デッドリー・ゲーム

デッドリー・ゲーム

この映画は見たことのある人はほとんどいないんじゃないかな。ビデオがDVDに取って代わられた今、ますます見る機会はなくなったと思う。別に見なくたって人生の損失になるわけじゃないけど。あまり出来のよくないサスペンス物。日本では未公開。主演はサム・グルームだけど、誰も知らないだろうなあ。昔「警察医サイモン・ロック」という30分のテレビシリーズがあって・・。毎週欠かさず見ていたわけではないけど、グルーム扮するロックのことは好きだった。ある日アンドリュー・プラインがゲストで出ているのに気づいて、大急ぎで録画したことがあって、今でもそのテープは保存してある。グルームはハンサムだけど強烈な印象のない人。いつも「いい人」である。だからこの「デッドリー」でもきっといい人の役だろうと。彼に悪役は似合わない。今回彼のこと少し調べたら、「タイム・トンネル」に何度か出演していたようだ。これはNHKでやっていたので、田舎にいた私も見ることができたが、彼のことは記憶にない。「サイモン」も「タイム」ももう一度見てみたい番組だ。DVD出てくれないかな・・。それ以外では「ドクター刑事クィンシー」に何度か出ていたようだ(ゲスト出演?)。「デッドリー」に話を戻すと、これをレンタルしたのはレイルズバックが出ているから。1981年頃のだからまだ若い。グルームの方は40過ぎか。一回目見た時には何じゃこりゃ・・と思った。冒頭若い女性が殺される。警察の捜査が始まるが進展はなく、二人目三人目の犠牲者が出る。連続殺人物である。ゲームという題名からもわかるが、犯人はお金や復讐などが目的ではない。異常心理を扱っているのだろう。犯人はわりと簡単にわかる。サスペンス物としてはちょっと弱い。怖さもない。そのうち主役の二人にはロマンスが芽生える。もう一人(レイルズバック)いるから三角関係だが、全然悩んだりもつれたりしない。この頃になると連続殺人ラブロマンスみたいな妙な雰囲気になってくる。最初の頃の印象・期待とずれてくる。ラストはぷつんと切れる。こういう終わり方は、甘ったるい歌がわざとらしく流れてくる仲良しこよしロマンスシーン同様当時のはやりなのか。お客をほうり出す・・みたいな、あとは想像におまかせします・・みたいな。言い方を変えれば無責任な終わり方。

デッドリー・ゲーム2

どうってことない内容だし、有名な人が出ているわけでもない。日本で未公開なのも当然か。でもビデオでは出ている。いつも思うんだけど、ビデオにしろDVDにしろ、何でもいいからとにかく出しとこ・・みたいなところありません?あれを出して欲しいのになあ・・何であの名作が出てないんだよ~と不思議に思う一方で、何でこんなクズが?というくらい次々に発売される。「デッドリー」も、「とにかく出しとけ」組に見える。出たものの(多くのクズ同様)ろくに借りられもせず、今日まで棚でホコリかぶっていたんだろうけど、今こうやって私が借りて何度も見ている!へたな鉄砲も数撃ちゃ当たる。私みたいな物好きなマニアにねウヒ。冒頭何やらゲームをしている男。いえ、手しか見えませんけど男だってわかっちゃいます。手を見せずころがるサイコロだけ見せるというちょっとした工夫さえしていません。出てくる主な男性は三人しかいないから犯人すぐわかっちゃうわけです。夜・・リンダ(アレクサンドラ・モーガン)という女性が家に帰ってくる。犠牲者1号。なぜか車の中でじっくり鏡見て化粧チェックして、それから家に入る。帰ってきたところですよ、一人暮らしですよ、おかしくないですか?車の中で化粧落としているってんならわかるが・・ってそれもおかしいか。サスペンス物はつかみが大事だと思うけど、この映画ははずしっぱなし。このリンダ、おかしいんです、困っちゃうな~♪意味もなく胸をはだけて窓辺に立ち、戸を開けて外を見て胸をもむのです。肩や足をもむのならわかるけどさあ。はあ~今日も一日よく働いたわ~、あ!ここがこってるみたい・・と胸をもむのかよ。第一何で外から見えるところで?自分からさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい今私この熱くほてった体を夜の風で冷やしてるところだけど、風くらいじゃおさまらないわ誰か見てる人いない?状態にしておきながら、誰かに見られてるみたい・・とふと心配になるなんてアンタおかしいんじゃないの?変な電話がかかってくるけど、かかってきてあたりまえ。戸締りもいいかげんだしスキだらけ。リンダ役の女優さんも演技へた。最初の10分使って、この映画いかに出来が悪いか宣伝してるようなもの。

