建物探訪

はい、皆さんこんにちわ。「建物探訪」の時間です。今日は南太平洋に浮かぶトレーシー島に来ています。と言ってもこれは通称で、本当の島の名前はわかりません。どの海図見たってトレーシー島は出ていませんよ。位置は極秘なんです。そのわりにお客さん来ますけどね。服装は皆さん春か秋の格好ですね。赤道に近いんじゃないんですか?そんな服装で暑くないんですか?それとも島の近くを寒流が流れているから涼しいとか・・。あ、彼らが厚着なのは首や肩の継ぎ目が見えたらまずいからですか。そうですか。え?継ぎ目?ちなみに5号の位置は赤道上空とされていますが、これはまあ事実でしょう。高さについては前に書きましたけど、赤道上空ってのも大事なんです。赤道に対して傾いた角度で回っていると、衛星は時間によって北半球の上空に行ったり、南半球の上空に行ったりしちゃうんです。そのたんびにアンテナの向き変えるの大変でしょ。

さてトレーシーヴィラは地上二階建てです。地下は見えないので不明です。一階部分には食堂、キッチン、ゲームルーム。ミンミン、キラノ、おばあちゃん、ブレインズの個室。他にホームシネマ、バスルーム、洗濯室、貯蔵室があります。二階部分にはラウンジ、書斎、研究室、作業場、ゲストルーム(二部屋)、ジェフと五兄弟の個室があります。研究室と作業場は建物の中央部分にあるわけですが、「サンダーバード6号」ではテラスに向いた広々とした明るい部屋になっています。改築したんでしょうか。1号の格納庫と発射台へとスライドしていく部分も建物の中に含まれます。つまり彼らの正体を知らないでゲストルームに泊まっているお客のすぐ隣りに、1号がそびえ立っているわけですね。考えただけでドキドキしちゃいますね。もちろん防音装置はばっちりですけど。ところで玄関はどこにあるんでしょうか。おそらくはプールなどがあるのとは反対の側にあるんでしょうね。つまり彼らの活動の拠点となるラウンジからは最も離れた場所にね。この建物ってお客を歓迎するような作りにはなっていないような気がします。いちおうゲストルームはいつでも使用できるように用意されてはいますけど・・。一階と二階は階段でつながっていますけど、リフト、つまりエレベーターもあります。ちょうどラウンジのバージルの写真の裏あたりにね。おばあちゃんもいることですし・・。あとどこかに医務室もあるはずです。玄関の隣りあたりでしょうか。地下でないことは確かです。

さて気になることが二つあります。5号に一人行っているとして、この家には普段九人の大人が住んでいるわけです。それでバスルームが一つというのは少なすぎませんか?ミンミン、お風呂長そうだし。みんなして「ミンミンまだー?」なんてぼやいていそう。・・で、私が思うにゲストルームには当然バスルームがついているでしょうから、二階の連中はそちらを利用するのではないかと・・。もう一つ気になるのは将来スコット達が結婚したとして、どこに住むのかということ。現在のトレーシーヴィラには若夫婦のための居住スペースはありません。もちろんアメリカの習慣として別居という形をとるのでしょうが、住んでいるのは島だし、仕事がアレだし、遠くに住むわけにはいかない。だから近くで、しかも独立した居住スペース・・って、もしかして使用目的不明のラウンドハウスがそれですか?ここなら完全に独立しているし、広さも十分です。トレーシーヴィラ同様、外見はレンガでできた煙突みたいなソーラーエネルギーパネルも設置されているし、ここはおもやのゲストルームが満室の場合の宿泊棟と一部で言われているくらいですから、住むための設備は整っていると思います。うーん、でもねえ、3号が出入りするんですよ。車ならともかく巨大ロケットがドドドって・・。そりゃ防音設備、耐熱処理は万全でしょうけど。どうもジェフ・トレーシー氏にはお年頃の息子を五人もかかえているという自覚はないようですね。このままずっと独身のまま人類のために奉仕せよ・・っていうことなんでしょうか。劇場版でもスコットとバージルがたった一晩島を留守にするというだけで渋い顔をしていましたしね。ひどいオヤジだ・・。オホホ、つい悪口言ってしまいました。

エピソード中に出てくるのはバージルとゴードンの部屋。劇場版にはアランの部屋が出てきます。見てわかりますが、ベッドの置き方が違います。バージルとゴードンの部屋はベッドの頭の方が窓側に、足の方が入口側に来るように置かれています。両側に棚があるのはあまりいい配置の仕方ではありません。頭側の棚は窓からの光をさえぎってしまいますし、足側の棚は入口からベッドがまる見えになってしまうのを防いでいますが、開放感がなくなってしまいます。つまり暗くて狭い感じの部屋になっているのです。いちおうそれほど圧迫感のない作りの棚になってはいますが。採光の不足を補うためでしょうか、入口側の壁や隣りとの仕切りの壁にガラスが使われています。アランの部屋はベッドが横向きに置かれています。これだと窓から光が十分に入るので、壁をガラス張りにする必要がありません。板を並べて張った壁や、木で作ったベッドなど、どこか山小屋風で、バージルやゴードンの部屋とは全く感じが違います。さてではさらに詳しく個室探訪を・・え?だめ・・。そこを何とかねえおばあちゃまぁ・・というわけで以下は・・。

