デス・フロント

デス・フロント

これは見るのは二度目か。DVDを買ったのはだいぶ前で、もちろんジェイミー・ベル君目当て。この映画のことは何も知らなくて、何かのDVDに入っていたチラシを見たのが最初。これちゃんと日本でも公開されたのね。もちろん「リトル・ダンサー」のベル君人気のおかげでしょう。彼が出てるのでなきゃ・・他にあまり有名な人出てないし、ホラーと言っても戦争に塹壕じゃぴんとこない。DVDの特典にはベル君の来日時のインタビューが少し入ってる。ここでの彼は少し髪が長くて色白で瞳キラキラの美少年。映画の中とはだいぶ違う。インタビューと言えばクイン役アンディ・サーキスのは何じゃこりゃ。断片もいいとこ。ちゃんとうつしてあげてよ。・・1917年の西部戦線。激しい戦闘・・そのうち毒ガス。暗くて何が何だかわからないが、これは全編を通じてそう。二回目ともなれば誰が誰だかわからなくても平気。最低限ベル君だけわかりゃいいんだもん!夜が明けて、トボトボ歩くY中隊の九人。いつの間にか一人がガスマスクなくしていてパニクるけど、まわりを漂う白いもやは毒ガスではなく霧だった。ドイツ軍の塹壕を見つけ、手に入れるけど、ドイツ兵が三人いて、一人は殺され、一人は逃げ、一人は捕虜に。見ていてもよくわからないんだけど、今はネットで他の人の感想が読める。それによるとドイツ兵達は塹壕の外に対してではなく、中に対して警戒していたようで。バリケードを築くとか。戦争中であるために、また兵士の中におさえのきかない荒っぽい連中がいるせいで、出さなくてもいい死者が出る。言葉が通じないってこともあるが、情報がうまく伝わらない。あるいは相手を信じようとしない。監督のマイケル・J・バセットはこれが一作目らしい。他に「サイレントヒル:リべレーション3D」も彼らしい。インタビューでは「ヘルハウス」や「タタリ」のような幽霊屋敷物に、「エイリアン」の恐怖をプラスしたみたいなことを言っていて。私はどちらかと言うと「遊星からの物体X」風のムードを感じたけどね。塹壕という閉ざされた空間、雨や泥、寒さや霧、ハエやネズミ。なぜこんなにたくさんの死体があるのか。ここはどこなのか。殺して回っているのは誰なのか。

デス・フロント2

二回目ともなれば見ながらいろいろ理由を考える。あの毒ガスでみんな大なり小なり頭がおかしくなっているのではないか。あるいはあの時点でみんな死んでいて、あの後のことはみんなチャーリー(ベル君)の夢なのだとか。ドイツ軍はこの塹壕を掘っていて、地下に閉じ込められていた邪悪なもの・・悪魔を解き放ってしまったのだとか。掘ってる連中は下っ端だから、単純に怖がって上官に訴え出るけど聞いてもらえないとか。どうせサボる口実にそんな出まかせ言ってるのだと。そのうち妙なことが起こり始め、味方どうしで殺し合うようになり・・。そうやって生き残ったのがあの三人とか。あるいは作った連中が全滅した後に迷い込んだのがあの三人のいた部隊だったとか。何かあってもうまく伝わらず、前の部隊と同じ運命をたどる。そこで終わりということがなくて、同じことがくり返される。どうせなら死体の中にはドイツ兵だけでなく英国兵も同じくらいまじってるというふうにすれば、もっと不気味さが増したことだろう。とにかく被害を食い止めることができないというのは「物体X」を連想させるわけ。ノルウェー基地がやられ、生き残りがエイリアンを殺そうとするけどアメリカ基地の者に殺されてしまう。いちおうホラーなので、見ている者は怖がるべきなのだろうが、ところどころショッキングなシーンがあるとは言え、全体的にはさほどでもない。暗くてよく見えないってのもある。リアルさにこだわって暗い中で何かやるより、少しくらい非現実的でも明るくして、何が起こってるのか見せればいいのに。かと思えば有刺鉄線がニョロニョロ伸びてきて巻きつくというシーンもある。ここは逆に見え過ぎてCGバレバレでかえって怖くない。一番怖さを感じるのはクインの狂気だろう。味方でよかったという言葉の通り、問答無用で相手を殺しにかかるので危なくて仕方がない。得られたかもしれない情報、助かる手立てが、彼のせいで次々についえる。血に飢えた野獣ぶりはVシネマに出演して欲しいくらい・・って何のこっちゃ。さて、捕虜になったのはフリードリッヒと言って、彼とチャーリーはフランス語ができるらしく、それで意思の疎通を図る。

