ドーヴァーの青い花

ドーヴァーの青い花

テレビ放映してくれないかなとか、DVD化してくれないかなとか、毎回のように書いているけど、これもそう。何で出てくれないのだろう。最初に見たのはたぶん「月曜ロードショー」あたり。大昔のことなのではっきりしない。映画そのものはすごく印象に残った。天才少女子役と言われたヘイリー・ミルズの演技がすばらしいから?いやいや、あんなのどうでもよろし。何たってデボラ・カーの名演技ですがな。氷のように冷たい美貌と、近寄りがたい気品。その後待ったかいがあって、録画することができた。CMの感じだと20年くらい前かな。最初に三越のCMが入ってるってことは、「午後のロードショー」かな。いやとにかく運がよかった。106分あるらしいが、たぶん15分くらいはカットされているだろう。カットされるとしたら小さなエピソードだろうから、そういうのが抜かれたのを見ると、展開が速すぎる印象受ける。大河ドラマの総集編みたいなもので、ヤマ場ばっかり続く・・みたいな。でも、文句は言うまい、見られるだけで幸せ、放映してくれて感謝。しかも声はカーが水城蘭子さん、メイトランド(ジョン・ミルズ)が大塚周夫氏、オリヴィアがたぶん北浜晴子さんと、昔のまんま。今は吹き替えを聞いても誰が誰やらだが、古い人ならすぐわかる。ところで原題は「ザ・チョーク・ガーデン」だ。ドーヴァー海峡の近くにあると思われるモーム夫人(イーディス・エヴァンス)の庭は、石灰質のため、いくら世話をしても花が咲かない。それはいいとして青い花ってどういうことかな。ローリー(ヘイリー)の未熟さを青い花にたとえているのかな。悲しげで美しい音楽が何度か流れるが、ローリーのテーマと言うより、マドリガル(カー)の苦難の人生表わしているように思える。モーム夫人のところへ家庭教師が面接に来る。夫人に会うため待っていると、孫のローリーがしゃしゃり出てきて、嘘八百を並べ立てる。こんな生徒じゃとても自分には務まらない・・と、みんな恐れをなして退散してしまう。しかし今日七人目のマドリガルだけは違った。執事のメイトランドはちょっと驚く。

ドーヴァーの青い花2

とても家庭教師には見えない。大変な美人だ。マドリガルの方はローリーを見て、何やら感じたようだ。実は彼女はローリーが昔の自分にそっくり・・ウソつきで生意気で怖いもの知らず・・なので驚いたのだ。夫人は身元保証人がいないのではだめと、雇わないつもりだったが、マドリガルに園芸の知識があると知り、気が変わる。何しろいくら肥料をあげても花は育たず、庭は荒れたまま。思い通りにならないのが気に食わない。ある日、夫人の娘でローリーの母でもあるオリヴィア(エリザベス・セラーズ)が訪ねてくる。彼女は再婚し、妊娠中だが、ローリーを引き取りたいと思っている。しかし夫人は頑として受け入れず、ローリーも姿を隠す。見ていてもはっきりしないが、彼女は母親に捨てられたと思い込んでいるのか。夫人はローリーを手放すのが嫌なので、ウソを吹き込んだのか。私が映画を見ていて妙に思うのは、妊娠しているオリヴィアがタバコを吸うことだ。この頃は妊娠中の喫煙の害など気にしなかったのか。マドリガルがオリヴィアの味方らしいのが夫人には気に食わない。もちろん夫人だって自分が間違っているのはわかっているのだ。自分は老いてきているし、娘は思い通りに育ってくれず、庭もうまくいかない。この上、孫までいなくなったら・・と、さびしく心細いのだ。メイトランドのことをローリーは放火魔だの殺人犯だのと言いふらすが、全部ウソというわけでもない。以前ホテルをやっていたが、彼の不注意のせいで家が焼け、妻子を死なせてしまった。その彼に仕事をくれたのが夫人。彼にとってはここが自分の家で、居心地もいいが、家庭内のもめ事には踏み込まないようにしている。一方ローリーの趣味は人の秘密を暴き立て、祖母に告げ口すること。今まで家庭教師を何人もたやすく追っ払ってきたのに、マドリガルには脅しもウソも通じないのがおもしろくない。彼女はどうも怪しい。持ち物はみんな真新しいし、部屋には写真も飾っていない。夜になると扉を開け放し、部屋の中を行きつ戻りつする。何かから・・例えば精神病院から逃げてきたのではないか。

