月に囚われた男

月に囚われた男

先日「アンストッパブル」でも見ようと雪の中を出かけたが、列車が運休。スゴスゴ帰ってきましたとさ。ポイントがたまったので無料で見られるんだけど、たまったら即使わなきゃだめね。後で・・なんてのん気にかまえていたら冬になって映画館へ行けなくなっちゃう。家に帰って見たのがこの映画。最初はDVDが壊れたのでパソコンで見て、今回は新しく買ったデッキで見て・・つまり二回目。公開当時毎日新聞の批評を読んで興味を持ったのよ。でも結局こちらではやってくれなくて。一年かそこら待てばWOWOWでやってくれるかも・・とも思ったけど、やたら評判いいし、見たい気持ちがつのる。これだけ評判いいのなら例えアマゾンで新品DVD買ったとしても失望することもあるまいて・・と。で、買って早速見てみたら・・これがなぜか今いちなんだよな、どうしてだろ。さして感動もしないうちに映画終わっちゃった。でもまあ・・と半分負け惜しみで考える。ケヴィン・スペイシーが声をあてた人工知能のガーティはよかったからそれでいいや。元々私のお目当ての半分くらいはガーティなのだから。「2001年宇宙の旅」を見て以来、私は第二のHALの登場を待ち望んでいる。次のダグラス・レインを・・と言ってもいい。レインの声聞きたくて「スリーパー」のDVD買ってしまった前科のある私(たったあれだけ!?)。さて、主演のサム・ロックウェルが一人で延々・・と思っていたらそうでもなくて。いや、同じロックウェルだけどクローンが二人・・ん?三人目も?それにしても何でクローンなんだろ。「2001年」ではフランクが死んだ後ボーマンは一人で仕事を続ける。HALの機能止めたから話し相手もいない。映画ではその部分描かれていないけど(チカチカサイケシーンへ入ってしまう)。つまり私が言いたいのは、宇宙で一人でいても頭がおかしくならないためには、決められた日課を黙々とこなすのが一番いいのだ・・と。毎日同じことをくり返しているから頭がおかしくなるのではなくて、くり返すことで正常さを保つ。でも十分訓練された宇宙飛行士じゃないからねサムは。彼は地球へ戻る日を待ちわびている。契約は三年。あと二週間で終わりだ。早く妻のテスや娘のイヴに会いたい。近頃頭痛や幻覚があるが、さして気にとめない。長期間一人でいれば何かしら症状は出てくるものだ。地球に戻りさえすれば・・。

月に囚われた男2

今日も「アンストッパブル」見ようと出かけたけどだめだったわ。雪のせいで道間違えて間に合わず・・何かに呪われてるのかしら。・・年代設定は不明だが、地球の資源は枯渇し、今は月でとれるヘリウム3とかいう燃料に頼っているらしい。ルナ産業というのがサムの雇い主。韓国の企業か、ハングル文字も。「サンシャイン2057」のベネディクト・ウォンが出ているが、顔ははっきり出ない。月の裏側にある採掘基地は「謎の円盤UFO」のムーンベースみたい。大型の採掘車は「サンダーバード」のクラブロッガーみたい。ちょこちょこ走る車はミニカー感ありありだが、ちゃっちいと言うより微笑ましい。基地の内部はもちろん「2001年」のディスカバリー号風。HALにくらべるとガーティはかなり進歩している。優等生タイプで、ちょっと子供っぽい部分もあったHALだが、ガーティは違う。とても辛抱強い聞き手、話し相手だと思う。私にとっては、矛盾した状況(サムが二人)を説明しなければならないガーティの受け答えが、この映画の見どころ。ストーリーそのものは・・まあ二回目見た時は二人のサムの境遇にある程度しみじみ感を覚えたけど、それでも大感動とまではいかない。よく考えて作ってあるとは思う。監督ダンカン・ジョーンズはデヴィッド・ボウイの息子で、これが一作目らしい。途中で救助に来るイライザ号のクルー三人の顔写真がうつるが、そのうちの一人はダンカンだろう。私のかってな想像だが、彼はきっといろんな映画をよく見て、その時思ったことをこの映画に生かしているのでは?例えば古サムと新サムが同じ画面にうつると、我々は(ストーリーよりも)どうやって、どこで合成しているのだろう・・と思う。片方が画面の左にいて、もう一人は右にいる。真ん中の卓球台あたりで合成しているのか(昔の映画ならそうする)。でも片方が移動し、画面の左半分に二人ともいるぞ。感心していたら今度は最初左半分にいたサムが右側に移動。・・卓球台を境に・・ということでもなさそうだ。う~ん、どうやって合成したのだろう。きっとダンカンは子供の頃双子のシーンとかに興味持ったでしょうね。古いテレビ番組「奥さまは魔女」がうつっていたけど、あれもねえ不思議だったろうな。あと私だったら「パティ・デューク・ショー」とかさ。

