トランスアメリカ

トランスアメリカ

見たい見たいと思いつつ、見るのを先のばしにしていたけど、とうとう見てきましたよ。レディス・デーのせいか満員で、補助椅子で見ていた人もいた。さすがに最近では立ち見はさせないよう館側も配慮しているのね。男性はほんの数人で、ほとんどが女性。コメディータッチだけど、クスリくらいで館内は静かなもの。集中して見ているという感じ。映画が完全に終わって明るくなるまで全員座っていた。珍しいことだけど、満席だし通路にも座ってる人いるしで、出ようったってムリなんだけどさ。とにかく全部見尽くしてやるぞ・・という感じ受けた。他の映画だと必ず誰かがトイレやケータイで出入りするけど、そういうのもゼロだった。ピンクやパープルが好きらしいヒロイン(?)のブリー。その色と同じように映画はやさしくやわらかく暖かい。アメリカを車で横断するわけだから日は照りつけるしほこりっぽい。トイレはないし、用を足そうにも身を隠す場所もない(トイレットペーパーをヒラヒラさせるシーンが何度も出てきたのでちょっとびっくりした)。それでもブリーのおかげでドライであけすけなムードはなく、しっとりとうるおいを感じさせられる。内容は・・女性になる最後の手術を控えたブリーが、ひょんなことから息子トビーと一緒に旅をすることになる。途中で打ち解けてくるが、ブリーの隠し事(男性であること、父親であること)のせいで、二人の距離は縮まったかと思うとまた離れてしまう。トビー役のケヴィン・ゼガーズ君は「ゴースト・フロム・ダークネス」のところでも書いたがハンサムである。もっともこの映画では設定やうつし方のせいで、ハンサムぶりは十分伝わってこない。もっといいうつし方があるでしょうに・・と見ながらじれったかった。彼のハンサムぶりを見たい方は「ゴースト」をどうぞ!彼はもう20歳過ぎているけどここでは17歳の役。背が低いので17歳に見えるし、父親役を女優が演じていても釣り合いが取れる。さてトビーは酒は飲むしタバコは吸うし麻薬もやるし、おまけに男娼として生計を立てているらしい。警察につかまったのはケチな盗みのせい。保釈金は何と1ドルだ。ところでなぜブリーのところへ連絡が行ったのだろう。ブリーはトビーの存在を知らないし、トビーも本当の父親がどこにいるかは知らない。亡くなったトビーの母親が(なぜか)ブリーの現住所を知っていたとしか思えないが・・。

トランスアメリカ2

トビーはすさんだ暮らしをしているが、まだ何とかなりそうな余地はある。ちゃんとした両親の元で愛情深く育てられていればこんなふうにはならなかっただろう。こんな問題を引きずっていては手術はムリ・・と、頼みのセラピストは手術の同意書へのサインを拒む。ブリーは家族との関係を断っているので他に頼める人はおらず、このままでは手術を受けられない。仕方なくトビーを引き取りに向かう。いちおう息子だから何とかしてやりたいが、あまりにも彼女とはかけ離れた生活ぶりなので、どう接していいかわからない。手術予定日は迫ってくるし、苦労して貯めた手術代はどんどん減っていく。おまけに旅の途中でお金も車も荷物もヒッチハイカーに盗まれてしまう。しかし世の中には親切な人もいて、カルヴィンという男性が二人を泊めてくれる。彼は独身で、ブリーに気があるようだ。ブリーも敬意を持って接してくれる、男らしいカルヴィンに好意を持つ。トビーに対する態度も好もしい。だめなものはだめ(飲酒とか)というきっぱりした態度。ブリーだと元々気のやさしい性格なので、つい譲歩してしまうのだ。こういうしっかりした父親がいたら・・。自然の中で動物相手の仕事をしていたら・・。トビーの母親は自殺、継父のところへ送り届けたものの、実はこの男トビーに性的虐待を加えていたという人非人。トビーが家出をしたのもそのせい。コメディーなんだからもうちょっとこのロクデナシをこらしめてやればいいのに。隣りのおばあちゃんがボカンと殴ってそれで終わりにするんじゃなくて、気絶している間に眉毛そっちゃうとか、オケケそっちゃうとかさ。トビーの仇討ってあげてよ。おばあちゃんの仕事はうぶげそりなんだからそるのはお得意でしょ。さて・・送り届けて一件落着としたかったのに当てがはずれ、とうとうブリーは実家を訪ねる。何しろほとんど一文無しなのだ。ブリーは知らなかったけど、トビーが工面したお金は身を売って稼いだもの。手っ取り早くお金を作るにはヤクを売るか身を売るか・・なのが見ていて悲しい。両親や妹はブリーを見て驚愕。父親や妹はともかく、母親は絶対許そうとしない。とは言えトビーが孫だと聞かされれば態度は急変、どうにかして自分の手元に置きたいと思う。母親とのそんないざこざに加え、トビーはいつの間にかブリーに恋してしまったようで・・。

