テイキング・ライブス

テイキング・ライブス

この映画でびっくりさせられるのはキャストの豪華さ。アンジェリーナ・ジョリー、イーサン・ホーク、キーファー・サザーランド、ジーナ・ローランズ、ジャン・ユーグ・アングラード、オリビエ・マルティネス、チェッキー・カリョ。すごいなー、よく集まったよなー。しかもかなり入り組んだストーリーらしい。映画館では見逃しちゃったけど、WOWOWでやってくれたので期待して、気合を入れて見る。フムフム、なるほど、「ボーン・コレクター」風のジョリーがいい。FBI捜査官イリアナ・スコット(ジョリー)は確かに有能そうだ。でもモロそうなところもかいま見える。あッやっぱりポキンといってしまった。よれよれになってしまった。逃げおおせた犯人、連続殺人ものにはありがちな幕切れ、あそこで終わってもおかしくない。最初の方で気づいたコスタ(ホーク)の、指の傷。あれが目にとまった時点で感じるべきだった。いや、感じたはずなのだ。ぴんとくるものを。でも彼の反応に、犯罪資料への反応に判断を狂わされてしまった。あの時すでに彼に私的な感情を抱いてしまった。なぜ?自分と似ているところがあるから?今回はモロネタばらしをしてますのでそのつもりで読んでねウフ・・(読んでる人がいたらの話だけど)。冒頭キーファー似の少年が出てきて別の少年を殺し、その少年になりすます。後でキーファー扮するハートがいかにもうさんくさそうに現われる。すべての状況は彼が怪しいと指し示している。それだけにかえって彼は犯人ではないように思えてくる。彼は殺人犯マーティンとして死ぬが、母親レベッカ(ローランズ)の態度は・・。息子だと確認したのかしないのかあいまい。しかもその直後エレベーターの中で殺される。連続殺人事件の目撃者であり、事件解決に協力してくれた画商コスタが真犯人だった。彼がマーティンだった。すでにコスタと恋仲になっていたイリアナは愕然とする。捜査官にあるまじき行動の責任を取って彼女は辞職し、田舎に引っ込む。コスタはうまく逃げのび、そこで終わるかと思ったらまだ続き、イリアナはおなかが大きくなり・・。この映画には興味深い点が二つあって、一つはマーティンの心理。彼は母親の愛情が双子の兄リースに偏っているのを感じながら育つ。14歳の時リースは事故死。しかし母親レベッカはマーティンが殺したのではないかと疑っている。

テイキング・ライブス2

マーティンは何をするかわからない恐ろしい子。16歳で家出し、交通事故で死亡。でも19年後レベッカはフェリーでマーティンらしい男に出くわす。あの子に間違いない、あの子は生きている!・・マーティンは誰かを殺してはその男になりすます。なぜなりすますかというと、自分自身ではいたくないからだ。彼は母親に愛してもらえなかった。愛して欲しかったのに!20年近くたって戻ってきて母親に姿を見せ、電話をかけ・・。一方ではわざわざ殺人の目撃者として警察に名乗り出、捜査に協力し、出会ったイリアナに好意を寄せる。他人になりすまし、隠れるように生きている反面、こうして外の世界に出てくるというのは、何とも矛盾した行動だ。彼はハートを自分に仕立て上げる必要なんかない。レベッカが見れば別人だとわかるのだから。レベッカの前に現われる必要もない。彼は死んだことになっているのだから。警察に名乗り出る必要もない。起こっている殺人事件はまだ同一犯による連続殺人だとわかっておらず、名乗り出ることは非常に危険である。それなのになぜ彼はわざわざ自分から姿を現わすのか。警察をうまくあやつれると思ったから?心のどこかではつかまりたいと思っているから?母親に忘れ去られるのはいやだから?コスタとして表面に出たマーティンは、イリアナに引かれてしまう。似た者どうしだと思ってしまう。自分を否定し、他人になりすまし、誰ともつながらずに生きていても、心の底では誰かを求めてしまうのか。誰かと結びついていたいのか。ここらへんは「ザ・ウォッチャー」と同じですな。一方イリアナの方もまわりと距離を置いている。地元警察の刑事パケット(マルティネス)はFBIの関与をいやがり、態度にもそれを露骨に表わすが、イリアナは慣れっこだ。冷静に、自分のやり方で捜査を進める。しかしなぜかコスタには心を引かれてしまう。そしてうまくだまされてしまう。コスタことマーティンに逃げられてしまう。コスタに私情を抱いたために失敗したイリアナだが、コスタの方も同じ失敗を犯す。逃げのびて、またなりすまし人生を送っていればすんだのに、イリアナのことが気になる。彼女のおなかが大きくなってきたのが気になる。子供ができたとしたら自分の子供に違いない。退職し、田舎で静かに出産を待つイリアナ。ある日突然現われたコスタ。