劇場版でのアランの部屋はずいぶん広く見えるでしょうけど、実際はそうでもないんですよ。家の片側にずらっと一列に六つの部屋がホテルみたいに並んでいるわけですからね、そんなに一部屋が広いはずないんです。バージルの部屋だってゴードンの部屋だって片方が椅子に腰掛けて、もう片方はベッドに寝ているか腰掛けているかでしょう?一人用のベッドと作りつけのクローゼット、ベッドの両脇に小さなタンス。他に枕元に呼び出し用の通信機があります。共通した設備はこれだけで、あとは各自の好みです。

スコットの部屋はジェフの部屋の隣りにあります。私は母親だからジェフの部屋にもよく顔を出すけど、孫達はどうなのかしらねえ。兄弟の中で軍隊に行ったのはスコットだけだけど、その経験は決して無駄ではありませんよ。自分で自分のことを始末する、そういう習慣をつけるには団体生活を経験するに限ります。スコットはベッドメイキングもばっちりだし、アイロンがけも上手。手際がいいんです。クローゼットの中もきちんとしているし、靴もぴかぴか。身だしなみがよくてどこから見ても紳士だけれど、おしゃれにはさほど興味はないみたいね。質実第一で蝶ネクタイより制服が似合うっていうタイプですよ。部屋の中は殺風景で壁にメダルを入れた額がかかっているくらいであとは何もなし。テレビもラジオもステレオもありません。静かなのが好きなんでしょう。観葉植物くらい置いたらって言ったら「窓からいっぱい見えるじゃありませんか、おばあちゃん」なんて・・。見えるったってヤシの木じゃありませんか。さて本棚には航空学の難しそうな本と、子供の頃から好きだった歴史の本が並んでいるわ。みんなで使うような本は書斎に置いてあって、自分の部屋にあるのは個人的な本だけです。スコットは古い時代の英雄の話が好きみたいね。でもそういう本を読んでのんびりくつろげるヒマはあんまりなくて、いつもジェフやブレインズさんに呼び出されて、図面を片手に何やらヒソヒソやっているわ。ジェフは仕事人間だし、ブレインズさんにはジェフ以上に私生活ってものがないわ。この二人に調子を合わせるのは大変なことよ。スコットには自分は跡継ぎだという自覚があるから何とも思っていないでしょうけど、私は時々かわいそうに思うこともあります。あと助かっているのは買い出しに行ってくれることね。ジェット機を飛ばして手早く確実に頼んだものを買ってきてくれるの。この点に関しては彼は一番頼りになりますよ。ミンミンに頼むとウインドーショッピングだか何だか知らないけどとにかく時間がかかるんです。バージルは珍しいレコードや、画材の調達など自分の趣味に関連したものに夢中になっちゃうし、アランに頼むと必ず何か買い忘れがあるわ。あるいはせっかく買ったものを置いてきてしまったりね。だからスコットが一番いいの。無趣味なのは困るけど、どこにも寄り道せずまっすぐ帰ってくるからね。

さてバージルはスコットとは正反対ね。あの子の持ち物は家の中のあちこちにちらばっています。本とかレコードとか。まわりから苦情が出るとラウンドハウスに移すのよ。あそこの部屋のいくつかはバージル専用になってしまってます。文学全集、哲学の本、画集、詩集、レコード、音楽テープ・・。映画も好きで、そういうのはホームシネマの部屋に置いてあります。絵を描くのはラウンジで。スペースとか絵の具のにおいの関係で広い方がいいからね。でもあの子はむとんちゃくでシャツをすぐ汚すんで困ってしまうわ。洗濯のことなんか考えないのね。スコットと同じでおしゃれには興味がないようです。部屋にはテレビがあって、棚にはオブジェとか私にはよくわからないものが置いてあります。ベッドの上とか家の中のあちこちにあの子の描いた絵が飾ってあるけど、私にはさっぱりわからない絵ね。観葉植物もあるけど水をやるのは私の仕事。バージルにやらせると水をやりすぎてくさらせてしまうの。機械の扱いはうまいのにね。すごく神経が細やかで、誰に対しても気をつかっているけど、それでいて物事にはあんまりこだわらない方。部屋の中が雑然としていても平気なの。ものがたくさんあっても頭の中では整理できていて、どこに何があるかちゃんと覚えているのよ。まあ部屋の中に仕事を感じさせるものが全くないというのが彼の部屋の特徴ね。仕事と私生活をきっちり分けています。

