太陽に向って走れ

太陽に向って走れ

これを見たのはいつだろう。もう50年くらい前なんじゃないか。土曜の深夜に見たんだろうか。父と一緒に見たのは確かで、もう一度見たいねと何度も話したものだ。その後一度もテレビでやった覚えがない。記憶では白黒なのだが、DVDを買ったらきれいなカラー。残念なことに日本語吹き替えはついてない。大塚周夫氏の声で聞きたかったのに!予告編もキャスト紹介も何もついてない。でも出してくれただけでありがたい。こちらも年を取ってきて、果たして生きてるうちに再会できるかしらと思う映画やテレビシリーズもいくつか。どうでもいいような作品はわんさか発売されてるのに!さて、はるか昔に見たので、男女二人がナチの残党から逃げること、途中で相手をやり過ごし、自分達は引き返すこと・・覚えているのはこの二つだけだ。当然のことながらそこへ行くまでのあれこれがある。しかしその部分はきれいさっぱり忘れていて。サン・マルコスの飛行場・・ここはメキシコか。飛行機から降り、タクシーで町へ向かうケイティ。車がブタを蹴散らすように走る田舎町。ホテルに着いて・・その間にもそれとなく探りを入れる。観光客ではなく、ここに住みついているアメリカ人はいないか。みんなラティマーのことを知っている。仕事なんてしていない。釣りをしたり酒を飲んだりの毎日。実はケイティは「サイト」という雑誌の記者。ラティマーは作家だが、なぜか絶頂期に筆を折り、失踪してしまった。その理由を探り、記事にしたい。港でそれらしい人物の写真をとり、ホテルではすれ違いざまわざとらしく彼の著書を落とす。彼女は仕事柄メモ帳とペンを持っているが、これに磁石がついてる。メモ帳にペンが張りつくからなくす心配がない。しかしこの磁石のせいで、とんでもないことになる。彼女は誰かと待ち合わせているふうを装う。ラティマーは彼女に興味を持ち始める。彼だって書きたいのだが、妻のコニーに捨てられて以来どうもうまくいかない。裏がなく信用できる・・と、心のうちを打ち明けられたケイティは、複雑な心境に。彼をだましているのが心苦しい。とうとうここを離れる決心をするが、ラティマーは飛行機で送ると言い出す。

太陽に向って走れ2

ケイティは連絡先として正直に自分の職場のアドレスを書くが、ラティマーは読まずにポケットへ。ケイティは筆記用具の入ったバッグを、こともあろうに操縦席のコンパスの横に置く。そのせいで・・。結局二人は映画が終わるまで、飛行機が航路をはずれた原因を知らないままだ。と言うか一生気づかないんだろう。ケイティは才女ならぬ災女ですな。そろそろメキシコシティのはずが、ジャングルの上。いったいここはどこだろう。引き返そうにももう燃料がない。何とか空き地を見つけて着陸するが・・。駆けつけてきたのはブラウンと名乗る男。ここには他に考古学をやっているというアンデルス博士と、助手のヤン。白人はこの三人で、あとは現地人達。しかしどうも違和感を感じる。乗ってきた飛行機は消えてしまったし、ラティマーの銃もなくなった。本棚には考古学の本など一冊もない。また、ラティマーはブラウンにどこかで会ってる気がする。そのうちラジオで二人が行方不明というニュースをやった。ケイティが「サイト」誌の敏腕記者だというのがばれてしまった。ラティマーは激怒するが、その一方で夜、いろいろ探ってみる。ケイティの件はひとまずお預けだ。自分達はとんでもないトラブルに巻き込まれてしまったようだ。ブラウンのことも思い出した。英国人だが、ドイツ女性と結婚し、戦時中はラジオで英国へ呼びかけていた。だから彼の口調に覚えがあったのだ。彼はケイティをここから逃す代わりに、ブラウンの妻を連れてくることを提案するが、妻はすでに死亡。アンデルスは妻の兄と言ったが、これはどうやらウソらしい。彼の正体はナチの大佐・・重要手配犯らしい。とにかくラティマーはすぐ行動を起こす。ブラウン達の飛行機で逃げるつもりだったが、警戒していたヤンに見つかってしまいジャングルへ逃げ込む。ここらへんまでで1時間。冒頭からの30分はスリルもアクションもゼロで、ロマンスかメロドラマの始まり風。見ているのが時々しんどくなる。カットしたい!ブラウン達がナチの残党というのも、ラティマーが次作の構想として長々としゃべるだけ。見終わってみると、ブラウン達の事情ほとんどわからないのに気づく。隠れているのはわかるが、将来どうするつもりなのか。

太陽に向って走れ3

50年代ならまだたいていの者は体動くし、思想も堅固。仲間と連絡取り合い、助け合い、再決起の機会狙っていてもおかしくない。また、ここで暮らす資金をどうやって賄っているのかも不明。逃げる途中、猟犬の注意をそらすため、飼っている猛獣(ピューマか?)を放してくれたのが現地人の親子。父親の方は刀もくれた。マチェーテか?道なき道を行くにはこれで切り開かないと。なぜ協力してくれたのかは不明。普段ブラウン達にいやな思いをさせられているのか。さて、酒を飲んだり釣りをしたり気ままな暮らしで体もなまっているはずなのに、ラティマーは精力的だ。夜も眠らず罠をこしらえる。ケイティの方は疲労でフラフラだ。この頃はまだ女性はか弱い保護すべき存在なのだ。ラティマー一人ならどんなにスムーズに逃げられただろうと思うくらい、ケイティは足手まといになる。夜寝ているところを起こされて逃げているのに、口紅でも塗っているみたいに見える。ラティマーは彼女の手を引き、体を支え、引きずり、しまいにはお姫様抱っこで彼女を運ぶ。今の映画なら女性が男性を引きずっていくだろう。知恵をしぼり、そこらにあるもので罠をこしらえ、先へ行ったと見せて後戻りし・・こういった部分は「プレデター」連想させる。ジャングルの中だから同じような行動取ることとなる。もちろんラティマーは途中で例のメモを見て、ケイティはウソをついたわけじゃなかったと知り、たちまちキスシーンとなる。翌朝目を覚ますシーンでは抱き合っている。ここらへんはハリウッド映画のお約束だが、見ているこっちはしらける。ラストはもちろん奪った飛行機で無事に飛び立つ。ラティマーはスランプを脱してまたバンバン書くんでしょう。すばらしい経験したし。ラティマー役はリチャード・ウィドマーク。私はたぶんこの映画でウィドマークを知ったんだと思う。そのせいか冷酷な悪役というイメージがない。ケイティ役ジェーン・グリアは知らない人。少し前図書館から借りて読んだフィルム・ノワールの本に載っていた、「過去を逃れて」という映画で有名らしい。デボラ・カーにびっくりするくらいよく似ている。ブラウン役はトレヴァー・ハワード。冷たいブルーの目と、薄い唇が印象的。アンデルス役はペーター・ファン・アイク。