デッドリー・ゲーム3

後でロジャーがリンダのことを「いい人だった」と悼むんだけど、どこが?って思ったわよ。だらしのない尻軽な女にしか見えない。さてリンダの死の知らせは妹のキーガン(ジョー・アン・ハリス)のところへも届く。このキーガンもなあ・・。電話にかじりついて何時間でもくっちゃべってるタイプ。おそらく姉の死の真相を妹である彼女が探っていくのだろうけど・・何か好感持てないというか、期待持てないというか。そのうち捜査もうやむやになって、見ている我々もリンダのことは忘れちゃうんだけどね。でも犠牲者やヒロインに魅力がないってのは、サスペンス映画としてはまずいんじゃないの?まあこっちの興味はグルームとレイルズバックだからいいんだけどさ。姉妹の母親役は何とジューン・ロックハート。我々の年代だと「名犬ラッシー」とか「宇宙家族ロビンソン」の影響で、アメリカの理想の母親・・というイメージがあるな。この頃はまだ60前だと思うけど、かなり老けた印象。ほんのちょっぴりしか出てこないが、これでよかったのかも。キーガンがリンダの家に行くと、ロジャー達が捜査中。グルームは刑事?「サイモン」から数年たっているけど、老けた感じはしない。しめしめ・・例えひどい内容でも彼を見ていれば何とかしのげそうだ・・とにんまり。真面目で暖かく誠実そうなロジャー。きっと犯人捜しに力を尽くしてくれるだろう。さて町の食堂ではリンダの同級生達が集まってピーチクパーチク。ロジャーの妻スーティ、店主のジョーと結婚しているウエートレスのメアリ、キャロル、クリス・・そのうちキーガンも加わる。彼女達が次の標的なのだろう。会話のなかみによっていくつかのことがわかる。小さな町なのでお互いのことをよく知っていること。結婚していたり恋人がいたり人によってさまざまだが、どうもあんまりモラルは徹底していないような。スーティはロジャーとうまくいっていないようだ。キーガンは彼女のことをクソ女などと言うが、理由は不明。ややお高くとまっているが、キーガンにお悔やみを言う時の表情など心からのもので、私には彼女はいい人に思える。彼女達はロジャーの友人ビリーのこともうわさする。彼は映画館をやっている。小さな町だから娯楽も少ないが、ビリーは恐怖映画ばかり上映するので、彼女達は不満である。

デッドリー・ゲーム4

ビリー自身薄気味悪い存在だ。後でロジャー達がラグビーをやってるシーンで、やはり女達によって彼のうわさがされる。それによると彼はベトナム戦争で手榴弾にやられ、ひん死の重傷を負うが、ロジャーのおかげで命拾いしたらしい。ロジャー以外の誰ともつき合わない変わり者で、女達には気持ち悪いとか気の毒とか思われている。前にも書いたがレイルズバックはまだ若い。足が悪く顔に傷あとがあり喘息持ちである(そのわりにはタバコを吸うが)。誰も見に来ないような恐怖映画(それも「モンスター現る」とか「恐怖のドラキュラ城」といった古い映画)ばかり上映する。サングラスをかけ、夜は悪夢に悩まされる(女エイリアンのせいか・・違うって!)などやや怪しいムードもあるが、ネコにエサをやるなど大人しくてやさしい性格のように見える。足が悪くて喘息持ちじゃ殺人は無理だ。女性を追いかけたりスキーマスクをかぶったりできない。映画が始まってしばらくすると、冒頭のゲームが再び出てくる。あ、じゃあロジャーかビリーが犯人。ビリーは今あげたような理由ではずせるから、残りはロジャーしかいない。それでもこのゲームを持っているのは他にもいるかも・・というかすかな期待はある。ジョーとか。何たってロジャーには犯人であって欲しくないわけよ。犯人を追いつめる側であって欲しい。でなきゃ全然スリルないじゃん。警官が犯人でした・・じゃあさ。ラグビー見物のシーンではコリーン・キャンプが出てくる。ただ・・女性達はみんな同じような顔をしていて、区別がつかないのが困る。キャンプ扮するランディはパーティの後プールで殺されたらしい。顔はよく見えないけどたぶん彼女だろう・・その後出てこないから・・ってな具合。彼女がリンダに続く犠牲者2号で、三番目はクリス(一度は命拾いするので死ぬ順番はメアリの後だけど)。四番目はメアリ。このメアリ・・死に顔をうつして怖さ印象づけたいんでしょうけど、死んでいるのに目が動いちゃってます。この頃にはもう犯人がロジャーだってはっきり見せる。あの~だいぶ前からわかっていたので驚きも何もないんですけどぉ~。感想文で犯人ばらしちゃうのはまずいけど、どうせこの映画誰も見る機会ないと思うしぃ~(言い訳)。