デス・フロント3

しかし彼が言うことは、ここから逃げろとか邪悪なものがいるとかお互い殺し合うようになるとか妙なことばかり。彼もここに迷い込んだクチなのか。ここがどこなのか知らないのか。ラストでは彼が邪悪な存在だとわかるが、登場した時点でそうだったとは思えない。あの時点では彼や仲間は邪悪な存在と戦っていた方。途中でブラッドフォード(ヒュー・オコナー)が取りつかれるが、彼の死でフリードリッヒに移ったように思える。ブラッドフォードの前はどうだったのか不明だが、取りついていない状態の時もあるのだろう。この塹壕自体が邪悪な存在とも考えられるし、ま、何でもアリってことですけど。チャーリーは16歳なのに19歳と偽って志願した新兵。激しい戦闘が始まると怖くてもうどうしたらいいのかわからない。それがいくつかの困難、試練をくぐり抜けて一人前の大人に成長とか。まあベル君としてはただのホラー、そこらへんにいくらでもあるホラーだなんて思って欲しくないでしょうよ。戦争の悲惨さ、少年の成長を描いた人間ドラマだと思って欲しいでしょうよ。まあ私には、インタビューの感じでは、監督は(若いだけあって)歴史的に正しいかどうかよりもホラー的効果の方を重視しているように思えたけどね。ベル君はチャーリー自身と同じ年頃で、半分少年という感じだけど、大人達にまじっていても浮いていない。ちゃんと存在感がある。よくある、有名子役を大人達が引き立ててやっているという感じがしないのだ。対等にやってる。チャーリーは経験はほとんどゼロだけど、だからこそ物事を素直に受け止める。たとえ敵でもむやみに殺したり、苦しめたりするのはおかしいと思ってる。フリードリッヒの言うことがおかしくても、実際に妙なことが起きてる以上、ここにいるのはよくないのではないか。他の連中はなまじ経験があるせいで、かえって事実が見えない。邪悪なものなどいるはずがない。生き残ったドイツ兵が潜んでいて、自分達を襲っているのだと思っている。チャーリーは主にテイト軍曹(ヒューゴ・スピアー)に自分の主張をぶつけるが、聞いてもらえない。

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これは軍曹が無能ということではなく、仕方のないことなのだ。作戦を考えたり命令を下したりするのは上の・・この場合ジェニングス大尉(ローレンス・フォックス)の役目である。軍曹の役目は大尉の指示通りに兵士を動かすことにある。指示が正しいかどうか判断するのは彼の役目ではないのだ。極端な場合、上官が血迷っていたり、頭がおかしくなっていることもある。「戦闘機対戦車」の将軍のように。下の連中は当然不満をぶつけてくるわけで、いつだって軍曹あたりは上と下との板挟みになるのだ。兵士のうちシバスは重傷だが、ろくな手当てもできない。通信士のブラッドフォードは無線にかじりついて援軍を要請するが通じない。ここがどこなのかわからないし、間違ってドイツ軍と交信したら大変だから気を使う。ある時聞こえてきたのは、Y中隊は全滅したという通信。必死に呼びかけても相手には通じず・・全滅と思われているのでは援軍なんか来るはずもないと落胆するが、ジェニングスにはみんなには言うなと口止めされる。現実に彼らは全滅しているのかも。あの毒ガスで死んだのを受け入れられず、こうして魂がさまよっているのかも。この塹壕はこの世とあの世の境目なのかも、あるいはあの世への入口なのかも。このブラッドフォードは信心深くて、いつも聖書をそばに置いているようなタイプ。こういうのに限って悪魔に取りつかれるんだけどね。ジェニングスはまだ赴任したばかりで、まわりからは頼りにならないと思われている。と言って全く無能というわけでもない。まあクインのようなとんでもないのがいたのでは、まとまるものもまとまらないんだけど。ジェニングスは誤ってホークストーン(ハンス・マシソン)を撃ち殺してしまい、その後精神的におかしくなっていく。結局中隊で生き残ったのはチャーリーだけ。彼は地下で、なごやかに過ごす中隊(の幻影)を見る。その中には自分もいる。彼らの誰もが泥だらけでも傷ついてもいなくて、平穏なムード。たぶんあっちへ行ってしまえば・・死を受け入れればすぐにでも楽になれるのだ。

デス・フロント5

でもチャーリーは自分はまだ死んでいないと、その場を去る。フリードリッヒが待ち受けているが、彼はチャーリーに何度も助けられているので、この塹壕から脱出させてくれる。地上に出てもあたりは霧で何も見えない。チャーリーがこの先どうなるのかはわからない。味方と合流できるかもしれないし、敵に出会って殺されるかもしれない。あるいは魂がどこか・・この塹壕にはとどまらず他にさまよい出ただけかも。フリードリッヒが逃がしてくれたのはチャーリーがすでに死んでるからかもしれないし、次の獲物が近くまで来ているとわかったからかもしれない。と言うわけで、ホラーではおなじみの何も解決してないラスト。説明不足のラスト。前から続いていて、これからも続く、大きな悠久の流れの一断面を切って見せただけのラスト。要するに人間はいつの時代も同じことをやっているという。いつも同じ間違いを犯し、決して賢くならないという。悪魔より怖いのは人間だという。「リトル・ダンサー」のベル君が出ているからという理由で見る人が多いと思うけど・・私もそうだけど・・泥まみれで雨に濡れてではあるけれど、やっぱりベル君はかわいい。助かってよかったわ~ホッ。考えてみりゃベル君ももう30歳。月日のたつのの何と早いことよ。結婚して子供ができて、でも別居中みたいで・・やっぱりねえ。見るからに危なっかしそうだもん。願わくば「リトル・ダンサー」を超える代表作がそろそろ出て欲しいところだ。いつまでも「リトル」の子じゃ彼だって不満だろう。今回はフォックスにも注目して見ていた。こういうホラーに出てもやっぱり育ちのよさみたいなのが感じられる。雨や泥の世界でも、どこか清潔できちんとしていて。無能だなんて思えなくて気の毒としか思えない。かばってあげたくなっちゃう。オコナーのブラッドフォードもそう。邪悪と言うより気の毒。戦争で悪魔で泥でネズミでホラーだけど、たぶんベル君とフォックスとオコナー見てるだけで女性には十分。タイプの異なる美しさが楽しめる。ホラーと言えば美女に絶叫・・なんてのはもう古い。これからはホラーと言えばイケメンだぜい!あ、毒薬・・じゃない、ドク役マシュー・リスは「新・刑事コロンボ」の「殺意のナイトクラブ」に出てましたな。