月に囚われた男3

ダンカンは「UFO」や「サンダーバード」にも夢中になっただろうな。密かに作られた月面基地、まぶしい光をさえぎるためのサングラス・・光をバックに飛んでくるUFOを思い浮かべたのは私だけではありますまい。すべてのものをなぎ倒し、驀進するクラブロッガーを思い浮かべたのも私だけではありますまい。ラスト近く、地球へ向かって飛んでいくポッド(新サムが入っている)を、死にかけの古サムが目で追う。あら、まだ生きてたの?でも観客はこういうシーン入れて欲しいのよ。見届けてから死んで欲しい。新サムには無事地球へ帰り着いて欲しいし、ルナ産業のあくどいやり方はあばかれて欲しい。そういうのちゃんとやってくれて、作り手がお客目線なのがいい。ガーティについても当然HAL以上のものを・・と思ったはずで・・。違いを出したいから赤ではなく青白い目・・と言うか、目はあんまり強調されなかったな。その代わりニコニコマークみたいなので暖かみを出す。笑っていたり困り顔だったり口がへの字だったりいろいろ。色も普段は黄色っぽいけど、たまに赤っぽくなったり・・わかりやすくていいよなあ。新サムが外へ出ようとしてふと見ると宇宙服が一着なくなっている。最初見た時はこのシーンの意味なんて気にもとめなくて。サムが採掘車に衝突して、その後診察室で目覚めるから、その流れを自然に受け止めていて。同じサムだと思ってるわけ。でも目覚めたのは新サムで、古サムは衝突してそのままなの。だから服が一着ないまま。そう言えば「2001年」だか「2010年」でも吊り下がっている宇宙服、吊り下がっていない空間は印象的で・・。たいていのSF映画ならこういう事故が起こった場合ガーティは古サムの乗った車遠隔操作して基地へ戻すと思うけど、そういうのはなくて。放置されたままなら古サムはそのうち死んで、遺体は救助班の手で速やかに始末されたことだろう。新サムは何も気づかず、そのまま仕事についたことだろう。でもそれじゃ映画にならない。で、何が言いたいかと言うと、サムが自分とそっくりな男発見し、今までサムだと思っていたのが新サムで、古サムは(まだ生きてるのに)衝突現場に放置されていたことに、我々はショックを受けるわけ。うまくだましてくれたな・・とも思う。目ざとい人なら手の甲のヤケドの有無を見て、これは前のサムじゃないな・・と気づくんだろう。私は普通にびっくりしたな。