アランの部屋へ行くと私は生きがいを感じるわ。いつ行ってもごちゃごちゃなんですもの。かたづけがいのある部屋だわね、全く。バージルの場合はものが多いといっても趣味と結びついていて、それなりにまとまっているけど、アランの場合はまとまりがないの。あの子のベッドだけ木でできていて、彼自身の手作りです。レース用の車をいじったり、6号の塗装をしたり、木で何かこしらえたりと意外と器用なんです。ベッドは下に引き出しがついています。何が入っているか知らないけれどきっとがらくたね。ベッドの足元に置いてある大きな木の箱も子供の頃に作ったもの。昔は宝物入れだったわ。今もやっぱりそういうもの、つまりがらくたが入っているんでしょうね。子供にとっての宝物は、大人から見ればがらくたにすぎないわ。あの子はレーサーだったからトロフィーとか記念品みたいなものをいっぱい持っています。そういうのはラウンドハウスに置いてあるわ。結局ラウンドハウスって図書館や倉庫代わりに使われているってわけね。アランはおしゃれだからクローゼットの中はいっぱいです。ものは置きっぱなし、服は脱ぎっぱなし、靴もあそこに片方、こちらに片方。でも仕方ないわね。あの子だけ母親の味を知らないのだと思うと、しかる気にもならないわ。そんなアランに兄弟の中で一番先に恋人ができるんだから、世の中わからないものよね。ミンミンはかわいらしくて気立てがよくてしっかり者だから、私もすごく気に入っています。ただあの子もさほど几帳面な方ではないわね。

この前アランの部屋をそうじしていて息が止まりそうになったわ。あ・・言っておきますけどね、部屋のそうじは各自ですることになっています。大人ですからね。でもアランやジョンの部屋は留守中に時々空気の入れ替えをしなくちゃならないし、アランやバージルの部屋にある植物の世話も私の仕事。アランはバージルと反対で水をやるのを忘れてすぐ枯らしてしまうのよ。忘れるくらいなら置かなきゃいいのに。さて話を戻して、アランが5号勤務の時、部屋に風を通しに行ったら窓の下に何か茶色い細長いものがあったの。寝る時の抱き枕だろうと思ってそばへ寄ったらワニだったの!じーっと動かないでこちらをにらんでいるのよ。心臓が止まるかと思ったわ。でも何で茶色なのかしらって思ってよく見たら大きなワニのおもちゃなのよ。どうしてあんなものを置いておくのかしらね。ミンミンがアランにワニをプレゼントしたことがあるでしょ?だからてっきり・・。そう言えばあのワニどこへ行っちゃったのかしら。枕元に石膏の像が置いてあるのも不思議でした。あの子は寝ぼけてすぐベッドから落ちるから、そのうちにあの像まで落っことすに違いないと思って、あの子のいない間に他の部屋に移しましたよ。「サンダーバード6号」ではジェフのデスクの後ろに飾ってあったでしょ?アランは何にも言いません。だいたい自分でもなぜあの像が自分の部屋にあるのかわかってないようなの。バージルのデッサン用なら彼の部屋にあるはずだし・・。本棚にあるのはほとんど車関係の本。本当に車が好きなんです。島で練習できるような道路と言ったら直線の滑走路しかありません。それでレースに出て優勝するんだから大したものよね。

ゴードンの部屋にはステレオがあります。テレビを見たい時はバージルの部屋へ行きます。ステレオを鳴らす時にはたいていアランが一緒です。ミンミンと一緒の時もあります。隣りのジョンはいないし、文句を言う人はあまりいません。いるとしたらブレインズさんですね。現代的な音楽は嫌いらしいわ。私も好きじゃありません。うるさいだけで。壁には大きな地図がかかっています。海洋図とかいうものらしい。本棚も海関係の本が多いわね。彼も水泳でメダルとかトロフィーを持っているはずだけど、どこにあるのかは知らないわ。部屋の隅にギターが立てかけてあって、花もあります。他にこれといったものは出ていません。マメな性格で植物の世話は上手です。潜水艦とか、そういった狭いところでの暮らしが長かったので、ものをためこんだり飾り立てたりする習慣はないようです。第一音楽を聞いたりする時は別としてほとんど部屋にはいません。釣りに行ったり泳ぎに行ったり・・。何か釣っても海に戻しちゃうから、帰りはいつも手ぶら。ミンミンはちゃんと持ち帰って料理します。