デッドリー・ゲーム5

何だかよくわからないけど、ロジャーはいろんな女性と関係しているみたいなんだな。女達の方もあんまり貞操観念なくて。メアリなんかジョーを愛してるくせに浮気する。ジョーの方も承知していて、愛しているから彼女の好きにさせる・・みたいな。みんなが誰かと浮気していて、知っていても何も言わず、なぜそんなことするのかとか誰と浮気しているのかとか詳しいことは知らないみたいな。小さな町だから波風立てたくないのか、相手が何をしようが自由、その代わり自分も自由とか。あの~でもそういうのっておかしいと思うんですけど。結婚相手、恋人に対する誠意というか責任、人間としてのモラル・・そういうの必要なんじゃないですか?それにしてもロジャーは忙しいね。殺す方に忙しいから捜査のシーン全然出てこないのもムリないな。って言うか上司や新聞記者、住民・・犠牲者の続出に騒ぐと思うが。さて、ロジャーは妻への気持ちはさめてるし(何で?)、他の女は取るに足りない(殺しても心が痛まない)存在。キーガンに対しても途中まではそのうち殺してしまおうと思っていて。ある晩そっと家に忍び込む。キーガンは姉の家にそのまま住みついちゃったから、ロジャーにとってはかって知ったる家・・なわけよ。でも途中で気が変わり、始末を思いとどまったようだ。何で?キーガンに引かれているから?でも彼女には全然魅力なし。延々とくだらない長電話・・見ているこっちもうんざり。仕事何やってるの?・・どうも音楽記事のライターらしい。作り手もそろそろキーガンの職業見ている人に知らせなくちゃ・・と思ったんでしょうね。とにかく何もしてないから。遺品の整理とかもしてないし・・と言うかちゃんと葬式出した?シャワーを浴びて出てくると家の中にロジャーがいる。彼がいつの間にか家の中にいるのはこれで二度目。普通変に思うはずだが。合鍵を持ってるほど姉とは深い関係だったのかしら・・とか、警官だから忍び込むのはお手のものなのかしら・・とか。でもキーガン全然気づかないし疑問も持たない(ばっかじゃないの!)。さてここらへんから純愛物、青春物になっていきます。前にも書いたけど三角関係です。ビリーはキーガンのこと「小太りのガキ」なんて言うんです。キーガンの子供の頃を知ってるってことは、かなり前からビリーはここに住んでいて、ロジャーとのつき合いも長い・・ってことなんでしょう。

デッドリー・ゲーム6

年頃になって、もう小太りでもガキでもないキーガンにビリーはポーッとなってしまう。キーガンは他の女性と違って彼のことを気持ち悪いとか気の毒とか思ったりしない。ごく普通に気さくに話しかけたり触れたりする(恐怖映画を見ていて思わずしがみつくとか)から、免疫のない(たぶん)彼は・・。びっくりしたりどぎまぎしているビリーがとってもかわいくて・・。こんな純真な彼をどうか誰も傷つけないで!だってキーガンのせいで何か悪いことが起こって彼の世界が壊されてしまうのは目に見えているから。真夜中三人だけで恐怖映画を見る。お客は他に誰もいない。もちろんビールやポップコーンつきで・・。これは微笑ましくてとってもステキなエピソード。サスペンス映画の息抜きという感じはあまりしないけど。・・つまりキーガンがしゃべりまくりでうるさいんですよ。純愛映画、青春映画、コメディー映画・・そんな方向へ行っちゃう。サスペンス映画?何それ・・ムード。おっそろしくくだらないなかみのないしゃべりがとめどなく続き、そのうち甘ったるい歌が流れてきて・・歌一曲分の間に三人が遊びたわむれ、しゃべり、笑い合い・・。あの~連続殺人は?これじゃあ犯人は誰でしょうではなくて、キーガンはロジャーとビリーどっちを選ぶでしょうムード。何かビリーがかわいそうで・・。これまではロジャーしか見ていなかったけど今じゃキーガンが気になる。そりゃすべての面で自分はロジャーより劣っている。でもそういう苦悩方面、甘美な喜びの後の絶望方面、嫉妬方面には行かなくて。だってロジャーは自分の命の恩人だから。もしロジャーがキーガンを愛しているなら自分のキーガンへの気持ちなんか問題じゃない。キーガンが自分ではなくロジャーを選んでもいっこうにかまわない。ロジャーが幸せになれるなら・・。こういうことを書くと、彼がロジャーに対し一種の恋愛感情をいだいているのでは・・と思われるかもしれないが、そういうのとはちょっと違うと思う。ロジャーがビリーにどの程度心の内をさらけ出しているのかは不明だが、殺人の動機みたいなのを話すシーンはある(そばで聞いているであろうビリーの姿はうつらないが)。ロジャーによると・・リンダの場合は、ただびっくりさせてやろうといういたずら心しかなかった。