トランスアメリカ3

仕方なくブリーは自分が父親であることを明かす。女性だと思っていたら実は(まだ)男性で・・というウソは乗り越えたものの、教会の派遣したボランティアだと思っていたら実は父親・・という告白に、トビーは大ショック。幼い頃から捜し求めていた父親がブリーだったとは・・。怒ってブリーを殴り、姿を消してしまう。倒れたブリーを介抱する母親。何だかんだ言ってもやっぱり子供のことは心配なようで・・(息子だろうが娘だろうがその中間だろうが)。このことをきっかけに結局は母親もブリーを受け入れるのではないか。また、どういうわけかセラピストも同意書書いてくれたようで(前よりいっそう精神が不安定になってるはずなのに何でサインしてくれたの?)、ブリーは無事手術を終える。念願の女性になってウキウキするかと思ったらセラピストの前で号泣。よだれを垂らしながら大泣きするので、ここはちょっとやりすぎ・・と見ていて引いてしまった。見ている方としては、ちゃんと女性になったことだし、カルヴィンを訪ねても別にかまわないんじゃないかと思う。あの時はお世話になりましたとか、口実はいくらでもある。心の広いカルヴィンはブリー受け入れてくれるだろうし、結婚も夢じゃない。訪ねて行ったらトビーがいたりして・・。だってカルヴィンの男らしい態度はトビーの心にも残ったはずだし、父親求めてカルヴィン訪ねたって不思議じゃない。でも・・全然違う結末。トビーは金髪にしてポルノ映画に出ている。まだ未成年なのにいいのかな?ブリーはやっぱり都会で暮らしている。相変わらずレストランで働いているけど、教師になろうと勉強も始めた。何をやっても中途はんぱだったブリーだけど、今度こそは・・と思っているわけ。私なんかはその年で?って思っちゃうけど、向こうの人は年齢なんか気にしないのかな。ある日、トビーが突然ブリーを訪ねてきて、自分の出演した映画のチラシ見せたりして、まあまだぎこちないけど、二人はやっと自分を偽らず、ありのままの姿で向き合うことができて、ちょっと遠回りしたけどこれからは・・そんな感じで映画は終わる。私が期待したような、二人ともカルヴィンの牧場で・・なんていう甘っちょろい結末にはならないんですよ。そこが印象的。コメディーと言いつつ、重いテーマ扱っているし、かなりきわどいシーンやセリフもある。

トランスアメリカ4

でも全体的にはカラッとしたきれいな印象。それは物静かで温和なブリーの人柄のせい。窮屈とも思えるほどきちんとした(それでいてだぼっとした)服装。レストランで忙しく働き、家では電話で勧誘の仕事。手術代やら薬代やら、女性になるにはお金がかかる。セラピスト代も・・。でも生活切り詰めてボロを着て部屋の中には家具もない・・なんていうのじゃなくて、お化粧していい服着て部屋の中きれいに飾っている。きちんとしていたい、きれいなものに囲まれていたいという性格。映画はどこがどうってことはなくて、平板な作りなんだけど、主役のブリー役フェリシティ・ハフマンがとにかくすばらしくて、見あきるということがない。男性と言われれば男性に見える。こういう顔立ちの男性っているでしょ。ジェームズ・ウッズとかティム・ロスとか他にもいっぱい。顔が長くて角張っていて、目がかぼちゃかひまわりの種みたいな。手首がちょっと細すぎるかな・・ってくらいで、あとはもう言うことなし。ほんのちょっとしたシーン、例えばカップ持つ時小指が上がるとか、一心に化粧直しているのが後ろに小さくうつっているとか、そういうのがよかった。逆に女性らしさ忘れて股を広げてどっかり座っちゃうと、アッ女性なのに、スカートはいてるのにその座り方は何?なんてギョッとしたり。他の出演者は、ブリーの父親がバート・ヤング、母親が「アザーズ」のフィオヌラ・フラナガン、カルヴィンが「ダイ・ハード3」のグレアム・グリーン。セラピストはどこかで聞いたような声だな・・と思っていたら「ラッシュアワー」に出ていた。気の早い話だが今からDVDの発売が待ち遠しい映画だ。ところでこの映画のパンフ・・余白ばっかで呆れる。ヨハクは木をムダに切る~ヘイへイホーヘイへイホー♪ちゃんと普通に印刷すればページ数半分ですむぞ。あと、ドリー・パートンの歌みんなしてほめてるけど、私はこういう声や歌い方好きじゃないんで、いいとは思わないな。こういう映画見ると、自分もきちんとしなくちゃなあ・・って思う。性同一障害とかそういうことより、そっちの方に気が行ってしまう。男か女か、きれいかきれいでないか、年取ってるか若いか、金持ちか貧乏か、そんなことより、きちんと働いて暮らしているかいないかの方が大事なんじゃないか・・って。レストランで忙しく働いているブリーが、私には一番きれいに見えた。