ドーヴァーの青い花3

カギのかかったトランクもローリーの気をそそる。マドリガルの留守中に部屋から持ち出し、苦心の末開けてみると、ただの絵の道具。拍子抜けするが、彫ってある頭文字がCDWで、マドリガルでないのが妙だ。トランクを戻そうとすると扉には南京錠。仕方なく木に登って窓から入り込み、下りる時に枝が折れ・・というのはお約束。ヘイリーは人気があるから(たぶん)、そこここで見せ場を作り、サービス。焚き火をしてそのまわりを踊り回るとか・・今見ると野暮ったい。ママは自分と父親を捨てて男に走ったとか、自分の目の前で父親は銃で自殺したとか言ってマドリガルを動揺させ、同情を引こうとするローリーだが、これがみんなうそっぱち。メイトランドによると、父親の死は飲み過ぎからくる肝臓の病気。オリヴィアが離婚したのは夫のアルコール依存症のためか。12歳の時男に襲われたというのもウソ。ウソばかりついていたり、他人の秘密を暴き立てて喜んでいたりするのも、世間から離れた屋敷の中でやってるぶんには害も少ないが、このまま大人になったらどうなるのか。マドリガルにはそれが心配だが、夫人は現実に目を向けようとしない。ローリーは人形に話しかけるなど少女らしいやさしい面もあるのだが、それを他人に見られたりすると、すぐ乱暴な態度を取る。人形を投げつけて壊すなど、心にもない態度を取ってしまう。・・はいはい、わかったってば。生意気なのはうわべだけ、なかみは傷つきやすく繊細ないい子だって言うんでしょ?私が気になるのはマドリガル。カーは目がややロンパリで、どこを見ているのかわからないようなところがある。それで凍りついたような表情しているから、ますます冷たく見える。でもなかみは違うのだ。平静を装っているけどローリーの言葉におびえ、傷ついている。彼女がショックを受けたのは、書斎に飾ってあった写真。夫人のボーイフレンド達・・ホントかどうかは不明だが・・の写真だが、そのうちの一つが判事の写真。オリヴィアから今度こそローリーを連れていくという電報を受け取った夫人は、古い友人である判事に相談しようと屋敷へ招く。

ドーヴァーの青い花4

この判事役の人は見覚えがある。調べてみたら「電撃スパイ作戦」の1話目に出てくる謎の老人やってた人らしい。食事の席で、ローリーは判事に裁判の話をせがむ。そのうちある女性殺人犯の裁判の話になるが、夫人が止めるのも聞かず、話をせかす。マドリガルは動揺し、話すこともおかしい。鈍感なローリーもやっと自分がとんでもないことをしてしまったのに気づく。こんなつもりじゃなかった、遊びのつもり、ゲームだったのに・・と後悔するが手遅れ。何だかこういうのって今でもよく聞かれる言い訳だよな。行き着くところまで行かないと気づかないのかね。結局最後まで真実はどうだったのかは不明。マドリガルは腹違いの姉を殺したとして死刑の判決を受けるが、その裁判を担当したのがこの判事。マドリガルは今のローリーと同じで、ウソばかりついていたので、何を言っても信じてもらえなかった。若すぎるという理由で死刑は免れたものの、マドリガルは15年服役。自分では生まれ変わったつもりだが、どこへ行っても過去につきまとわれる。「安全でプライバシーのあるところはどこにもない」と泣く。それまでは何とか毅然とした態度を保っていたが、もう心も折れてしまった。とは言えローリーのことはこのままにしておくわけにはいかない。彼女は母親の元へ戻るべきだ。普通の映画ならメイトランドはマドリガルを励ますだけでなく、それ以上の好意を示すはずだ。でもこの映画ではラブロマンス風味はなし。母親とローリーを結びつけるのがメイン。それともカットされた部分にはそういう息抜き的エピソードがあるのか(知りたいよん)。母親の元へ戻ることは、ローリー自身が決めなければならない。そして彼女は選択する。夫人はマドリガルのストレートな批判に怒り、彼女が前歴を隠していたと知るとさらに怒る。マドリガルは出所するとすぐここへ来たのだ。結局夫人にもローリーを止めることはできず、孤独感に打ちのめされる。しかしマドリガルが残って庭の面倒を見てくれることになり、少しは元気を取り戻す。夫人役エヴァンスはこの映画でアカデミー助演女優賞の候補になったらしいが、頑固でありながらどこか憎めないところがすばらしい。

ドーヴァーの青い花5

声を当ててる人も合ってるが、名前が思い出せない。映画の内容そのものも、人生で一番光り輝く時期を刑務所で過ごすはめになった不運さと、その中で何とか新しい自分に生まれ変わろうとするけなげさ、自分と同じ道を歩まないよう少女のこれからに心を砕く誠実さ・・と、心打たれることばかり。16歳の少女の不安定さ、大人への第一歩なんて、それに比べりゃ甘いのなんの・・。まあとにかくこの映画でいっぺんにデボラ・カーのファンになったわけです。ただのメロドラマ、人間ドラマではなく、どことなく謎めいた不気味なムードが時々漂うのもよかった。開けたドア、じゅうたんの上にうつる影。普通部屋の中を歩き回るというと、靴音コツコツだが、じゅうたんだからコツコツはなし。その代わり床がきしむギーッという音がして、そこが不気味。CDWが何の略なのか、質問ごっこでボロを出させようと企むローリーと、そんなことはお見通しのマドリガル。普通に考えれば、違う頭文字が彫ってあったって何の不思議もない。誰か友人から譲ってもらったかもしれないではないか。でもゲームをやって、見ている者の好奇心をそそる。ラストでは好奇心にかられた夫人が、「本当に殺したの?」と聞く。マドリガルははっきり答えず、ぼやかす。それで夫人は「死ぬ前に探り出す」と宣言。まあこうやっておけば夫人の気もまぎれるからね。全体的にはマドリガルは無実だったムードだが、こういう謎めいた終わり方はとてもいい。さて、感想を書くためネットで調べようとしたが、古い映画だしDVDも出てないしで、あまり感想書いてる人もいないようだ。アンジェラ・ランズベリーの名前がやたらヒットするので何でかなと思ったが、ブロードウェイで舞台化されるらしい。彼女がモーム夫人役やるのかな。確かに登場人物少ないし、舞台も屋敷とそのまわりがほとんどだから舞台に向いてるかも・・と言うか、元々1955年に舞台でやったのが最初らしい。ところで前に見た時はマドリガルとローリーが海辺で絵を描いてるシーンがあったと思ったけど、思い違いかな。まあとにかく・・それこそ「死ぬ前に」ノーカットで見たいです!