デッドリー・ゲーム7

リンダは逃げる途中崖から落ち、運悪く首の骨を折ってしまった。殺意はなかったけど結果的に命を奪ってしまった。人の命が自分の手の中にあり、神になった気がした。そしてその力を他の女にもふるいたくなった。ラグビーなどで自分が一瞬すべてを支配しているような気になれることがある。しかしそれは長くは続かない。現実世界では満足できないからまた神になろうと殺人を・・後はそのくり返し。彼が女性ばかり殺すのは自分が優位だと思いやすいからか。男性だと反撃され失敗する恐れがある。それとも妻への憎しみを他の女性にぶつけているのか。他の女は殺せても、妻には手を出さない。憎しみと同時にまだ愛情も感じているのだ(たぶん)。まわりにいる女を標的にしていること、犯行をあまり隠すふうでもない彼は、そのうちつかまってもいいやと思っているようにも見える。その時の打ちのめされたスーティの表情を見てみたいとか・・。キーガンに対し、本当はどう思ってるのかも不明。こんな自分を救ってくれるのはキーガンの無邪気さだけ・・とすがりつきたいのか。ロジャーはキーガンと会う約束をしていながらすっぽかす。キーガンは酒場でクリスと会う。クリスは(襲った)男の目に見覚えがある・・とおびえていた。その彼女も再び襲われ、今度は助からなかった。ロジャー大忙し(墓掘りとか・・)。ところでこの映画クライマックスはどこ?わけわからんうちに終わっちゃって。何でキーガンが映画館に来るのかわからん。何ですぐ銃見つけるのかわからん。飛び出してきたマスクの男を思わず撃ってしまい・・ロジャー死亡・・あらら。何で映画館にマネキンあるのかわからん(その中にはメアリの死体も)。「ぼくの命を殺したな」と、ビリーがターザンみたいに縄(?)につかまって降りて(飛んで?)くるけど、暗いのでよくわからん。その後キーガンがどうなったのか不明。とにかく終わっちゃう。映画が終わって、さてこの映画何が言いたかったのかしら・・と考えてみるけど、どうもよくわからん。ロジャーの屈折した心理がメインかしら。殺人はゲームだ・・とか。それって格別目新しくもないし、告白もたんたんとしているので印象はうすい。スーティをどう思っているのかなど明らかにされないのは、片手落ちという気もする。

デッドリー・ゲーム8

とは言え真面目で誠実そうで、それでいて見ようによっては冷たくも見えるグルームの表情はなかなかよかったと思う。どちらかと言うとのっぺりした顔立ちだが、冷酷な悪役もいけるのだ!キーガンを見る目つきも、(そのいっぷう変わった性格に)呆れているようにも、無関心のようにも、何やら残酷なこと考えているようにも見える。青く透き通った冷たい目・・。ビリーにはロジャーは全能の神のように見えてるけど、彼自身は自分に満足していない。このロジャーの屈折ぶりと、彼しか見てないビリーの屈折ぶりとを、もっと生かすことはできなかったのか。何でこんなどっちつかずの内容になってしまったのか。キーガンのキャラをああいうノーテンキ娘にしてしまったのがそもそもの間違い。もっとロジャーとビリーの関係を掘り下げて描いてくれていたら・・。相手のすべてを受け入れる奇妙な心のつながり。ビリーはロジャーが連続殺人を犯したと知ってもさほど動揺しないと思う。彼のロジャー崇拝がぐらつくことはない。一方ロジャーは自分をさらけ出しつつも、心の闇の部分はまだある。今回こういう形で彼の持つ異常な面が表に出てきたけど、もしかしたら前からあったのかも。ビリーが戦争で肉体的に傷ついたように、彼は精神的に傷ついたのかも。これらはサスペンス映画のとっても魅力的な要素だと思うが・・。生かされないまま終わってしまったのはもったいないし残念。それでも見ている間中二人を見て楽しむことは、見終わってからあれこれ想像して楽しむことはできた。どんなに出来が悪くても一つでもこういった私の心をつかむ要素があればそれでオッケー。何度も見たくなる私好みの一作となる。レイルズバック今回もよかったわ~。ビリーの取っつきにくい外見の下にあるのはやさしさ、義理堅さ、純粋さ。ロジャーが一番大切な人だけど、それでも人と触れ合いたいという思いはちょっぴりある。天真爛漫なキーガンは、ロジャーと同じくらい大事な人になりそうで、心が躍った。でもはずみとは言え彼女はロジャーを殺してしまった。そうなるとビリーの心は彼女に対する怒りでいっぱいになり・・あのラストとなるわけ。大事な人をいっぺんに二人なくしてしまったビリー。これからどうなるのでしょう!