第三の男

第三の男

NHKBSでやったので久しぶりに見た。白黒の画面が非常に美しい。光と影がくっきりと描かれる。あるいは灰色・・くすんでいて。人間の表と裏、善と悪、その境目のグレーゾーン。人通りの絶えた深夜、石畳の道路、雨と吐く息の白さ。上へ上へと直線的に伸びる建物。戦禍を免れ、アパートとして使われているが、天井が高く、廊下も部屋も広い。どのシーンも、そのまま切り取って額に入れて飾りたいほど。アメリカ人の三文小説家ホリー(ジョゼフ・コットン)は、友人ハリー(オーソン・ウェルズ)に仕事を紹介してもらおうとウィーンへやってくる。ところがハリーは交通事故で死んだとかで、葬儀をやってる。文無しのホリーは当てがはずれ、がっかりする。しかしアパートの管理人などから話を聞いているうちに、事故の様子に食い違いがあるのに気づく。キャロウェイ少佐(トレヴァー・ハワード)によると、ハリーは悪事を働いていたらしいが、ホリーは信じない。ハリーの女、アンナ(アリダ・ヴァリ)は彼の死を悲しんでいる。少佐は彼女が何か知っているのではと疑っているが、彼女は何も知らない。ホリーはハリーが事故ではなく殺されたのでは・・と思い始める。ハリーの汚名を晴らそうとあれこれ探り回る。そのせいで管理人が殺され、犯人にされそうになる。彼が犯人だと騒ぎ立てるのが小さな子供で、逃げるホリーを追いかけてくるところは、無邪気と言うより悪魔のように見える。結局ハリーは生きていた。軍からペニシリンを盗み、薄めて売って大儲け。少佐に被害者達の惨状を見せられたホリーは、ハリー逮捕に協力することにする。思えば昔からハリーは要領がよく、エゴイストだった。金のためなら何でもし、良心のかけらもない。アンナのこともどうでもいい。ホリーがハリーを裏切る決心をしたのは、アンナを送還から救うためでもある。今では彼はアンナを愛するようになっていて。彼女の方も心が動いたのは確か。でも、裏切りは許せない。ラストシーンは有名だが、少佐は何で被害者達の惨状をアンナに見せなかったのかな・・という気もする。彼女もハリーの悪行を自分の目で見れば、態度も変わっていただろう。