ゴードンはアランとは一つしか違いませんけど、子供の頃から甘えん坊という感じは全然ありませんでした。小さかった頃私が孫達に会いに行くと、スコットとバージルは年のわりに大人びた態度で接してくれました。アランはくっついて離れないほど甘えん坊でした。でもゴードンとジョンはどう接していいのかわからないみたいに少し離れていましたね。こっちが声をかけると二人してポッと顔を赤らめてうれしそうにするんです。そういうところはとても似ていました。そのうちにゴードンはがらりと性格が変わって水泳で活躍し始めましたけど、ジョンはそのまんま。その頃はまだおじいちゃんも生きていて、ある時ジョンに天体望遠鏡をプレゼントしたんです。それを覗き込んだ瞬間ジョンの将来は決まったというわけ。今では二人とも大人になったけど、なかみはそんなに変わっていないと思いますよ。片方はふざけてばかりいるし、もう片方はいるのかいないのかわからないくらいに大人しいけど、元々はよく似た性格なんです。親切で真面目で恥ずかしがりや。片方は深海、片方は宇宙・・と働く場所は全然違うけど、孤独な環境という点では同じ。バージルがうまいこと言っていましたよ。二人とも月みたいな人間だって。月には地球から見える表部分と、地球からは決して見ることのできない裏側とがあるでしょ?それが合わさったのが月。ゴードンが私達に見せているのは表側の明るい性格で、その向こうにはまた別の私達にはよくわからない性格があるんですって。ジョンは逆で、私達がジョンの性格だと思っている神秘的でよくわからない部分は月の裏側部分だけれど、光が当たってこちらから見えるはずの明るい表部分を実は私達は見逃しているんですって。そう言われれば一番にぎやかなゴードンが一番さびしがりやに思えてくるし、大人しいジョンが実は一番楽天的な性格なんだ・・って思えてくるわ。だって考えてみれば、暗くて物事を悲観的にしか見ることのできない者に、宇宙での孤独な任務が耐えられるはずないですものね。ノイローゼになるのがオチ。バージルって頭がいいわねえ。

さてジョンの部屋はいつもきれいにかたづいています。5号でずっと一人で暮らすわけですからね。自分のことは全部自分でやらなくちゃならないし、病気にならないよう健康にも気をつかっています。宇宙で具合が悪くなってもすぐには助けが来ないしね。スコットとはまた別の意味で几帳面なジョンですけど、スコットのようにものを持たない主義というわけではありません。本棚には天文学の本が並んでいます。彼の著作ももちろんね。執筆用のデスクの引き出しには資料がきちんと整理されて入っています。机の上には天球儀。壁には彼が撮影した美しい星々の写真。私の部屋にもよくとれた星の写真が額に入れて飾ってありますよ。バージルの絵と一緒にね。私はわけのわからない絵は嫌だって言ったんです。そしたら肖像画を描いてくれたわ。この前アランは何だか怒って文句を言っていましたけど、私のはまともでしたよ。こういう絵も描けるのになぜいつも妙な絵を描くのかしら。写真と絵はクリスマスプレゼントですよ。窓際にはさっき話した天体望遠鏡が置いてあります。ジョンはものをとても大切にするんです。彼の部屋は若者の部屋と言うより学者の部屋ですね。テレビやラジオはありません。自分の部屋にいる時はどんな電波も受信したくないって笑って言ったことがあります。アランと交代する時、スコットが一緒に行くとうれしいようです。帰りの3号の中でいろいろおしゃべりできるでしょ。本当はアラン一人でも大丈夫なんですけど、ジェフが心配してスコットをお供させるんです。スコットもさほどおしゃべりな方ではないけれど、年も近いしお互いにいたわり合っているようなところがあります。

実はせっかく地球に帰っていてもジョンはあんまり家にはいません。5号は世界中からの救助信号を受けるわけだけど、例えば地球の裏側から発せられたものは、直接は受け取れないんです。電波はまっすぐ飛ぶし、地球は丸いしで、どこかで中継しなくちゃならないの。そのための秘密の通信基地が世界中にあるんだけど、たいていは秘密隊員とかいう人達が管理しています。でも中には無人のところもあるし、時々は行って点検してこなくちゃならない。スコットやバージルが島を離れるわけにはいかないから、結局ジョンが行くことになるの。ところでアランはレースの賞金をめぐまれない人に寄付しています。お金という点ではあまり知られていませんけど、ジョンにも収入があります。本の印税、専門誌からの原稿料など。意外なことですが彼は学者として、あるいは教育者として、今すぐにでも自活して行けるだけの能力・地盤を持っているんです。そこが他の孫達とは違っています。だけどやっぱり彼もお金は寄付しています。子供達に宇宙への興味や夢を持って欲しいというのがあの子の願いなんです。

・・はい、興味深い話をいろいろありがとうございました、ミセストレーシー。それではこのへんで・・。テロップ~この番組はフィクションであり・・フィクションかよ!