとうてい理解できないわ。こうなったら何が何でも口実作ってサインするのを引きのばさなくちゃ。書類をまだよく読んでいないの・・とか、ボールペンのインクがなくなったとか・・。いよいよとなったら手がマヒしたとか自分の名前忘れたとか・・とにかく私はあんな竜巻のたの字も知らないような素人女にビルを渡したくないのよ!ええ渡してたまるもんですか!ハアハア・・いけない、つい興奮しちゃったわ。この映画もちろん特撮バリバリのパニック映画よ。竜巻およびそれがもたらす破壊が売り物なのよ。でもここまで書いてきたことでもわかるでしょうけど、本当は女の戦いなのよ。かたやインテリ女医、かたや現場たたき上げの竜巻研究女・・プラス男一人。絵に描いたような三角関係。新しい恋人の元へ去って行こうとする男を、あの手この手で引き止めようとする女の話なのよ。少なくとも私はそう思っているわ。監督ヤン・デ・ボンは三角関係は彩りで、竜巻メインのつもりでしょうけど。特撮を生かすためにはスピーディーな展開が不可欠だってわかってるから、登場人物のキャラや背景は申し訳程度。主演もぱっとしないビル・パクストンとヘレン・ハントでしょ。確かにこういう映画には甘い二枚目は似合わない。生真面目でがっしりした頼りになる男、じゃがいもみたいなパクストンがぴったり。まわりからはビルは猛烈な男だと思われている。普段は大人しいけど暴走すると手がつけられなくなる。制御できるのは私だけ(メリッサにはムリよ)。でも実は私自身が猛烈女なのよ。私には父の死というトラウマがあるだけに、竜巻への思いはビル以上にある。暴走しているビルは、彼以上に暴走している私に気づくと今度はなだめに入るのよ。

ツイスター4

そういった衝突は今まで無数にあった。彼は振り回され、疲れきり、安らぎを求め、そしてついにはメリッサに安住の地を見出したってわけ。ハントはそういう性格の強さ、向こう見ずで自分かってなところをうまく表わしていたわ。彼女が強ければ強いほどパクストンには悲哀が漂う。彼って悲しげなムードがあるでしょ。ビルは今のままでも、つまり私といても悲惨だけど、メリッサと結婚すればもっと悲惨になるわ。今はのぼせ上がって理性がマヒしているけど、結婚すれば自分とメリッサとの違いに気づくはず。お互いを本当には理解し合えない。そりゃ二人とも努力はするでしょうよ。でも結局はビルの方が自分を殺し、メリッサに合わせていくのよ。それがいつまで続くかはわからないけどね。私の場合は相手に合わせようという努力なんかしなかったわ。家庭とか子供とかそんなものはあとまわし。研究と実践に明け暮れていたわ。竜巻に関してはビルとはパートナーであると同時にライバルでもあったの。ビルには仕事上のパートナー、ライバルはいたけど、奥さんはいなかったも同然なの。そのことは私も少しは反省しているけど。さて思った通り次から次へと信じられないような竜巻の猛威を経験したメリッサは、ふるえ上がって逃げ出しちゃったわ。引きのばし作戦は見事に成功よ、ウフフしてやったり。ビルも私も危うく命を落とすところだったけど大竜巻を乗り切り、ドロシーをうまく飛ばすことに成功したわ。ラストは二人が元の鞘におさまってハッピーエンド!よかったわねえ・・でもそれは私から見ればってことで、ビルから見るとどうなのかしらね。お互いの性格が変わらない以上これからも私達はケンカをし、いがみ合い、ボロボロになるまで傷つけ合うのよ。私はすぐ回復できるけどビルはそうもいかないわ。きっとまた逃げ出したくなると思う。別のメリッサ見つけて、サインをもらいに現われるんだわ。どっちかがくたばるまでこれが続くのよ。ミラーはもう私にちょっかい出すこともない。一足お先にくたばっちまったからね。あんなに警告したのに・・。傷つけ合いながらも別れられない夫婦の話・・これってパニック映画のことじゃないわよね。・・でハントだけどこういうこずるい役にぴったり!一見弱そうに見えるけどなかなかどうして一筋縄ではいかない。器量の悪さは根性でカバー。私の場合その根性も悪いんだけどね。それにしてもねえ・・。

ツイスター5

そりゃパニック映画には前にも書いたけど二枚目は不要よ。でも女性陣はもうちょっときれいどころを揃えるんじゃないの?メリッサを演じるジェイミー・ガーツは、美人と言うにはしまりがなく、ブスと言うにはきれいすぎるし何とも中途はんぱ。彼女が登場する度に映画までしまりが悪く見えちゃう。第一ビルがポーッとなるとはとても思えない。ハントはいつもはれぼったいような目をしていて、まあ二人して貧相さを競い合っているわ。そりゃ絶世の美女に演じて欲しいなんてこっちも思っていないけどさ。ただまあこれだけは言えるわ。髪振り乱しての熱演ご苦労様・・ってね。さてあとは共演者ね。ミラー役ケイリー・エルウィズ、この頃はまだ若くて輝くばかりの美貌。金持ちのぼんぼんアラン・トレーシーってとこかしら。男の場合あんまり美しすぎると主役になれないっていういい見本よね。脚本段階ではもっと年上であごヒゲなんか生やしちゃってる。でもそういうタフガイタイプだとビルとキャラがカブっちゃうから美貌のお坊ちゃまにしてあるのよ。フィリップ・シーモア・ホフマンはいつものように暑苦しいし、「ソラリス」のジェレミー・デービスは初々しいわ。えッあの男の子?私も「シャイニング」の登場には面食らったわよ。いきなりだもんねー、れどらむ~。この映画の脚本はマイケル・クライトンで、その後だいぶ内容は変更されているわ。私の父は竜巻で死なないし、ビルとメリッサのイチャイチャシーンも入ってる。でもそれだと私の竜巻への執念はどこから来ているの?ってことになっちゃうし、ビルが浮わついた人間に見えちゃう。だから設定の変更やイチャイチャシーンの削除は正解だったと思うわ(ママが出てこなくてマーガレットおばさんが出てくるのは不自然だけど)。内緒だけど私引きのばし作戦のためにわざと車をパンクさせたりもしているのよ。とにかく根性悪いのよ私って。さていろいろ書いてきたけどいくらパニック映画でもそれにまつわる人間ドラマがなきゃ映画として成り立たないのよ。見終わって後に何も残らない映画かもしれないけどそれは別にいいの。映画はひとときの娯楽でしかないけど、私達の研究は違う。映画では成功したドロシーも、現実にはうまくいっていない。現代はテロなどの人災に目が行きがちだけど、自然災害も厳として存在するのよ。こういう映画を見て自然の脅威にちょっとは目を向けて欲しいものだわね。