月に囚われた男4

それにしても・・前にも書いたけど何で人間勤務させるのかな。機械で十分できるじゃん。三年ごとに新しい人材養成して送り込むより、クローンいっぱい作ってストックしておいて、順番に起こして仕事やらせた方が経済的・・という設定だけど、そうは思えないんだよな。最初はよくても三年目も終わり頃になるとクローンの寿命が来て、あちこちおかしくなる(「ブレードランナー」風味)。そうなりゃミスも多くなるわけで。今回のように救助班送り込むようなことになるわけでかえって不経済。替えるにしてもなぜまだ変調の出ない時期・・二年半目とか・・早めにしないのかな。どのクローンもぎりぎりまで使って・・ひどい状態だものねえ。他にも食べ物、水、娯楽等必要だし。でもまあそんなことほじくるべきじゃないんだろう。ロックウェルの演技はすばらしいとか、新人らしからぬダンカンの手並みほめるべきなんだろう。でもそんなの他の人がやってくれてるから私は書かない。この映画が描きたかったものは・・とか、人生の深淵とか、そういうのもパス。だって面倒くさいんだもん。でもまあ雇われている側の立場の弱さとか、家族へのセンチメンタルな思いとか、滅私奉公しても簡単に切り捨てられる残酷さとか、男の人にはいろいろ共感できるものがあると思う。だから名作だ傑作だとなると思う。女性の目から見ると・・ダンナはいない方が気が楽だし、映画だとサムとテスはうまくいってなくて、この仕事・・三年間の別居は自分を、相手のことを考え直すいいチャンスとか何とかそんな感じだが、妻子を恋しがるくらいならどうしてもっと地球にいる時努力しなかったのよ・・と言いたいところだ。定年近くになってからこのままじゃ夫婦の会話もない、やばい、何とかしなくちゃ・・とやたら話しかけたりするダンナ連中よ。はっきり言って思い違いです。奥さんは話なんかしたくない。面倒だし疲れる。話しかけて欲しい若い頃に何でもっと話しかけてくれなかったのよ!仕事だつき合いだと奥さん二の次にしてたの忘れたか!会話のないさびしさをまぎらわすため子供の世話に没頭し、今は韓流イケメンに血道を上げるのさッ!あら?何の話?まあとにかく奥さんの画像に未練たらしく見入るサムに、女性は男性ほどには共感しないと思うよ。ロックウェルのようなタイプはあまり好きじゃない。「銀河ヒッチハイク・ガイド」ではベン・スティラーだと思っていたし。

月に囚われた男5

今回はエドワード・ノートンやクリスチャン・ベールに似ているなあ・・と。で、ガーティだけど、サムは当然疑問ぶつけてくる。それをのらりくらりとかわす。ストレートに「言えない」とか言うんじゃなくて「食事する?」とかやんわり。逃げ口上なのは確かだが、最も親切な言い方になるよう気を配っている。ルナ産業のやつらは利益優先で非情だが、ガーティを作ったのはとても人間的で暖かみのある人なんだろう。こういう人工知能をルナ産業が使うかなあ・・。ガーティはサムに対し常に誠実な態度で接する。彼の仕事はサムを守ることなので、絶対傷つけたり不利になることはしない。新旧二人のサムを相手にすることはおそらくプログラムされていないだろうが、彼はちゃんと対処する。それぞれのサムに対し誠実に対応する。聞かれたことの答になっていないにしても、ウソはついてない。古サムなんかいくらでも始末できるはずだがちゃんと手当てして生かす。誰にでも誠意を尽くすってことはどこかに矛盾が生じるものだが。さすがに三人目が出てくると映画はもたついた感じになる。新サムは新々サムを殺して衝突現場に捨て、古サムを地球へ送り返そうと計画するが、いくらクローンでも自分の分身を殺せるとは見ているお客も思うまい。この計画には無理がある。古サムは死にかけているから帰還は無理だ。とは言えガーティが三人のサムを捌くところも見たかった。HALなら矛盾かかえ込んでクラッシュしたかもしれない。でもガーティはHALのような殺人など犯さず、みんなを助けた。ダンカンはついにHAL以上の人工知能を登場させることに成功した!(←考えすぎ!)この誰も傷つけない、誰にでも誠意を尽くすガーティの存在が、私にとってはこの映画のキモでした。パスワードを教えるところとか、絶望している古サムの肩に手を置こうとしてちょっとためらうところとか・・やりすぎと言えばやりすぎなんだけど、見ている方はそういうシーンあって欲しいわけで。てなわけで・・何だかんだ書いたけどこの映画これからも時々見そう。ガーティに会いたくなりそう。ろくに手入れもされてないようで、コーヒーこぼした跡とかで汚い。こらサム、ちゃんと拭いてきれいにして差し上げろ!でないと私が雑巾持って月へ行くぞ!