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彼は子供のことはどう思っているのだろう。他人の人生を生きている彼にとって、自分の血を分けた子供のことなど全くの計算外のこと。自分の血が次の世代に伝わる?エレベーターの中で母親に懇願したように、イリアナにも二人でやり直そうと頼み込む。だが返事はノーだ。マーティンとしての願いはいつも否定される。母親にもイリアナにも。必死におなかの子を守ろうとするイリアナだが、マーティンは無情にもハサミをずぶりと刺す。最悪の結果、イリアナもおなかの子も死んじゃうの?と思った瞬間・・。はあ?あのぅ・・劇場公開時の反応はどうだったんですか?爆笑?ブーイング?沈黙?詰め物をするにしてももうちょっとマシな見てくれのものにするべきだったのでは?あれじゃ100円ショップに売っていそう。そう、妊娠はマーティンをおびき出すための罠。こんなアホらしい結末考えたの誰だーって、たいていの人は呆れると思う。私も呆れたけど、でもちょっと考えさせられたことがあったの。この映画で興味深かったことの二つめがこれなの。男性は妊娠できない。あったりまえじゃんかーと思うかもしれないけど、まあ聞いてください。女性は妊娠すると出産までの十ヶ月その状態とつき合う。つき合うことができる。イリアナの場合は妊娠のフリだったけど、七ヶ月間演技した。FBIをやめ、田舎に引っ込み、一人暮らし。そのうちだんだんおなかが大きくなる。医者にも行ったはずだ。協力してもらったはずだ。外にいる時だけじゃない。家の中にいる時も演技する。窓からそれを見せる。マーティンはどこかから見張っているはず。辛抱強く慎重に、しかも自然に、しかも・・七ヶ月も演技する。あの蛇足とも思えるラスト部分を見てアホくさーとせせら笑うのはたいてい男性だと思う。男性にはできないことだから。でもあんなアホくさいこと、あんな悠長なこと、女性ならできる。出産を運命づけられている女性だからこそできる。この罠を考案し、やらせてくれとルクレア(カリョ)に頼んだのはイリアナだと思う。彼女ならやり通せる。この映画の批評ってたいていけなしていて、それはあのゴムの詰め物のせいだと思うけど、そして私自身も、見せるにしてもあんな安っぽい見せ方でなく、もっと他にやり方があっただろうにと思うけど、でも気に入ったんですよ。欠点はあるにしても、あれこれサービスしてくれていて、何度見てもあきない映画。

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もっと特典とか見て深く知りたいと思ってDVDレンタルして見て、結局DVD買ってしまうといういつものパターン。何たってNG集に入っている、スタッフにだまされるオリビエ・マルティネスがとてつもなくかわいいんですの!もう何度見ても顔がゆるんじゃう。英語に苦労するアングラードもかわいいし、何度銃を鏡にぶつけても割れなくて笑い出す、ジョリーの大らかな笑い声もいい。ところでDVDはWOWOWで見たのとちょっと違っている。見た覚えのないシーンがあって数分長く、どうやらディレクターズ・カット版らしい。イリアナがコスタに自分の過去を告白するなどやや説明的になり、レベッカの首が切り落とされるなど残酷になり、ついでにイリアナとコスタの格闘シーン・・じゃない、ラブシーンも少し長め。裏切られ苦悩するイリアナのシーンもある。イリアナの告白など私には不要に思えるな。確かにあのシーンを入れると、イリアナとマーティンの共通点は強調されるけどね。マーティンがリースを殺したと思われるのが14歳の時、イリアナが留守番をしていて泥棒を殺したのが12歳の時。他人になりすまして生きてきたマーティンと、独身なのに指輪をして既婚者に見せているイリアナ。どちらも忌わしい過去を背負い、本当の自分を表に出せずにいる。さてそういうのが入っている反面、コスタとハートの関係は説明不足である。マーティンはコスタのことを「ホモの画商」と言っている。実物のコスタがホモだと言うことは、マーティンは彼に近づくのにホモを装ったかもしれないし、彼になりすますためにコスタの言動を研究したことだろう。ハートと組んでいたのは仕事の都合(ハートが絵を盗み、コスタが売り捌く)だろうが、二人には恋人どうしでもあったかのようなムードがあって、ハートに扮したキーファーは楽しそうにかついやらしくホークのコスタに迫る。コスタがわざわざ警察に名乗り出たのは、ホモのハートにつきまとわれるのがいやになったから?・・と勘ぐりたくなるほどである。それでいてハートはけっこう間抜けで、マーティンのコスタにいいようにあやつられている。キーファーは出番も少なく、怪しいわりにはオマヌケなので、ちょっと残念だった。ただし妄想のしがいはある。いえ、あの、妄想と言ってもコスタとハートの肉体関係とかそういうことではありませんよ。

