時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日

時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日

これはなかなかテレビではやってくれなくて。1973年製作ということは、43年たってやっと見ることができたってわけか。八人の監督がとったドキュメンタリーだが、その顔ぶれがすごい。オリンピック映画と言えば「東京オリンピック」や「白い恋人たち」。最近では作られていないのかな。今はテレビで嫌と言うほどやってくれるからね。わざわざ劇場まで行かなくたって・・。ちなみに「白い恋人たち」で覚えているのは競技の合い間に立ちションしている選手。こんなところとらなくたってねえ・・。ミュンヘンと言えばテレビで大騒ぎしていたのが男子バレーボールのアニメ「ミュンヘンへの道」。あれでとれなかったらいったいどうなっていただろう・・と、今なら思うけど当時は夢中になって見ていたんだよな。他には男子体操・・月面宙返りとかさ。オリンピック史上最悪と言われたのがテロ事件だけど、当時は何のことかよくわからなかったな。映像の多くは印象に残らない。こういう偉い人達が作ったのって、たいていおもしろくない。監督と観客の求めているものが違うからだ。最初のが一番我々が普通求めている映像だと思う。「始まりの時」・・いろんな競技を次々にうつし、選手の姿も生き生きとしている。二番目は「最も強く」・・重量挙げ。監督は女性のマイ・ゼッタリング。名前くらいは知ってるよ。「スポーツには興味ないが、人間には興味ある」・・そうですか。だからどこの国の何と言う選手が優勝したかなんてどうでもいいわけですな。太ったオッサン達を延々とうつす。三番目は「最も高く」・・棒高跳びか。アーサー・ペンは最初から最後までスローモーションで押し切る。しかも初めの数分はぼやけていて何がうつっているのかわからない。がまん比べみたいなものだ。忍耐力を試される。ハンサムなアメリカの選手はボブ・シーグレンか。四番目は「美しき群像」・・女子選手。これは後で書く。五番目は男子の100メートル走。監督は市川昆。あの時アメリカの有力選手二人が遅刻して失格になったんだよな。きょとんとした顔つきの黒人選手の写真が新聞や雑誌に載った。優勝したのはソ連のボルゾフ。彼はモントリオールでは銅メダルで、奥さんになったツリシチェワと同じだ。今のボルゾフは太って面影なし。六番目はミロス・フォアマンの「二日間の苦闘」・・十種競技。もうこの頃になると悪いけど付き合ってられない・・と、早送りで見る。

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だってスローモーションばっかりなんだもん。揺れ動く顔の筋肉とかさ、もういいってば。自分の顔の筋肉まで垂れ下がってきそう。七番目はクロード・ルルーシュによるボクシング・・と言うか歯医者・・じゃない、「敗者たち」。痛そうだ、苦しそうだ。たぶん見に来た人はスカッとしたいとか、晴れがましい気分になりたいとかさ。勝つ者がいれば必ず負ける者もいる。それはわかってる。でも明るい面見ていい気分で帰りたいじゃないか。ニッポンの体操は、水泳は、バレーボールは・・少しはうつったっていいじゃないか・・でもうつらない。うつったとして1秒の何分の一、ぼやけた背景として、画面の隅にチラリ。八番目のマラソンが一番長い。ジョン・シュレシンジャーによる「最も長い闘い」。たぶん誰も覚えていない選手を詳しく取り上げる。ニッポンは・・君原は・・ああ、映画そのものが終わってしまった!さて・・私はこの頃埼玉にいたはずだから、映画館で見ようと思えば見られたはずなんだよな。でも見なかった。テレビでCMが流れて・・それがリュドミラ・ツリシチェワの段違い平行棒のシーンだった。縦の回転のはずなのに、横に回転しているのが何とも不思議だった。しかも二回も。バーから手が離れる時、横に大きく開いてからまたバーをつかむ。何と言うか、この時点でできる極限のことをやっているという感じ。この後技はどんどん難しくなって極限なんかないみたいになるけど、あの時点では彼女のあの動きが極限だったのだ。女子の個人総合一位はツリシチェワだったけど、人気や話題はオルガ・コルブトに集中した。また、二位になった東独のカリン・ヤンツの落ち着いた生真面目さは日本人好みで、やはり人気があった。美人で優雅で優等生的なツリシチェワは、逆に言えば個性に乏しく思えたのか。でもこうやって画面にうつると、その美しさ、優美さに目が行く。大きな目、つんと上を向いた鼻、太い首。つま先まで行き届いた神経、女性らしさにあふれた表情。スローモーションって、こういうのをうつすためにあるんだと思う。私自身ミュンヘンでの彼女の印象はほとんどない。むしろモントリオールでの、あんなに一所懸命にやったのにコマネチに優勝をさらわれ、これだけはと思った床もネリー・キムに抜かれ・・あの時の横顔が今も目に焼きついている。まあこの映画は彼女の出ている数分だけだな、私にとって価値があるのは。