テイキング・ライブス5

映画の冒頭でキーファーそっくりの少年マーティンが出てきて、旅の途中で知り合ったマットという少年を殺し、彼になりすます。マットを突き飛ばして通りかかった「乗用車」にはねさせるんだけど、母親の話だと16歳で家出した数日後「トラック」にはねられて死亡したことになってる。つまり冒頭で我々が見せられる事故と、レベッカの言う事故とは別のものなのよ。つまり冒頭出てきた時のマーティンは、(家出直後ではなくて)おそらくトラック事故に見せかけて誰かを犠牲にし、自分の過去を消し去っているのだと思う。おどおどした気弱な少年に見えるけど、すでに筋金入りの殺人犯なのよ。この少年がよく見つけてきたなと思うほどキーファーにそっくりで、途中出てくるキーファーがこれまた怪しげで・・見ている我々を大いに惑わすわけ。DVDのキーファーのインタビューでもちゃんと「マーティン(役)」になってるし・・。ただ察しのいい観客はコスタが出てきた時点でこいつが犯人だとぴんとくる。でもそれだとサスペンス映画としてはまずいので、わざわざ「有能な」捜査官イリアナに「彼は犯人じゃない」と断言させる。サスペンス映画として弱いのは、そう断言するイリアナの分析にさほど説得力がないことだ。最初ルクレア達が待っているのにイリアナはなかなか姿を現わさない。何と死体が発見された穴に横たわって分析中だ。ずいぶん型破りだし自信も持ってる。背後から絞殺した手口や手首の切断から、犯人は性的興奮を覚えていると彼女は分析する。しかし聞いていて「それだけ?」と思ったのは私だけ?手首切断ということは指紋の採取ができないってことだし、顔面の破壊は被害者の特定をしにくくするためだ。そうしておいて故意に手がかりを残せば、容易に「誰かの身代わり」を仕立て上げることができる。性的興奮も猟奇殺人ももちろんありだが、イリアナは最初から犯人にうまく乗せられており、続いて目撃者コスタの言動にコロリとだまされ・・。第一発見者が疑われるのはよくあることだ。コスタの証言を聞いて、ちょっと推理小説(アガサ・クリスティーのとか)を読んだことのある人なら、あれこれ思ったことだろう。・・つまり発見者が犯人の場合、犯人の特徴を言う時、自分とはかけ離れた風貌の人物にするってこと。明るい色の目で金髪でりっぱなヒゲがあるという証言の反対なのがコスタの風貌。これってかなり怪しいことにならない?

テイキング・ライブス6

どうもイリアナは犯人にいいようにあやつられっぱなしで、あんまり有能には思えないんだよな。有能であることは間違いないにしても、その方向が変な方に行ってしまっている。ベッドの上に現場写真を貼りつけ、食事中も入浴中も血まみれ写真とご対面。並の神経じゃない。それでいて事件が解決し、コスタと一夜を過ごすともうメロメロで、堅い殻も何もかも脱ぎ捨ててただの恋する乙女になってしまう。無防備な笑顔が美しくもせつない。そんな幸せは一時で、すぐどん底に突き落とされるのだが・・。この映画ジョリーの目のクローズアップが多い。ギロリとにらむとかでなく、軽くスッと視線を動かすだけで見ている我々を引き込んでしまうのには感心したし、うつし方もうまいなあと思った。目と言えば死体の顔を復元するシーンで、目のことがあいまいだったのは残念だった。イリアナは死体から目がなくなっているのに気づくが、復元された顔にはちゃんと目がついてる。何で?特典でプロデューサーが「筋の通らない話にはしたくなかった」とか言っていたわりには、しっかりと筋の通らない話になっていたぞ!死体を調べる前にイリアナが鼻の下に何か塗っていて、きっと腐臭を防ぐためだと思うけど、そういう描写はリアルでいいと思った。ホークは悪役もやるのね・・って感じ。彼のちょっと女々しい感じが合ってる。ジョリーも特典で「コスタは女性的ね」と話しているし、この映画ではイリアナがヒーローで、コスタがヒロインなのだろう!さて長々と書いてきたがまとめると・・イリアナとマーティンには共通部分がある。イリアナは男性的な行動力、タフさがあり、その一方で女性的な部分、弱さはかなさがある。マーティンの女性的な部分は、獲物となる男性に近づくのに、あるいはハートのような男と組むには役に立ったことだろう。その一方で非情で容赦がない(イリアナのおなかを刺したことでもそれはわかる)。男性的女性的な部分が混在しており、陰と陽が渦巻いてるような状態。そして殺人、逃避という共通点があるから、これまた陰と陽のように補い合うことができる。だからこの二人が強く引かれ合うのは当然なのだ。だからイリアナはどうすればマーティンをおびき出せるかわかっていたし、マーティンは行方をくらましたままでもいられたのに姿を現わしたのだ。そういう深みのある結末にできたのに100円ショップ(違うって!)のゴムが・・。